胃と腸 14巻7号 (1979年7月)

今月の主題 回盲弁近傍潰瘍(2)―Intestinal Behcetを中心に

主題

腸型Behcet病の臨床 馬場 正三
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 Behcet病は内科的にも外科的にもなお治療法の確立されていない難治な疾患である.特に腸型Behcet病と血管型Behcet病は外科的処置が必要となる場合が少なからずあり,死亡率も高いことが知られている.手術症例が少しずつ集積され,その病像に一定の傾向があることが次第に明らかになりつつあるが,なお個々の病変の詳細な臨床経過などについては今後の研究に待たねばならない点が多い.

 以下,限られた経験ではあるが,われわれが経験した症例を中心にアンケート調査,文献報告例を検討した結果について述べる.

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 Behcet病の経過中に腸管潰瘍が発症すると両者の関連は容易に想像されるが,逆に腸管潰瘍,特に回盲部の非特異性潰瘍がまず発見され,患者によく問診してみると,以前から口内炎がしばしばできていたことがわかったような時に,口内炎がいわゆる一般健康人にもよくできるだけに,Behcet病の診断が問題となってくる.

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 Behcet病は口内アフタ・皮膚症状・眼症状・外陰部潰瘍を主症状とする症候群で,寛解と急性増悪を繰り返す慢性遷延性経過をたどる全身性疾患と考えられている.副症状としては,消化器系・心血管系・精神神経症状などが挙げられ,本症の死亡原因は,副症状を呈する病変によることが多い1).なかでも消化器系病変は多発性穿孔を有する消化管潰瘍が主体で,急性腹症の診断のもとに緊急手術がなされ救命されることも多く,Behcet病に伴う消化管潰瘍(腸管型Behcet病)の報告は臨床的に数多くなされている.しかしながら,腸管型Behcet病の潰瘍の成り立ち方を含め病理組織学的研究は数少なく,その発生病理については確立された見解を出されるまでに至っていないが,血管炎の存在が重要視されている2)3).更に,腸管型Behcet病は,腸潰瘍性疾患(腸結核,クローン病,潰瘍性大腸炎など)の臨床および病理組織学的研究の進歩に伴って鑑別上注目されており,その相違点として血管病変を指摘する人3)もあり,本症の潰瘍病変と血管病変との関係は明確にしておく必要がある.

 本稿では,腸管型Behcet病の切除腸管9例(Table 1)の全割例を中心に,病理組織学的観点から本症の初期病変を含め,潰瘍の特徴とその血管病変の関係について述べる.

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 完全型のintestinal Behcetの1例を報告し,主に切除腸管の病理学的所見を提示する.

症例

 患者:N.M. No.20-53-73. 41歳 男

 主訴:二腹痛,発熱

 現病歴:1967年関節痛にて発症し,続いて眼症状,口内アフタ,陰部潰瘍の出没している完全型Behcet病である.1976年11月14日突然腹部全体に持続的疼痛が出現,漸次増強し,発熱,便秘,悪心嘔吐を伴ってきたため16日当内科に緊急入院した.1976年7月初診以降ステロイド剤の服用はない.

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 Behcet病に潰瘍性消化管病変が合併するいわゆる腸型Behcet病が近年注目され,その報告例も急増している.この潰瘍性病変は急速に増悪し,容易に穿孔するので報告された手術例の60%以上は緊急手術例である.最近われわれは2年4カ月の経過観察の後,待期的手術を施行した腸型Behcet病の1例を経験した.組織学的には血管病変が重要視されているが,新たな知見が得られることを期待して,切除標本にマイクロアンギオグラフィーを施行した.その結果,腸型Behcet病の再発に関して興味ある知見を得ることができたので報告する.

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 Behcet病にて,約10年間の経過観察中に消化器症状が出現し,X線検査にて回盲部に潰瘍が認められたために手術した症例を経験したので報告する.

症例

 患者:39歳主婦

 主訴:回盲部圧痛

 既往歴:19歳の時,虫垂炎と胆嚢炎にて虫垂切除術,胆嚢切除術をうけた.

 現病歴:1965年(29歳)頃より,口腔内にアフタ出没する.1970年(34歳)外陰部に潰瘍出現し,福島医大皮膚科で外来通院をしていた.刺創で静脈炎を起こしたり,化膿しやすい傾向があった.1973年(37歳)頃より,目がときどきかすむようになり,同大眼科に通院していたが,①虹彩毛様体炎,②網膜脈らく膜炎などのBehcet病に特徴的な眼病変はみられなかったという.1974年,首より上にアクネ様湿疹が出現した.1975年(39歳)3月19日右側下腹部にしめつけられるような痛みがあり,4時間ぐらい持続し,自然軽快する.その後,同様の主訴がほとんど連日のようにあった.tarrystool様の便が4日ほどつづいたため同年4月21日当科へ入院した.

