胃と腸 23巻4号 (1988年4月)

今月の主題 内視鏡的胃粘膜切除の臨床―ジャンボ・バイオプシーをめぐって

序説

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 筆者がstrip biopsyという言葉を,手技が全く未完成のままひねり出して使ってからずいぶん久しい.もともと,粘膜を“はぎとる”という語を辞典に求めて,strip biopsy≒はぎとり生検と,短絡的に使ったのが最初である.

 名前をめぐる問題は,strip biopsyという和製英語(?)が,私の言った歴史的文脈をかなり離れてしまって,いま新しい内視鏡的治療法の1つとして,力強く一人歩きしてしまっているところにあると思う.

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要旨 strip biopsyは,病巣を切除および回収できるという治療内視鏡法の新しい方向性を生み出した.われわれは,2cm以下の潰瘍を有しない深達度mの高分化型腺癌を本法による治療の適応と考え,検討してきた.この治療効果を明らかにするには,strip biopsyによって切除された切除標本で癌病巣が残存なく切除できているという判断基準が必要となる.そのため切除標本を実体顕微鏡下に観察して病巣の境界を明らかにし,病巣の境界がより切除断端に接している部位を中心にして,連続切片を作製して検討した.その結果この病理組織標本において,両端に正常腺管が数腺管存在し,深達度がmに限局しているものを完全切除とした.この完全切除基準の設定は,strip biopsy後に外科手術を施行した38症例,また手術ができないという身体的条件のもとに経過観察を行っている71症例において,妥当であることが明らかになった.このように,高分化型腺癌を対象とした完全切除の基準は胃粘膜における局所の切除が完全である基準として評価できた.また,この経時観察の成績により,われわれの設定した条件下であれば,strip biopsyによる内視鏡的治療法は外科手術と同等の治療法として評価しうるものと考えた.

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要旨 従来の内視鏡的ポリペクトミーは1本のスネアで有茎性病変になされていた.広基性病変や陥凹性病変の内視鏡的粘膜切除が可能であるendoscopic double snare polypectomyを考案し,隆起性異型上皮巣83病変,陥凹性異型上皮巣3病変,Ⅱa 65病変,Ⅱc 33病変の内視鏡的切除を施行した.隆起性病変2cm以下,陥凹性病変1cm以下のほとんどの症例(前者119/128=93%,後者21/21=100%)が一括切除され,他は分割切除であった.分割切除法では回収標本の再構築が難しく,完全摘除か否かの判定が曖昧となり根治を目指した本法では避けるべきである.一括切除法の遠隔成績は,初回内視鏡的切除治癒は異型上皮巣92%(67/73),Ⅱa 81.8%(45/55),Ⅱc 86.7%(26/30)であり,遺残率は異型上皮巣8.2%,Ⅱa 14.6%,Ⅱc 10%,再発率はそれぞれ0%,3.6%(2/55),3.3%(1/30)であった.遺残例の58.8%(10/17)は内視鏡的再切除で治癒し,手術施行例は断端面の粘膜下組織内癌遺残5例を含め7例(7/161=4.3%)であった.したがって最終的な内視鏡的切除治癒率は95%(153/161)と満足すべき良好な成績であり,根治療法としての有用性が確認された.再発例の回収切除標本および胃生検標本のretrospectiveな検討では挫滅組織内の癌や切り出し不足による癌の見逃し,あるいは切除後胃生検で癌を再生異型と誤診したもので,再発でなく遺残であった.遺残例の多くはⅡaでは2cm以上,Ⅱcでは分化型でも1cm以上か未分化型癌であった.したがってこれら病変は技術的な内視鏡的切除の非適応病変とすべきである.なお,本対象胃癌例の14.4%(13/90)に多発胃癌,異型上皮巣との合併を4例(4.4%)に認め,それらの13病変は内視鏡的切除で治癒した.内視鏡的切除前および切除後のfonow-upでも常に多発病変,殊に多発癌の存在に注意することが肝要である.

