胃と腸 35巻13号 (2000年12月)

今月の主題 21世紀への消化管画像診断学―歩みと展望

序説

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 21世紀後半には現在用いられている消化管画像診断のmodalityのうち,X線検査は消滅し内視鏡検査は精密検査としてますます隆盛となり,CTやMRはルーチン検査として最も用いられる機器になるだろう,という話を数人の若手(と言っても40歳前後)の診断医に話したが反論は聞くことができなかった.

 消化管のX線検査の数はどの施設も年々減少し,胃X線検査による集団検診は情けないことにペプシノーゲン法と比較される始末だし,多くの若い臨床医のX線検査に取り組む姿勢を見ていると,やっぱり駄目かなというのが実感である.

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要旨 消化管のX線診断には,臓器の特殊性を考慮しながらも各臓器間の壁をはずして,比較検討することが大切である.その中から共通性を見いだして,それを消化管における診断の大系化,統一化に結びつけることが重要である.そこでまず,消化管での臓器の境界部について,その特殊性を述べた.次に臓器の境界部の近傍に生じた,多発潰瘍による変形の共通性について,“比較診断学”の立場から述べた.また,比較診断学の概念を腫瘍に適用し,消化管における比較腫瘍学の視点から,上皮性腫瘍,非上皮性腫瘍,消化管ポリポーシスについて述べた.

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要旨 “比較診断学”の理念に基づいて,消化管の一過性虚血性疾患の臨床病理学的特徴を検討した.最も高頻度に遭遇する虚血性大腸炎,まれながら認められる虚血性小腸炎,過去に報告は認めないが部分的脾動脈塞栓術に合併する一過性の虚血性胃病変を対象として比較したが,いずれにおいても縦走潰瘍が共通した臨床所見であった.経過とともに認められる形態変化では,部位に特異的な管腔の大きさと比例するかのように,小腸では中心性管状狭窄に進展することが多く,大腸では偏側性変形や嚢形成が多く,狭窄しても偏側性の要素が残り,胃ではほとんど変化を認めなかった.病理学的には,立ち枯れ壊死や粘膜出血,炎症細胞浸潤など共通所見を認め,部位にかかわらず虚血の確定診断に有用であった.

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要旨 内視鏡とヨード染色によるスクリーニング検査法の確立は,食道粘膜癌の診断を実現,その大部分がEMRにより根治が可能となった.EMRの適応がm1,m2であるため粘膜癌の深達度に関する精密診断が必要となった.新肉眼病型分類は粘膜下層癌と粘膜癌の鑑別を容易にし,深達度亜分類が病態研究の利便性を高めた.更にトルイジンブルー・ヨードニ重染色法やEUS(20MHz)の機器の開発が診断精度を向上させ,上皮内癌の診断精度は83%,粘膜固有層癌94%,粘膜下層癌88%と進歩を示した.X線診断はスクリーニングならびに精密診断の主役を内視鏡に譲り渡したが,近年復活しつつある.特にm3,sm1癌の精密診断における有効性が期待されている.この領域においては,画像診断,病理,治療,病態の理解などが良好な関係を保ち,顕著な進歩を遂げた.引き続きこの方向を進み更なる進歩が期待できると考えられる.

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要旨 胃・十二指腸病変のうち早期胃癌と消化性潰瘍について形態診断の進歩を「胃と腸」を中心にしてまとめた.これらの疾患では1970年代にほぼ現在のX線・内視鏡診断学は完成されている.1980年代になると,新たに超音波内視鏡検査が加わった.最近ではCT,特にvirtual endoscopyを始めとする各種の三次元画像が登場してきたが,その診断能はまだ十分ではない.今後,科学技術の進歩により各種の検査法が更に進歩し,検査法を選択する幅は広がるであろう.しかし,社会経済環境などの変化により,低侵襲・低コストで,従来の診断能を維持できる検査法が選択されていくであろう.

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要旨 小腸検査はX線検査が今後とも主流となる.X線検査は経口投与法,逆行性造影法,経ゾンデ直接投与法がある.この中でも経ゾンデ直接投与法による小腸二重造影法が,小病変も描出でき,小腸疾患の診断の要となっている.今後の小腸検査で急速な進展が期待される検査としてMR検査,特にhalffourier acquisition single-shot turbo spin-echo MR(HASTE MR)は腸閉塞,腸壁の肥厚などの所見をよく捉えられる.しかし,このMR検査では疾患の診断まで到達できない.今後,若年者の炎症性腸疾患で確定診断がついた症例ではX線障害などを考えると,治療効果などをMR検査でみるようになる可能性が高い.

