胃と腸 35巻12号 (2000年11月)

今月の主題 早期大腸癌肉眼分類―統一をめざして

序説

誰がために分類はある? 武藤 徹一郎
  • 文献概要を表示

 日本人は分類の好きな民族のようだ.Borrmann分類など世界で誰も使っていないのに,日本ではいまだに使われている.使わないことに決めたのに長い間の習慣のためか,学会や雑誌などではいまだに少なからずお目にかかる.本家のドイツ人に聞いてもBorrmann分類を知っている人はほとんどいないのに…….早期胃癌分類がそれなりに広く普及し,国際的にも認められるようになったが,この分類についても何度も討議が繰り返されてきたものである.それも決してすんなりと落ち着いたわけではなく,いまだに異論が出されたりしているが,さすがにもう公の場で討議されるようなことはなくなった.

 早期大腸癌の分類は初めから早期胃癌分類に準じて提案されたものであるが,当初は早期大腸癌の実態が隆起型(Ⅰ型)を除いてほとんど不明であったこと,大腸病変の特徴として良性病変(腺腫)の肉眼分類にも適用可能なものでなくてはならないこと,予想外の病変(結節集簇様病変など)が存在することが明らかになったこと,などの理由で,肉眼分類が再三議論の対象になっている.

主題

早期胃癌肉眼分類の問題点 八尾 恒良
  • 文献概要を表示

要旨 早期胃癌の肉眼分類は,X線医,内視鏡医,外科医,病理医の白熱した議論の下に合意され決定した分類である.肉眼分類が決定したあと,問題点とされた点は,①Ⅰ,Ⅱaなど肉眼型の境界部にある病変の分類,②肉眼型にhistogenesisを反映させたいという“想い”,③診断と肉眼標本観察法の精密化に基づく分類への疑問などに要約される.これらの問題点の解決法としては“肉眼分類”という原点に返ること,亜分類を付記する方法[Ⅱc(+Ul)など]が提案されている.早期胃癌の肉眼分類はあくまでも病理学的に早期胃癌と診断された病変の凹凸に基づく“肉眼”分類でhistogenesisや浸潤様式,組織学的分類,癌の“生物学的態度”についての記載や議論とは次元が異なっている.そして,分類の単純さが広く専門領域を越えて受け入れられ40年間も用いられた理由と考えられる.大乗的立場に立った早期大腸癌肉眼分類についての議論が望まれる.

  • 文献概要を表示

要旨 人体における主要な種々の実質臓器や管腔臓器の癌取扱い規約において,癌の肉眼分類を比較検討した.この検討を踏まえ,早期大腸癌の肉眼分類について,①分類学と形態学,②管腔臓器であることに由来する腫瘍の形,③予後や悪性度との相関,④表在型癌における治療法の選択,⑤食道癌,胃癌との整合性,などの視点から検討した.その結果,早期大腸癌の肉眼分類は,純粋に側面からみた凹凸だけで分類されていることの重要性を再確認した.そして現在,特に問題になっている表面陥凹型,およびその混合型の早期癌の肉眼分類についても,表面隆起の部分における腫瘍の有無で決定すべきではない.すなわち肉眼分類である以上,病理学的な要素を考慮しないで,側面の形を考慮した肉眼の形態のみで分類すべきである.

  • 文献概要を表示

要旨 早期大腸癌の肉眼分類は早期胃癌のそれに準じて行われてきたが,微小な陥凹型病変が多数みつかるようになると,大腸癌独自の発生,発育,進展に注目した分類,肉眼型が提唱されるようになり,混乱が生じている.しかし消化管の腫瘍の肉眼分類は本来,隆起と陥凹を中心にした単純なもので,この基本概念を変更してまで肉眼型分類を複雑化する必要は全くない.基本型の組み合わせで,個々の病変の特質は十分表現可能であり,その意味で早期大腸癌の肉眼分類の基本は早期胃癌の分類に準じて問題はないと考えるが,大腸癌の特殊性を加味することが必要である.

