胃と腸 19巻11号 (1984年11月)

今月の主題 膵癌の治療成績

序説

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 CT,USなどの画像診断を中心とした最近の各種診断法の進歩によって,2cm以下の小膵癌の診断例もみられるようになった.しかし,残念ながら,膵癌全体の治療成績は他の消化器癌のそれと比較して,今なおはるかに不良であり,膵癌の治療成績向上にはほど遠いものがあるというのが現状であろう.膵癌の中でも乳頭膨大部癌や膵内胆管癌では,比較的良好な成績が得られてはいるが,膵頭部癌,膵体・尾部癌の治療成績は,実に惨惚たるものと言わざるを得ない.

 膵癌の治療成績向上を阻んでいる要因として,まず第1に早期診断,早期治療の難しさである.外科治療に回ってくる膵癌の多くは極めて進行したもので,切除不能となる例が多い.1982年の膵癌全国集計の成績をみても,切除率は26%と,他の消化器癌に比べると著しく低率である.治療成績向上を阻む2第の要因として,発育・浸潤様式,脈管内侵襲などにみられる膵癌の示す生物学的特徴が挙げられよう.

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要旨 膵癌は罹患統計でも死亡統計でも増加傾向にあり,女よりも男に高率であり,加齢と共に増加する傾向がある.ただし,この膵癌の増加傾向についてはエコー,CT,ERCPなどの画像診断の進歩による診断精度の向上の影響も考えなければならない.膵癌の発生要因としては59例の組織学的確定診断の得られた新発生の膵癌についての症例・対照研究から,癌の家族歴,特に胃癌の家族歴や喫煙が膵癌のリスク・ファクターとして検出された.特に,喫煙については1日の喫煙本数と相対危険度との問に用量依存性を認めた.

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要旨 膵癌外科治療の現況と外科治療上の幾つかの問題点について述べた.すなわち神戸大学第1外科における膵癌症例は128例である.これらのうち31例が切除術,54例が姑息的手術,16例が試験開腹術であった.手術直接成績は切除例で16.1%,姑息的手術で7.4%,術後の平均生存月は前者で17.7カ月,後者で4.3カ月であった.膵癌全国登録症例は2,005例である.これらのうち503例が切除術,897例が姑息的手術,158例が単開腹術を受けている.手術直接成績は切除例で5.8%,姑息的手術例で7.6%であった.膵癌の外科治療に関連して膵全摘術,拡大根治手術,姑息的手術などの問題点について論じた.

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要旨 膵癌の術後5年以上生存例の予後良好な条件をみると,癌の大きさが2cm以上でありながら,膵被膜浸潤がなく,膨張性発育を示すものが多かった.われわれの発見した早期膵癌9例では,1例を除き,術後3~5年生存し,予後良好と推定しうる.粘液産生癌の膵内進展様式を胃癌の壁浸潤形態と比較して,粘液産生癌の主膵管内の発生,膵管内進展および膨張性発育が良好な予後を裏付けている.早期充実癌では,膵管内のcarcinoma in situが臨床的に認められず,発生の早期から周囲に浸潤するものであろう.主膵管近傍に発生した充実性癌で膵頭部では1.5cm内外,膵体部で1cm内外の大きさで発見されれば,予後良好と推定される.主膵管内および主膵管近傍に発生した膵癌による二次的膵炎をチェックし,ERCPで膵の異常をとらえることが,予後良好な膵癌を発見することになり,膵癌の早期診断に通ずるものである.予後良好な特殊型膵癌には囊胞腺癌と腺房細胞癌が認められる.

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要旨 12例の膵癌に術中照射あるいは外部照射を行った.術中照射例5例のうち切除例の3例にはベータトロン6~10MeⅤ2,500~3,000radが照射されたが1例は膵壊死のため術後0.7ヵ月で死亡した.1例は8.5ヵ月後肝転移で死亡したが照射野に再発はみられなかった.他の1例は1.5カ月生存中である.非切除例2例にはベータトロン13~16MeⅤ2,500~3,000radを照射し術後0.5~1.0カ月現在生存中である.外部照射例7例にはライナック10MeⅤ2,800~5,000radが照射された.うち2例の切除例は術後13.4カ月全身衰弱死亡例,9.5カ月生存例である.5例の非切除例はいずれも肝,肺への遠隔転移または腹膜播種例で延命効果は認められなかったが腫瘍の縮小,腹痛の消失などperformance statusの改善が認められた.