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要旨 大腸疾患の形態診断のための検査法は,20世紀後半から著しい進歩,慌しい動きがみられている.20世紀におけるこれらの診断法の歩みを総括するとともに,新しい方向を模索してみた.前処置法や注腸X線検査については大きい進歩がみられず,内視鏡を始めとする他の方法に遅れをとる傾向にある.しかし大腸疾患の診断理論の確立にはX線検査が大きい貢献を果たし,欧米とは異なる微細診断学が確立され,多くの炎症性疾患の病態が明らかになった,21世紀の大腸形態診断学への残された課題として,①X線検査の低迷をどう解決するか,②病理組織診断と肉眼分類の統一,③苦痛なき内視鏡挿入法の開発,などが挙げられるが,④わが国の大腸形態診断学を世界に向けて発信することも要求されている.

病理形態診断と分子生物学 落合 淳志
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要旨 ヒト全遺伝子配列の解読が終わると,これまで以上に新たに病理形態像と深く関わる分子やがんの生物像に深く関わる分子機構も明らかにされると考えられる.このような背景を基に,病理診断は形態診断としての疾患の存在診断にとどまるだけでなく,手術術式の選択に関わる情報や,化学療法または放射線療法など治療法選択に関わる病理診断情報を要求されると思われる.現在でも既に免疫染色を主体として分子生物学的手法が日常の病理診断に関わってきている.本稿では,消化管病理形態診断と分子生物学的検査について現況と今後の展望そしてその問題点について述べる.

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要旨 パラフィン包埋材料からもDNAの抽出が可能になった1980年代から,分子生物学が形態学的な手法と融合し始め,PCRの開発によってその後の分子病理学が画期的に進歩したと言える.今では種々の疾患や病態の病理学的な解析にこれらの研究は欠くことのできないものであり,消化管の診断学においても避けることのできない分野(臨床分子病理学)と言える.本項ではこの分野と消化管診断学との関わり合いから,分子病理学が今後どのように利用され役に立つ可能性があるかについて,大腸腫瘍を中心に現状を概説した.少なくとも現状では従来の形態診断と併用することで,消化管の臨床分子病理学は予後予測や治療選択の面で有用であろう.

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 吉田(司会)本日はお忙しい中,お集まりいただきましてありがとうございます.この座談会は「21世紀への消化管画像診断学歩みと展望」という号に掲載されることになりますが,診断学が成り立つためには,何と言っても診断機器というものがないと話にならないわけです.そこで“新世紀に向けて今後の診断機器開発の隘路と展望は何か”を語り合おうということになったのですが,そうは言っても故きを温ねて新しきを知るということもありますので,まずメーカー側の立場からご参加をいただいているお二人から“昔の診断機器の開発にあたって,隘路は何で,それをどうやって克服したか”という裏話を聞かせていただければありがたいと思います.

 消化器の診断機器の中で純国産となると,何と言っても胃カメラが第1号ということになるのですが,その開発の大変さはわれわれの想像を絶するものもあったろうと思います.その苦労話が先般のNHKテレビの「プロジェクトX」という番組で紹介されておりましたが,あれを拝見するとどうも,胃カメラ開発の隘路は電球ということになっていたようですが,実際はどうだったのですか.その辺りを寺田さんからご紹介願えますか.

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 〔患者〕86歳,男性.狭心症,心房細動,糖尿病,慢性気管支炎のため,近医外来通院中.便柱狭小と体重減少(1年間に7kg減少)が認められたため,大腸内視鏡検査が実施された.S状結腸に最大径2cmのポリープが指摘されたため,当科に紹介された.

消化管病理基礎講座

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 はじめに

 腫瘍の組織所見に関する用語について解説するが,既に承知されているように,腫瘍は上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍に分類される.今回は,消化管でより高頻度にみられる上皮性の腫瘍について解説する.

 解説に先立ち,異型性(atypism)という用語について理解する必要がある.腫瘍の特徴として,自律性増殖,脱分化,生体からの脱統御などが挙げられる1).腫瘍はその発生母組織と形態的(細胞レベル,構造レベル),機能的に類似性を示しつつ,隔たり(異常)を示す2).このことを腫瘍の脱分化性と言う.腫瘍が正常細胞や正常構造とどのように異なるのか,そのかけ離れを形態的に表現する際に異型性という用語を使用する.異型性は,大きく分けて細胞異型と構造異型から成り,これらの異型性が強いほど一般的には腫瘍の悪性度が高いと判断される.

早期胃癌研究会

2000年9月の例会から 中野 浩 , 浜田 勉
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 2000年9月の早期胃癌研究会は,9月200(水)に一ッ橋ホールにて開催された.司会は中野浩(藤田保健衛生大学消化器内科)と浜田勉(社会保険中央総合病院内科)が担当した.ミニレクチャーは「生検診断において良悪性を誤診する可能性がある病変」と題して八尾隆史(九州大学大学院医学研究院形態機能病理)が行った.

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欧文目次

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 対話は医療を構成する重要な要素の1つである.医師を志す者はもちろんのこと,既に長い間医師として診療に携わってきた者であっても,患者と向き合う場における自らのあり方を学び,振り返り,向上を求めて研鑽し続けることは,プロフェッショナルとしての義務でもあり,喜びでもある.

