胃と腸 25巻2号 (1990年2月)

今月の主題 膵囊胞性疾患―動態診断の基礎と臨床

序説

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はじめに

 膵囊胞性疾患の診断の進歩は本誌21巻7号で主題として取り上げられているが,その後,画像診断によって膵囊胞性疾患の発見頻度が増加している.仮性囊胞と真性囊胞の鑑別診断,外科治療と保存的治療の選択が可能になり,経過観察される症例も増えて囊胞性疾患の自然経過が解明されつつある.また,小さな囊胞腺癌・囊胞腺腫が診断されるようになり,solid and cystic tumorや“いわゆる”粘液産生膵癌の報告も増えている.真性囊胞の切除例が多くなり,病理学的概念や分類にも変遷がみられるようになった.

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要旨 画像診断の進歩に伴い,膵囊胞の発見頻度は増加したが,従来の膵囊胞分類では,良性非腫瘍性囊胞の多くを貯溜囊胞としか表現できず,囊胞の肉眼・組織形態を推定できない,という問題が生じてきた.これらを解決するために,対象147上皮性膵囊胞(43例)を,肉眼所見で単房性と多房性に分け,更に組織所見(上皮の種類とその割合)で固有上皮型(28囊胞),固有・粘液上皮混合型(19囊胞),固有・扁平上皮混合型(1囊胞),粘液上皮型(27囊胞),扁平上皮型(2囊胞),粘液・扁平上皮複合型(2囊胞),腺腫型(3囊胞),癌型(65囊胞)とに分類した.更に対象を囊胞径,粘膜高,囊胞房の点から検討し,腫瘍型囊胞と非腫瘍型囊胞の肉眼的鑑別を試みた.その結果,前者は囊胞径が大きく,粘膜高が高く,多房性であるという特徴を有していることが明らかとなった.

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要旨 膵囊胞の発見頻度は急増しており,その診断法や治療法の選択は緊急の課題である.膵囊胞を主として炎症性と腫瘍性に分類し,また最近話題になっている粘液産生膵腫瘍も腫瘍性囊胞の範疇に含め,超音波検査(US)と超音波内視鏡検査(EUS)の診断能を中心に分析した.USやEUSで得られる囊胞の数,囊胞の大きさ,囊胞全体の形状,囊胞壁の状態,囊胞内部の状態,囊胞と膵管との交通の有無,背景病変の存在の有無などの所見を検討することにより,大部分の膵囊胞の鑑別診断は可能であることを示した.また体外式超音波検査では未だ限界も多く,上記の所見を的確に捉えるにはEUSが必要であることを強調した.

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要旨 膵囊胞性疾患の診断には造影剤を多量に用いるダイナミックCTが有用である.megacysticの腫瘍性囊胞では仮性囊胞との鑑別が問題となる.仮性囊胞では形成された初期は壁が染まらないが,肉芽が形成され線維化が完成すると壁が染まるようになる.しかし壁は薄く比較的均一である.また周囲膵の腫大,石灰化,液体貯溜などの合併所見がみられることも多い.これに対し腫瘍性囊胞では壁はやはりよく染まるが壁は厚く,更に限局肥厚や内腔への隆起像がみられる.ductectaic cystadenomaやadenocarcinomaではダイナミックCTによりブドウのような多房性小囊胞が明らかとなり,粘液の排出もみられる.ダイナミックCTは囊胞の形態を最も忠実に描出できる検査法である.

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要旨 1.5テスラ超伝導型装置を用いた磁気共鳴画像(MRI)の膵囊胞性疾患における質的診断能について検討した.膵仮性囊胞では線維性被膜やdebrisの診断が容易で,囊胞内容液の出血性変化も的確に診断できた.貯溜囊胞では存在診断はできても膵管拡張や膵実質性変化の診断にやや難があり質的診断は困難であった.漿液性囊胞腺腫では辺縁の分葉像,均一なintensityを示す小囊胞の集簇などが特徴的で,診断は容易のように思われた.粘液性囊胞腺腫の特徴である被膜,隔壁,腫瘍突出像などもMRIでよく描出され,更に各囊胞腔のintensityに差があることから内容液の性状診断も可能であった.一方,粘液産生性膵管内腺腫においては膵管拡張や分枝の囊胞状拡張は診断できても粘液像を診断することは不可能であった.MRIに期待されるものは囊胞内容液の性状診断であろうが,いまのところは出血以外は困難のようである.

