胃と腸 24巻2号 (1989年2月)

今月の主題 大腸腺腫と癌(1)

序説

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 “大腸の腺腫と癌”の特集といった場合には,その意味する内容はたくさんあり,なんとなく摑みどころがなく互いに関連性のない論文の集まりともとられがちです.しかし,その題名からまず何を想起するかというと,それは“大腸癌の構造”ということです.つまり,大腸の腺腫と癌に関する諸々の臨床病理学的な事象,癌組織発生,そして癌組織診断基準についてです.それら3つのことは個々に独立したことではなく圧いに関連している事柄であり(Fig.1),それらは“大腸癌の構造”を形成しているわけです.それらのことを切り離してしまうと題名の意味がなくなってしまいますから,それら3つのことに関するテーマが連続特集として2号にわたって編集されました.初めは,諸々の臨床病理学的な事象についてのこと,続いては癌組織診断基準についてであります.

 さて,編集委員会で特集“大腸の腺腫と癌”の序説を書くように言われ,その際には公正に書くようにとの注文を受けました.それは,大腸癌組織発生“大腸癌の70~80%はde novo cancerである”を主張している私たちであるがゆえに,一方的な観点から感情的に書くことなく,両方の立場から“すじをとおして”ということでありましょう.言い換えれば,論理的であれと.ところでこの世では,論理とは冷たいもの,あるいは冷たい論理などと表現されることがあります.そうすると,冷たいとは感情的な形容によく用いられる言葉ですから,ここでは考えをどのよう書いたらよいのやら路頭に迷ってしまいます.なぜかというと,考えるとは言葉で考え,言葉は論理という規則で組み立てられていますから,考えをあるいは問題点を記述するためにはどうしても論理という規則を踏まえねばならないからです.しかし,論理を冷たく感じるも感じないも人それぞれの感性によるものですから,ここでは常日ごろ“大腸癌の構造”について考えていることの一端を,より論理的であるように述べさせていただいて序にかえたいと思います.

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要旨 total colonoscopyの症例により大腸腫瘍(腺腫・早期癌)の分布を検討した.591人に1,075個の腫瘍が発見され,そのうち腺腫は82%を占めた.5mm以下の小腫瘍は広基性腺腫が圧倒的に多いので主として6~20mmの腫瘍について検討した.部位と形態の相関については腺腫でも癌でも似た傾向がみられた.平均値に比べて直腸では扁平腫瘍と広基性腫瘍が多いが,その中では扁平腫瘍で癌が多く腺腫はむしろ少なかった.右側結腸では扁平腫瘍が多く,癌と腺腫に差はみられなかった.total colonoscopy例以外のものも含めた早期癌についてみると,直腸と右結腸にはくびれのない腫瘍(扁平・広基)が多く,左結腸ではくびれのある腫瘍(有茎群)が84%と圧倒的に多かった.m癌とsm癌を比べると扁平腫瘍がsm癌で部位を問わず多く,特に直腸と右結腸でその傾向が強かった.扁平腫瘍が診断されるようになってきたが,まだ発見されるものは一部に限られているようにみえる.そういったコロノスコピーの弱点を克服するのに最近普及してきた電子スコープおよびカラーコレクターなどの偽カラー法を用いた方法が期待される.

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要旨 成人日本人における大腸腫瘍性ポリープの自然分布を明らかにする目的で,内視鏡検診受診者を対象として疫学的検討を行った.受診者4,959名における腫瘍性ポリープの初回受診時有病率は,早期癌0.32%(16例),腺腫9.3%(459例)であった.進行癌は0.14%(7例)であった.延べ6,839回の検査で発見されたポリープ様病変1,722病巣のうち早期癌,腺腫などの腫瘍性ポリープは897病巣であった.これらの解剖学的分布は,S状結腸が最も多く350病巣(

39.0%)を占めた.以下,横行結腸,下行結腸,直腸,上行結腸,盲腸の順であった.この分布は,5mm未満の微小な病巣についても同様であった.これらは一般の成人日本人における自然分布を代表すると考えられる.