  • 文献概要を表示

要旨 早期大腸癌の肉眼形態分類は,早期胃癌との整合性を考えて規約されてきたが,内視鏡やpit pattern診断などの診断学の進歩とともに陥凹型早期癌,顆粒集簇様病変やLSTなど新しいカテゴリーの症例の発見,Ⅲ型病変が認められない現状,臨床に反映されないなど矛盾が指摘されている.そこでわれわれはシンプルかつ臨床的に意味のある分類として発育進展の視点から考えた.すなわち腺腫由来の隆起型病変とde novoの陥凹型病変とに分け,更に隆起型

病変は発育方向の違いでprotruded type,LSTを含めたflat typeに分けた.また陥凹型病変は浸潤様式で形態が異なるが,連続性を考えた.以上よりprotruded type,LSTを含めたflat type,depressed typeの3つに大きく分類することを提唱し,その分類が臨床的にも妥当である点について説明した.

  • 文献概要を表示

要旨 早期大腸癌の肉眼分類について病理組織学的立場から検討し,分類の諸問題について考察した.大腸組織の特異性からは,大腸癌の肉眼型として隆起性病変が多いこと,有茎性病変が少なくないことが挙げられるが,いずれも既に知られていることである.肉眼分類はそれを行う場の違いにかかわらず,病変をありのままに見て行うことが基本であり,癌組織から成る部分を形態表現すべきである.その観点からは,癌の辺縁にみられる過形成性隆起,Ⅰp型の茎は非腫瘍であることから癌の肉眼型には入れずに茎として別に付記すればよいと思われる.また,肉眼分類は深達度とは別に行い,癌粘膜進展部分を分類している現行の0型と浸潤部分を分類している1~4型に当てはめることが,臨床と病理の肉眼型の違いを少なくするものである.そのような肉眼分類は改訂された胃癌取扱い規約と同じものとなり,胃癌の肉眼分類に準ずるとした記載とも整合性のあることにもなる.

  • 文献概要を表示

 渕上(司会) 昨年の1月号「Ⅱ型早期大腸癌肉眼分類の問題点」(胃と腸34巻1号,1999)で,いかに各施設,各個人によって肉眼分類がばらついているか,要するに共通の基盤に立っていないということが明らかになりましたので,今回はこれができるだけ統一できないかということで,座談会を開かせていただきます.具体的な症例検討は34巻1号で提示された症例を使います.

 先生方ご存じのごとく,早期大腸癌の肉眼分類,大腸癌取扱い規約の分類は,早期胃癌の肉眼分類が準用されたものです.下田先生が「早期胃癌の肉眼分類の再検討」(胃と腸11巻1号,1976)が今回と同様の目的で企画されたときに携わっておられますので,下田先生からその経緯を簡単に述べていただきます.

消化管病理基礎講座

  • 文献概要を表示

 はじめに

 病理医は各種の臓器,組織の疾患の病理診断に携わっており,消化管生検診断はその一部にすぎない.その上,病理医がすべて消化管病理を専門としているわけではない.肝生検や腎生検では病理形態学的変化が臨床所見あるいは臨床検査データとどのように関わっているかを判断し,今後の病状の進展を予測し,必要な治療を行う基礎となる重要な診断である.時には治療前後の形態変化を比較して治療効果判定をすることもあり,検査データ上の改善が必ずしも病変の基本的改善とは並行しないことが判明したり,更なる加療の必要性を報告することもある.

 消化管生検診断は,直接臓器を肉眼観察できない腎生検や腹腔鏡を除けば表面構造を観察できない肝生検診断とは異なり,内視鏡的に肉眼観察が可能な病巣からの組織採取である点が大きく異なる.熟練した内視鏡医にとっては内視鏡観察のみで病変の診断が可能であることも多いし,大きく,明瞭な病巣を形成する進行癌も内視鏡所見のみで診断は可能で,詳細な組織型診断を除けば病理組織学的診断を必要としないこともありうる.消化管病変は多様で,内視鏡医が何を考え,何を求めているかを知ることが,正確な病理診断を下すために必須である.病理診断が単なる病理検査ではないという点を認識してもらうためにも,消化管生検診断に臨床情報が必須であることを強調したい.裏返せば“病理医は八卦見か?”という問

いに置き換えられることになる.病理所見を正確に記載してさえあれば後は内視鏡医がそれを参考にして判断するということで良いのであろうか?