 医学・科学技術・医療・社会が激しく変化する中で,日本でも医学教育改革が急ピッチで進んでいる.言うまでもなく,改革の主眼の1つは良医の育成にある.知識偏重の伝授型教育から脱却し,医師に期待される臨床技能や,態度,習慣,考え方を身につけさせるための,バランスのとれた医学教育が模索されている.その中で医療面接に関する教育については,態度ばかりでなく,その根底にある心のあり方までも含んだ領域であるだけに,ともすれば教員にも学生にもある種の戸惑いを引き起こしやすい.その意味で本書は,医療面接をめぐる学習を開始しようとする学生ばかりでなく,教育に携わる教員にとっても好適なガイドブックとして,生涯にわたるよい伴侶となるであろう.

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 2000年10月25日(水),神戸国際会議場メインホールで行われた第40回「胃と腸」大会の席上,第6回白壁賞と第25回村上記念「胃と腸」賞の授賞式が行われた.第6回白壁賞は前川浩樹・他「Crohn病の長期経過―X線所見からみた予後予測」(胃と腸34;1211-1226,1999)に,第25回村上記念「胃と腸」賞は山田義也・他「AIDS

の消化管病変の臨床と病理」(胃と腸34:845-855,1999)に贈られた.

 司会の多田正大氏(多田消化器クリニック)から,まず自壁賞受賞者の発表があり,前川氏(東北大学第3内科,現:NTT東北病院内科)が紹介された.本賞は,故白壁彦夫氏の偉業をたたえて,消化管の形態診断学の進歩と普及に寄与した論文に贈られるもので,「胃と腸」に掲載された全論文に加え,応募論文も選考の対象となる.今回は「胃と腸」第34巻に掲載された全論文と編集委員推薦1篇が選考対象となった.

書評「医療科学 第2版」 黒川 清
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 急速な少子高齢化,公衆衛生と生活パターンの変化,更に疾病構造の変化とともに,医療の重点とあり方は変わった.更に輪をかけて経済成長の低迷は,1965年に導入されて以来,経済成長とともに機能してきた国民皆医療保険制度のあり方にも大きな課題を投げかけている.更にヒトゲノムの解析に代表されるような生命科学の急速な進歩は,医学と医療の見方,方向,あり方に大きな方向性を示唆していると言えよう.医療は“cure”から“care”へ,そして生活の習慣への対策導入による疾病の予防対策が医療費削減への重点課題の1つになってくる.交通と情報手段の急速な発展は,グローバル,ボーダーレスの情報公開の流れをもたらし,杜会の医療に対する期待と医療人の倫理の社会的価値判断が国際化してくることが予測される.このような多次元にわたる変化の時代背景から,医学教育の現場での医療科学の重要性が増している.

 江川寛・監修,鈴木信,信川益明・編集になる「医療科学」第2版が初版以来5年ぶりに出版された.上に述べたような医療の変革期を迎えて,“医療を科学する”タイムリーな企画と言える.社会構造と医療の需要,医療関係法規,医療と行政,社会保障,医療資源と供給体制,ヒューマンリレイション,医療情報,医療管理,医療における意思決定,医療評価などの広い範囲にわたる解説と話題が丁寧にされていて,事典のような使いやすさがありそうである.更に医療関連の行政と法規の記載は,年々変化していき,更に複雑になりがちな医療の現状の理解の手助けになると思われる.また,いくつかの外国での制度の解説,また日本の医療の歴史の解説も,普段は考えないかもしれないが現在の日本の医療制度のあり方への背景を理解させよう.

編集後記 大谷 吉秀
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 今月の「胃と腸」は20世紀最後の主題にふさわしく消化管画像診断学の過去・現在・未来をお届けする.食道から始まり大腸に至る各臓器の比較診断学がわかりやすく述べられていて読みごたえのある内容である.専門の先生方による座談会では,消化管検査法の開発の段階から将来展望まで熱っぽく語られている.各検査法のこれまでの進歩と現在の役割・限界を知る資料としても貴重である.いつの時代であっても新しい機器の製作開発は,必要性すなわちmotivationと,実際に経費をかけて商品として売り出す価値があるかどうかといった経済原理が働いていることが繰り返し述べられていて,興味深く読ませていただいた.バブルの時代と違い,これからは医療経済にも目を向けながら,厳しい基準のもとで機器の導入が行われていくことは想像に難くない.

 さて,“ヒトにやさしい究極の消化管画像診断法”としてカプセル内視鏡やvirtual endoscopyがいよいよ現実のものになってきた.序説で八尾先生が述べられているように,最新鋭の機器はそれを存分に使いこなすことが大切で,その性能を発揮させる技術を習得しながら普遍化し,更によい指導者を育成していくことが重要であろう.“猫に小判”といった諺で片づけられないよう日進月歩の技術革新に遅れを取らない努力を心がけたい.消化管画像診断は,形態をみているとは言いながらも,実際のところヒトのからだを診ていることも忘れてはなるまい.

基本情報

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胃と腸
35巻13号 (2000年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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