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要旨 膵癌剖検例68例を対象に,進展様式,術後再発形式,術中照射例の病理学的検索を行い以下の結論を得た.(1)膵癌のその局在から,鉤部,頭部,体部,尾部の4部に分けて検討することにより,それぞれの部位に発生した癌の進展様式,更には臨床症状に差がみられ,特に鉤部癌は頭部癌から独立させて扱うべきと考える.(2)術後再発例,術中照射例などと非手術例,非照射例の癌の進展様式には差がなく,特に手術時の摘出標本の検索でew(-)と判定された例でも全例,後腹膜再発をみたことは,手術的治療の困難性の一面を示している.(3)術中照射後剖検例の検索から,癌細胞は照射野の辺縁に残存?(再増殖?)することが示唆された.このことは今後の術中照射の在り方を検討するうえで示唆に富んだ所見と考える.

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要旨 膵癌の各種腫瘍マーカーによる診断能を検討した結果,CA19-9,POA,CEAが有用であり,CA19-9とPOAを組み合わせると更に向上した.早期の膵癌の診断にはelastase-1が有効でCA19-9,TPA,ferritinが比較的有効であった.治療後のモニタリングにはCA19-9,POA,TPA,CEAが病期の進行を反映しており,手術の根治性,化学療法への反応性,再発の予測という観点からはCA19-9が最も優れていた.感受性,特異性の面で問題点は残されているが,これら有効な幾つかのマーカーを組み合わせてスクリーニング検査を施行すれば,膵癌の切除率,根治性の向上が期待されると思われる.モノクローナル抗体の技術を応用して新しい腫瘍マーカーが幾つか開発され臨床的に検討されているが今後の成果が期待される.

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要旨 内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)の診断能を向上させる目的で,内視鏡下留置バルーンカテーテルによる膵管充満造影法(バルーンERP)を開発した.膵疾患と下部胆管癌の計48例に本法を試み,45例に成功した.同45例中,ERP像とバルーンERP像の対比可能な35例につき両者の膵管描出能を検討した.その結果,確診可能な,鮮明な膵管充満像は,バルーンERP像で29例(83%)に得られたが,ERP像ではわずか5例にすぎなかった.また,組織判明例25例で両者の診断能を比較検討したところ,バルーンERP像により半数近くの11例に診断能の向上をみた.特に背臥位圧迫撮影が,膵管像の鮮明化と病変部の描出に優れ,診断能の向上に寄与した.

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 高木(司会)膵癌については本誌で4年前,1980年に“小膵癌診断への挑戦”(第15巻6号)を特集し,そのときにも座談会を行いまして,膵癌の早期診断は可能かどうかで討論をしていただきました.そのときと4年経った現在とでは診断の方法にも新しいものが加わっておりますし,新しい腫瘍マーカーが検討されてきています.そういう面も加えて診断をどうするか.それから,治療の面は,4年間経過していますから,遠隔成績なども出てきているのではないかと思います.初めに診断について,最近と4~5年前とでは少し違いが出てきているのではないかと思いますが.

診断面の進歩―US・CT・腫瘍マーカー

 有山 4年前と言いますと,まだUSが膵癌の診断に役立つかどうかという疑問があったときだと思います.最近,USが非常に普及してきて,USでわかるもの,わからないものがはっきりしてきました.USは限界をよく心得てやらないと思わぬ落とし穴があると言えるのではないかと思います.殊に膵尾部は見えにくく,USで膵をスクリーニングするとなると,小さな膵尾部癌は最初から捨てるということになります.

Coffee Break

愁訴と病態 中澤 三郎
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 数年来,右上腹部から右胸背部へかけての鈍痛,重圧感や不快感などを訴えて中年の女性が来院した.一般臨床検査成績やX線検査,腹部US,経口胆囊造影,また胆・膵にも特に異常所見を思わせるものはなかった.しかし,愁訴が相変わらず続き,胆道系異常を否定しきれなかったため対症的に内科的治療を行っていた.その後,患者の症状は軽快することもあったが,全く消失することもなく断続的に外来通院を繰り返していた.1年前に経過観察のためにUSを中心とした諸検査を行ったが,やはり異常を指摘することはできなかった.そこでこれまでと同様に治療を続けていた.今年に入って同様の右上腹部痛が少し強くなったような気がすると言うので来院.理学的所見では特記すべき所見はなかったが,念のためUSを行ったところ,胆囊内結石という所見が得られた.これでやっと患者の愁訴と病態との関係が理解できたのである.

