胃と腸 33巻9号 (1998年8月)

今月の主題 潰瘍性大腸炎―最近の話題

序説

潰瘍性大腸炎―最近の話題 飯田 三雄
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 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)は,主として粘膜を侵し,しばしばびらんや潰瘍を形成する大腸の原因不明のびまん性非特異性炎症と定義されている1).その診断は,持続性または反復性の粘血・血便という臨床症状と,大腸内視鏡所見,生検所見あるいは注腸X線所見を組み合わせることによってなされている.その際,直腸から口側結腸に連続して病変が存在することを肉眼的かつ組織学的に確認することが重要とされてきた.すなわち,びまん性かつ連続性の病変分布は,Crohn病や感染性大腸炎などの他疾患との鑑別において極めて重要な所見の1つと考えられてきた.ところが,最近,直腸炎型や左側大腸炎型の症例で全大腸内視鏡検査を施行すると,高率に虫垂病変が発見されることが報告されている2)~4).この発見は,本症の疾患概念に一部修正を加えるインパクトの大きいものと考えられる.

 UCにおける虫垂病変の検索は,これまで主として切除標本を用いてなされてきた.したがって,全大腸炎型の重症例が検索対象となることが多く,虫垂病変の大部分は盲腸に連続した病変として認識されていた.しかし,最近の全大腸内視鏡検査を用いた検討では,虫垂の非連続性病変の発見頻度は,12~75%とかなり高率であることが報告されている2)~4).以前からUCの診断上,大腸内視鏡検査が必須とされてきたにもかかわらず,非連続性の虫垂病変がつい最近までほとんど報告されなかったのはなぜであろうか.第1に,従来は,本症の大部分が直腸に連続した病変を有するという固定観念にとらわれ,病変境界部までの内視鏡観察ができた段階で検査を終了することが多かったためと考えられる.次に,近年の内視鏡挿入技術の進歩と腸管洗浄液による前処置の普及によって深部大腸の観察が容易かつ緻密になったこともその理由として挙げられる.

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要旨 最近の4年4か月間に当院でtotal colonoscopyを施行した,初発または再燃例で治療前の活動期潰瘍性大腸炎の中で虫垂開口部に非連続性病変がみられた症例を選び出し,性別,年齢,病型,病変部位,炎症反応,重症度,治療効果,治療後の経過などについて検討した.虫垂開口部に非連続性病変がみられたのは11例であった.これらには共通した臨床的特徴がみられた.すなわち主病変部位が直腸を含む下部大腸に多く,初回発作型が多く,全例軽症であり,salicylazosulfapyridineによる治療に対する反応がよいことであった.今後,虫垂部の非連続性病変の意義を解明することが潰瘍性大腸炎の病態の解明に寄与する可能性が考えられた.

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要旨 1996年12月から1998年4月までの1年5か月の期間に全大腸内視鏡検査(total colonofiberscopy;TCF)が施行されprospectiveに内視鏡的,病理組織学的に検討された潰瘍性大腸炎は70例であった.70例から全大腸炎型,区域性病変を除外した直腸炎型23例,左側大腸炎型24例の計47例を対象とし以下の成績を得た.①非連続性の虫垂開口部病変の頻度は47例中16例(34.0%)であった.②虫垂開口部を含む非連続性病変のうち虫垂開口部に限局したものは16例中10例(62.5%)で他の6例(37.5%)は盲腸,上行結腸までの比較的広範囲な病変であった.③虫垂開口部病変を有する群と有さない群との年齢,罹病期間,病型,重症度には有意な差はなかった.④虫垂開口部病変と肛門側病変の内視鏡的重症度は有意な相関を示した.以上の成績と症例を呈示し考察として病期によって虫垂開口部病変は消退するため,その頻度は更に高率であること,非連続性の右側大腸炎は虫垂開口部にとどまらず比較的広範囲なものが少なくないことを述べる.

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要旨 潰瘍性大腸炎における虫垂病変と大腸病変との関連について検討するために,虫垂について検索しえた手術例41例について組織学的に検討したところ,27例(66%)において虫垂病変が確認され,活動期14例,緩解期13例,正常3例,萎縮虫垂11例であった.虫垂病変と罹患範囲,重症度との間には関連がなかったことから虫垂病変は大腸病変と独立して推移している可能性が示唆された.