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要旨 大腸癌との関連性で問題となる腺腫の特徴を1.5cm以下の病変で大きさ・占拠部位・肉眼形態から求めた.1.5cm以下では大きくなるにつれて腺腫の割合が増した.小さな腺腫では腫瘤型が多く,大きくなるにつれて長茎型が増えた.平盤型は大きさに関係なく一定であった.長茎型の腺腫は小さい病変ほど深部大腸に多い.腫瘤型の腺腫は占拠部位と大きさに一定の傾向がなかった.平盤型の腺腫は大きさに関係なく深部大腸の割合は一定であった.小さな大腸癌で腺腫の有無をみると,長茎型・腫瘤型は腺腫との関連性が高くみられ,平盤型・中央陥凹型はこの関連性が乏しかった.

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要旨 大腸腺腫281病変について,1年~6年11か月の経過観察および,ポリペクトミーまたは手術の施行された腺腫76病変,m癌107病変,sm癌25病変の分析と経過観察から次のような結果を得た.(1)腺腫の経過観察から癌化および大きさの増大はみられなかった.(2)平板状隆起は,sm癌,m癌の順に多く,腺腫の大多数はポリープ状を示した.(3)m癌の2~3年の経過観察では,大きさ,形態の変化はみられなかった.(4)生検診断と標本組織診断の間には,かなりのdiscrepancyがみられ,生検診断は過小に診断する傾向がある.

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要旨 大腸腺腫のnatural historyを解明するため,①1年以上の間隔をおいて2回以上注腸X線検査が施行され,②組織学的に腺腫・腺腫内癌が証明された132症例(214病変)を対象に,X線学的に病変の大きさ・形態の推移を検討した.平均観察期間は5.7年(1年~最長15.7年),注腸X線検査の平均回数は3.27回,組織型は管状腺腫190病変,管状絨毛腺腫9病変,絨毛管状腺腫9病変,絨毛腺腫1病変と腺腫内癌5病変である.観察期間中における病変の大きさの推移を注腸二重造影写真を用いて検討した結果,無変化群が最も多く112病変(52%),増大したもの72病変(34%),縮小・消失したもの30病変(14%)であった.初回の大きさが5mm以下の群130病変を検討した結果でも無変化群が最も多く74病変(57%),次いで増大群の44病変(34%),縮小群は12病変(9%)であった.無変化群と病変の増減値[(初回の大きさ)-(終回の大きさ)]±2mmまでを合わせると,約9割以上の病変はこの範囲に含まれていた.また,部位別にみた腺腫の増減の検討では,特定の部位に増大の頻度が高いという結果は得られなかった.形態上の変化も約9割の病変は無変化であった.腺腫のdoubling time(DT)は5.83年,腺腫内癌のDTは2.38年であり,進行癌症例のDTと比較して,腺腫の発育・進展は緩慢であると考えられる.

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要旨 58歳,男性.下痢と下血を主訴に注腸X線,大腸内視鏡,生検の結果,S状結腸にGroup 3の腺管腺腫を認め,1年後の経過検査を勧めるもその後来院せず,11年1か月後に再び下血を訴え,注腸X腺・大腸内視鏡検査に続き内視鏡的ポリペクトミーを行い,未だGroup 3の腺管腺腫であった症例を経験したのでここに報告し,ポリペクトミー例におけるポリープの癌化について多少の考察を加えた.

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要旨 58歳の女性で,直腸RS部の15×13mmの扁平隆起型早期癌と思われる1例を報告した.約6年間の経過観察では,隆起の形状と大きさにおいてほとんど変化はなく,11回の生検所見でも積極的な癌の診断は得られなかったが,長径が20mmであること(X線写真上計測),扁平隆起であること,の2点からcarcinoma de novoを疑い,手術した.切除標本組織所見では,明らかな癌とは診断できなかったが,肉眼所見を加味すると,carcinoma de novoとみなすかどうかが問題になる症例と考えられた.本症例については,異型度係数の計測は行っていない.adenoma-carcinoma sequenceとcarcinoma de novoの論争が盛んな折,大変興味ある症例と考えられたので報告した.

