胃と腸 23巻3号 (1988年3月)

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 市川(司会) お忙しいところをお集まりいただきましてありがとうございました.“消化管形態診断の将来はどうあるべきか”という非常に大きな題をいただきましたが,今日はベテランの先生ばかりですから,おそらく読者の皆様も楽しんでこれをお読みになるだろうと思いますので,忌憚のないご意見を十分に述べていただきたいと思います.

 1987年春の消化器内視鏡学会でも話題になりましたように,X線が中心なのか,内視鏡なのかということが大きな問題の1つだろうと思います.世界的な傾向としては内視鏡が非常に大きなパートを占めるようになっていると思いますし,そういう方向へいくだろうとは思います.でも,“でも,二重造影は価値がある”とかいう主題のセミナーが最近ありましたね.結論的には両方必要だということになるのでしょうけれども,しかし,やはり利害得失はあろうかと思うわけです.

 最初に,丸山先生にX線を中心とした基調演説をしていただき,多賀須先生に内視鏡を中心とした基調演説をしていただき,後でそのほかの一般的なことに関しての基調演説を高木先生にしていただく.それを中心にして皆さんの意見をお聞きするというふうに運びたいと思いますのでよろしくお願いいたします.

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 〔患者〕 55歳,女性.右季肋部激痛で来院.諸検査において胆石発作と診断.そのときに施行した胃X線検査で胃角大彎にひだ集中を伴う陥凹性病変を指摘され入院となる.

早期胃癌研究会

1988年1月の例会から 長廻 紘
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 1988年1月度の例会は,川井(京府医大公衆衛生)の司会で20日開かれ,3例が検討された.

 〔第1例〕51歳,男性,胃神経鞘腫(症例提供:名古屋掖済生会病院 中村)

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要旨 患者は71歳の女性.約36年間嚥下時胸痛を認め,糖尿病と胆石症を合併した.術前にはカルチノイドの症状はなく,血中セロトニンは低値であった.上部食道に中心陥凹を伴う小粘膜下腫瘍を認め,内視鏡的ポリペクトミーを行い,7mm径のカルチノイドであった.組織学的に小型細胞の結節状充実巣を主とし,銀好性反応陽性で,電顕像で分泌顆粒を認めた.術後,胸痛は消失し,2年9か月後再発を認めない.食道カルチノイドはまれで,国内外10例の報告中,本例は最小例であった.本邦消化管カルチノイドのポリペクトミー例の検討から10mm以下で山田Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ型のものは予後良好で,ポリペクトミーだけで根治できる可能性があると考えられた.

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要旨 患者は19歳男性で歯痛と下顎部鈍痛を主訴とし,歯科で口腔内腫瘍を指摘され悪性リンパ腫と診断された.理学的所見では口腔底に潰瘍を伴う腫瘍があり,顎下・腋下に軽度のリンパ節腫脹を認めた.白血球数・分画に異常なく,血清IgAとPHA-BTの低下を認めた.消化管X線および内視鏡検査で食道,十二指腸,空腸,回腸に多発性の隆起性病変を認めた.各消化管の生検標本と大腸のポリペクトミー標本から非ポジキン悪性リンパ腫と診断した.本例は消化管病変を主とする病態からmultiple lymphomatous polyposis of the gastrointestinal tractと考えられるが,本疾患で生前に食道病変を観察しえた報告は非常にまれである.

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要旨 腹部超音波検査が診断的に有用であると考えられた胃脂肪腫のまれな1例を報告した.患者は72歳,男性.空腹時心窩部痛にて当院に入院した.胃X線,内視鏡検査では,幽門前庭部後壁に隆起性病変がみられ,腫瘍の形は山田Ⅲ型様であり,大きさは直径約2cm,腫瘍の基部にはUl-Ⅱ程度の潰瘍がみられた.組織学的に腫瘍は,よく成熟した脂肪細胞と線維組織より成っていた.腹部超音波上は,均一で中等度のエコー像を示す部と,斑状で高エコー像を示す2つのエコーパターンが腫瘍にみられ,後者が脂肪腫に相当すると考えられたが,同所見は脂肪肝にみられるbright liverの所見に類似していた.