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 回盲部近傍の潰瘍のために,約5年半の間に3回の腸管切除手術を受けたIntestinal Behcetの不全型(眼症状,陰部病変を伴わない)と思われる1例を経験したので報告する.

症例

 症例は,27歳(初診時)主婦.主訴は,右下腹部腫瘤と痛み.既往歴として,15歳の時虫垂炎を経験している.家族歴は特になし.

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 Behcet病は口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍,皮膚症状,眼症状,外陰部潰瘍を主症状とする全身病である.わが国で戦後とくに増加し1),予後の面から神経症状,消化器症状などの副症状が注目されてきた2)3).最近,諸症状の原因として臓器血管の異常が重要視されている4)5)が,Behcet病の病因についてはまだ不明で,治療法も確立されてはいない1)6)

 著者らは,回腸末端部の多発性潰瘍から大量出血を生じたBehcet病の1例を経験し,血管造影にて潰瘍部に一致して特異な造影所見を認めた.また本例では新鮮血輸血およびγ一グロブリン投与後,諸症状の著明な改善を認めたので,若干の考察を加えて報告する.

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 クローン病1)に,Behcet病2)の眼症状を除く不全型を合併した症例を経験し,手術により救命しえたが,われわれが文献的に調査した範囲では,このような合併例の報告は極めて珍しく,諸外国も含めて2例4)5)のみである.

 クローン病および腸型Behcet病は,共に回盲部に好発するが,消化管のいずれの部位をも侵しうる疾患である.しかし,前者は小腸大腸を中心とする消化器疾患であるのに対し,Behcet病はmuco-cutaneous-oculo-uveal syndromeともすべき全身性炎症性疾患で3),その副症状の1つとして腸炎を合併することがある.これが腸型Behcetで,クローン病の腸管病変とかなりの相違が認められている24)

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 回盲部に発生する非特異性単純性潰瘍は,稀な疾患とされてきたが,大腸の検査法の発達に伴い多くの症例が報告されている.われわれはなかでも盲腸に潰瘍が初発し,切除後吻合部に2回再発し,そのつど切除したにもかかわらず,最近また再発をしている非常に興味ある症例を経験したので報告する.

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●臨床の立場から

 腸の潰瘍性病変のなかでも,結核やアクチノミコーゼのように炎症の原因がはっきりしており,特異的な組織所見を示す特異性潰瘍のほかに,炎症の原因も不明で組織所見から診断を確定できないような非特異性潰瘍が多数存在する.ことに回盲弁近傍に発生するものが多く,またこの部位は種々の潰瘍性病変が高頻度に発生するために,鑑別診断がむずかしい.

 本誌6号と7号では回盲弁近傍の非特異性潰瘍を集めたものだが,6号にはいわゆる単純性潰瘍といわれる,まだそのentityのはっきりしていないものを,7号には腸型Behcetを主体に症例が並べられている.6号の〔症例1〕から〔症例5〕までと,本号の〔症例7〕は,病理組織所見からは非特異性潰瘍としか診断できず,臨床所見からみてもその原因がつかめない.共通していることは,単発,多発にかかわらず,Ul-Ⅳの深い下掘れのある潰瘍をもち,その潰瘍の形もpunched outで,ちょうど急性増悪した胃潰瘍や穿通性胃潰瘍の形に似ていることである.これらの潰瘍とその形が非常によく似ているだけでなく,腸間膜付着反対側に発生しやすいこと,穿孔例の多いこと,再発しやすいことなどの性質もよく似ているのがBehcet病にしばしば発生する腸潰瘍である.

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 白壁(司会) 今日は非常に興味ある話題について座談会をしていただくわけで,私も大いに勉強させていただこうと思っております.

座談会企画のいきさつ

 こういう企画が起こったいきさつですが,1800年代からsimple ulcerという概念が,欧米にはあります.レントゲンの診断学のほうからいうと,特にアメリカでは,回盲部の病気は,ご承知のように,クローン病,潰瘍性大腸炎のbackwash,腸結核,アメーバ赤痢,nematodiasis,typhoid fever,radiation,憩室炎,それからleukemiaが取り上げられています.こういうことはいい古されておりましたけれども,現在私たちがよくとらえ切っていないものに遺伝性のangio-neurotic edema,盲腸のurticaria,それから,non specific ulcer of the caecumというようなものがあります.日本ではどうもポピュラーになりません.

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 まず,「ディスカッション欄」が創設されたことにつき敬意を表します.これで本誌掲載論文がより公共性を帯びてくると存じます.

