胃と腸 21巻8号 (1986年8月)

今月の主題 胃癌肉眼分類の問題点―進行癌を中心として

序説

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 はじめに

 胃癌をその肉眼的形態から分類しようとする試みは古くから行われており,実際に数多くの分類があった.しかし,1962年,日本の胃癌研究会発足当時に採用されたBorrmann分類は,目本における胃癌研究が世界をリードするにつれて,Borrmannの故国ドイツにおけるより以上に,世界中に拡まっていった.この分類が比較的簡単で使いやすいためであろう.

 ちょうど同じころ,1962年に早期胃癌の肉眼分類が日本内視鏡学会の分類委員会で,内科,放射線科,外科,病理など各分野の専門家の合意で制定され,激しい議論の末,胃癌研究会でも承認された.そして,この分類も急速に世界の専門家が使用するようになり,大いに普及した.胃癌研究会が出版している胃癌取扱い規約の改訂版にも採用されて,早期胃癌を0型とし,1型から4型まではBorrmann分類に準じて分類をし,分類不能のものを5型としてある.

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はじめに

 Borrmannの胃癌にっいての著書は2冊ある.よく知られているものは,HenkeとLubarsch編のHandbuch der speziellen pathologischen Anatomie and Histologieの第4巻第1部(1926)の胃および十二指腸の腫瘍の部である.この中の第3章で,胃癌の肉眼形態について述べられており,4つの群が記載されている.この群が,しばしばBorrmannの分類として引用されているが,用いられ方,表現,内容,あるいはこの分類に入れられない症例があるという主張などと原著との問に,多くの不一致が存在する.

 他の1冊は,v.MikuliczとNaunynが編集するMitteilungen aus den Grenzgebieten der Medizin und Chirurgieの第1別冊として刊行されたDas Wachstum und die Verbreitungswege des Magencarcinoms von anatomischen und klinischen Standpunkt(1901)である.ここには,1926年の書の4つの群の基礎となった4群が記載されている.1926年の書の中にも,“私が「胃癌の成長と進展経路」という以前の仕事の中で,4つの主な型を決めた”と述べ,この本の4群を引用して記し,それに引き続き,“これらの4群について更に詳しく述べる”と書いてから,改めて4つの群が出てくる.

 この両者を比較・対比してみると,3と4の群では,表現や内容が異なる点があり,なかんずく4群では,引用が多いため,記述が明快でない部分がある.それゆえ,この4つの群の成立過程,背景,用いられた資料,考え方,目的などについて,できるだけ原著者の立場に立って,もう一度見直す必要が生じた.

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要旨 胃癌は大きく早期癌と進行癌とに分類され,それぞれが更に幾つかの類に分けられているが,それは癌の状態像{肉眼型,深達度}による分類であって,純形態的な型分類ではない.そのため実際の場面では分類困難な場合が生じる.なぜならば,肉眼型の分類は癌の深達度および大きさとは無関係に,相似側に基づいてなされるからである.例えばⅠ型とBorrmann1型,Ⅱc+Ⅱa型とBorrmann2型とは形は相似だが,癌の深達度と大きさは異なっている.純形態的な観点からは,胃癌肉眼型分類においては癌深達度を除外せねばならない.胃癌の肉眼型は,胃癌の三角{発生の揚,組織型,発育進展様式}によって決定される.この関係に基づいて,現在の早期癌肉眼分類をそのまま進行癌に適用するのも1つの方法である.癌原発巣の状態像{肉眼型,深達度,大きさ}は,原発巣のステージ分類とすることも考えられる.

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要旨 わが国では,進行胃癌は肉眼的に,1型,2型,3型,4型(以上Borrmann分類に準ずる)と5型の癌に分類され,この分類法が1962年より正式に用いられてきた.しかし,各型の具体的な肉眼記述が不足であるために,またBorrmann分類の記述の不明確さとその解釈の違いのために,肉眼型の判定に混乱が生じているのが現状である.本稿では,進行胃癌の肉眼型を腫瘍の表面形態から分類するという基本姿勢に立って,粘膜面からみた病変の高低と胃壁内での発育・進展様式との2点から,進行胃癌の肉眼分類を行った.その結果,Table4のように分類された.そして,各々の肉眼型の判定法やできるだけ具体的な説明を加えた.

