胃と腸 2巻12号 (1967年12月)

今月の主題 小腸

綜説

小腸の病態生理 増田 久之 , 石川 誠
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Ⅰ.はじめに

 小腸の主な機能は運動と消化吸収であり,前者はレ線およびレ線テレビ検査,平滑筋電図,ならびに運動曲線検査法,とくにカプセル法(第1,2図)による内圧測定法などによって研究されている.また小腸の消化吸収に関しては,近年小腸の生検法の普及と各種吸収試験法1)の発達およびprimary malabsorptionに対するgluten-free食餌療法の研究の成果とが相俟って著しく進歩したといえる.一方アイソトープ法や淋巴管造影法などの応用により蛋白漏失性胃腸症の病態も明らかになった.よって,ここでは小腸の病態生理のうち,主として臨床的な問題点について述べることにする.

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Ⅰ.はしがき

 回腸終末部のX線検査で扱われる疾患は,臨床上の報告例をみても,昔は腸結核などがあったが,最近はIleitis terminalis,Crohn氏病などの症例報告が散見するにすぎない.とくに,わが国において,回腸終末部のリンパ濾胞が増殖する疾患,GoldenのNonsclerosing Ileitisといったものにかんする報告は,文献上ほとんどみあたらない.今回はこの疾患に焦点をあてて,文献的考察も加えて,われわれの考え方をのべてみたいと思う.

小腸の消化吸収 細田 四郎
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Ⅰ.はじめに

 栄養素が吸収に先立って腸粘膜を通過し得る程度まで分解される過程が消化である.ここに働く消化酵素は酵素の一般特性である基質特異性,至適pH・温度,Michaelis-Menten式,ZymogenとKinaseなどをもっている.

 消化と吸収についての研究は古く,既にClaude Bernard(1865)1)が脂肪の吸収に胆汁よりも膵液の影響が大であることをみた.Reid(1898)2)は栄養素の吸収に滲透や濾過のような物理的機序と絨毛上皮細胞のactiveな働らきが同時に必要なことを述べた.これはKrogh(1946)3)及びUssing(19474),19495))によって,筋細胞における能動駆逐として能動的膜輸送の概念が提唱される実に半世紀も前のことであった.この同時性は今日しばしば忘れられ,in vitroの実験下の能動吸収が生体の栄養素吸収のすべてであるかのように誤解されている.吸収速度と化学構造との関係をはじめて示唆したのはCori(1925)6)の各種単糖類の吸収比較である.しかし,彼は特異的といったがactive(能動的)とは云わなかった.Verzar(1936)7)がMcDougallの助けを得て著した“Absorption from the Intestine”は腸管吸収に関する初めてのモノグラフであるが,その後Wilson(1962)8)次いでWiseman(1964)9)の著書が現われるまでの四分の一世紀にも未だその価値を失っていない.

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Ⅰ.序

 生検手術材料の病理検査の対象として,消化管の占める頻度は高いものがある1).しかし,早期胃癌に対する精力的な諸研究を除くと,この分野におけるわが国の病理医の関心は高いものとはいえない.病的状態における消化吸収という消化管の主要な機能の変遷に対する形態学的解析ならびにその意味づけについての研究も,これまで乏しいものであったといわざるを得ない.近年,腸炎,Malabsorption症候群あるいは蛋白漏性胃腸症が注目され,その診断手段として,放射性同位元素を利用する方法と共に,小腸粘膜生検2)3)も行なわれ始め,近時,わが国においてもこの方面へ病理医の目が向けられ始めている4)5).また,このように検査対象として頻度の高い消化管疾患の中で,従来は他の疾患と誤まられていたり,あるいは,他の名称の下に包含されていたものが,独立疾患として分離されてきている.

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Ⅰ.症例

 患者:高○高○,39歳,男

 主訴:上腹部痛

 現病歴:昭和40年1月頃より,食事に関係なく上腹部痛がおこり,時々呑酸があった.食欲正常.嘔気・嘔吐なし.昭和40年7月,当科受診.

 既往歴:特記すべきことはない.

 家族歴:癌死はない.

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Ⅰ.症例

 患者:63歳,男子,農業

 家族歴および既往歴:特記するものはない.

 現症歴:患者は生来健康であり1964年7月の胃集団検診においても特に異常をチェックされていなかった.1966年9月腹部症状およびそのほかの自覚症状は全然なかったが宮城県対癌協会の胃集団検診を受け胃癌と診断され,1966年12月宮城県対癌協会ならびに東北大山形内科外来において精密検査を受けた.当時,るいそうはなく,食欲やや不良のほかになんらの胃腸症状は自覚していない.

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症例

患者:松○ム○ 63歳 女

主訴:食道の狭窄感

家族歴:父親は48歳のとき胃癌で死亡

既往歴:37歳のとき子宮筋腫切除.56歳のとき頭部外傷,2年前,胃病を自覚し某病院受診,異常なしといわれている.

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Ⅰ.緒言

 最近,私どもは11年間にわたり,腹痛,消化管出血,貧血,低蛋白血,浮腫,下痢,慢性イレウス症状を訴豪,虫垂,内痔核および胃切除,試験開腹を受けたが,診断が確定せず,輸血などの対症療法をくり返していた患者を経験した.各種消化吸収試験を行ない,開腹手術の結果,病因不明で,限局性腸炎とは異なる原発性非特異性多発性慢性小腸潰瘍と診断したので報告する.

