胃と腸 3巻1号 (1968年1月)

今月の主題 早期胃癌研究の焦点

綜説

  • 文献概要を表示

 最近における胃病変診断の進歩は目覚しいものがある.ことに早期胃癌診断については諸外国学者の斉しく驚歎するところである.X線診断はもとより,内視鏡診断,さらにこれに加えられる直視下細胞診・生検の威力は,それぞれの専門家の努力によってえられたものではあるが,数年にして諸外国を遙かに抜去ったことは日本臨床医学の誇りである.

 ここに胃内視鏡発達の歴史を回顧すると共に,今後新しく開拓すべきいくつかの方向を考えてみたいと思う.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 胃内病変の診断技術はここ数年間に驚異的進歩をとげて来た.X線検査は白壁等の精力的な研究によって,二重造影法が開発され,内視鏡検査も胃カメラの普及と共に,ファイバースコープの導入にともなって,ファイバースコープと胃カメラの併用によるGTFが用いられるようになった.更にファイバースコープを用いた直視下の洗浄細胞診及び胃生検が臨床検査に使用され始めて,従来の肉眼的診断学に組織学的診断学が加わって来るようになった.かかる検査法を駆使して,早期胃癌が漸次発見されて来ている.胃内病変が正確に診断されるようになるにつれて臨床上の対象となる病変も漸次小さくなってきた.昭和41年第4回内視鏡学会秋季大会では,微細病変として,直径2cm以下の早期癌が検討され,昭和42年には,第9回内視鏡学会総会で胃隆起性病変がとりあげられた.現今の診断技術の上からは,早期胃癌の中でそのひろがりが直径3乃至4cm以上をしめすものは,臨床的に診断がそれ程困難ではなくなって来ているが,直径2cm以下の小病変に対する診断が問題となってきている.

 胃内病変の中で,直径2cm以下の隆起性病変は臨床診断の上で,良性と悪性との鑑別が問題となるものがある.特に良性悪性の境界領域の病変として,私共が検討を行なって来た異型上皮(Atypical epithelium)がある6)9-c).異型上皮を有する隆起性病変の中で,特に無茎性隆起が隆起性早期癌(1,Ⅱa)とくにⅡa,との関連が問題となって来ている.

 臨床検査にあたって,Ⅱa又はその疑いと診断された病変が,組織検査で癌とは言えないが,異型腺管を有する病変で,良性と診断される症例に遭遇することが多くなる傾向にある.胃生検によって,臨床検査も,肉眼的形態診断の上に,組織学的診断が出来ると言う診断技術の進歩ははかりしれないものがある.胃生検によって,臨床的に異型上皮か否かまで組織診断が可能になっている.この異型上皮巣と早期癌との関連を考慮しないと,臨床診断上混乱が生ずることがある.良性と悪性の境界病変としての異型上皮の詳細な検討を必要とする時期に来ていると思う.

 かかる点から,異型上皮と臨床的に区別が困難な早期癌とくにⅡaの検討の上にたって,異型上皮とⅡaとの対比を行なってみたい.異型上皮は隆起性病変のみでなく,ビラン,潰瘍辺縁の再生粘膜等の陥凹性病変にもみとめられている.今後かかる陥凹性病変にみる異型上皮巣とⅡcとの関係も問題になって来ることと思われる.

 私共が経験した胃切除材料にもとついてⅡaと異型上皮が問題となって来た背景としての早期胃癌の最近の傾向およびⅡaの早期胃癌の中で占める意義を検討し,隆起性病変にみる異型上皮の分析とともに,Ⅱaとの関連を対比して異型上皮の臨床上の意義を明かにしたい.

  • 文献概要を表示

症例

 症例1 41歳 男子 会社員

 主訴:上腹部痛

 家族歴,既往歴ともに特記すべきことなし.

 現病歴:約2年ほど前より時々心窩部痛あり売薬を服用していたが最近になり空腹時心窩部痛が強くなり市内相沢病院に入院.食欲良好,体重減少なく便通正常.