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要旨 (1)教室の肉眼分類5型癌を,①早期癌を過大診断したもの,②早期癌と過小診断したもの,③いわゆる早期癌類似進行癌,④分類不能型,の4型に分け検討した.(2)過大診断群と過小診断群はいずれも組織診断の結果判明したものであり,肉眼分類に組織診断介入の可否は今後検討されねばならないが,私見としては肉眼所見による分類に徹すべきと思う.(3)過大診断群,過小診断群,分類不能型の術後生存率をみると,前2者は早期胃癌と同程度の5生率を示すが,分類不能型の5生率は低い.(4)従来5型と分類されたなかには進行癌分類で表現しうるものもあるので,これは5型から脱して分類するように検討したい.(5)そのためには従来のBorrmann分類を見直し,癌巣の形状,進展様式を端的に表す表現法を設定することが必要である.

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要旨 いわゆる早期胃癌類似進行癌と呼ばれるものの中には,診断の面からは2つの異なったものが含まれている.1つは,X線や内視鏡検査,更には切除標本の肉眼所見から,どうしても早期癌としか考えられないのに,組織学的には進行癌であったという例である.もう1つは,肉眼的にも組織学的にも進行癌と診断されたが,癌の肉眼型が早期癌に似ているために,早期癌類似進行癌とされた例である.従来これらは共に早期癌類似進行癌と呼ばれてきたが,診断の立揚からは分けて考えるべきであり,前者を早期癌類似進行癌,後者を“5型”胃癌として取り扱うのがよいと思われる.

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要旨 早期癌病型に類似した病巣を持った進行胃癌(“類進”)には,肉眼的に早期癌と診断したが,組織学的検索により癌がわずかに深達していた“早期癌類似の深達癌”(“類早”)と,肉眼的に既に進行癌と診断できるが,肉眼病型が早期癌病型に類似している“早期癌病型の進行癌”(“早型進”)の2種類があることを述べ,その代表的な4症例を示した.次いで,これら肉眼病型分類の問題点を挙げ,その対策についても触れた.

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要旨 深達度がpm以上になってもなお早期胃癌の癌型を保っている症例がみられ,これらの203例を早期胃癌類似進行癌として検討した.また,pmについては肉眼的に早期癌と鑑別不可能なpm1と鑑別可能なpm2とに亜分類した.早期胃癌肉眼分類に準じて分類した肉眼型は,Ⅱc139例,Ⅱc+Ⅲ48例であり,ⅡcとⅡc+Ⅲとで187例(92.1%)を占めている.組織型を高分化型,低分化型とに2大別した内訳は,高分化型65例,低分化型127例であり,低分化型が多かった.間質結合織量の多いスキルスが60例(29.6%)にみられた.治癒切除例のリンパ節転移率は,pm1 11.8%,pm2 43.2%,ss 43.7%,se 56.8%であり,5生率はそれぞれ98.0,89.7,80.7,69.8%であり,深達度につれて低下しているがBorrmann型と比べて高率であった.以上,早期胃癌類似進行癌には多くの特徴がみられるので,これらを1つの症例群として独立させることは有意義である.

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 市川(司会) そもそも“胃癌肉眼分類の再検討”というテーマで座談会をすることになった理由は,先ごろ第44回胃癌研究会を大阪でやったときに当番世話人の岡島先生が,“5型胃癌の問題点”という主題を取り上げられ,問題点をいろいろ議論した中で,多くの施設で一体どういうものを5型に入れているのかを見てみると,意外に症例が多いのみならず,施設によって違いますが,60~90%はいわゆる早期胃癌類似の進行癌というものを入れている.しかも,施設によっては何百例もそういう例を“5型胃癌”,つまり分類不能という形で取り扱っている場合がある.これはどうも不合理である.

今月の症例

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 〔患者〕38歳女性.1983年8月,定期検診にて胃の異常を指摘されて来院.精査の結果,胃癌と診断され10月胃切除術を受けた.術後経過は良好で,15日後に退院した.

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要旨 粘血便,微熱を訴えて来院した41歳の男性例について報告する.入院後の糞便検査で赤痢アメーバ栄養型と思われる虫体を検出.内視鏡的にも直腸~結腸にactive stageの潰瘍を確認,また血清反応(ゲル内沈降反応,間接螢光抗体法)も陽性で赤痢アメーバ症と診断した.患者は独身で,結婚歴,海外渡航歴を有せず,20歳時より不特定多数の男性とのみ同性愛行為を続けてきた.梅毒血清反応についてもTPHA,RPR,ガラス板法のいずれもが陽性で,これらの所見より,男性同性愛者間のアメーバの伝播によるいわゆるsexually-transmitted amoebiasisの1例と考えられた.