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要旨 粘液産生膵疾患(組織判明15例)に対する通常のERPとballoon ERP-CSの診断能を対比し,balloon ERP-CSが優れていることを示した.なかでも,本法の特徴である圧迫スポット撮影により,他の画像診断では診断不能であったintraductal adenocarcinomaの3例を診断することができた.ERP所見と病理組織診断を検討すると,分枝膵管拡張型9例では,hyperplasia8例,adenoma1例であった.一方,主膵管拡張優位型6例では,intraductal adenocarcinoma3例,adenoma1例,hyperplasia2例で癌が半数を占めた.囊胞の辺縁が平滑な分枝膵管のみの囊胞状拡張例は,balloon ERP-CSによる動態診断の適応と考えられた.

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要旨 膵囊胞性病変の存在診断は容易である.現在は質的診断が問題である.膵囊胞性病変の質的診断における膵囊胞穿刺術(囊胞液分析,細胞診,囊胞造影)の有用性を検討した.囊胞液中アミラーゼ活性値は,仮性囊胞で10万Somogyi単位を越える例が多く,真性囊胞との鑑別の指標として有用である.囊胞液中CEA濃度は,仮性囊胞と比較して真性囊胞で高値を示し,両者の識別に有用である.しかし,真性囊胞である貯溜囊胞・囊胞腺腫・囊胞腺癌の囊胞液分析による識別は困難であった.細胞診は,良性・悪性囊胞の鑑別に極めて有用であった.囊胞造影は,囊胞の形態・局在,膵管との交通の有無の確認に有用である.膵囊胞穿刺術は,囊胞の質的診断に際して用いられるべき有用な方法である.

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要旨 膵囊胞の原疾患は多様である.治療を行う臨床的な立場からみれば,腫瘍に起因する囊胞か否かに分けて考えることが好都合である.診断においては囊胞性腫瘍の画像上の特徴を理解すると共に貯溜囊胞を随伴する膵癌や液化壊死を伴った腫瘍の診断に注意する必要がある.急性期膵仮性囊胞については,保存的療法や経皮的穿刺術を応用した内科的治療が良好な成績を得ている.現在までの成績から検討すると,径5cm未満のものでは保存的治療を4週間施行した後,改善傾向が乏しければ経皮的穿刺吸引法の適応となる.径5cm以上のものでは合併症発生の危険が高いので,積極的に経皮的穿刺吸引またはドレナージにて減圧術を実施することが必要であると言えた.これらの内科的方法で急性期膵仮性囊胞の約3/4を治療しえた.最近の画像診断の進歩に基づく,膵囊胞の診断と内科的治療,特に映像下穿刺による囊胞減圧術の有用性について述べた.

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要旨 1976年1月から1989年8月までの13年8か月間に当教室で治療を行った膵疾患は271例である.このうち21例が分枝型あるいは囊胞形成型の粘液産生疾患で,26例が仮性囊胞を伴った膵疾患であった.粘液産生疾患に対しては,腫瘍や病変の進展範囲を十分診断したうえで,膵切除範囲や郭清の程度を決定している.膵切除術式は,頭部切除(PD)13例,体尾部切除7例,体部切除1例であった.病理診断は,癌5例(いずれも粘膜内癌),腺腫8例,過形成8例である.膵病変再発例はなく,quality of lifeはPDの1例を除き良好であった.仮性囊胞26例のうち,23例は慢性膵炎に起因し,3例は膵癌に随伴したものである.慢性膵炎に対する外科治療は膵温存術式を基本としており,囊胞合併例においては囊胞の部位や膵管との交通の有無あるいは主膵管拡張の有無などによって術式を選択している.施行した術式は,膵体尾部切除10例,Puestow手術5例,Partington手術4例,その他4例である.17例の消息が判明しており,14例が現在社会復帰している.膵癌に随伴した仮性囊胞の3例では,2例に根治手術を施行でき,術後7か月と14か月生存した.