 現症:体格中等,栄養良好,脈拍に異常なく,黄疸,貧血なし.胸部では心,肺に著変なく腹部では心窩部に限局性の圧痛を認める.肝,脾,腎をふれない.

 諸検査成績:血色素量は103%,赤血球数は450×104,白血球数は6100で百分率に著変を認めない.尿屎ともに異常なし.肝機能検査では血清蛋白量6.6gr/dl,A/G1.06,Al51.5%,Glはα15.7%,β10%,γ22.8%,GOT21,GPT16単位,TTT2.2,ZTT9.3単位であった.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.まえがき

 X線,内視鏡,細胞診および生検の進歩により,早期胃癌の発見が飛躍的に増加し,微細早期胃癌の報告も次第に数を増している.しかるに病変が微細であればあるほど診断が困難になり,たとえ存在診断をなしえても,質的診断はさらに困難を伴い,偶然の要素が含まれることが多い.本症例も,微細Ⅱc型早期胃癌として手術し,術後の組織検索によって,さらに微細なⅡb型早期胃癌の重複をみた症例である.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.まえがき

 最近診断技術の進歩のみならず,一般の人々に対する癌啓蒙がすすんで,中,高年齢者の人々が進んで定期検診をうけるようになり,これら無症状のグループから,早期癌を発見する機会もかなりふえている.私どもは最近全く症状はなかったが,たまたま受けた健康診断により発見された1型の早期癌を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.はじめに

 胃肉腫は比較的まれな疾患であり,山形ら1)によると,全胃腫瘍の1~2%にすぎず,本邦においては最近まで約200例の報告しかないという.就中,固有筋層に達しない早期胃肉腫については,東京大学分院外科2),京府医大増田内科3),および石原ら4)の記載,報告が散見される程度で極めて少ないものと考えられる.

 われわれは最近,X線,胃内視鏡,胃細胞診所見から胃癌と診断して手術,その肉眼的所見からⅡc型早期胃癌を疑ったが,組織学的検索の結果,固有筋層に達しない胃細網肉腫と判明した1例を経験したので報告したい.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.緒言

 今日では胃の診断学を勉強している第一線の病院で,早期胃癌のよい症例を何例かもっていないと恥かしくて,とても一生懸命診断していますといえないようになってしまった.また「胃と腸」のように,貴重な紙面を第一線の病院にも開放してくれると,たいへんはげみになるし,載せられたX線写真とか内視鏡写真で,その病院の診断レベルはたちまち判定されるようになった時世でもある.

 われわれの病院ではファイバースコープ検査を中軸とし胃カメラ,胃生検,細胞診とできるだけ診断学の急速な進歩に遅れないようにつとめているつもりであるが,相当いろいろな検査を行なった早期胃癌の1症例を報告する.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.緒言

 直視下に胃病変部の組織を採取すべく,町田製作所が1964年に製作した生検用ファイバースコープ(F.G.S.-B型)は短時日の中に普及し,胃生検の成績は急速に上昇した.ことに今までレントゲン写真,胃内視鏡,あるいは胃細胞診検査を組み合せても,なお決定的な診断を下せなかったような早期胃癌の場合では正確な胃生検によってのみ,手術前,その多くに臨床組織学的に確定診断を下すことができるようになった.さらに昭和41年3月,第8回内視鏡学会シンポジウムにおいて胃生検法が論議せられ5),同時に詳しく器具の長所,改良すべき点が論ぜられ胃疾患,ことに早期胃癌の診断に本検査が必要不可欠なことが立証せられた,

 私共は昭和41年初より9月末まで,6カ月間に町田製F.G.S.-B型を使用し胃生検55例中,早期胃癌7例を経験した.ここにその中の代表例を示し,その方法,成績を述べることとする.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.まえがき

 Ⅱc+Ⅲ型早期胃癌には,術前検査で潰瘍の存在を認めながらも,切除胃の肉眼像ではⅡc型の範疇にいれるべき症例をしばしば経験する.本例もその1例である.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.緒言

 近年,胃透視技術の進歩とともに,内視鏡による検査が進み,一方,細胞診も広く実施されるようになり,早期胃癌の発見率も高くなってきたようである.