 患者も自分の症状の原因が納得できて喜ばないまでも,少なくとも原因不明という不安はなくなったし,医師のほうも自分の予想が当たっていたので,何となく心楽しい気分である.それにしても,数年来,症状のみで姿を見せなかったこの病気は,いつ発症したと老えたらよいのだろうか.最初の症状は今回の胆石とは無関係な,似て非なものか.あるいはいわゆるdyskinesiaがあって,これが原因となって胆石形成が起こったのかの判断は,どちらとも推察の域を出ない.

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 Williamsとは競争でcolonoscopyをやった.どちらがうまく奥へ入れられるか競ったわけだが,結局,15分たって先へ進まない場合には交代したほうが良い結果の生まれることがわかり,むだな競争はしなくなった.オリンパスの初期の器種を用いての押しの一点張りでは盲腸へ入れるのが大仕事.それでも3時間かけ,セルシン120mgを使って盲腸のfale positive tumorを証明し,無用の手術を防止したこともある.ループの解除法を知らなかった当時,stiffening wireの代わりにピアノ線を用いたのはよかったが,直視下にピアノ線がスコープの外へ飛び出しているのがわかって肝を冷やしたこともある.英国の医師の社会的地位は高く,米国ほど医療訴訟は多くないものの,英国での医師免許のない私にとってはオッカナビックリの連続であった.

 ファイバースコープの原理は,英国のHopkinsによって発明されたものである.Dr.Hopkinsとビールを飲みながら話す機会があったが,“私の論文が出るとすぐt米国へ行く途中だったDr.HirschowitzとオリンパスのDr.Suzukiという人が会いに来たが,英国人は誰も来なかった.英国で内視鏡が発展しなかったのはEnglish diseaseのせいだよ.”と話していた.

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要旨 52歳男性.食道検査のため秋田大学附属病院を紹介された.患者は胃潰瘍の経過観察中の内視鏡およびX線検査で食道病変を指摘された.内視鏡検査では切歯列から26~35cmの部位に顆粒像を示す表層拡大病変がみられた.生検像では扁平上皮癌であった.胸部食道摘出術,食道胃吻合術,幽門形成術が施行された.組織学的には中分化型扁平上皮癌で,一部粘膜下層へ浸潤していた.患者は入院19カ月前にも同部位に小病変を指摘されていたが,生検で悪性所見は得られなかった.遡及的検討で食道癌の初期病変と推定できた.19カ月後の検査で病変の増大が観察できた.

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要旨 胃癌切除例107例を検討した結果,9例(8.4%)10病巣の胃癌組織中に石灰化を認めた.いずれも進行癌で,大部分はstageⅣ(胃癌取扱い規約)であったが,臨床的に電解質の異常などはみられなかった.石灰化の型を今井の分類に従って分けると,mucin Pool calcification 6病巣,psarnmomatous calcification 4病巣で,前者は比較的分化度の高い腫瘍組織中に,後者は分化度のより低い腫瘍組織中に出現する傾向がみられた.また9例中2例では転移巣にも石灰化がみられ,原発巣における前記傾向と同様,転移巣の腫瘍像の変化と共に石灰化の型も変わった.以上の所見から,石灰化の型には周辺の腫瘍組織の分化度が深く関与している可能性が老えられた.石灰化を伴う胃癌10病巣中2病巣で,腫瘍細胞の胞体がcalcitonin陽性を示すという興味深い所見を得た.

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びらん性胃炎

 質 問 びらん性胃炎は癌化しますか.また,実際にはどう対応したらいいでしょうか.

 中村 どう答えたらいいか,ちょっとわかりませんが,微小癌発見の1つの所見というのはびらんですね.そういう点からは検査しなくてはいけないということになるんでしょうね.

Refresher Course・10

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口患者:74歳男性.

口主訴:突然の腹痛,嘔吐,永様性下痢,発熱.

口臨床所見:腹痛,悪寒戦慄を伴う発熱,黒色水様便が間歇的に約1カ月間続き,抗結核剤に反応せず,食欲不振,低蛋白血症が改善されなかった.当科入院時一般検査では貧血,白血球増多,CRP陽

性,血沈充進,低蛋白血症があり,心電図では心房細動がみられた.

〔初回X線所見〕小腸経口造影所見(Fig.1)で回腸に数cmにわたる輪状狭小を多発性に認める.二重造影像になっていないので,粘膜面の状態まではわからない.

