胃と腸 42巻11号 (2007年10月)

今月の主題 ESD時代における未分化型混在早期胃癌の取り扱い

序説

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はじめに

 早期胃癌に対するESD(endoscopic submucosal dissection)全盛の時代では,転移はもちろん,断端陽性あるいは再発を避けることが重要である.その適応において,組織型は分化型胃癌とされている.しかし,分化型と称される病変には,分化型のみで構成されている症例の他に,未分化型癌を混在する例も多くみられ,その未分化型癌成分にも多寡がある.切除術前の組織型の診断は,生検診断でなされるために,術後に未分化型癌の混在が判明することはしばしばみられる.この,未分化型が混在する分化型癌(未分化型混在癌)の,生物学的な悪性度の問題はいまだ十分に解決されているとは言えない.

 今回は,分化型のみで構成される病変あるいは未分化型癌のみで構成される病変と対比させて,未分化型混在早期胃癌の臨床病理学的特徴を浮き彫りにしたい.

 近年の内視鏡切除の機器および技術的な進歩により,正確にしかも広範囲な粘膜切除が可能となり,リンパ節転移の危険性の少ない癌に対しては,技術的には完全切除が可能となった.従来は,分化型の癌で,2cm以下の病変が適応となっていたが,さらに適応を拡大してできるだけ内視鏡的に切除を行う機運が高まっている.

 早期胃癌の内視鏡的切除における問題点は,潰瘍の有無と組織型とに集約されてきている.粘膜内に限局する潰瘍あるいは潰瘍瘢痕のない症例では,組織型の如何にかかわらず適応拡大となる可能性があり,問題は潰瘍性病変を含む癌である.

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要旨 自験外科切除早期胃癌756例(M癌614例,SM1癌142例)を用い,未分化型混在分化型胃癌の臨床病理学的特徴と転移を中心に検討を行った.756例のうち分化型混合型癌(以下混合型癌)は9.7%(73/756例)で,その85%(62/73例)が胃型粘液形質を有し,分化型純粋型癌(以下純粋型癌)や未分化型癌と比較しSM1癌(34.2%),リンパ管侵襲陽性(9.6%)の頻度が高く,腫瘍最大径の平均が大きい(39.0 mm)傾向にあった.また混合型癌の転移率はM癌6.3%(3/48例),SM1癌12.0%(3/25例)といずれも未分化型癌と同様に高率で,そのrisk factorとして随伴潰瘍(6/6例)(p<0.05),大きい病変(平均67.2 mm)(p<0.01),リンパ管侵襲(2/6例)(p<0.05)が挙げられた.しかし病変内における未分化型癌の占める割合と転移との間に相関はみられず,また腫瘍粘膜下層先進部のsm INFγ所見(sprouting陽性もしくは先進部組織型が未分化型)は混合型SM1癌に多くみられ,リンパ管侵襲を高頻度に認めるが,リンパ節転移のrisk factorとは言えなかった.分化型癌484例(M癌387例,SM1癌97例)における深達度,組織型,随伴潰瘍,大きさ,リンパ管侵襲とリンパ節転移の検討では,大きさが20 mm以下なら深達度,組織型,潰瘍の有無にかかわらず転移はなかったが,潰瘍を合併した混合型M癌は30 mmから,SM1癌では23 mmから転移がみられ,特に潰瘍およびリンパ管侵襲を伴う混合型SM1癌の転移率は50%(2/4例)と高率であった.以上より混合型M,SM1癌の治療は未分化型癌と同様の取り扱いも考慮する必要があると考える.

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要旨 外科切除単発胃M癌およびSM1癌780例を対象に,純粋分化型,純粋未分化型,分化型・未分化型混在(分化型優勢と未分化型優勢)腺癌別にリンパ節転移を検討した.M癌のリンパ節転移陽性率は1.6%(11/679)で,純粋分化型に転移例はなく,分化型優勢が1.6%(1/63),未分化型優勢が11.8%(6/51),純粋未分化型が2.5%(4/160)であった.SM1癌の転移陽性率は3.0%(3/101)で,転移陽性例は全例粘膜内癌部組織型が分化型・未分化型混在(分化型優勢1例,未分化型優勢2例)であり,SM浸潤部組織型は純粋分化型2例,未分化型優勢1例であった.以上のことから,M癌,SM1癌では(粘膜内部に)未分化型を含む分化型癌にはリンパ節転移リスクがあること,分化型・未分化型混在から成る病変は未分化型の占める比率が高いものほど転移リスクも高いこと,さらに未分化型優勢は純粋未分化型に比べて高い転移リスクを有する可能性があること,が考えられた.早期癌重複および進行癌合併例を含むM癌,SM1癌1,974例の検討では,分化型・未分化型混在癌は両型いずれが優勢かにかかわらずIIc型の頻度が高く(70%以上),逆に肉眼型からはIIc型,IIb型では50 mm以上の大きさで分化型・未分化型が40%以上を占めた.また,同癌の肉眼的特徴は,"純粋分化型と純粋未分化型の定型的肉眼所見を呈する領域が併存"または"病変全体が両型の肉眼所見を併せ持つ"ことであった.