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要旨 患者は53歳の男性で大酒家.上腹部痛を主訴として来院した.10年以上,1日日本酒5合とビール2本を飲酒していた.腹部超音波検査で膵囊胞を認め,腹部CTでも膵周囲に多発する囊胞がみられた.保存的に治療していたが,新たに囊胞が出現し,同時に腹部単純写真上で,左横隔膜下にfree air様のガス像があり,消化管出血も認めたため開腹した.その結果,囊胞が胃壁内に穿通して巨大な胃粘膜下血腫を形成しており,囊胞を含めた膵体尾部切除と胃部分切除および脾摘を行った.膵囊胞が胃壁内に穿通し,巨大血腫を形成することは今までに報告がなく,左横隔膜下の特異なガス像がそのことを示唆した症例であった.

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要旨 慢性膵炎として2年9か月経過観察した囊胞形成を伴った微小な膵管内乳頭腺癌(intraductal papillary adenocarcinoma of the pancreas)を経験し,報告した.患者は53歳の男性で,主訴は左季肋部痛である.人間ドックで血清アミラーゼ高値を指摘され,当院を受診した.超音波検査(US)で胆囊ポリープが検出され,内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)では膵管に異常を認めなかった.経過観察し,3回目のERCPおよび内視鏡的膵液細胞収集法(EPCC)で小膵癌と診断した.手術の結果,膵頭部主膵管に限局した10mmの膵管内乳頭腺癌があり,近接して,囊胞性病変が認められた.本症例は主膵管の拡張を伴わない非浸潤性主膵管内癌であり,膵癌の発生進展形式を検討するうえで貴重な症例と考え報告した.

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要旨 患者は65歳,無症状の男性である.人間ドックのUSで膵の異常を指摘され,来院した.US,CTで体部に2.5×1.5cmの多房性囊胞を認めた.ERCPで主膵管は軽度拡張し,体部の膵管分枝の囊胞状拡張を認めた.乳頭の腫大,発赤,開口部開大はなかった.血管造影所見では特に異常所見は認めなかった.膵液細胞診ではClass Ⅰであった.以上より,悪性所見が得られなかったため経過観察となった.初期診断より2年2か月後のCT,USでは膵囊胞性病変の形態に著明な変化はなかったが,ERCPでは囊胞性病変部の増大傾向を指摘されたため,悪性を疑い膵体尾部切除を施行した.病理組織学的診断は粘液産生性過形成であった.術後経過は良好で,全経過を通して,自覚症状,血液生化学検査,腫瘍マーカーなどに異常はなく,術後3年経過し元気に社会復帰している

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要旨 膵頭部領域の膵囊胞性病変4例を経験した.いずれもERP上,主膵管との交通を有する類円形,ブドウの房状あるいは不整形の囊胞状拡張としてみられ,十二指腸乳頭部から粘液排泄はみられなかった.これら4例は,病理組織学的に粘液産生能のある高円柱上皮の乳頭状増殖が特徴的であった.このうち2例は,その細胞異型あるいは構造異型から腺腫と診断され,2例は癌と診断された.癌2例のうち1例は実質浸潤が軽度であったが,1例は浸潤が強く進行癌であった.これらの病変は画像診断上,あるいは組織学的にも同一の範疇と考えられ,一連の経過をみている可能性があり,その点からも興味ある症例であった.

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要旨 患者は70歳の男性.尿濃染を主訴に来入院.US,CTで膵全体の著明な腫大と主膵管の単房性の囊胞状拡張像を認めた.PTCD造影では膵部総胆管の圧排しめつけ様狭窄像を呈し,内視鏡検査では主乳頭開口部の開大と副乳頭の腫大,主乳頭,副乳頭,胃体部後壁および前庭部小彎の瘻孔から粘液流出が観察された.ERCPでは著明に拡張した主膵管と副膵管が認められた.経口的膵管鏡検査では主膵管内に乳頭状腫瘤が観察され高度に進行した粘液産生膵癌と診断した.門脈合併膵全摘術を行った.拡張した主膵管内には粘液が充満し,肉眼的に5か所に乳頭状腫瘤を認めた.病理組織学的には乳頭状腺癌で主膵管から膵管分枝全体,副乳頭にも癌が浸潤していた.膵実質は著明な線維化に置き換わり,一部にmuconodularな浸潤とその部位から胃粘膜に浸潤していた.進行した粘液産生膵癌の浸潤様式を考えるうえで示唆に富む症例と考えられたので報告した.