早期胃癌研究会

  • 文献概要を表示

 2000年7月の早期胃癌研究会は7月19日(水),東商ホールにて開催された.司会は三木一正(東邦大学第1内科)と細井董三(多摩がん検診センター消化器科)が担当した.ミニレクチャーは「大腸癌のnon-lifting sign」と題し,宇野良治(弘前大学第1内科)が行った.なお,当日は参加者900名以上で研究会の最多記録を更新し大盛会であった.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は58歳,女性.1998年7月に下血を認め某病院を受診し,大腸内視鏡検査を受けるも異常なしと言われた.12月より再度下血を認め近医を受診し,直腸指診で肛門の硬結を触れるため当院へ紹介入院となった.注腸X線および内視鏡検査で直腸下端から肛門管にかけて複雑な形態を呈する粘膜下腫瘍様隆起を認め,腹会陰式直腸切断術を行った.腫瘍は直腸下端から肛門管にかけ左壁を中心に存在し,径7.5×4cmの1型の低分化型腺癌で,深達度はa1,粘膜内に癌がみられたのは一部のみで,大部分が直腸・肛門管の粘膜下以下に浸潤していた.切除標本肉眼像では指摘できなかったが,病理組織学的検討の結果,肛門側に独立したもう1つの病変を認めた.肛門管の後壁を中心に存在し,径6×1.5cmの高分化型腺癌で,深達度はsm,扁平上皮内にPaget typeで浸潤していた.本例は特異な形態を呈し画像診断上示唆に富み,なおかつPaget病変を合併するまれな症例であるため,若干の考察を加え報告する.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は50歳,女性.開放性潰瘍を伴う未分化型胃癌(深達度mp,20×15mm)で,術前深達度診断上,病巣内潰瘍および小規模な周堤形成の組織学的な成り立ちの推定が問題となった症例である.潰瘍合併胃癌では,潰瘍の修飾によって癌の深部浸潤に類似した所見が現われる場合があり,術前の深達度診断は容易でないとされている.画像所見と組織所見とを対比分析した結果,これらの組織学的な成り立ちは粘膜下層主体に線維形成反応を伴う癌によるものであった.更にsm浸潤部の癌量(密度)の分布が不均一で,病巣中心部ほど癌が密に存在し病巣辺縁部ほど疎であった.このため,画像上認められた胃壁の伸展不良・硬化所見が消化性潰瘍による炎症性変化よりも強く,癌量の多い進行癌に比べて弱かったものと推定した.深達度診断精度の向上には,X線・内視鏡の動的観察によって胃壁の肥厚および伸展不良・硬化所見の程度判定を行い,総合的な病変構築を推定することが重要と思われた.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は62歳,男性.慢性肝炎の経過観察中の上部消化管造影で胸部中部食道の憩室と憩室内の粘膜粗糙を指摘された.内視鏡検査では憩室内に発赤を伴う不整な陥凹性病変を認め,生検で扁平上皮癌と診断された.深達度m2からm3と診断し右開胸,憩室切

除術を施行した.大きさ44×22mm,0-Ⅱcで,病理組織学的検索では中分化扁平上皮癌,深達度はm3,ly0,v0で,術中採取した憩室周囲のリンパ節には転移を認めなかった.現在術後4年8か月であるが無再発生存中である.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

 この高橋博士の本を見たときに,瞬間的に読みたいと思った.表紙にうっすらと“Must we kill cancer?”という字が出ている.本当にわれわれが体内のがん細胞のすべてを殺すことができることに,私は長い間懐疑的であった.“Must we kill cancer?”は私の心の中ではいつも“Can we kill all cancer cells?”に連想が飛び,更に,“We can not kill all cancer cells!”になり,“We should not kill cancer patients!”になるのが私の連鎖反応であったから.最近の学問の進歩を学ぶにつれて,私の心は“We can control cancer cells;we can control cancer patients”と,だんだん変わってきた.

 この本はタイムリーな本であった.多くの,真摯にがんを考えている臨床従事者,がんの基礎研究者,がん征圧に様々な立場より関与している方々にとって有用な本である.もちろん,製薬企業や薬事行政に関わる方々にも有用と思う.

  • 文献概要を表示

 今般,私とともにかつて聖路加国際病院の感染症科の惇門医として勤務され,後に国立国際医療センターの感染症部門の責任者として勤務された青木眞医師の筆で,「レジデントのための感染症診療マニュアル」が医学書院から発行された.

 私は青木先生が日本で数少ない臨床感染症学の実力ある専門家ということをよく知っており,彼が米国留学によって米国内科学会認定感染症内科専門医であることから,帰国後はぜひ聖路加国際病院に勤務することを勧めた.