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要旨 患者は79歳,男性.1982年1月初旬の注腸検査で上行結腸,横行結腸およびS状結腸に2~3mmの隆起性病変を,おのおの1個ずつ認めた,内視鏡検査でも同様の病変を認め,生検ではいずれも管状腺腫であった.約3年9か月後の内視鏡検査では,上行結腸のポリープは前回に比し,ほとんど変化を認めず,生検でも管状腺腫であったが,横行結腸およびS状結腸のポリープはいずれも6,7mmと約2倍に増大し,形態的にも無茎から亜有茎または有茎に変化していた.増大した2つのポリープをポリペクトミーにより摘除し,病理組織学的検索を行ったところ横行結腸のポリープは管状腺腫であったが,S状結腸のポリープは管状腺腫の一部に粘膜内にとどまる高分化腺癌を認めた.S状結腸の腺癌は腺腫を母地として発生したものと考えられた.

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要旨 68歳,男性の直腸にみられた,全体として管腔の約半周を占め,大きさに比し隆起の背が低く,その表面が凹凸不整で,大小不同の顆粒~結節状の小隆起が集簇する,Ⅱa集簇様の隆起性病変を経験した.この病変の腸管壁の伸展性は良好であり,隆起の表面には明らかなびらんや潰瘍の形成はなく,生検ではtubular adenoma,Group 3であり,癌と診断できなかった.患者の希望もあり半年ごとの検査で経過観察したが,4年後には,病変の中央と周囲とでは発育速度が異なっており,個々の顆粒の増大が見られ,生検組織像でも癌と確診され,低位前方切除術を施行した.病理組織学的には全体が深達度mの高分化腺癌であり,その一部にadenoma with severe dysplasiaと鑑別の困難な所もあった.本症例の注腸X線像,大腸内視鏡像および組織所見の経時的な変化について報告した.

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 〔患者〕39歳,女性.現病歴:検診の胃X線検査で異常が指摘され,微小Ⅱcの疑いで精査のため来院した.胃症状はない.

 〔胃X線所見〕幽門前庭部大彎後壁側に径4mmの星芒状陥凹と周辺に軽度の隆起を伴い,異常陥凹と認識しうる(Fig.1).粘膜を伸展させると,長さ6mmの線状陥凹である(Fig.2).圧迫により不規則な線状陥凹が認められる(Fig.3).

早期胃癌研究会

1988年11月の例会から 牛尾 恭輔
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 1988年11月度の早期胃癌研究会は,11月15日(司会担当 福地創太郎)に開催された.今回は胃3例,腸1例の計4例が呈示され,活発な討論が行われた.

 〔第1例〕55歳,男性,粘膜下腫瘍様に浸潤した部分を伴ったⅠ型早期胃癌(症例提供:岐阜大放射線科 鈴木).

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要旨 患者は68歳,女性.便に血液が付着することを主訴に来院.理学的所見,一般検査所見,CEAに異常なし.大腸内視鏡検査でBauhin弁近傍の盲腸前壁側に,血管透見像が減少し軽度発赤した大小不揃いの顆粒の集簇から成る病変を認めた.X線検査でも同部位に大小不揃いの顆粒状透亮像の集簇を認めた.生検で高分化腺癌の部分を認めたため回盲部切除術を施行.肉眼所見は径7mmの大小不揃いの顆粒の集簇から成る病変で,組織所見は大部分が管状腺管腺腫で粘膜表層の一部に高分化管状腺癌を認めた.径7mmと小さなⅡa集簇様病変の術前診断例はまれであり,X線,内視鏡所見を中心に呈示し,大腸扁平隆起性病変に関する臨床病理学的考察を加えた.