 しかしながら,早期胃癌の中にも組織診断によって,初めて癌と診断されたものも少なくない.

 早期胃癌に関して最初に記載したのはMallory1)である.それ以前にBroders2)は皮膚癌の研究において,基底膜内に限局した癌をCarcinoma in situと呼んだが,その後Ewing3),Konjetzny4),Rossele5)等により種々の名称が与えられた.

  • 文献概要を表示

Ⅰ.緒言

 Hirschowitzのファイバースコープが登場して以来,各種のファイバースコープの急速な進歩によって内視鏡は新しい時代に突入した.そしてすでに直視下胃内観察を欠いた胃内視鏡検査は不完全であると考えられるようになった.

 ファイバースコープはまだまだ進歩するであろうし,現在でもたえず改良が続けられているが,最近とくに強い関心がむけられているのが,ライトガイド式ファイバースコープの実用化という問題であると思う.

  • 文献概要を表示

村上 それではこれから秋の消化器病学会をきいてという座談会を始めましょう.ここではそのうちの主として胃癌に関係のあるテーマについてお話をしていただきたいと思いますので,まずシンポジウム5,「胃集団検診の現況と将来について」から検討をお願いします.座長を市川さんにと思ったのですが,そうすると却ってしゃべりづらくなってしまうかも知れませんので,私がお話をすすめることにいたします.

研究会紹介

北九州胃カメラ研究会 白根 友吉
  • 文献概要を表示

〈沿革〉

 九州における胃カメラ検査の草分けは昭和30年にさかのぼる.大阪厚生年金病院より九州厚生年金病院内科部長として北九州に転任して来られた故光野儀先生もその開拓者の一人である.同先生は昭和31年Ⅲ型カメラで始められ,翌32年7月より同病院で胃カメラをルーチンの検査として導入した.北九州では次いで34年市立若松病院飯野治彦が胃カメラ検査を取り入れ,その後間もなく八幡製鉄所病院でも古賀正道を中心に胃カメラ検査がスタートし,同病院に赴任した中村裕一が加わった.本研究会の創立は詳かではないが,35年1月に光野先生の音頭で厚生年金病院で開かれた“胃カメラフィルム読影会”がその嚆矢とされている.略時期を同じくして門司労災病院白石正士,市立八幡病院蔵本一郎,市立門司病院大島道雄及び市立小倉病院福元哲四郎等も本会に参加するようになり会員も逐次増加した.本会の創立者で,かつ会の中心でもあった光野先生は39年8月に急逝されたが,その遺志は今目まで会員にうけつがれ,従来の“読影会”が発展して“所見会”と呼称されるようになり,会場は各病院廻り持ちという現在の形式が整い,この会は益々活況を呈している.なおこの間に中央より村上忠重,白壁彦夫,市川平三郎信田重光及び山田喬の諸先生方,最近では城所仇先生方の特別講演或は九大よりの特別出演などあり会員一同益裨されることが大きかった.

 一方,会員の研究発表も本会創立当時より関係同好会,学会等に活発に行なわれているが,内容も多岐に亘り,数も相当数にのぼり,会員の努力の一端をうかがわせている.

  • 文献概要を表示

 毎月1回東京で開かれる早期胃癌研究会ほど盛んな会もめずらしいであろう.この評判をきいて,北海道から出かけていく人もだんだんふえてきた.出席しようと思えば飛行機で1時間ちょっと,夕方ついて会に出席,12時のオーロラで帰ることもできる.実際そのようにして,かかさず出ている熱心な先生もいる.なんとかして月に一度の上京の旅費をひねり出そうと,涙ぐましい努力をしている人もいるが,本人はそれだけ勉強になるし,価値ある会だからと頑張っている.