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要旨 穿通性胃潰瘍とmucosal bridgeを伴い,特異な病型を示した限局性胃巨大皺襞症の1例を報告した.患者は62歳の男性.50歳ごろから紅皮症に罹患し,61歳で膀胱癌の手術を受けている.1983年3月,胃体下部大彎に発生した大きな腫瘤が発見され,胃癌の診断で胃切除術が行われた.病巣の主座は胃体下部大彎にあり,10×8cm径の大きな脳回転様の腫瘤と共に,その肛側辺縁に深い穿通性の潰瘍が認められた.腫瘤の表面には,小さなmucosal bridgeが数個みられた.病理組織学的には,巨大皺襞は胃底腺の単純な過形成と粘膜下の著しいfibrosisから成っており,上記の穿通性潰瘍以外にも,数個の潰瘍が皺襞の谷間に存在していた.この病変は,単純な肥厚性胃炎に消化性潰瘍が随伴し,更にびまん性のfibrosisが加って皺襞の肥厚が助長されたものと推察された.

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要旨 患者は71歳の男性.主訴は嚥下時の心窩部痛.検査成績では特記すべきことなし.胃X線および内視鏡検査において,噴門直上にBorrmann2型胃癌様の病変と穹窿部に中心陥凹を伴った粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.前者からの生検で胃形質細胞腫を疑い,手術施行した(胃全摘,膵脾合併切除,R2リンパ節郭清).病理検査では噴門直上のBorrmann2型様病変は,κ鎖をモノクローナルに産生する形質細胞腫であり,穹窿部の病変は迷入膵であった.術後,cyclophosphamide 50mg/日と,predonine 5mg/日による化学療法を施行し,再発の徴候はない.本邦例28例について文献的に考察した.

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要旨 患者は39歳の女性で,食後の腹痛に始まり,ショック状態に陥って当科に搬入された.初診時の内視鏡検査では,胃には出血性びらんが認められたが,潰瘍や穿孔はなかった.急性出血性膵炎として加療したが,全身状態は徐々に悪化し,第20病日に内視鏡検査で胃壊死が確認されたため,胃全摘を施行した.胃は噴門から幽門まで出血,壊死が著明であり,上半部で穿孔を生じていた.病理学的には粘膜の剝脱,粘膜下層および筋層の壊死がみられ,細胞浸潤も著明であった.食道,十二指腸には軽度のびらんが認められただけであった.胃壊死の原因としては,感染,循環不全などが推察され,従来報告されてきたものとは異なった性質のものであると考えられた.

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要旨 患者は46歳,男性.定期検診の目的で近医を受診し,内視鏡下生検の結果,胃悪性リンパ腫と診断され本院に紹介された.入院後,内視鏡,胃X線検査で経過観察中,病変の一部と思われる潰瘍が著明に縮小し,耳殻状隆起が目立ってきた.生検結果と臨床経過より胃悪性リンパ腫と診断,手術を施行した.病理組織検索では,耳殻状隆起上のみに腫瘍細胞が認められ,病変の一部は脱落した,と推察された.深達度smのlarge cell typeのmalignant lymphomaであった.リンパ節転移,脈管侵襲は認められなかった.

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要旨 患者は40歳,女性.主訴は胸やけ.肉眼的には胃体部から前庭部の粘膜が全体として粗糙で,潰瘍ないしはびらんが多発している所見を特徴とし,表層拡大型の胃悪性リンパ腫または反応性リンパ細網増多症に類似の形態と思われた.最終診断は術後の詳細な検討によってなされたが,本症例はIgM/κを単一に産生する形質細胞腫で,その深達度は一部で粘膜下層に達していた以外は胃体部から前庭部の広範な領域では粘膜内浸潤にとどまっていた.自験例は胃形質細胞腫の中でも数少ない初期像の1つと推測されるが,かかる症例の診断には病理学,免疫化学と一体化した集学的検討が要求されるものと考えられた.