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要旨 潰瘍性大腸炎の経過で直腸に明らかな病変を認めず,他の領域に病変を認める例を区域性とした.この区域性の分布をみる潰瘍性大腸炎20例から臨床所見・X線所見の特徴を求めた.臨床的特徴は全結腸炎型,再燃緩解型に多かった.区域性病変は2領域以上になると,下血・粘液便などをみた.1領域では臨床症状をみなかった.区域性の病変は下行結腸から横行結腸にかけて多く,炎症性所見は3型ないし4型であった.この区域性病変が治癒すると腸壁の変形・炎症性ポリープが認められた.これらの変化をみるのにX線検査は有用であった.

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要旨 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;以下UC)の非典型所見である縦走潰瘍(longitudinal ulcer;以下LU)について,形態的特徴,好発部位,臨床所見を検討した.明らかなLUはUCの17%にみられた.また典型的なLUではないが,縦軸の要素を持つ潰瘍は36%に認めた.LUは虚血性大腸炎(ischemic colitis;以下IC),Crohn病と同様に下行結腸に最も多かったが,UCは横行結腸にも多く認めた.LUのあるUCは21%が手術され,LUを認めないものより多かった.UCのLUは高齢者,罹病期間の長い症例に多く認め,治癒期の変形はICと似た変形がみられる症例があった.UCのLUの発生にはICの合併や虚血性変化の可能性も考えられた.

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要旨 潰瘍性大腸炎の経過中に,頻度は低いが画像上敷石様所見を呈することがある.対象は1992年から6年間に入院治療を行った潰瘍性大腸炎123例中の14例(11.4%)である.左側大腸炎型5例,全大腸炎型9例であり,5例は初発時に,また9例は再燃増悪時に敷石様所見が認められ,重症例や難治例が多かった.内視鏡的に敷石様所見が認められた部位は,左側大腸が12例(86%)と高頻度であった.炎症性ポリープの特徴は小型(5mm未満)で密度が高く,表面は発赤と細顆粒状を呈した.介在する潰瘍の型はすべて不整形で4例に縦走潰瘍が混在して認められた.外科手術は9例に行われ,7例の切除標本上敷石様所見がみられた.組織学的に下掘れ傾向のあるUl-Ⅱ以上の深い潰瘍が多く,炎症性ポリープの高さは最高6.0mmまでであった.炎症性ポリープの形成機序と敷石様所見の考え方やCrohn病の敷石像との鑑別などについて述べた.

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要旨 潰瘍性大腸炎患者80例中26例(32.5%)の回腸終末部に,backwash ileitisとは明らかに異なる2~5mm程度の小さいアフタ様びらんが散在性に数個~十数個存在することが確認された.病理組織学的には好中球,リンパ球などの炎症性細胞浸潤が軽度ないし中等度みられたが,特異的な炎症像はなかった.回腸終末部病変の臨床的意義をみる目的で,性,年齢,罹患年数,臨床経過,病変範囲などの因子と発生頻度を対比したが,特に一定の傾向はみられず,初発時や緩解期にも,直腸炎型にも発生が確認された.25例中21例(84.0%)では4か月後にびらんは消失した.潰瘍性大腸炎であっても回腸終末部に高い頻度で炎症が存在する事実は興味深く,本症の病因や病態に対する従来の考え方を見直すべきであることを強調した.

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要旨 サイトメガロウイルス(CMV)感染は潰瘍性大腸炎の増悪因子の1つとして知られている.なかでも,重症例に多く,中毒性巨大結腸症や予後不良との関連が示唆されている.今回,組織学的および血清学的に評価しえた潰瘍性大腸炎患者14例において,大腸におけるCMV感染,臨床像および大腸X線・内視鏡所見を検討した.その結果,CMV感染を認めた潰瘍性大腸炎4症例では,打ち抜き様潰瘍,地図状潰瘍および縦走潰瘍・びらんを比較的高率に認めた.

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要旨 肝彎曲部までの潰瘍性大腸炎で,少なくとも6年間はsalazosulfapyridineを継続して服用し緩解状態にあったが,非罹患部の上行結腸に結核性大腸炎を発症した症例を報告した.潰瘍性大腸炎やCrohn病はここ30年で多数の症例が集積される一方,日和見感染,性伝染性感染症あるいは免疫不全症候群が経験される今日,潰瘍性大腸炎,Crohn病の経過中に,その診断上除外すべき結核やアメーバ赤痢などの疾患を合併しない理由はない.今後,ときにはこのような症例があることを考慮しなければならないかもしれない.