書評「内科診断学」 宮坂 信之
  • 文献概要を表示

 近年,習得すべき医学的知識は急速に増大していることもあり,医学生は枝葉末節の知識ばかりを覚え込み,根幹となる病態生理を理解していない.しかし,疾患の病態生理を知らずして詰め込んだ臨床的知識はすぐに忘却の彼方に消え去ってしまうのがおちである.更に,医学生の中には患者との適切な人間関係を保持するのが困難である人たちが意外と多い.挨拶ができないばかりか,相手の眼を見ることもできず,会話のための適切な語法も知らない.もう1つの問題点は医学生に問題解決指向型思考が欠落していることである.自らの頭で問題点を抽出し,これをpriorityの高い順番に並べ直して鑑別診断を行うという能力が極めて乏しい.

 このような問題点を踏まえて新たに刊行されたのが福井次矢・奈良信雄両教授の編集になる「内科診断学」である.既に内科診断学書自体は今までに何冊も刊行されているが,この本ならではのユニークな点をいくつか紹介してみよう。まず,本の構成をみてみると,Ⅰ章の「診断の考え方」,Ⅱ章の「診察の進め方」に次いで,Ⅲ章は「症候編」,Ⅳ章は「疾患編」と続く.すなわち,症候からのみならず主要疾患からの両方向的なアプローチが可能なように工夫されている.したがって,本書は単なる内科診断学書ではなく,医学生は内科学書として使用することも可能であり,一石二鳥の効果を挙げている.

  • 文献概要を表示

 タイトルに“緩和医療”がつく書物や雑誌がここ数年かなり出版されるようになった.この分野の重要性が認識されるようになってきた1つの証拠であろうとうれしく思っている.それぞれの書物に特色があるが,本書の特徴を一言で言えば,“緩和医療(palliative medicine)を日常診療で活用するための,実地の医療技術に主眼を置いた解説書”である.更に言えば,本書は緩和医療の専門家向けにではなく,医療の最前線の一般医や看護婦に向けて,癌患者の症状緩和や工夫を,最新のトピックスを含めて平易に解説しているということである.

 “緩和医療”という概念が広がりつつあるというのが今世界の流れである.まず緩和医療の対象となる疾患が癌のみならず,エイズや進行性の神経筋疾患,慢性の呼吸器疾患や循環器疾患,老年期の慢性疾患など,広い範囲に広がってきた.更に,病期のあらゆる段階に適用されるようになってきた.例えば,癌の場合,診断の直後,積極的な治療の最中,再発の時期,末期の時期,患者の死後の家族のケアなど,あらゆる時期に緩和医療の基本的な考え方と具体的な技術が適用される.それゆえ,緩和医療に関する知識はホスピスや,緩和ケア病棟で働いている医師やナースのみならず,癌治療に従事しているスタッフや.一般医にとっても,一般病棟のナースにとっても必要なのである.

編集後記 田中 信治
  • 文献概要を表示

 内視鏡機器が進歩し,高画素電子大腸内視鏡が日常診療のルーチン機器となり,また拡大観察すらルーチン検査の延長線上で容易に施行可能となり,極めて微細な所見まで瞬時に得られるようになった.このような中,得られた多くの情報から,大腸腫瘍の組織発生や発育進展を考慮したいくつかの新しい分類が提唱されている.しかし,実際には,これらの分類は“組織発生や発育進展に関する分類”のはずなのに,いわゆる“肉眼分類”と混同され使用されているきらいがある.また,大腸腫瘍の形態分類を単純化する目的で,①ポリープ型,②表面隆起型,③表面陥凹型の3群に大きく分類しようという動きもあるが,座談会で論じられているように陥凹型腫瘍の反応性辺縁隆起を無視することは現時点では問題ありと一掃された.本号で胃癌肉眼分類の歴史も踏まえて述べられているように,臓器特性は多少あるものの,早期大腸癌の“肉眼分類”は食道癌・胃癌と同じように凹凸から得られる見た目の形態で単純に規定されるべきであり,こうすれば専門外の人にも容易に理解できる基本的な分類になりうるものと考えられる.もちろん,“組織発生や発育進展に関する分類”が大腸腫瘍の病態を考えるうえで重要であり,内視鏡的治療の適応決定や大腸癌の臨床研究の発展に寄与することは確かであり,これらについては“肉眼分類”とは全く別の土俵で(例えば“発育進展分類”として)今後も大いに議論され,その妥当性と臨床的意義が明らかにされるべきであろう.

基本情報

05362180.35.12.jpg
胃と腸
35巻12号 (2000年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
3月11日~3月17日
)