胃と腸 42巻10号 (2007年9月)

今月の主題 大腸腫瘍内視鏡切除後のサーベイランスに向けて

序説

  • 文献概要を表示

 大腸内視鏡手技の進歩により大腸腫瘍に対する内視鏡摘除の適応が拡大し,小病変のみならず大きな病変や,SM癌に対しても積極的に内視鏡摘除が行われるようになった.このため内視鏡摘除後のサーベイランスcolonoscopyの検査件数も急速に増加し,スクリーニング検査を圧迫しているためサーベイランスのあり方が問題となっている.

  • 文献概要を表示

要旨 大腸癌治療ガイドライン2005年版の"内視鏡的治療"の項目の中の早期大腸癌,特にSM癌について内視鏡切除後の根治度判定に関する最近の進歩を中心に,現状での課題・将来展望も含めて解説した.この中で,SM浸潤距離実測方法が規定され,旧大腸癌取扱い規約(第6版)における内視鏡摘除SM癌の根治基準が1,000μmまで拡大されたが,SM浸潤距離実測方法に対する理解不足のために誤解されている部分もあり,断裂した粘膜筋板の評価に関する具体的事項について言及した.特に有茎性病変の場合,粘膜筋板が同定できる場合や組織学的に無茎性病変と同様の評価が可能な病変は,無茎性病変と同様の評価を行う.有茎性病変で粘膜筋板が錯綜しており粘膜筋板が同定できないPeutz-Jeghers型ポリープ様の場合にSM浸潤距離を頸部より茎部への浸潤距離とし,頭部内の浸潤を"head invasion"として記載するということを正しく理解していただきたい.

  • 文献概要を表示

要旨 大腸粘膜内癌の局所再発のリスクとして分割切除や側方発育型腫瘍(LST)などが挙げられる.可能な限り一括切除が望ましいが,分割切除となった場合でも,再発を十分念頭に置いたfollow upを行うことで,局所のコントロールは可能である.また,異時性異所性大腸癌合併の可能性も考え,一括切除を施行しえた場合でも,分割切除に準じたfollow upが重要となる.

  • 文献概要を表示

要旨 小さな大腸腺腫の取り扱いについてのコンセンサスはわが国では得られておらず,組織学的変化や内視鏡にて長期経過観察された報告はほとんどない.今回,初回生検にて軽度もしくは中等度異型腺腫と診断された腫瘍径10 mm未満の隆起型および表面隆起型腺腫332症例408病変に対する内視鏡的追跡(平均観察期間43.1か月)による発育進展の検討を行い,大腸腺腫の自然史からみた至適サーベイランスについて考察した.408病変のうち形態変化を来したものは22病変5.4%,3mm以上の腫瘍径増大を認めたものは35病変8.6%,最終腫瘍径が10 mm以上となったものは12病変2.9%であった.粘膜内癌へ発育進展したものは3病変0.7%で,全例に3個以上の腺腫が併存し,腫瘍の大腸内視鏡治療歴があり,かつ10mm以上の腫瘍性病変の既往があった.組織学的および内視鏡的に追跡した小さな大腸腺腫の自然史の検討からは,リスクを有する症例であっても5年間は重大な病変への変化を認めることはなかったが,5年以降では腫瘍は増大し,悪性化するものがあった.以上から,個別のリスクがサーベイランスのあり方に影響する可能性はあるが,小さな腺腫は5年後のサーベイランスで対処可能と結論された.

  • 文献概要を表示

要旨 内視鏡的摘除術を行い,追加腸切除を1年以内に行わず,経過観察した大腸SM癌107病変と進行癌術後5年以上経過観察をした結腸癌916例および直腸癌750例を検討し,再発病変の早期発見のための効率良いサーベイランスを検討した.内視鏡的摘除例では8例に転移再発を認め,「大腸癌治療ガイドライン」内視鏡治療根治例での再発は認めなかったが,再発後に病理診断の再検討が必要であった.再発の時期は切除後3年以内が多いが5年以上でも再発例を認めた.再発例はCEA高値やCT検査を契機に診断された.内視鏡治療根治例でも切除後3年以内は血清CEA/CA19-9は年2回,PET,CT,胸部X線検査,大腸内視鏡検査は年1回,3年以降は,CEA/CA19-9,PET,CT,胸部X線検査,大腸内視鏡検査は年1回のサーベイランスが必要である.

