Coffee Break
愁訴と病態
中澤 三郎
1
1名古屋大学第2内科
pp.1243
発行日 1984年11月25日
Published Date 1984/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403109562
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数年来,右上腹部から右胸背部へかけての鈍痛,重圧感や不快感などを訴えて中年の女性が来院した.一般臨床検査成績やX線検査,腹部US,経口胆囊造影,また胆・膵にも特に異常所見を思わせるものはなかった.しかし,愁訴が相変わらず続き,胆道系異常を否定しきれなかったため対症的に内科的治療を行っていた.その後,患者の症状は軽快することもあったが,全く消失することもなく断続的に外来通院を繰り返していた.1年前に経過観察のためにUSを中心とした諸検査を行ったが,やはり異常を指摘することはできなかった.そこでこれまでと同様に治療を続けていた.今年に入って同様の右上腹部痛が少し強くなったような気がすると言うので来院.理学的所見では特記すべき所見はなかったが,念のためUSを行ったところ,胆囊内結石という所見が得られた.これでやっと患者の愁訴と病態との関係が理解できたのである.
患者も自分の症状の原因が納得できて喜ばないまでも,少なくとも原因不明という不安はなくなったし,医師のほうも自分の予想が当たっていたので,何となく心楽しい気分である.それにしても,数年来,症状のみで姿を見せなかったこの病気は,いつ発症したと老えたらよいのだろうか.最初の症状は今回の胆石とは無関係な,似て非なものか.あるいはいわゆるdyskinesiaがあって,これが原因となって胆石形成が起こったのかの判断は,どちらとも推察の域を出ない.
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