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〔患者〕69歳,女性.主訴:貧血.1987年4月近医で鉄欠乏性貧血を指摘され,経口鉄剤を服用後改善した.1988年10月再度貧血があり,便潜血陽性のため上部,下部消化管諸検査を施行したが異常はみられなかった.しかし貧血は徐々に進行したため1989年3月当科を紹介された.また全経過を通じて消化管の症状はみられなかった.

 入院後,腹部超音波検査で右臍上部にpseudokidney signを認め小腸腫瘍が疑われたが,腹部CTでは腫瘍の存在は不明であった.

早期胃癌研究会

1989年11月の例会から 岡崎 幸紀
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 11月の早期胃癌研究会は15日に,東京女子医科大学消化器病センター長廻紘の司会で行われ,胃,大腸の計6題が討議された.今回より,この報告に一部,写真を掲載することになった.参考にしていただければ幸甚である.

〔第1例〕71歳.男性,多彩な所見を呈した胃潰瘍症例(症例提供:倉敷中央病院内科 山本).

入門講座・2

小腸X線検査の実際 八尾 恒良
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 前回述べた経口法について今少し補足したい.

4.造影剤投与の可否

 前回書き忘れていたが,できるだけ小腸X線検査の前には腹部単純写真を撮影しておいたほうが良い.滅多にあることではないが,イレウスの患者にバリウムを投与して外科医の顰蹙を買うことがあるからである.しかし,われわれの経験では腹単でNiveauがあれば絶対にバリウムを投与してはいけないということではない.患者さんの便通の状態,腸雑音,触診所見などを総合して決定するが,通常,口側腸管の拡張がなければ,バリウムを投与しても差し支えないように思う(Fig. 1).また,機械的なイレウスの場合には,拡張があってもイレウス管を挿入してイレウス管から40~50%のバリウムを注入すれば,必要に応じてバリウムの回収ができるので大事に至ることはない.通常用いられるガストログラフィンは通過が良く,万一腹腔内に漏出していてもバリウムほど外科医に迷惑をかけることはないが,得られる情報量が少ないので,可能な限りバリウムを用いたほうがよい.

初心者講座 胃X線検査のポイント―私の検査法

2.発泡剤の使い方 桜井 俊弘
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 発泡剤の種類としては錠剤,散剤,顆粒剤がある.錠剤は臥位でも服用しやすいとの利点があるが,胃内での溶解に時間がかかり十分な二重造影像が得られないことがある.また,散剤は溶解はスムーズであるが,口内に付着し非常に服用しにくいのが難点である.顆粒剤は両者の長所を兼ね備えているので,われわれはルーチン検査時の発泡剤としては顆粒剤を用いている.

 発泡剤の標準的な量は1筒3.5gのものが使用されているようであるが,われわれは後に述べる分割投与を行う場合に都合が良いように,1筒4.5gの発泡剤(バリトゲン発泡顆粒®:伏見製薬所)を用いている.この4.5gの剤型の全量を一括投与すると牛角胃などの容積の小さな冒では過伸展を起こしてくるが,分割投与すると適量となるようである.これは,投与のたびに口内で空気のlossが出るためと思われる.

2.発泡剤の使い方 西俣 寛人
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1.種類と量

 顆粒状の発泡剤を5g投与する.

 理由:食道二重造影,胃体部大彎皺襞二重造影,胃上部二重造影には空気量がやや多めのほうが造影,読影しやすい.

2.飲ませる時期と体位

 胃X線検査開始直前,バリウム服用前に・立位で投与する.

2.発泡剤の使い方 五十嵐 勤
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1.空気量について

 二重造影の胃壁伸展度は粘膜ひだ像の現れ方を目安にする.胃を膨らませて容易に消える粘膜ひだ(つまり健常の柔らかいひだ)なら消えるか消えないかという程度,あるいは粘膜ひだが素直に伸びきった状態にする.この程度が中等度伸展であり二重造影像の基準となる.