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要旨 原発性十二指腸癌は比較的まれな疾患で,早期のものは少数の報告をみるにすぎない.今回,われわれは十二指腸下行部に発生した早期癌の1例を経験したので,本邦報告例の集計を併せて報告した.患者は55歳男性で,無症状であったが胃集検により要精検とされ,寺田病院を受診した.上部消化管透視,内視鏡検査により,十二指腸下行部に約5cm大の隆起性病変が指摘された.膵頭十二指腸切除が行われ,乳頭上部に47×35×22mm大の亜有茎性ポリープがみられ,表面顆粒状で潰瘍形成はみられなかった.病理組織学的には腺腫の一部に,乳頭状腺管腺癌(sm)がみられ,リンパ節転移はみられなかった.

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要旨 患者は61歳男性.心窩部不快感を主訴とし,胃X線検査で前庭部の胃小区の不整と壁の硬化像を認め,内視鏡検査で前庭部に全周性の胃粘膜の発赤,粗糧と幽門近くの小彎側後壁に小さな浅い陥凹がみられ,Ⅱc型早期胃癌と診断された.1983年6月24日胃部分切除術が施行され,口側切除線は前庭部の粗縫な胃粘膜領域から7.5cm離し,S0P0H0N0でR2のリンパ節郭清が行われた.組織学的には,粘膜層は印環細胞癌で,粘膜下層への直接浸潤が一部にみられたが,リンパ管侵襲が高度であり,このため癌は漿膜に達し(se),更に口側へは粘膜下層以下を浸潤し,口側断端浸潤陽性(ow(+))であった.

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要旨 過形成性胃ポリープの癌化の可能性およびその病理組織学的判定基準,癌化率などについては現在なお問題がある.われわれは胃集検にて発見され初同精密検査で有茎性の過形成性胃ポリープと診断された病変が6年間,3回の経過観察後に著明に形態が変化し,切除標本では長い茎の上に1個の良性ポリープと2個のポリープ癌が独立して存在していた例を経験した.発生と発育を裏付ける明らかな資料はないが,臨床経過のうえではわれわれはこの2個の癌については初診時の良性の過形成陛ポリープの近傍に新たに発生した過形成性ポリープが癌化したものと考えた.この症例はポリープ癌の発生についての一資料となると思われる.

初心者講座

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Ⅳ.発赤の読み

 前回,内視鏡は多方向からの撮影と空気量の調節か診断に有用であることを述べた.今回はこの方法を応用しながら,主として発赤の読影について話を進めることにしよう.

 内視鏡を挿入していくと,幾つかのチェックポイントを見出すことができる.すなわち病的な変化としては,変形,ひきつれ,潰瘍,陥凹,発赤および隆起などが目につくであろう.これらのうち割合見逃されやすい発赤に目を向けることにする.

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欧文目次

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 最近の医療技術,特に画像診断法の飛躍的進歩により,各種病変は明瞭かつ精細に把握できるようになった.しかし,これらの医療情報を有効に利用するには,まず各疾患における画像上の基本的なパターンを頭の中に入れておく必要がある.本書はこのような観点より編集されたものである.脳外科,呼吸器外科,心臓外科,消化器外科,血管外科,小児外科などの各分野の代表的疾患を集め,標準的,典型的な画像を呈示している.

 本書を執筆されたのは各分野の第一線で,そして学会で活躍中の方々であり,それぞれの分野の第一人者である.このような布陣で書き上げられた本書の特徴としては次のようなことが挙げられよう.

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 近年,肝硬変症の死因となる肝性昏睡,腹水,上部消化管出血などの治療が進歩し,その経過と予後に著しい変化がみられている.門脈圧充進症に伴う食道静脈瘤とその対策は特に重要な意義をもっており,診断や殊に治療の面において画期的な進歩を遂げた.

 わが国では1979年に日本門脈圧充進症研究会が食道静脈瘤内視鏡所見記載基準を設定したが,この分類は広く普及し応用されている.食道静脈瘤の治療法として,食道離断術,選択的シャント術などの手術療法が行われているが,更に内視鏡的硬化療法が加わり,治療法の選択と方法に種々の考えと主張とが提起されている.食道静脈瘤の診断と治療は,国内的にも,国外的にも注目されている臨床的に重要な問題である.特に,静脈瘤破裂による上部消化管出血の恐れのある状態を的確に診断すること,破裂を予防し,出血例について確実に止血することが診断と治療の目標となる.

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Nature and composition of biliary sludge: Lee SP, Nicholls JF (Gastroenterology 90: 677-686, 1986)

 超音波検査の普及により,胆泥がしばしば発見されるようになった.胆泥は音響陰影を伴わない低エコー像として描出され,体位変換で移動する.Allenらは,胆泥がビリルビン顆粒とコレステロール結晶から成ること,Boonyapisitらは,胆泥を含む胆汁中に高濃度の非抱合型ビリルビンを見出した。胆泥は胆石の核になることが示唆されているが,その正確な組成と,胆石生成との関連から胆泥を有する胆囊の病態生理の解明が必要である.

