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Ⅰ.はじめに
胃内病変の診断技術はここ数年間に驚異的進歩をとげて来た.X線検査は白壁等の精力的な研究によって,二重造影法が開発され,内視鏡検査も胃カメラの普及と共に,ファイバースコープの導入にともなって,ファイバースコープと胃カメラの併用によるGTFが用いられるようになった.更にファイバースコープを用いた直視下の洗浄細胞診及び胃生検が臨床検査に使用され始めて,従来の肉眼的診断学に組織学的診断学が加わって来るようになった.かかる検査法を駆使して,早期胃癌が漸次発見されて来ている.胃内病変が正確に診断されるようになるにつれて臨床上の対象となる病変も漸次小さくなってきた.昭和41年第4回内視鏡学会秋季大会では,微細病変として,直径2cm以下の早期癌が検討され,昭和42年には,第9回内視鏡学会総会で胃隆起性病変がとりあげられた.現今の診断技術の上からは,早期胃癌の中でそのひろがりが直径3乃至4cm以上をしめすものは,臨床的に診断がそれ程困難ではなくなって来ているが,直径2cm以下の小病変に対する診断が問題となってきている.
胃内病変の中で,直径2cm以下の隆起性病変は臨床診断の上で,良性と悪性との鑑別が問題となるものがある.特に良性悪性の境界領域の病変として,私共が検討を行なって来た異型上皮(Atypical epithelium)がある6)9-c).異型上皮を有する隆起性病変の中で,特に無茎性隆起が隆起性早期癌(1,Ⅱa)とくにⅡa,との関連が問題となって来ている.
臨床検査にあたって,Ⅱa又はその疑いと診断された病変が,組織検査で癌とは言えないが,異型腺管を有する病変で,良性と診断される症例に遭遇することが多くなる傾向にある.胃生検によって,臨床検査も,肉眼的形態診断の上に,組織学的診断が出来ると言う診断技術の進歩ははかりしれないものがある.胃生検によって,臨床的に異型上皮か否かまで組織診断が可能になっている.この異型上皮巣と早期癌との関連を考慮しないと,臨床診断上混乱が生ずることがある.良性と悪性の境界病変としての異型上皮の詳細な検討を必要とする時期に来ていると思う.
かかる点から,異型上皮と臨床的に区別が困難な早期癌とくにⅡaの検討の上にたって,異型上皮とⅡaとの対比を行なってみたい.異型上皮は隆起性病変のみでなく,ビラン,潰瘍辺縁の再生粘膜等の陥凹性病変にもみとめられている.今後かかる陥凹性病変にみる異型上皮巣とⅡcとの関係も問題になって来ることと思われる.
私共が経験した胃切除材料にもとついてⅡaと異型上皮が問題となって来た背景としての早期胃癌の最近の傾向およびⅡaの早期胃癌の中で占める意義を検討し,隆起性病変にみる異型上皮の分析とともに,Ⅱaとの関連を対比して異型上皮の臨床上の意義を明かにしたい.
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