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要旨 食道および胃の腫瘍性病変に対してHSE局注を併用した内視鏡的切除法(ERHSE)を開発し臨床に応用してきた.その特徴の第1はHSE局注を併用したことと,第2はダブルスコープ方式を導入したこと,第3に切除予定線を高周波メスでマーキングし,その部分を切開したうえで切除するので切除範囲が正確であること,第4に組織を回収し病理組織学的に検討を加えることができること,である.早期胃癌113例が切除され,そのうち10例は外科的胃切除が追加された.ERHSEによる治癒切除率は91.2%であった.経過観察の103例では再発はない.累積5年生存率は85.2%である.胃腺腫(異型上皮)は28例で全例再発もなく経過観察中である.以上よりERHSEは早期胃癌などに対する内視鏡的胃粘膜切除法として優れている.

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要旨 粘膜部分切除の適応とその粘膜部分切除組織所見について,病理組織学的観点から若干の考察を行った.ある病変がX線・内視鏡的に発見され,そしてその病変が粘膜部分切除に適していると判断された場合には,その組織診断と治療を兼ねてすぐに粘膜部分切除を行うことなく,まず生検を行ってその病変の質的診断を把握しておくことが必要である.粘膜部分切除標本の断端の組織学的判断は,その断端の人工的組織破壊層の内縁を基準として行う.粘膜下組織浸潤の有無の推定には癌組織発生の観点から,客観的に把握できる癌の所見,存在部位〔幽門腺粘膜領域,腺境界領域,胃底腺粘膜領域〕,大きさ〔1cm以下,1.1~2cm〕,肉眼形態〔陥凹型,隆起型〕,組織型〔未分化型癌,分化型癌〕の4要素から成る粘膜下組織浸潤推定のためのdecision treeを作成し,それに基づいて確率的に判断することが必要である.各病変の胃粘膜部分切除後の対処について述べた.

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 高木(司会) 今日は“内視鏡的胃粘膜切除の臨床”というタイトルで,御出席の先生方に,内視鏡的な胃粘膜切除のいろいろな方法論,適応,合併症,それから病理の面からはどういう問題点があるか,検討していただきます.

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 〔患者〕 56歳,女性.主訴:心窩部痛.家族歴および既往歴:特記すべきことなし.現病歴:2か月前より空腹時に心窩部痛あるも放置していた.その後,痛みはとれてきたが朝方に悪心あり,当院を受診した.

早期胃癌研究会

1988年2月の例会から 牛尾 恭輔
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 1988年2月の早期胃癌研究会は,2月17日(司会担当:岡崎幸紀)に開催され,胃3例,大腸2例が呈示された.

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要旨 298例の胃癌に対して術前血管造影を行い,どのレベルの動脈に浸潤所見が認められるかによって,①m,②sm,③pm,④ss・se,⑤si・sei,の5段階の壁深達度診断を行い,切除胃の病理診断と対比した.結果:(1)腹腔動脈造影のみを行った97例では正診率は56.7%と不良であったが,漿膜浸潤の有無に関しては83.5%を正しく診断しえた.(2)左胃動脈などの超選択的動脈造影を行った114例では正診率79.5%となり,前者と比べて有意差(p<0.005)を認めた.(3)超選択的動脈造影を拡大撮影で行った87例では正診率87.4%と更に向上し,mとsmの鑑別も73.9%で可能であった.

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要旨 早期胃癌において断端部癌遺残や不必要な胃全摘を防止するために,漿膜面染色を目的とする術前点墨法を考案した.本法は内視鏡検査により癌浸潤範囲を決定し,次に手術直前に,再度内視鏡下にその癌口側浸潤端から口側1cmの部位に点墨する.そして術中漿膜側から透見される墨汁による染色マークを切除線決定の指標とするものである.胃壁内の深さは筋層あるいは粘膜下層に,時期は手術前3日以内に,量は0.1ml注入すると良好な染色マークを得ることができた.

Coffee Break

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 再発を予防するために,消化性潰瘍の治癒後しばらく服薬を続ける.潰瘍の治療に用いた薬をそのまま,あるいは少し減量するなどして継続するのが通例である.われわれは当然のこととして,このように,潰瘍の後療法を行っているのだが,こだわってみると,このことにも数々の疑義がある.