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要旨 患者は76歳,男性,健康診断の胃X線検査で胃前庭部小彎に,山田Ⅲ型隆起性病変を指摘され,当院へ紹介される.胃内視鏡所見にて胃前庭部前壁にbridging foldを伴う無花果様の隆起性病変を認めた.表面は平滑で,中心部にやや陥凹を伴っていた.粘膜下腫瘍を疑い,開腹術を施行し,腫瘤(3.2×2.0×2.5cm)を摘出した.病理学的に,本腫瘤の表面には,その中心部にびらんがみられるが,概ね平滑な粘膜で覆われていた.割面では粘膜下より漿膜下にわたり大小の囊胞形成がみられ,中に粘稠な分泌物を含んでいた.組織学的には粘膜下における腺窩状腺管および幽門粘液腺などの腺腫様増殖と腺腔の囊胞状拡張が特徴的で,更に一部にはBrunner腺の異所的介在もみられた.これらの被覆上皮細胞には腸上皮化生が著明であるが,異型性は認められない.間質は線維性結合織と不規則に増殖した平滑筋束より構成されており,一部にはfibro-angiomatousな増殖もみられた.なお,囊胞状に拡張した腺管壁の破綻に伴う二次的な炎症性反応を伴っていた。以上の所見より本腫瘤はいわゆるinverted hamartomatous polypの像に一致するものと考えられた.

初心者講座 座談会

消化器疾患とUS・CT・6

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 山田(司会)今回は,初心者講座として,最近発達してきたUS(超音波)検査とCT検査,これを食道疾患に適応する場合,どのように利用するかということを,先生方の今までのご経験をもとにディスカッションしていただきたいと考えています.

 現在,USとかCTは肝臓では非常に有効な診断手段になっていますし,肝臓以外にもいろいろの臓器の診断に利用されていますが,食道となると,その利用範囲が狭く,あまり一般化していないと思いますが,こういうところが有用だとか,こういうふうにやればいいとか,そういうことを,まずお話ししていただきたいと思います.

初心者講座 食道検査法・14

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 はじめに

 最近の食道癌の診断,治療法の進歩には目覚ましいものがあるが,特に癌の早期発見に伴う成績の向上は著しく,また,食道癌発見の目標が粘膜癌(m癌)であることも明らかとなってきた1).本稿ではこのような見地から,m癌を中心として,食道表在癌の内視鏡診断と所見の読み方について述べたい.

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欧文目次

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 食道癌は難しい病気である.なぜか.

 胃癌は,臨床家のたゆまざる努力の結果,早期発見が可能となったばかりでなく,進行胃癌でも,系統的なリンパ節郭清によって,近来5年生存率が急速に上昇した.Ⅳ期の進行胃癌ですら,20年前の20%台から40%台の5年生存率を示すほど上昇したし,国立がんセンターで手術した早期胃癌も含めた約:3,000例の成績で,平均80%の生存率を示し,諸外国の専門家がにわかに信じられぬほどの進歩をもたらした.

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 林貴雄博士の「消化器内視鏡ハンドブック」は手引書,案内書あるいは取扱説明書などの言葉がぴったりくるような著書で,研修医や検査技師など内視鏡室で仕事をする人たちの参考書として大変役に立つばかりでなく,ベテランの内視鏡医にもいろいろ利用されてきたが,今度その第2版が出版された.初版から9年もたったためか,かなり思い切った改編が行われている.最も目につくのは初版が単色刷りだったものが黒と薄茶の2色刷りになったことで,かなり見やすいものになった.特に図が良くなっていて,内視鏡所見の絵などはリアル感すら出ていると思う.単色が2色になっただけでこうもわかりやすくなるのかと驚いた次第である.そしてこの9年の間に急速に発展を遂げた食道静脈瘤の硬化療法,電子内視鏡およびこれに関連した項目などが書き加えられた.またなぜか前回落ちていた小児や高齢者の内視鏡に関する項目も加えられている.そして初版と比較するといろいろ整理されて消化器内視鏡に必要な事項はすべて網羅され,また削られた部分もあって全体としてスッキリしたように感じられる.しかし項目があまりにも多いために,それぞれについては簡潔にしか説明されておらず,詳細にみれば物足りなさを感ずるが,基礎的なものとか実技に直結する問題,あるいは医師だけでなく看護婦や検査技師の初心者向けの事項については十分の紙面をとってわかりやすく説明されている.また他の成書では普通取り上げられないようなもの,たとえばスライドの作り方とかフィルムの整理の仕方,内視鏡室のレイアウトおよびAV機器の取り扱いとメインテナンスなど,内視鏡室におけるありとあらゆる事柄に気を配っている.したがって内視鏡に関することである限り,どんな問題でもこの本1冊あれば解決できるだろう.少なくとも解決の糸口はみつかるはずである.またこの本は巻末の付録に特徴があり,ここには内視鏡に必要なあらゆる分野の用語,内視鏡の学会誌に載せられた解剖学用語のほか,食道静脈瘤内視鏡所見記載基準,胃潰瘍の病期分類,胃癌取扱い規約および大腸癌取扱い規約などから内視鏡に必要な部分を広範囲にわたって抜粋し,掲載している.したがって原稿を書くとき,解剖学用語やいろいろな規約などを確認しようとする場含,わざわざ原文を探さなくても,この本の付録が大概のことを間に合わせてくれる.