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要旨 胃型形質をもつ分化型腺癌は未分化型へ脱分化することが知られている.このことから混在癌は分化型に由来すると考えられてきたが,E-cadherin/catenin complexの変化,p53の遺伝子異常,CGHによる系譜解析の結果からみると,混在癌には分化型に由来するもの以外に未分化型に由来するものもあることがわかった.この両者は粘膜内に印環細胞へ分化する層構造がみられるかどうかによって識別できる可能性がある.混在癌の治療方針を策定する際にも,この由来の違いを考慮することが必要である.

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要旨 未分化型混在早期胃癌48例についてX線診断を中心に臨床的特徴と問題点につき検討を行った.平均年齢は59.5歳(37~78歳),男女比は46:2と男性に多く,病変の占居部位はU領域:6例,M領域:21例,L領域:21例,病変の存在する背景粘膜は胃底腺領域1例,中間帯領域27例,萎縮領域20例であった.(1)肉眼型は陥凹型が多く,隆起型を呈する症例では6例中4例が浸潤部にて未分化型が発現しており,粘膜内癌の2例は組織学的に胃型の分化型癌の症例であった.(2)基本的に優位な組織型に類似したX線所見を呈する.(3)分化型(tub1,tub2)優位の混在型においてporの混在は浸潤部での発現であることが多く,組織学的には分化型と未分化型は比較的境界を持って存在し,そのような症例のX線所見は比較的未分化型に類似した境界が明瞭な深い陥凹を呈することが多く,porの組織像が量的に少ない場合は線状の陰影斑を呈し,やや大きめの顆粒状構造が認められる傾向にあった.(4) sig優位の混在型においてはtub2の組織型との混合が多く,胃底腺領域内に発生したものはなかった.組織学的には同じ領域内での混在であり明瞭な境界を持ち組織型が分かれているものはなく,そのX線所見は比較的陰影斑は明瞭に描出されるが,典型的な未分化型癌のX線所見に比して陥凹面が浅く凹凸があまり目立たず微細~顆粒状粘膜を呈する傾向にあり,分化型との混合部分では境界が不明瞭になり,進展範囲がわかりにくいものであった.以上より未分化型混在早期胃癌の内視鏡治療を施行する際には臨床病理学的特徴を十分に理解し,術前の深達度診断,進展範囲診断を行う必要があると考えられた.

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要旨 リンパ節転移の可能性が低い早期胃癌に対して内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)が積極的に施行されるようになったが,未分化型混在早期胃癌に対する臨床的な対応は統一されていない.2001年4月から2007年4月までに南風病院で手術された胃粘膜内癌(主病変に限る)は171病変であった.内訳は分化型癌88病変,分化型癌と未分化型癌の混在型(未分化型混在癌)22病変,未分化型癌61病変であり,この中で未分化型混在癌22病変の形態的特徴を検討した.病変の大きさは1.3~9 cmで平均3.8 cmであった.肉眼型はすべて陥凹主体で潰瘍(瘢痕)の合併が11病変にみられた.術前の検査で潰瘍(瘢痕)を指摘していない病変が3病変存在した.内視鏡検査で病変の色調は,発赤調主体が8病変,褪色調主体が8病変,正色調主体が6病変であり,発赤調主体の病変は約1/3にとどまった.病変(陥凹面)の性状は胃小区類似の模様が10病変,大小顆粒状模様が11病変,胃小区が不明瞭化した平滑模様が1病変であり,分化型癌と未分化型癌の中間的な形態を呈していた.内視鏡検査で病変の境界がほぼ全周性に追えるものは8病変,半周以上追えるが全周性には追えないものは11病変,半周未満しか追えないものは3病変であり,境界不明瞭な病変が多かった.未分化型成分が領域をもつ病変では陥凹面に大小顆粒状の模様がみられ,未分化型成分の存在を推測可能なものが存在していた.しかしながら,未分化型成分が領域をもたず散在性に混在する病変では陥凹面の性状のみで未分化型成分の存在を指摘するのは困難であった.切除標本の病理組織学的検討が重要であり,現時点においては未分化型混在癌と診断された場合にはリンパ節転移の危険因子と考えて慎重に対応すべきである.