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要旨 患者は49歳,女性,主訴は水様性下痢と腹痛.近医から当院へ紹介された.当初,感染性腸炎・抗生物質起因性出血性腸炎が疑われたが,治療に反応しなかった.経過中の注腸X線検査では全大腸に連続性に潰瘍性病変がみられ,ステロイド療法により症状および画像所見は速やかに改善した.びまん性・連続性の病変は潰瘍性大腸炎を示唆するが,経過中に縦走潰瘍,敷石状所見がみられた.潰瘍性大腸炎の虚血性変化として縦走潰瘍がみられたと考え報告した.

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要旨 患者は65歳,男性.発作性夜間血色素尿症のため当院通院中,便潜血反応陽性を指摘された.大腸内視鏡検査および注腸X線検査で上行結腸から下行結腸にかけて多発するアフタ様病変を認めた.経過観察中アフタ様病変の分布が直腸へと拡大し,続いて下行結腸からS状結腸は区域性・連続性にびらんを伴う顆粒状粘膜へと変化した.更に初回検査から7か月後には典型的な全大腸炎型潰瘍性大腸炎に進展し,ステロイド剤とサルファ剤が奏効した.本例では潰瘍性大腸炎の初期像や進展過程を知るうえで示唆に富む画像の推移が観察可能であった.

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拡大電子内視鏡観察の有用性

 潰瘍性大腸炎の重症度の診断に内視鏡検査が有用であることは明らかであり,拡大観察についてはfiberscopeの時代からその報告がみられている1).われわれも固定焦点式の拡大電子内視鏡観察の有用性について報告してきた2)が,近年,最大倍率100倍のズーム式拡大電子内視鏡の使用が可能となり,その有用性も報告されている3).本稿では潰瘍性大腸炎に認められる微細所見のズーム式拡大電子内視鏡所見について重症度ごとに供覧する.

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〔患者〕19歳,男性.15歳,19歳時に下血の既往があるが,原因は不明であった.1997年8月31日に大量下血し緊急入院した.入院時Hb 76g/dlの貧血を認めた.上部消化管内視鏡検査および大腸内視鏡検査では異常所見なく,小腸造影を施行した.

〔小腸造影所見〕回腸から分岐する盲管(矢印)を認めた(Fig.1).

症例からみた読影と診断の基礎

【Case 32】 芳野 純治 , 中澤 三郎
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〔患者〕46歳,女性.5年前に検診のX線検査で異常を指摘され,内視鏡検査を行い穹窿部に隆起性病変を認めたが経過観察となった.自覚症状は特になかったが,検診を再度受けたところ同部に異常を指摘されたため,当院に紹介入院となった.

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〔患者〕65歳,女性.主訴は腹部不快感.1993年11月から左記の症状を認め,苫前厚生病院で消化管検査を受け,大腸に異常を指摘され,同年12月21日紹介され当科入院.既往歴,家族歴に特記事項なし.入院時理学所見および検査成績にも特別な異常を認めなかった.

早期胃癌研究会

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 1998年5月度の早期胃癌研究会は5月20日(水),一ッ橋ホールで開催された.司会は川口実(東京医科大学第4内科)および渕上忠彦(松山赤十字病院消化器科)が担当した.ミニレクチャーは下田(国立がんセンター中央病院臨床検査部)が「消化管腫瘍生検診断の国際比較」と題して行った.

 〔第1例〕71歳,男性.表層拡大型食道粘膜癌(症例提供:国立東静病院外科 今井直基).

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要旨 患者は50歳,女性.EMR後のサーベイランス目的に大腸内視鏡検査を受け,脾彎曲部に腫瘍を指摘された.注腸X線検査では深い陥凹を伴う隆起性病変で,軽度の弧状変形を認めた.内視鏡検査ではⅡa+Ⅱc型で片側に低いⅡa部が舌状に伸びていた.EUSでは第3層の断裂と第4層の肥厚を認めた.横行結腸切除術を施行し,腫瘍は8×5mm大の2型進行癌で深達度mp2であった.癌周囲の低い隆起部は過形成性ポリープの像を示し,癌に近い部で異型を,更に腺管が粘膜下層に入り込んだ像や筋板を圧排する部分を認めた.同部の免疫組織染色ではp53は陰性,Ki-67は腺底部にのみ陽性であり過形成性ポリープからの癌化例と考えられた.

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欧文目次

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 齋田幸久博士が,またユニークな本を上梓された.心憎いほど気のきいた前著「消化管ベスト・テクニック」(医学書院,1991)を出版された博士が,今度は別の視点から本書をまとめられたことは,意義が大きい.