 いま,再発の予防に用いられる薬剤はすべて潰瘍治療剤である.当然ながら,潰瘍の治療を目的として開発され,潰瘍治療剤としての薬効検定を経たものだが,再発予防を目的としたものではなく,また,再発予防効果について十分な検証,吟味を経たものではない.

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要旨 22歳,男性.家族性大腸腺腫症の家系であったため,約3年7か月前に大腸亜全摘術を受けている.今回,突然の下血にて入院,吻合部潰瘍の診断で病変部回腸切除術を受けた.切除回腸に全層性炎症,亀裂を伴う潰瘍,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた.また術後早期に再発し,内科的治療に反応したことや,そのX線・内視鏡所見から,Crohn病と確診した.本症例は家族性大腸腺腫症に合併したCrohn病としては第1例目と思われる.両疾患発症に直接の因果関係はないものと思われるが,本症例におけるCrohn病発症には,吻合部における何らかの障害が誘因となった可能性もあると考えられた.

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要旨 排便困難および肛門部痛を主訴とした37歳,男性で,非手術的に直腸に限局したCrohn病と診断しえた1例を報告した.直腸型Crohn病の本邦報告例はこれまでに8例と少なく,非手術的に診断できたのは2例のみであった.本症の非手術的診断は容易ではないが,大腸X線検査および内視鏡検査による精密な診断と,生検材料の連続切片での詳細な検査が本症の診断率を向上させ,過大な手術侵襲を避けるのに有用と考えられた.

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 只管なる青山大三先生

「ねえ,患者の○○さんをもう1回再検させてくれない」と,大三先生は時々こっそりと医局を訪れる先生でした.ご自身が納得するまでは透視を諦めない職人気質の先生でした.あまりにも熱心に検査するので,泣き出す患者さんもいましたが,そのお蔭で消化管の微小癌をよく発見されました.

 先生は消化管のことを“管”と言われましたが,“只管”という言葉は先生のためのものだと思っています.英語の氾濫するなかで,先生のレポートは一貫して独語でした.先生のご冥福を祈りながら,“只管なる追求心”にあやかりたいと願うものです.

病理学講座 消化器疾患の切除標本―取り扱い方から組織診断まで(16)

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 はじめに

 肉眼所見と組織所見との対応,それによる肉眼所見の組織学的再構築の必要性や目的についての一般的事項は「腸の切除標本」の項で既に述べてきた(胃と腸22:1442-1444,1987).これらの必要性は特に胆囊で大きい.その最大の理由は,胃や大腸で微細な術前画像診断が病理形態学的診断に先行したのに比べ,胆囊では逆で,術前画像診断が現時点では十分でなく,病変の微細な特徴的画像所見が十分に明らかにされていないからである.したがって,切除材料で病変の肉眼所見と組織所見との対応や肉眼所見の組織学的再構築を行って,各種胆囊病変の切除材料にみられる形態学的特徴を明らかにし,この特徴を描出するように術前画像検査法を工夫する必要がある.

 以下,胆囊病変の診断(術前・術後)を困難にしている特殊要因,切除胆囊内病変の肉眼所見を組織学的に再構築するための手順と方法,切除胆囊病変の肉眼診断および組織診断についで述べてみたい.

初心者講座 食道検査法・4

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 はじめに

 食道疾患に対するX線学的診断方法は,スクリーニング検査方法として,あるいは精密検査方法としてすべての施設で実施され,それなりの成果を上げているのが現状であろう.そしてこのX線学的検査方法の最大の目的は,食道癌(特に早期の食道癌)を数多く見つけて,最適の治療方針を設定することである.

 周知のように食道癌の治療成績は胃癌や大腸癌に比較して非常に悪いというのが現状であり,この最大の原因としては早期食道癌症例が早期胃癌や大腸癌症例に比較して非常に少ないというところにあると言っても過言ではない.したがって早期食道癌を1例でも多く見つけるためにはどうしたらよいかという大きな課題を解決するためには,食道のX線学的スクリーニング検査の役割も非常に重要になってくるであろう.