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要旨 対象と方法:2006年1月から12月に佐久総合病院胃腸科にてESDが施行された分化型優位胃癌116例119病変を対象とし,占居部位,肉眼型,大きさ,NBI拡大内視鏡所見をretrospectiveに検討した.NBI拡大観察下にマーキングを施行し,全例を一括切除した.割入り後の実態顕微鏡写真上に組織型を分化型と未分化型に分類してマッピングした.マッピング写真と術前のNBI拡大写真を対比し,未分化型部分のNBI拡大内視鏡所見を検討した.結果:未分化型癌混在率は腫瘍長径20 mm以下1.4%(1/73),21 mm以上24.0%(11/46),隆起型6.3%(4/63),陥凹型14.3%(8/56),U領域19.4%(6/31),M領域6.5%(2/31),L領域7.0%(4/57)であり,独立した危険因子は腫瘍長径21 mmであった.未分化型混在癌12症例中5例(42%)にNBI拡大内視鏡にて非network型の異常血管を認めた.他の7例中2例はsm浸潤部のみが未分化型で,粘膜内はすべて分化型癌であった.残りの5例は粘膜内の未分化型癌部分が2 mm以下でありretrospectiveには非network型の異常血管を同定しえなかった.一方,2 mm以下の未分化型癌を合併した7例中2例では非network型の異常血管が認められており,prospectiveに検討すれば正診率が向上することが期待された.結論:未分化型混在癌の危険因子は長径21 mm以上の癌で,NBI拡大観察では未分化型癌部に非network型の異常血管を認めた.

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要旨 背景:早期胃癌に対する内視鏡治療の適応条件の拡大に伴い内視鏡治療症例における未分化型混在早期胃癌の頻度が増加しており,その範囲診断の特徴を把握しておくことは重要である.目的:未分化型混在早期胃癌に対する範囲診断においてNBI併用拡大観察が有用かどうかを検討する.対象:ESDで一括切除を行った早期胃癌429病巣.方法:対象を範囲診断時の拡大観察の有無で拡大観察群と非拡大観察群に分け,その側方断端陽性率を比較した.また未分化型混在早期胃癌に対象を限って側方断端陽性率を比較し,その特徴について検討した.結果:拡大観察群では非拡大観察群より色素内視鏡での範囲診断が不明瞭な病巣が多く2群間の偏りが生じたため,全病巣を対象とした側方断端陽性率では2群間に差が認められなかった.しかし色素内視鏡で範囲診断が不明瞭であった病巣の側方断端陽性率は非拡大観察群に比し拡大観察群で低い傾向を認め(p=0.067),色素内視鏡で範囲が不明瞭な症例における拡大観察の有用性が示唆された.未分化型混在早期胃癌は,他の癌に比べ腫瘍径が大きい傾向があり,陥凹型が多く,粘膜下層に浸潤している病巣が多く認められた.未分化型混在早期胃癌では色素内視鏡での範囲診断が不明瞭な病巣が多かったが,拡大観察を併用した範囲診断により側方断端陽性率が33%から0%と有意に低下した(p=0.000).側方断端陽性となった未分化型混在早期胃癌は2病巣あり,両病巣とも側方断端陽性部分は分化型であった.結語:NBI併用拡大観察を併用した範囲診断を行うことにより,範囲が不明瞭な病変が多い未分化型混在早期胃癌に対する内視鏡治療の側方断端陽性率を低下させる可能性があると考えられた.

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要旨 外科切除された早期胃癌508例より,分化型腺癌(分腺)と未分化型腺癌(未腺)の組織混在についてその病理組織学的特徴,リンパ節転移との関係を検討した.M癌において分腺優位混在型では純分腺型に比べて,有意にtub2混在が多く,腫瘍長径が大きく,脈管侵襲陽性率が高かった.またリンパ節転移陽性率も高い傾向が認められた.今回の対象群では,分腺優位混在型のM癌,ly0,v0症例においてULの有無および大きさにかかわらずリンパ節転移は認められなかったが,症例数が少ないため,さらなる症例集積が必要と考えられた.分腺優位混在型は純分腺型と比較して,転移能が高い可能性が示唆されたことから,今後もそれらの取り扱いについては慎重に行うべきと考えられた.