 正常,胆石,胆泥の3群について,肝および胆囊胆汁の脂質と粘液糖蛋白を分析した.肝,胆囊胆汁のコレステロール,リン脂質,胆汁酸塩濃度,飽和指数には3群間に有意差を認めなかったが,胆泥群の胆囊胆汁中の総ビリルビン濃度は低かった.これは胆囊内でビリルビンの析出または吸収が起こるためであろう.また粘液糖蛋白の分析では,胆囊胆汁中の粘液含量が正常群より胆石群,更に胆石群より胆泥群に多かった.この現象は,肝胆汁には認められなかったので胆囊内で粘液分泌が起こるものと思われる.

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Extraintestinal cancers in inflammatory bowel disease: Greenstein AJ, Gennuso R, Sachar DB, et al (Cancer 56: 2914-2921, 1985)

 1,227例のCrohn病,734例の潰瘍性大腸炎,合計1,961例の炎症性腸疾患の患者で腸管外の悪性腫瘍の頻度を調べた.

 その結果,51人の患者で54の腸管外の癌を発見した.うち28例はCrohn病の患者で,23例は潰瘍性大腸炎の患者にみられ,男性25人,女性26人であった.

書評「肝臓の外科」 角田 昭夫
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 Roy Y.Calneというケンブリッジ大学教授が,世界各国から24人の著者を集めた肝臓手術の図解書である.著者の中に中華民国(台湾),香港,ヴェトナム人が数名おり,全部肝葉切除を受け持っているところからみると,肝腫瘍はやはり東洋人に多いのであろう.

 さて,先天性胆道閉塞症に対する肝門部空腸吻合は,今やカサイ手術として世界の認めるところであるが,本書の唯一の日本人執筆者は,この項を受け持たれた葛西森夫教授である.そしてこの縁をもって本書の日本語版監訳を葛西教授が担当され,3人の訳者の所属も東北大学第2外科および同小児外科である.

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Controlled trial of bowel rest in the treatment of severe acute colitis: McIntyre PB, et al (Gut 27: 481-485, 1986)

 著者らは重症大腸炎の治療に際しての絶食腸管安静の必要性についてのcontrolled trialの成績を報告している.

 対象は重症急性非特異性大腸炎患者47例で,入院しPrednisolone 60mg/日による治療を開始した,36時間後に乱数表を用いたrandomizationにより次に述べる2群のいずれかへの振り分けを行った.すなわち,bowel rest群(BR群)では経口的には水のみを許可し高カロリー輸液を行い,oral diet群(OD群)では十分な窒素とカロリーを含む食事を摂らせつつ臨床経過を両群間で比較検討している.

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 大変独創的な,素晴らしい本が出版された.国内はもちろん,外国にも類似の出版物はない.

 著者の真鍋俊明先生は病理学の修業をほとんどすべてハワイおよびアメリカ本土でやられたとのことである.外科病理学とはアメリカ流の表現で,生検・手術材料に関する病理学の意味であるが,病院に勤務する病理医にとっては,剖検以上に重要な分野となってきている.この分野はアメリカで誕生したこともあり,アメリカが世界をリードしている.

編集後記 丸山 雅一
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 本号には,読みごたえのある論文がそろった.まず,序説を担当した市川氏の問題提起の明快さが期待感を膨らませてくれる.望月氏のBorrmannの原著に関する記載は,科学論文の翻訳においてそれぞれに異なる言語が意味するものの対応性を厳密にしなければならないことを強調すると共に,外国文献の読み方の基本,それを批判する作法などを教えてくれる.氏は日本流のBorrmann分類にBorrmannの名を冠することは不合理と断じている.とはいうものの,この分類があったればこそ,診断,外科,病理の三角関係が生じ,わが国の胃癌の研究が今日の発展をみたことを認めないわけにはいかない.

 中村氏は胃癌の組織発生の理論を支柱に独自の肉眼分類を提唱し,渡辺氏の分類の基本は中村氏と同じようであって実は全く異なるように思える.アメリカのMingが喜びそうな感じだが,肌理の細かさがMingとは随分と違う.岩永,紀藤の両氏は外科の立場からあくまでも“早期癌類似進行癌”に市民権を与えようと必死の記述を試みている.そして,岡島氏は胃癌研究会の肉眼分類の責任者として極めて穏健な表現に終始しながらも氏の主張を余すところなく言い切っている.

基本情報

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胃と腸
21巻8号 (1986年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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