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要旨 糖尿病と冠動脈硬化症を有する53歳の男性が傾眠傾向を主訴に北里大学病院に入院.糖尿病性ケトアシドーシスとうっ血性心不全の診断のもとにインスリン持続静注療法が行われた.意識状態および諸検査成績は改善しつつあったが,入院前後より腹痛発作と嘔吐を繰り返しイレウスが疑われた.第19病日の小腸X線検査で中部小腸に多発性の分節性狭窄部が発見され,その後も狭窄の進展がみられたため第47病日小腸部分切除術施行.切除標本(59cm)では全周性潰瘍と線維性壁肥厚を伴う管状狭窄が多発し,組織学的にも循環障害による小腸病変と診断された.本病変の成因として,全身性動脈硬化症とコントロール不良の糖尿病を背景に,糖尿病性ケトアシドーシスに伴う血液粘稠度や血小板凝集能の充進が増悪因子となり,虚血性小腸狭窄へ進展させたと考えた.

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要旨 患者は46歳,男性.主訴は右下腹部痛である.理学的,臨床検査成績では異常所見を認めない.X線所見上は狭細化した回腸末端部に粗糙な粘膜と縦走潰瘍が認められた.内視鏡所見では回盲弁上に浅い,不整形の潰瘍がみられ,回腸末端部には縦走潰瘍がみられた.しかし,cobblestone像は認められなかった.この部より採られた生検標本には多数の非乾酪性肉芽腫があった.これらの所見は腸結核でもCrohn病でもみられる所見であり,術前に正しい診断を付けることはできなかった.切除標本では樹枝状の線状潰瘍のある長さ10cmの瘢痕帯と回盲弁上の浅い輪状潰瘍が認められた.病理組織学的には多数の非乾酪性肉芽腫が腸壁の各層にみられた.病理所見上は腸結核の診断が付いた.

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要旨 患者は53歳,男性.主訴は軟便,貧血.黄疸なし,便潜血(+++),CEA(-),生化学的に肝硬変症あり,大腸X線・内視鏡検査で肝彎曲部に中央がわずかに陥凹し,辺縁部に小結節が連なる病変を認め,その表面には細かく大小不同のない模様がみられたことより,深達度の浅いⅡa+Ⅱc型早期大腸癌と診断した.右半結腸切除術を実施,肝彎曲部に周囲粘膜と同様の色調を呈する2.4×2.1cmのⅡa+Ⅱc型病変を認めた.病理学的に高分化型腺癌であったが,分化度に多様性があり,腺腫と鑑別が難しい部位も存在した.深達度はごく一部でsmに達し,ly0,v0,n(-)であった.本例は平坦な大腸癌の診断上,また大腸癌の発生を考えるうえで貴重な症例と思われる.

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 潰瘍の治癒後,何がしかの期間,後療法を行うのは一般の常識だが,その期間をどうするかということについては意見が様々である.3か月という者,1年とする者,なるべく長くという者,あるいは治癒に要した日数だけとする者,などである.実情は患者が薬を貰いに来なくなるまで,というところであろうか.

 筆者はさきに,後療法の期間として2年という数字を挙げた(本誌20:1356).胃潰瘍患者の長期経過中に起こる再発の77%が,先行潰瘍の治癒後2年以内に発生するというのが理由である.西澤ら(本誌19:976)も,集検発見潰瘍(または瘢痕)の長期経過中にみられた再発の76%が,発見後3年以内に起こったと報告している.再発防止のケアとしては少なくともこの程度の期間を必要とするのである.

初心者講座 食道検査法・3

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 1.食道の特殊性

 食道はその存在部位や構造上,解剖学的にかなり特殊性がある.つまり胸腔内の縦隔洞という重要な臓器の存在する部位を縦走して存在することと,長い管腔臓器で漿膜がなく,極めて疎な結合組織から成る外膜に覆われているのみであることである.例えば進行した食道癌の場合,喉頭,気管,大動脈などの隣接諸臓器と腫瘍性に癒着していることがある.これらの諸臓器と腫瘍分布との位置的関係を明瞭に把握することが臨床病理学的に重要である.したがって,胃癌のように画一的な切り出し方法は適していない.

 食道疾患の切除標本の病理組織検査は,その疾患の質的診断のみだけでなく,手術法の適否を評価することや,術後の予後を決定する病理学的因子を記載し,更に組織発生学的な研究の資料として記録をすることである.具体的にどのような点に留意して切り出すべきかということが問題となる.