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欧文目次

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 US,CTを中心とした最近の非侵襲的検査法の発達と普及に伴い,肝・胆・膵領域の診断と治療は,まさに日進月歩の勢いである.これまでにUS,CTの解説書は数多く出版されているが,従来の検査法であるERCPやSAGとの関連のもとにUS,CTを有機的に組み合わせた解説書は数少ないのが現状であった.しかし今回,打田日出夫教授が編著された「肝・胆・膵―確定診断への画像的接近と診断手技の治療的応用」が上梓されたことは,誠に時宜を得たものである.本書の特徴は,第1部の“肝胆膵診断確定への画像的接近”と第2部の“放射線診断法の治療的応用”の両者のタイトルに端的に表されている.第1部では個々の症例を通して各種画像診断法を駆使した画像的接近が多くの鮮明な写真で明快に述べられており,同時に各画像の持つ有機的な組み合わせの必要性と重要性が,ひいては各種検査法の長所と欠点をも明らかにしており,読者は自ずと,個々の症例を通して著者らが意図した有機的診断大系の必要性を教えられることになり,誠に興味深い.また呈示された症例は第一線で常日ごろ扱うような症例が大多数であり,この意味でも第一線の臨床医にとっては日常臨床に今すぐにでも役立つものと思われる.

 第2部では著者らが現在最も力を入れているinterventional radiologyについて最先端の業績が詳細に記載されており,本書の持つ斬新さが見事に結実している.すなわち閉塞性黄疸例におけるPTCドレナージの内痩化とこれを応用した放射線腔内照射や胆管拡張術の方法や成績にとどまらず,現在最も注目されている肝癌の肝動脈塞栓術について,これまでの著者らの成績が明快に述べられている.肝動脈塞栓術についての詳細な手技や方法,適応,成績が述べられており,われわれ外科医にとっても非常な関心領域でもある.著者らの成績では生存率は1年が43.5~60.5%,2年が30.3~39.3%ときわめて良好な成績を残しており,手技や方法に学ぶべき点が多い.更に著者らは,この肝動脈塞栓術を肝切除例の術前に応用して,肝切除後の遠隔成績を向上すべく努力がはらわれており,今後の発展を願ってやまない.

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 この本は,文句なく,1984年の日本医学書出版界の豊かな収穫ぶりを示す労作である.そして,タイトルに“カラー図説”という4字を追加したくなるほど美しくてしかも大変迫力をもった本である.

 このような見事な本の書評ができることは,臨床研究者として“冥利に尽きる”のであるが,筆者のまずしい語彙では到底盛り切れないほどの豊富な内容に圧倒されてしまって,改めて筆力のないことを嘆息するのである.

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 Rectal biopsy helps to distinguish acute self-limited colitis from idiopathic inflammatory bowel disease: CM Surawicz, L Belic(Gastroenterology 86: 104-113, 1984)

 急性大腸炎患者の診療では,病状が一過性か特発性炎症性大腸疾患(ⅡBD)の初発症状かを見分けることが最も要求される.そのため急性大腸炎(ASLC)の直腸生検像が議論され,幾つかの所見がASLCに特徴的と言われてきた.著者らはこれらの所見群が両疾患の鑑別に有用か否かを知るために,44例のASLCと104例のⅡBD(急性ⅡBD22例,Crohn病26例,潰瘍性大腸炎56例)患者の直腸生検を検討し,以下に述べる7項目の所見群はⅡBDにしばしば認められたがASLCには欠如あるいは極めてまれであることから鑑別診断に有用と報告している.

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 Preoperative carcino-embryonic antigen and survival in patients with colorectal cancer: H Lewi, LH Blumgart, DC Carter, et al (Br J Surg 71: 206-208, 1984)

 術前のCEA値と原発性腫瘍の切除可能性,拡がり,予後との関連が333例の大腸癌を対象に検討されている.

編集後記 高木 国夫
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 “小膵癌診断への挑戦”(第15巻6号1980年)の特集を出して,4年後に膵癌の治療成績を中心に特集が組まれた.近年膵癌の増加が目立ってきて癌対策の1つとしておろそかにできないものとなってきている.この4年間に診断面の進歩と共に,腫瘍マーカーの検討が新しい面として現れてきているが,率直に言って,その成果が治療成績の面にまで及んでいないのが現状であろう.

 膵癌の治療成績は世界においても,本邦においても,未だまとまったものが報告されていない.治療成績の向上には,切除率の向上,すなわち早期診断が最も重要であるが,膵癌の全国登録例でも,切除率が25%にすぎない.進行した膵癌に対して,外科的療法と共に,放射線療法が検討されたが,術中照射例の病理面での報告は,今後の治療面への示唆に富んだものであろう.

基本情報

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胃と腸
19巻11号 (1984年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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