 一口に食道のX線学的スクリーニング検査と言っても,その目的とする内容はどういうものであろうか.大きな病変から小さな病変までも包含した内容なのか.現実はどうなっているのか.非常に難しい問題が山積しているのである.この問題について詳述してみたいと思う.

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欧文目次

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 砂原茂一先生は昭和8年東大医学部卒業後今日まで,臨床医学研究者として多くの業績を挙げられ,道一筋の指導者として活躍されておられます.

 先生はこれまで優れた数々の学術書,啓蒙書を著わされていますが,本書はわが国の臨床医学研究の現状をみつめ,今一度改めて臨床医学の根源的問題に立ち帰り,その研究のあるべき姿を方法論と倫理を重点に論述されたものです.

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 Increased risk of cancer at multiple sites after gastric surgery for peptic ulcer: Caygill CPJ, et al(Gut 28: 924-928, 1987)

 消化性潰瘍に対する手術と術後の胃癌のリスクとの関連について幾つかの研究が行われている.十二指腸潰瘍と胃潰瘍の患者について著者らが過去に行った検討では,術後20年以上では両疾患とも胃癌のリスクが高かった.術後20年以内では胃潰瘍のほうは高リスクであるが,十二指腸潰瘍のほうは低リスクであった.このように発癌性が高まるメカニズムとして胃の手術により胃低酸症となり細菌の増殖を来し,発癌物質が産生されるという仮説が考えられる.この発癌物質が局所的のみでなく遠隔的にも作用しうる可能性がある.この仮説を検証するために著者らはSt. James病院で1940~1960に胃手術を受けた5,018人の患者を対象として他部位における癌死亡のリスクを検討した.

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 Is biopsy necessary if colonoscopy is normal ? : Prior A, Lessells AM, Whorwell PJ (Dig Dis Sci 32 : 673-676, 1987)

 炎症性大腸疾患の初期の所見や小腫瘍,大腸ポリープの発見には大腸X線よりも大腸ファイバーが有用であるが,大腸ファイバーの繁用により異常所見のない検査件数も増え,肉眼的正常例に生検が必要か否かという疑問が起こる.著者らは内視鏡的に正常な大腸にどの程度組織学的な異常が認められるか,またそれがどのくらい,臨床的パラメーターとなりうるかを知り,内視鏡検査正常例での生検施行のガイドラインを作成することを目的に検討を行った.

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 Spontaneous regression of gastric lymphoma: Strauchen JA, Moran C, et al(Cancer 60: 1872-1875, 1987)

 血液や他の悪性疾患が自然または非特異的治療の後に寛解を示すことは,まれではあるが,明らかに認められる現象である.悪性リンパ腫の自然寛解も認められるが,特に大細胞型あるいは組織球型の高度悪性リンパ腫では珍しいことである.

編集後記 並木 正義
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 内視鏡的粘膜切除に関する特集は,一度取り上げてみたいと思っていたし,早期胃癌の内視鏡的治療がますます盛んになりつつある今日,まさに時宜を得たと言える.

 ストリップ・バイオプシー,ジャンボ・バイオプシーの用語の由来をめぐる竹本教授の序説は,同教授の豊かな独創性をしのばせる興味深いものであった.主題の多田,竹腰,平尾の論文は,それぞれの方法のパイオニアが,豊富な経験を踏まえて書いたものだけあって,いずれも内容の立派な力作と言える.各方法の有用性についての評価は,ほぼ同等と言えよう.要はその方法の特徴を十分のみこみ,1例1例よく考えて実施し,それに熟練することであろう.また,「病理学的立場からみた胃粘膜部分切除の評価」と題する中村論文は,本法を行う臨床医が常に念頭に置かなくてはならない基本的な考え方と留意点をきめ細かく指摘した,実に参考となる優れたものであり,ぜひ必読していただきたい内容である.

基本情報

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胃と腸
23巻4号 (1988年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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