病理学講座 消化器疾患の切除標本―取り扱い方から組織診断まで(15)

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 はじめに

 膵臓病変の肉眼所見と組織所見との対応,病変の再構築を行うためには適切な切り出しを行うことが前提条件であり,また,良い切り出しを行うためには良い固定が成されなければならない.特に膵臓は自己融解を起こしやすいので,この点に留意する必要がある.膵臓の固定法についてはこのシリーズ第2回の“新鮮切除標本の取り扱い方”6)に述べられているので全体的なことについてはそちらを参考にしていただきたい.ここではわれわれが最近用いている固定方法を簡単に述べ,その後,膵臓病変の再構築のための切り出し法,病変の再構築および肉眼所見と組織所見との対応について述べる.

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欧文目次

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 Laser photocoagulation for the treatment of peptic-ulcer bleeding: Krejs GJ, et al(N Engl J Med 316: 1618-1621, 1987)

 消化性潰瘍は上部消化管出血の原因として重要であり,その再出血による死亡率は高い.Nd: YAGレーザーが急性出血の止血と再出血を防止しうる手段として,全米で350台以上の装置が売られている.凝血塊や露出血管などの最近の出血を示唆する所見を有する潰瘍は再出血の危険性が高いと考えられているが,レーザーでこのような症例での再出血率は著しく減少していると報告されてきている.

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 Prevalence of inflammatory bowel disease among relatives with ulcerative colitis: Mons'n U, et al(Scand J Gastroent 22: 214-218, 1987)

 潰瘍性大腸炎(UC)患者家族からは特発性炎症性腸疾患(IBD)が高率に発症することが知られているが,バイアスのない研究は少ない.1955年から79年までの25年間にストックホルムで診断された1,274例のUCについて家族内発生の頻度を全例個人面接で調査し,家族内発症のIBD全例について病歴で確認できた.結局対象としたUCは963例で,その中から76例の家族内発症のIBDが確認された.

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 B5判サイズ,270頁ほどの,手頃な大きさの英文の単行本である.これは,1966年の発刊以来,二十数年続いた月刊誌「胃と腸」のいわば,エスプリを選出編集した初めての英文書であり,その目的は,この二十数年の歴史の中で培った消化管疾患の臨床的研究の成果を海外に紹介しようとするものである.長い間,計画されてはいたが漸くにして実現した待望の書である.日本のこの面における多くの優れた業績は,日本語で発表されているというハンディキャップのために海外の研究者によるほとんど亜流的研究の中にオリジナルの文献として紹介されることなく現在に至っており,口惜しさを禁じえなかった人は多いことと思うが,本書の出版は「胃と腸」の発刊に関与した1人としての喜びを禁じえない.

 英文は英国のYork District Hospitalのconsultant surgeon, J.C. Craven氏の協力により,統一された流麗な,読みやすい文章となっている.まず編者による序文の冒頭は次のように記されている.“本書は月刊誌「胃と腸」から編纂され英文化された初めての本である.24編が選ばれているが,最近の「胃と腸」誌に掲載された論文を主とし,そのほかに,この書のために新たに纏められた論文数編を含んでいる……”と.

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 Endoscopic, radiographic, and clinical response to prolonged bowel rest and home parenteral nutrition in Crohn's diseases: Kushner RE, Shapir J, Sitrin M (Journal of Parenteral and Enteral Nutrition 10: 568-573, 1986)

 ステロイドを中心とした従来の治療に反応しない重症のCrohn病患者の治療法の確立は解決されるべき臨床的な問題である.これらの者に,入院後,腸内安静と完全経静脈栄養法(TPN)を施行することでかなりの効果を上げている.また在宅経静脈栄養法(HPN)は早期の社会復帰を可能にし,入院治療よりも費用が安い.

編集後記 市川 平三郎
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 毎月の早期胃癌研究会で提示された症例のうち,きれいな写真と教育的・記録的に価値ありとされたものが,選ばれて本誌に掲載される.そのほか,最近は投稿も多い.採用と決まったもののうち,各号の特集と関係深いものはその号の症例として掲載しているが,優れた作品が多いので掲載が遅れがちである.そこで本号のような症例特集号が必要となる.

 今後症例特集号には,そのときのトピックを主題とした座談会も載せることにし,今回はX線と内視鏡診断との反省と今後の展望をベテランの諸氏に縦横に語ってもらった.

基本情報

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胃と腸
23巻3号 (1988年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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