 胃は場所によりひだ形成に強弱があり,また胃壁伸展性,緊張度に差がある.そのため部位別に空気量を加減しなければならない.下部から上部にいくにしたがって空気量を多くする.幽門前庭部では100~150ml,胃角部は150~200ml胃体上部では200~250mlである(Fig. 1).

追悼

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 順番とは言いながら,つらい役目が回って来ました.私の紹介できる高田先生は,私が大学でのインターン生活を終え,当時の胃腸科に入局した昭和34年5月からのことになります.

 年表を見ましても,増田教授が就任された当時,医学博士の論文を用意できた最も新進気鋭の消化器医として活躍され始めた頃です.初代研究室主任として学会発表に燃えた頃が昭和35年から始まりますが,若手の教育にも最も熱心な時期だったように思います.

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欧文目次

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 消化管粘膜は,様々な外的(ストレス,食物,薬剤など)ならびに内的(胃液,腸液など)な傷害因子に曝露されているが,その結果,粘膜にはびらん,潰瘍などが発生する.これらの病態は良性であるにしても,出血などを惹起し,致命的な場合もありうる.この病態,すなわち存在ならびに質的診断についてはわが国の卓越した方法論により相当のところまで明らかにされたと言えるが,その病因あるいは詳細な病態については未だ不明な点が多く,その大部分において欧米に追随しているのが現状と言える.すなわち,分子生物学領域においてしかりである.

 本書は,ロンドンで毎年春に開催される“The Biological Council Symposium on Drug Action”の記録であり,1988年に開催されたのは38回目に当るという.テーマとして消化性潰瘍を中心としたgastrointestinal ulcerationが選ばれ,また,organizerとしてA. GarnerとB. J, R. Whittleが指名されている.両研究者とも,消化管粘膜病変に対する実験病態生理学の分野において世界をリードする学者である.

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 日本消化器内視鏡学会の学会誌(Gastroenterological Endoscopy)は,1989年現在31巻の歴史を迎えている.この間,会員数は年々著増の一途を辿り,日本における各学会中第4位(約17,000名)を占め,投稿論文数も毎月30編を数えている.しかし,内視鏡学は日本がリーダーシップをもつ分野でありながら,外国人医師に論文が読まれないことは極めて残念なことであり,かなり以前より英文誌の発刊が考えられていた.いろいろの理由でなかなか実現できなかったが,幸い本年度から年4回刊で英文誌“Digestive Endoscopy”が発刊されることとなった.

 さて一方,内視鏡学の進歩は目を見張るものがあり,新機種の開発とそれに伴う手技の進歩はfiberscope出現以来,診断の領域から機能検査,更に治療内視鏡へと急激に流れている.また,こうした時流に鑑みて消化器内視鏡学会では拙劣な技術は医療過誤へと連ることも多いということで,専門医の育成に積極的に取り組んでいる.学会認定医の資格の取得には手技の習練や向上はもちろん,広範な知識,学会活動,論文の業績なども要求されることになる.

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 Frequent non-response to histamine H2-receptor antagonists in cirrhotics: Walker S, Krishna DR, et al (Gut 30: 1105-1109, 1989)

 消化性潰瘍患者の中にH2ブロッカー抵抗性のものが散見されるが,肝硬変患者(LC)におけるH2ブロッカー抵抗性について考察するために,ガラスpH電極(Model LoT440M4)を経鼻的に胃内に挿入し胃pHをモニターしながらH2ブロッカーを投与し,18時から翌朝6時までの12時間の間で6時間以上胃pHが4以上である反応群と,それ以外の無反応群の比率をLCと非LCとで比較検討した.

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 本書の序にも書かれているように,疾患の診断の過程において,ある特定の疾患である可能性を,まず念頭に思い浮かべることが重要であるが,往々にして,鑑別診断のリストの枚挙が不完全で,まれにしか遭遇しない疾患を,すっかり忘れてしまうこともある.この傾向は特に初心者において強いことは言うまでもない.これに対する対策として,疾患群の頭文字を並べて憶える方法などがあるが,すべての疾患について,その鑑別疾患を完壁に憶えるなどということは,無論不可能なことである.