 原発性非特異性小腸潰瘍は1805年Mattew Baille1)により初めて記載されたが,まれな疾患で1963年までに170例報告されている2).その後,欧米では高血圧,心不全患者のKCI腸溶錠内服に伴なう小腸潰瘍の増加がiatrogenic ulcerとして注目され,実験的にも検討されている3)~7).たとえば1965年Lawrason6)の集計によると,本症は484例経験されており,この中,275例(57%)にKCI腸溶錠,または利尿剤の使用が認められている.本邦では1966年に岡部8,9)が薬剤と関係のない多発性慢性小腸潰瘍を2年間に5例経験したという紹介があるのみで,詳細な記載は見当らない.私どもの症例は岡部のものと良く似ており,また興味あることに,本例(姉)の妹も4年来,同様の症状と検査所見を示し,目下観察中であるが,今回は姉の成績を中心に述べる.

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 近年,診断法の著しい進歩とともに,消化器病の分野,中でもわが国では,従来,盲点とされた膵臓,腸疾患が注目をあび,現在その病態生理,治療法が次第に明らかになりつつある.しかし,生理,解剖学上の特殊性,および臨床症状の多様性などのため,時に術前診断が困難な症例に遭遇し,あらたな疑問に直面することがある.

 最近,私共は著明な低蛋白血,全身性浮腫,貧血など,いわゆるMalabsorption Syndrome(以下MASと略す),すなわち吸収不良症候群を示した症例が開腹手術により腸結核であることを確認し,諸症状の改善をみた1例を経験した.成書1)には本症で小腸の侵された部位と範囲によってはMASが発生することは記載されているが,詳細な症例報告は見当らず,ここに1つの診断の過程を中心に検討を加えたので報告する.

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 司会 先般の日本医学会総会で先生方にはいろいろと小腸に関するお話を承ったのでありますが,なに分ああいう堅苦しい席でもありますし,公式の発表という形ではちょっとしゃべりにくいようなこともございましたでしょうし,またかたがた先生方のご研究の裏話とか,研究のspeculationとか,そういうことも一緒にして,ひとつ肩のこらないように,ざっくばらんに「小腸最近の諸問題」というテーマでお話を願いたいと思います.

 小腸のもっている役割は,消化吸収,あるいは分泌,それからある意味では貯蔵庫といいますか,storage,もちろん肝臓に匹敵するような代謝機能をももっているわけですが,臨床家にとって,日常の疾病ということを頭において小腸を考えた場合,おそらくは現在みられているいろいろな疾患群の上からも,吸収ということがかなり大きな意味をもっておるんだろうと思います.

技術解説

私の病理診断 長与 健夫
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Ⅰ.はじめに

 X線,内視鏡,細胞診,生検などによる診断が進んで胃粘膜の軽微な変化をも検出することが可能になった今日,臨床上もっとも問題になるのはそのような方法を駆使して得られた組織標本の読みの問題であろう.いかに進んだ精細な方法をもって得られた切除標本でも,最終診断である組織診が動揺したり間違っていたのでは折角の努力も十分に活かされない結果に終ることは自明の理である.

 一昨年秋の第24回癌学会総会のシンポジウムの一つに「良性悪性境界領域」が今井環会長の発案で取り上げられこのシンポジウムの司会者である太田邦夫教授から胃粘膜のこの面について話すよう指名をうけた時,正直の所,煮つまった意見をもっていなかったし,また余り時間の余裕もなかったので随分と迷った.しかし「異型上皮巣」として確診を保留していた症例が相当数あり,上に述べたようなことからもっと系統的に調べねばならないと前々から考えていた時期でもあったので,学校の先生から宿題を貰った積りでどこまでこの問題に肉迫できるかやってみようとお引受けしたのが本文の内容と取り組むに至った動機である.

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 時勢にたち遅れまいとする各専門分野の人びと,たとえば医師にとって,現在もっとも困難をおぼえるのは,おそらく,時とともにますますハンランする尨大な量の最新情報をいかにして入手し,かつ能率よく消化するか,ということではなかろうか.

 この困難を克服するには,いろいろな処理方法が考えられるが,そのもっともすぐれた方法は,先進国,とくにアメリカにおいて実施せられている“図書館のもっとも有効な利用方法”であろう.そのためにアメリカでは,多くの大学において,“図書館学科”なる大学院コースが設置せられている.このシステムがいかに能率的であるかは,たとえば,自己の関心をもつテーマについて世界中の主要文献の内容をおよそ知ろうと思えば,図書館学科を卒業した,その方面の図書館司書に依頼すると,日ならずしてそれを入手できるという事実によって,明かであろう.

編集後記 青山 大三
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 今まで「胃と腸」はほとんど胃疾患のことでしめられていたが,本号は趣をかえて小腸をテーマにして発刊されることになった.

 日本のある有名な胃疾患学者が放談されたことがある.それは自分は胃のことを考えると太平洋へ船出したような気になる.自分はどこえ行き,どこの変化を探す気なのかと自分の目的がわからなくなる.それで胃の部分を九つ位にわけて,それぞれの場所,各種の検査方法をそれぞれ配当し,一つの部分につき3人の医師を配置し,27人で,一つの胃を検査して10年位やったら一寸面白いことができるのではないだろうかといわれたことがある.

基本情報

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胃と腸
2巻12号 (1967年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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