  • 文献概要を表示

要旨 われわれは1994年4月~2002年12月に内視鏡摘除(ER)を行った128症例,全131病変の大腸SM癌を大腸癌治療ガイドラインのER適応内と適応外に大別し,さらにそれぞれ追加手術例と非追加手術例に分けてER後の経過について検討した.適応病変は65例68病変で4病変(5.9%)に局所遺残を認めたが,いずれの病変も制御が可能で,ER適応基準の安全性が証明された.一方,適応外病変は63例63病変あり,追加手術症例49例のうち4例(8.2%)に局所再発,遠隔転移を認め,1例は肝転移のため原癌死した.非追加手術例14例のうち1例に局所再発を認めた.肝細胞癌合併例1例は1年後に肝細胞癌のために死亡した.適応外病変では,慎重な経過観察が必要である.

  • 文献概要を表示

要旨 当院において2003年1月から2006年12月までに20 mm以上の大腸腺腫・早期癌に対して内視鏡治療を行い,6か月以上の経過観察が可能であったEMR/EPMR 228病変,ESD 145病変を対象とした.遺残・再発を認めた36例中EPMRを施行した1例で浸潤癌として再発が認められた.ESDに限らず内視鏡的一括切除後の病理組織診断において治癒切除〔腺腫,M~SM1,脈管侵襲陰性,切除断端陰性,先進部低分化傾向(-)〕と判断された場合は,1年後のfollow upで十分と考えられた.一方,分割切除例に関しては,局所遺残・再発の可能性を念頭に置き6か月後の内視鏡的経過観察が必要である.

  • 文献概要を表示

要旨 現在,大腸癌は日本の女性死因の第1位,男性死因の第4位を占め,その罹患数はいまだ横ばいから漸増傾向にある.したがって,大腸癌のnational screening systemとしてFOBT(fecal occult blood testing)をいち早く導入している日本にとって,大腸癌予防には高い受診率を有するスクリーニング,サーベイランスシステムの基盤構築が急務である.なかでも医学的根拠に基づく大腸ポリープ切除後の,適正な内視鏡検査間隔を明らかにすることは重要な課題である.Japan Polyp Study(JPS)Workgroupはclean colon後の適正な内視鏡検査間隔を明らかにすることをprimary endpointとして,2000年より国内大腸内視鏡専門10施設より組織され2003年2月より多施設ランダム化無作為比較試験を開始した.JPSは2011年に結果公開予定で,大腸内視鏡のガイドライン作成の基盤となるデータ集積を継続中である.本稿では,JPSのプロトコール作成の根拠となったretrospective study resultsを示すとともに,現在進行中の多施設ランダム化無作為比較試験のプロトコールにつき解説する.

  • 文献概要を表示

要旨 大腸癌研究会プロジェクト研究の一環として,大腸SM癌内視鏡切除標本のSM浸潤距離および浸潤度判定(浸潤距離1,000μm未満か以上か)の,病理医によるばらつきの現状とその要因を検討した.非有茎性SM癌のSM浸潤距離は,診断者により400μm前後の差異があった.SM浸潤度判定では,"粘膜筋板の変形・走行の乱れ・断片化"例または"筋板消失"例での一致率が低かった(77.8%と85.4%).有茎性SM癌では,"粘膜筋板錯綜例と非錯綜例"の取り扱いで,病理医により大きな乖離があった.今後,大腸癌治療ガイドラインに示されたSM浸潤度判定法の病理による解釈および実際の運用面での幅を狭めて行く必要がある.

  • 文献概要を表示

はじめに

 斉藤(司会) 本日は,お忙しいなかお集まりいただきありがとうございます.近年の大腸内視鏡検査手技,治療手技の進歩によって,大腸腫瘍に対する内視鏡治療の適応が拡大しております.以前のように2 cm以下の病変のみならず,大きな病変やSM癌に対しても積極的に内視鏡治療が行われるようになってきております.このため切除後のfollow up,そしてfollow upのための内視鏡検査件数が急速に増えており,このfollow upのあり方,サーベイランスのあり方が問題となっているようです.また近年,内視鏡切除後の根治度判定基準についても新しい知見が得られているようですので,今日はその点からお話を始めていただき,続いて腺腫・M癌について,それから,以前も本誌で取り上げられておりますが,SM癌のlow risk群,high risk群について,どのように経過観察を行うか,どのように効率の良いサーベイランス法を構築するかということについてディスカッションいただければと思います.