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 Assosiation of colonic diverticula with adenomas and carcinomas: Morini S, et al(Dis Colon Rectum 31: 793-796, 1988)

 症状のある大腸憩室症患者150人について,大腸のadenomaやcarcinomaの発生頻度が対照群に比して高いかどうかを検討した.対象は症状を有し内視鏡で大腸憩室症と診断された150例で,男性88例,女性62例,年齢は40歳から92歳(平均57歳)であった.一方,対照群として同じ時期に腹部症状を訴えて大腸内視鏡検査を受け,憩室のなかった1,300例の中から性,年齢を合わせた150例を選んだ.大腸憩室症150例中143例はS状結腸,および下行結腸に,7例が右側大腸に憩室が存在した.54例(36%)に他病変が併存し,13例に癌,42例に腺腫が合併していた.対照群では150例中26例(17%)に癌または腺腫が発見されたのみで,両群間には有意差があった.

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 Natural history of colorectal can, cer in hereditary nonpolyposis colorectal cancer (Lynch syndromes Ⅰ and Ⅱ): Lynch HT, Watson P, et al (Dis Colon Rectum 31: 439-444, 1988)

 家族性大腸ポリポーシス(FPC)は全大腸癌の約1%とされている.しかし遺伝性の明らかな非ポリポーシス大腸癌(Lynch症候群Ⅰ,Ⅱ)は5~6%を占めるのに,臨床的にあまり注目されない,今回,この症候群10家系について家系調査を詳細に行い,116例の組織学的に確認された大腸直腸癌について検討した.

編集後記 武藤 徹一郎
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 ある日,専門外来に1人の婦人が尋ねて来た.さる大学病院で直腸ポリープと診断され,入院手術を要すると告げられたが,ほかに方法はないかとの由.内視鏡で診ると,上部直腸に1.5cmの軟らかい扁平隆起があり,内視鏡的に良性の扁平腺腫と考えられたので,直ちにポリペクトミーを施行して自宅へ帰した.組織診断は腺管腺腫,もちろんこれで治療完了である.確認したところ,

前病院では高名な病理学者によって腺癌と診断されていた由.その病変は奇しくも本号の栗原らの症例と部位,大きさ,形態が全くと言ってもよいほど類似していた.患者にとって外来でのポリペクトミーと開腹手術のいずれがhappyかは言うまでもないだろう.

 この際,組織診断が問題なのか,臨床的治療方針が問題なのか?生検診断が癌であっても,臨床的(内視鏡的)に良性の隆起性病変(m癌)と判断されたら,ポリペクトミーを行う臨床医は全国で何人くらいいるのだろう.もしその数が少ないなら,生検のover-diagnosisによって不必要な手術が行われる頻度は少なくないに違いない.病理医は,それは臨床の問題であると言い,臨床医は臨床的判断を忘れて小さな組織片に基づいた癌の診断に振り回され,わずかな材料で大腸癌の発生論を論じるのに夢中になる.

基本情報

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胃と腸
24巻2号 (1989年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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