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要旨 ESD前の生検で分化型であり治療を行った早期胃癌440例中,未分化混合型であった29例について検討を行った.術後病理診断で,分化型であったもの(分化純型)は411例(93.4%),10%以上に未分化型の混在のあったものは29例(6.6%)であった.分化純型ではSM癌が17例(4%)に対し29例の未分化混合型ではSM癌は14例(48%)あり,有意に高率であった.SM浸潤度別では分化純型でSM2が8例(47%)に対し,未分化混合型で10例(71%)と高率であった.またSM癌における脈管侵襲率は,分化純型SM1で1/9(11%),SM2で5/8(63%),未分化混合型SM1で3/4(75%),SM2で6/10(60%)に認め,未分化混合型SM1癌の脈管侵襲率が高率であった.未分化混合型SM癌については12例が追加胃切除術,2例が経過観察されている.胃切除術例についてリンパ節転移はみられなかった.未分化混合型の不完全切除例と遺残再発例は3例あり,遺残病変からの再発が確認された.これら3例は全例範囲診断が困難であり,特徴は手つなぎ腺管を有するtub2が主体であった.未分化混合型では通常の分化純型に比べSM浸潤率,脈管侵襲率が高く,範囲診断が困難であることが示唆された.

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 2007年9月19日(水),一ツ橋ホールで行われた早期胃癌研究会の席上,第13回白壁賞と第32回村上記念「胃と腸」賞の授賞式が行われた.第13回白壁賞は高木靖寛・他「食道m3・sm癌の最新の診断―X線診断の立場から」(胃と腸41:1359-1373,2006)に,第32回村上記念「胃と腸」賞は滝沢耕平・他「早期胃癌に対する内視鏡的切除の適応拡大―未分化型腺癌について」(胃と腸41:9-17,2006)に贈られた.

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欧文目次

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 1998年,日米欧のハーモナイゼーションに基づいたわが国の臨床試験(治験)における新GCP(Good Clinical Practice)が完全実施された.CRC(Clinical Research Coordinator)はこの新GCPによって誕生した職種で,わが国では治験コーディネーターと呼ばれており,その守備範囲は治験の枠を超えて臨床試験を含む臨床研究全般に及んでいる.医薬品の臨床試験におけるCRCの役割は,臨床試験コーディネーターとして,(1)創薬ボランティアのケア,(2)治験担当医師の支援,(3)治験依頼者との対応(モニタリングと監査),(4)治験が円滑に進むように全体のコーディネーションを行うことと要約され,今では臨床試験になくてはならない重要な職種となっている.

 CRCの養成は,2000年以前は種々の団体が個別に実施してきたが,2001年に各団体が一堂に会して,「CRC連絡協議会」を結成し活動をともにすることとなり,その後2001年秋に第1回の「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」が開かれ,その後,毎年開催され,現在では参加者も2千数百名を超えている.

編集後記 長南 明道
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 ESDの適応において,組織型は分化型胃癌とされている.しかし,病巣には分化型癌のみで構成されている例の他に,未分化型癌を混在する例もみられる.しかも,未分化型癌成分にも多寡がある.未分化型混在早期胃癌はESDの適応に全くならないのか.術後に未分化型癌成分が判明した場合の対応はどうすべきかが本号の大きなテーマである.未分化型混在早期胃癌では純分化型に比べて,腫瘍長径が大きく,tub2混在が多く,脈管侵襲陽性率,リンパ節転移陽性率が高い(滝沢,藤崎論文).また,SM浸潤率も高い(藤崎論文).さらに,範囲診断困難なものが多い(長浜,松田,藤崎論文).ゆえに現段階では未分化型混在早期胃癌のESDは慎重に対処すべきと考えられる.一方,未分化型混在のM癌,ly0,v0症例においてULの有無,大きさにかかわらずリンパ節転移は認められなかった(滝沢論文)ことから,ESD後に未分化型混在が判明した場合,M癌でly0,v0であれば経過観察の可能性がありそうである.また,境界が不明瞭な例ではNBI拡大観察が有用と言えそうである.今後の展開が楽しみである.

基本情報

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胃と腸
42巻11号 (2007年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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