 別の視点とは何か.それは,前著の出版から6年以上,教育の第一線で学生やレジデントに接して努力して来られた苦悩の結晶ではないか.つまり,博士は,技術の必要性とその技を磨くコツを教えただけではどうにもならない,ということを,その間により実感されたのではないだろうか.

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 最近,学会発表にはビデオセッションが増えています.顕微鏡手術,内視鏡手術などのビデオ記録をしている方でビデオセッションで発表したいと考えている方は多いと思います.しかし,最近の学会発表ビデオは画面がページめくりで次の画面に変わったり,説明の文字が動いたり,ズームアップしてきたり,ピクチャーインピクチャーが出てきたり,ずいぶんお金がかかるのではないかと尻込みしてしまう方も少なくないのではないでしょうか.また,学会の器械展示に足を運んだり,ランチョンセミナーに出席してみると,各メーカーのビデオコンピューター編集システムが紹介されるようになっています.しかし,これらの編集システムは高価すぎてとてもうちの医局,うちの病院では買ってくれそうもないことに気付き,あきらめの気持ちになってしまいます.ましてや,ビデオ編集を業者に依頼しようものなら数十万円かかってしまいます.

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超音波内視鏡による粘膜下腫瘍の鑑別

質問 超音波内視鏡を用いて粘膜下腫瘍の鑑別を行う場合,用いる周波数によって得られる画像(エコーレベル)が若干異なることがあります.例えば7.5MHzでは完全に無エコーであっても20MHzでは内部に点状エコーがみられることがありますが,それはなぜでしょうか.実際の読影にあたって,嚢胞と筋腫との鑑別に困ることがありますが,鑑別するためにはどこに注目すればよいのでしょうか.

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 本書はstrip biopsyの発案者としてあまりにも有名な多田正弘氏の手による胃内視鏡治療の成書である.しかし,通常の成書にありがちな,いわゆる技術解説書という範疇ではない.ここには,彼が大学院の学生時代からの恩師である竹本忠良氏によって啓発された彼の哲学が脈々と息づいている.その第1は,少なくとも内視鏡に携わろうとするものは,その歴史的な背景を知るべきであり,そこから何かを学びとる姿勢が不可欠であるということであり,第2は内視鏡における最大の基本は診断学であり,的確な診断を求める姿勢なしには何事も生まれないということである.本書においてはまずこの点が語られている.

 また,strip biopsyの原点が,より正確な組織診断法の開発にあったことを知る人は多いが,本書の中ではその原点が今なお彼の中で生き続けていることを改めて知らされる.この点,現在のstrip biopsyに対する多くの認識は誤っているのではないかと思われてならない.最近では,本法の適応条件として“術前診断で粘膜下浸潤が疑われる病変を除く”とする施設が多いが,彼は不完全な各種の深達度診断の誤診によって本来内視鏡切除の対象となるべき粘膜内癌が治療対象から除外されることを大いに危惧しているのである.つまり,彼は深達度も含めて正確な組織診断を得る方法論(診断的治療法)としてstrip biopsyを考案したのであって,そこには曖昧な術前診断との妥協は一切考えていないのである.

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 「准南子」に,“飛鳥の摯つや其の首を俛す”とあって,「大辞泉」は“鳥が獲物に飛びかかるときには,まず首を伏せる.才能のある者は,平生はおとなしく控え目で,いざというときにその力を出すことのたとえ”と説明.その典型が,いま「胃と腸」編集委員長をしている多田正大君だろう.彼は京都府立医大公衆衛生にいるころから,俊秀として注目されているが,最近,続々と著作をまとめ,編著「早期大腸癌内視鏡ハンドブック」に次いで,このたび東北大第3内科樋渡信夫講師と組んで,連携見事に,この好著をまとめた.樋渡君は炎症性腸疾患と大腸がん集検という地道で特に粘りがいる研究を一筋にしている.

 私は,大腸集検の新時代の扉を開こうとして新しい地平を模索している2人の努力に心から敬意を表したい.編者の歴史認識・人間認識の確かなことを高く評価するものである.

編集後記 樋渡 信夫
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 潰瘍性大腸炎は,以前は稀少疾患と言われていたが,患者数は年々増加して現在では5万人を超えており,日常臨床でよく遭遇する疾患となってきた.

 その臨床的特徴は,直腸から上行性にびまん性・連続性の浅い炎症がみられることであり,腸の炎症性疾患を鑑別する際には,X線・内視鏡・生検所見が潰瘍性大腸炎であるか,否かが,まず基本かつ重要なポイントとなる.

基本情報

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胃と腸
33巻9号 (1998年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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