  • 文献概要を表示

 1970年代初頭にはほとんど誰も興味を持たず,医学界の中で重要でもなかった大腸疾患が,35年の歴史と年月を経て今や多くの専門家が取り組む対象となった.大腸癌も炎症性腸疾患も増え続け,大腸癌はいずれ近い将来に女性の死亡率の第1位,男性の第2位になると予測されるに至っている.欧米では既に大腸癌の罹患率,死亡率ともに低下しつつあるというのに,わが国の対応策は遅れているとしか言いようがない.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は60歳,男性.内視鏡にて上行結腸に15mmのIIa+IIc病変を認めた.陥凹の中心にinverted growthを呈する病変に認められるような穴を認めていたが,拡大観察にてIIILおよびIIIs pitを主体とし,領域性を伴うVI高度不整pitは認めずnon-invasive patternを呈しており,またnon-lifting sign陰性であったことも併せ,粘膜内もしくは軽度の粘膜下層浸潤を伴う深達度SM1の腫瘍性病変と診断し内視鏡的粘膜切除術を施行した.病理組織学的には嚢胞状拡張を示す腺管を伴う高分化腺癌像から成り,粘膜筋板を断裂し粘膜下層へ深く異型腺管が陥入し周囲組織に対して圧排性に増殖する像を認めた.最終的にはIIa+IIc,15mm,tub1,深達度SM2(2,500μm),ly0,v0で,後日追加手術を施行したが病変の遺残や脈管浸潤,リンパ節転移は認めなかった.

  • 文献概要を表示

要旨 症例は43歳,女性.下血を主訴に当センターを受診し,下部消化管内視鏡検査で下部直腸に深掘れの大きな陥凹を伴う亜有茎性の粘膜下腫瘍様隆起を指摘された.注腸X線検査では大きさ18mmの病変で,中央に境界明瞭な深い陥凹を伴う杯状の粘膜下腫瘍様隆起として描出され,可動性は良好であった.生検病理組織像にてカルチノイド腫瘍の診断が得られ,患者家族の強い希望で,まず経肛門的局所切除術を施行した.切除標本では,深部断端距離が500μm未満,核分裂像が2個/10HPF,Ki-67 L.I.が約3%,リンパ管侵襲もみられたため,直腸追加切除が行われた.その結果,リンパ節転移が陽性であった.本症例は直腸のカルチノイド腫瘍としては比較的まれな特異な形態を呈しており画像所見を中心に報告する.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は65歳,男性.貧血および嚥下困難のため,近医にて上部消化管内視鏡検査を施行し,下部食道に腫瘍を指摘され当院紹介となった.食道X線検査および内視鏡検査では,下部食道に表面平滑な周辺隆起を伴う不整な潰瘍性病変を認めた.また腫瘍周囲の背景粘膜にはBarrett食道を認めた.生検結果は未分化癌で,EUSを含めた諸検査により深達度Ad,進行度stage IIIと術前診断し,外科的切除を行った.術後病理組織学的検索では非小細胞型未分化癌,vimentin(+),腫瘍径57×29 mm,深達度mp,ly3,v1,infα,n4,stage IVaと診断された.術後補助化学療法を施行したが手術の10か月後に死亡した.

追悼

望月孝規先生を偲んで 小池 盛雄
  • 文献概要を表示

 恩師,望月孝規先生は平成19年(2007年)4月4日,心筋梗塞で逝去されました.

 私は望月先生が40代前半,虎の門病院の病理学科部長に就任されて7年後,最もアクティビティーの高い時期に,他の誰よりも長いことご指導をいただいた幸せな病理医であると自負しており,先生の訃報に接して深い喪失感を味わっています.昭和45年(1970年)4月,大学院修了と同時に虎の門病院病理学科に就職し,4年半にわたり謦咳に接しました.論文としてお考えをあまり残されなかっただけに,身近に接し,物の見方・考え方,病理医としての在り方を教授していただいたことが私の大きな財産となりました.