 そうこうするうちに,北海道にもこの早期胃癌研究会に類した集りをもとうではないかとの気運がもりあがってきた.そして渋江,西川,高須,氏家,村島らの諸氏が発起人となり,“胃を診る会”の名称のもとに第1回の集りが昨年10月17日,エーザイ札幌支店4階ホールで開かれるにいたった.

--------------------

  • 文献概要を表示

 本書は菅邦夫,日野志郎,名尾良憲の三氏が編集され,十分の臨床経験を積まれ全国の大学や病院でご活躍しておられる41名の方々が分担執筆しておられる.その内容は11章に分かれ,第1章 慢性病の考え方と管理,第2章 循環器疾患,第3章 神経疾患,第4章 呼吸器疾患,第5章 消化器疾患,第6章 腎および泌尿器疾患,第7章 がん,第8章 血液および造血器疾患,第9章 内分泌疾患および代謝障害,第10章 アレルギー疾患,第11章 運動器疾患に分かれている.この表題でもわかるように第1章はいわば総論的な記述で,第2章以下が各器官別に分かれた各論的な記載である.その対象は内科領域の成人病を主体として,第7章でがんを内科医,外科医の立場から総論的にまとめて記載している.他は9つの章に分類された各器官に含まれる多くの内科疾患から重点的に5ないし10種類のいわゆる成人病を選択して,それらについて慢性病としての特徴,頻度,経過,治療,予防,リハビリテーションなどを丁寧に説明している.また内科臨床に関連の深い,眼科の立場からみた高血圧,老人の精神障害,前立腺肥大症,慢性じん麻疹,骨関節疾患等についてはそれぞれ眼科,精神科,泌尿器科,皮膚科,整形外科の専門家に執筆の分担を依頼している.すなわち,種類の多彩な内科疾患の中から慢性病という立場で大胆に疾患の種類を選定し,また関連領域専門家の参加を求めて成人病の診療の坐右の書として役立つように作られている点が本書の第一の特徴である.

  • 文献概要を表示

 急性腹症と総称される疾患群は一般に急激な腹痛及び腹膜刺激症状を呈し,多くは緊急の外科的処置が必要な疾患群である.その範囲は膨大で,広く内科・外科・婦人科・産科泌尿器科及び小児科にわたる.また臨床症状は複雑で,鑑別診断が困難なために,関係各分野の医師達を最も悩ませる疾患群の一つでもある.このような広範な領域にわたる疾患群であるため,その原因も複雑多岐にわたり迅速な判断のもとに適確な診断を下し,外科的治療の適否を決定することが,とくに極めて重要になってくる.また正確な早期の診断は以後の経過を大きく左右するため,それぞれ関係分野の医師達の緊密な協力のもとに慎重に行なわねばならない.

編集後記 春日井 達造
  • 文献概要を表示

 皆様の雑誌「胃と腸」も諸先生方の積極的な参加と親身なこ援助により,第3巻1号をお手許にお送りするまてに成長しました.昨年を振り返ってみますと,消化器病学方面においては極めて充実した一年で,「胃と腸」においても早期胃癌の岡題は細大もらさす網羅し,胃潰瘍,十二指腸潰瘍,胃炎,胃のびらん,切除残胃から胃液の問題,更に小腸の問題にまで入ってゆき,話題は増々深く,更に広くなりつつあります.

 本年は来る7月チェッコスロバキヤのプラハにおける第8回国際消化器病会議及び第1回ヨーロッパ内視鏡会議,秋にはオーストラリアのメルボルンで第3回アジア大洋州消化器病会議,一方5月はブラジルのリオデジャネイロで第3回国際細胞会議など,「胃と腸」関連の国際会議が相いついで開催されることになっており,この分野における飛躍的な発展が期待され,また読者の皆様の国際的な活躍力が上を飾ることと思います.

基本情報

05362180.3.1.jpg
胃と腸
3巻1号 (1968年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月12日~11月18日
)