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書評「胃内視鏡治療―Strip biopsyの実際」
吉田 茂昭
pp.1278
発行日 1998年8月25日
Published Date 1998/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403103803
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本書はstrip biopsyの発案者としてあまりにも有名な多田正弘氏の手による胃内視鏡治療の成書である.しかし,通常の成書にありがちな,いわゆる技術解説書という範疇ではない.ここには,彼が大学院の学生時代からの恩師である竹本忠良氏によって啓発された彼の哲学が脈々と息づいている.その第1は,少なくとも内視鏡に携わろうとするものは,その歴史的な背景を知るべきであり,そこから何かを学びとる姿勢が不可欠であるということであり,第2は内視鏡における最大の基本は診断学であり,的確な診断を求める姿勢なしには何事も生まれないということである.本書においてはまずこの点が語られている.
また,strip biopsyの原点が,より正確な組織診断法の開発にあったことを知る人は多いが,本書の中ではその原点が今なお彼の中で生き続けていることを改めて知らされる.この点,現在のstrip biopsyに対する多くの認識は誤っているのではないかと思われてならない.最近では,本法の適応条件として“術前診断で粘膜下浸潤が疑われる病変を除く”とする施設が多いが,彼は不完全な各種の深達度診断の誤診によって本来内視鏡切除の対象となるべき粘膜内癌が治療対象から除外されることを大いに危惧しているのである.つまり,彼は深達度も含めて正確な組織診断を得る方法論(診断的治療法)としてstrip biopsyを考案したのであって,そこには曖昧な術前診断との妥協は一切考えていないのである.
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