 14巻6号819頁に載った武藤先生の疑問につきお答えします.

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 It is a well known fact that gastric cancer is a serious health problems in Chile. The mortality rate adjusted by age was 32 per 100,000 population in 1970. In 1972 mortality rate for females reached 24.4 per 100,000 and for males 36.3 per 100,000 population. According to these numbers gastric cancer produces the highest mortality rates owed to malignancy either in male or female.

 The high frequency is associated with very bad prognosis in such way that overall survival rate after 5 years is hardly 6.6%. This is due, principally, to the fact that diagnosis is made in very advanced stages. Cases of early gastric cancer are seen sporadically in Chile.

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 残胃には種々の病変が発生し,近年注目されるようになった.われわれは,胃潰瘍の手術後13年目に,その残胃に発生した細網肉腫を経験し,初回手術材料の検索が可能であったので若干の考察を加えてこれを報告する.

症例

 患者:71歳男性

 主訴:心窩部痛

 既往歴:58歳の時,某病院で胃潰瘍の診断の下に胃切除術を施行している.

 現病歴:1977年7月末より心窩部痛出現し,近医にて投薬治療を受けていたが改善しないため,精査,治療の目的で同年9月,当院へ入院.

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 胃寄生虫性肉芽腫症の代表的疾患として胃アニサキス症がある.本症は胃壁内に硬結や腫瘤を形成する限局性病変のことが多いが,著者らは最近,胃スキルスを疑い手術したところ,切除標本は広範なびまん性の胃壁肥厚を示し,組織学的に胃アニサキス症であった興味ある1例を経験したので報告する.

入門講座 胃癌診断の考え方・進め方・7

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●細胞診を生かせないか

 城所 ひところ,activeな潰瘍なんかがあって壊れたような時期には,どこからとっていいか,また,とるんだけれども,3コとったとしても,はずれたところにあるかもしれないという不安が,どうしてもつきまとう.そういう意味で,細胞診を生かすという考え方はないですか.

 多賀須 補助的にtouch smearを作っています.touch smearのほうが先にデータが出るので,その結果も参照してbiopsyの標本を病理の先生が見ているんです.ですから,病理の先生から「細胞診の読みすぎ」などのコメントがついて返ってくることもあるのです.

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欧文目次

第4回「胃と腸賞」決まる
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 「胃と腸」掲載論文のなかから最も優秀な論文を選んで贈呈される「胃と腸賞」は,ことし第4回を迎えます.13巻(1978年)掲載論文に関しては「胃と腸」編集委員会における慎重審議の結果,次の論文に対し本賞を贈ることに決定しました.

 政 信太郎・他「小腸クローン病のX線診断」(13巻3号335~349頁)

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 興味深く,一気に読んだ.全篇を通して読者の理解を深めようとする著者の心遣いが感じられる.すなわち,豊富な文献をもとに,適確な記述のみを取り出し,平易にまとめてある.しかも各項目のとり上げ方にも一貫性があり,その内容も簡潔な説明と事実に裏打ちされた理論とでがっちり構成されている.本書はまた消化管運動と自律神経とに関する多くの日本人の研究を紹介しており,この方面のわが国の若い研究者に強い刺激を与えるであろう.それゆえ,自序にみるように,本書が若い研究者を対象としていることは全く的を得たものといえる.

 総論では,従来,臨床家にとって難解であった用語や理論の説明に十分意が尽くされている.これも,この方面の第一人者である著者の豊富な知識と深い洞察力によるものであろう.特に各種の腸反射に関する記述や,消化管運動の調整中枢としての脊髄,脳幹,大脳に関する項目は著者の独壇揚である.さらに消化管運動と血行との関係にまで論を展開していることは,著者の今後の研究に読者の興味を向けさせるに十分であろう.

編集後記 武藤 徹一郎
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 微小胃癌が特集号として企画された時,診断学的な研究論文のほかに,微小癌を通して,胃癌の成り立ちを形態学のみならず背景因子をも加味した組織発生を論じた研究論文を加え,微小胃癌の問題点を浮き彫りにしたいという願いがあった.本号に掲載された論文を読むと,初めの意図はほぼ満たされていると思う.

 微小癌とはminuteかmicroscopicallyかという議論もあったが,結局は5mm以下の大きさのものが論ぜられることになった.鎗田氏らはX線診断では存在診断であれば2~3mmのものまでなら可能性があるといっている.岡崎氏らは微小病変の発見には内視鏡のほうが有利であるとしながらも,従来の内視鏡検査そのものの発想を変えない限り微小胃癌診断の進歩はないと述べている.

基本情報

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胃と腸
14巻7号 (1979年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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