 有名なFelson(残念ながら昨年亡くなられた)およびReederの著した“Gamut in Radiology”はいわば鑑別診断のバイブル的なもので,放射線科医ならば誰でも知っている名著であるが,あまりにも内容が多すぎて,実際的でない部分もある.

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 Cancer incidence among spouses of patients with colorectal cancer: Mellemgaad A, Jensen OM, Lynge E (Int J Cancer 44: 225-228, 1989)

 高脂肪,低線維食が大腸癌の危険度を増強することは定説である.夫婦はかなり長期間同じ食事を摂るゆえに,大腸癌患者の配偶者は,当然大腸癌のリスクが高いことが予想される.大腸癌とリスク因子を同じくする子宮体癌,乳癌,前立腺癌,胆囊癌,膵癌などのリスクも高くなるはずである.この仮説を解明しようとしたこれまでの研究は,いずれも規模が小さく,信頼できる結論に至っていない.

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 この本を読んでさすが狩谷先生だ,私の尊敬する先生の人柄が偲ばれる,オーソドックスな魂の入った単行本だなあと思った.写真や言葉の羅列では決してない.写真には精巧なシェーマがつけられ,若い医師,これから消化管診断を専攻しようとする医学者に形態学の真髄を伝え,残したいという願いがひしひしと伝わってくる.また随所にみられる的確で親切な解読,ノートでは,少なくともこれだけは知識として持っていてほしいという願いが込められている.特に消化管の変形の解析から疾患を考え診断するという変形の診断学の精神が,全消化管に脈打っている.

 表紙は本の顔である.そこにはまず胃疾患(線状潰瘍,Ⅱc型早期癌,スキルス,悪性リンパ腫)を上下と両端に分けて,その間に食道癌,潰瘍性大腸炎,大腸ポリープが載せられている.中をみると,胃を基本としつつ消化管全体の形態診断学について,解剖から始まり撮影法が述べられている.疾患の種類も多い.73症例もの多くの病変が提示され,病変を美麗に描出するにはどうすればよいかを,写真を通して読者に訴えている.病変を形づくる像や線の解読のみならず,病変の周囲にみられる正常の所見についても,細心の心配りがなされている.だから教育,診療の場,カンファレンスなどですぐに役立つ実践の書である.聞くところによると,狩谷先生は本書の校正刷を御覧になる前に亡くなられたと聞く.だが先生の遺志をくんで間山先生が御尽力のうえ立派にまとめられている.見事である.

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 Brain tumors in familial adenomatous polyposis: Kropilak M, et al (Dis Colon Rectum 32: 778-782, 1989)

 familial adenomatous polyposis(以下FAP)は常染色体優性遺伝で大腸にadenomaが多発し100%悪性に変化する可能性があると言われている.最近,FAPのポリポーシスは生まれたときには存在せず,思春期前に発症し30代後半で多数のポリープとなることがわかってきた.脳腫瘍がFAPに合併する場合(Turcot症候群),脳腫瘍は他の合併病変と違って,ポリポーシスが完成する前に合併している.このことを明らかにするため著者らは168のFAP家系の中の13人のTurcot症候群について,ポリポーシスの診断年齢,脳腫瘍の診断年齢,性,合併するその他の病変,家族歴,死亡年齢とその原因などについて検討した.その結果,13人は男5人,女8人で,ポリポーシス診断の平均年齢は22歳,脳腫瘍の診断平均年齢は15歳で,92%の症例がポリポーシスの診断前に脳腫瘍を診断されていた.

編集後記 渡辺 英伸
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 膵囊胞性疾患の存在診断は近代的医療機器の進歩で,飛躍的に向上したことが本特集号から明らかである.更に,囊胞の形態・内部構造・内容物・被膜状態・血行動態,囊胞とその周囲組織との相関などから,質的診断への努力が着実になされつつある.

 しかし,依然として粘液産生性膵囊胞の質的診断は臨床面からばかりでなく,病理面からも困難なことが多い.その最大要因の1つに,組織診断基準の問題がある.本号でも,それが如実に表現されている.組織診断の不正確は臨床の質的診断・治療へ直結する.この意味からも,本誌の論文では誰が病理診断をしたのか明記する必要があろう(責任分担の明記).

基本情報

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胃と腸
25巻2号 (1990年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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