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編集後記
武藤 徹一郎
pp.227-228
発行日 1989年2月25日
Published Date 1989/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403106404
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ある日,専門外来に1人の婦人が尋ねて来た.さる大学病院で直腸ポリープと診断され,入院手術を要すると告げられたが,ほかに方法はないかとの由.内視鏡で診ると,上部直腸に1.5cmの軟らかい扁平隆起があり,内視鏡的に良性の扁平腺腫と考えられたので,直ちにポリペクトミーを施行して自宅へ帰した.組織診断は腺管腺腫,もちろんこれで治療完了である.確認したところ,前病院では高名な病理学者によって腺癌と診断されていた由.その病変は奇しくも本号の栗原らの症例と部位,大きさ,形態が全くと言ってもよいほど類似していた.患者にとって外来でのポリペクトミーと開腹手術のいずれがhappyかは言うまでもないだろう.
この際,組織診断が問題なのか,臨床的治療方針が問題なのか?生検診断が癌であっても,臨床的(内視鏡的)に良性の隆起性病変(m癌)と判断されたら,ポリペクトミーを行う臨床医は全国で何人くらいいるのだろう.もしその数が少ないなら,生検のover-diagnosisによって不必要な手術が行われる頻度は少なくないに違いない.病理医は,それは臨床の問題であると言い,臨床医は臨床的判断を忘れて小さな組織片に基づいた癌の診断に振り回され,わずかな材料で大腸癌の発生論を論じるのに夢中になる.
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