追悼 望月孝規先生 滝澤 登一郎
  • 文献概要を表示

 平成19年(2007年)4月4日に望月孝規先生はご逝去されました.享年80歳でした.ご子息の望月真先生によって病理解剖が施行され,陳旧性心筋梗塞を基盤に発生した新しい心筋梗塞による心不全が主な死因であることがわかりました.私は,昭和49年(1974年)3月に東京医科歯科大学医学部を卒業し,迷うことなく病理学専攻の大学院に進学しました.当時,森旦先生が東大病理学教室教授に転出された直後で,医科歯科大学医学部の第一病理学教室の教授は空席になっておりました.教授不在の病理学教室大学院に進学するに際して,私が最も尊敬していた解剖学教室助教授の三木成夫先生にご相談したところ,三木先生は,"望月君が来てくれれば君にとっては良いのだがね"とおっしゃいました.しかし,当時の私には望月先生についての情報はほとんどなく,三木先生のお考えを十分に理解することはできませんでした.ちなみに,元東京芸術大学教授の三木成夫先生,元東大総長の森旦先生,癌研究所名誉所長の菅野晴夫先生は望月孝規先生と東大医学部医学科の同期生です.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

 このたび,医学書院より出版された,山口幸二先生・田中雅夫先生共著の『臨床と病理よりみた膵癌類似病変アトラス』を一読する機会に恵まれた.前著『外科臨床と病理よりみた小膵癌アトラス』に引き続きその姉妹編として出版されたものである.近年,各種画像診断の進歩によって膵腫瘍が発見される機会が増加している.もちろん,いかに膵癌を早く発見,診断し,治療に結びつけるかが最重要課題であるが,膵癌の早期発見をめざす場合,時として膵癌との鑑別診断に難渋する症例も経験される.

 本書では膵腫瘍としてはまれな腫瘍も含めて,これらの病変を体系的にまとめたアトラスとして完成されている.一般に外科医は手術に対しては興味を持つが,画像診断や地味な切除標本の取り扱い,整理,病理診断に対してはその結果をうのみにするだけで興味が薄いと言えるかもしれない.しかし本書においては,九州大学臨床・腫瘍外科学(旧第一外科)教室の,初期診断から最終病理診断そして治療に至るまで,臨床外科医として一貫した診療姿勢に徹すべきであるというポリシーがうかがわれる.

  • 文献概要を表示

 アメリカの研修医はアンチョコが大好きである.サンフォードガイドやワシントンマニュアルに代表されるマニュアル類.VINDICATE-P,CAGE,PECOといったアクロニム(頭字語)."A型肝炎だけが,ウイルス性肝炎でspiking feverを起こす",なんていう含蓄に満ちたメディカルパール(箴言).そしてpalm pilotなどのPDA.アメリカの研修医のポケットにはたくさんの知識の元が詰まっている.

 ポケットカードも,彼らのお気に入りのひとつである.1枚のカード,表裏にびっしりと情報.その科をローテートしているときにポケットに携えておけば,パッと取り出してさっと読める.破れないし,濡れても大丈夫.ちょっと長めで,少しポケットからはみ出すくらいのほうが取り出しやすい.

編集後記 斉藤 裕輔
  • 文献概要を表示

 本号は「大腸腫瘍内視鏡切除後のサーベイランスに向けて」というテーマでお届けした.

 大腸腫瘍に対する内視鏡切除の適応拡大と切除件数の増加により,内視鏡切除後follow upのあり方が問題となっている.組織型・深達度別に効率的なfollow up法を明らかにすることを目的に企画された.田中論文では特にSM癌を中心に内視鏡切除の臨床的,病理組織学的根治基準について詳細に解説され,味岡論文ではこの病理診断におけるSM浸潤距離計測上の問題点が提起された.腺腫,M癌,SM癌のそれぞれに対する適切なサーベイランスプログラム構築に向けて,久部論文では小さな腺腫の長期経過観察結果から,これらでは5年後の経過観察で対処可能であることが示された.若村論文ではM癌については分割切除も容認され,3か月後の再検が重要であることが示された.浦上論文,東野論文ではSM癌について低リスク,高リスク群における局所,遠隔再発早期発見のための具体的なfollow up法が示された.座談会ではこれらの問題点がまとめて論じられている.また,佐野論文では現在研究継続中のJapan Polyp Studyの研究方法決定のための基礎的データが示され,2011年に本研究結果が公開され,表面型病変も含めた日本独自のサーベイランスプログラムが構築されることを期待している.

 本号が明日からの大腸腫瘍切除後の日常診療に十分役立つものと確信している.

基本情報

05362180.42.10.jpg
胃と腸
42巻10号 (2007年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
3月11日~3月17日
)