胃と腸 11巻3号 (1976年3月)

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 日本における早期食道癌の報告は,1966年東北大山形ら1),東京女子医大中山ら2)の発表以来,しだいにその数もふえつつあるが3)~5),年間に取扱う食道癌の数よりみれば極めて微々たるものである.このことは,近年食道の各種検査法が発達したにもかかわらず,一つには食道の検査の機会が少ないためと考えられる.

 一方,かかる早期食道癌の定義をめぐって種々の論義6)~9)がくり返され,食道癌取扱い規約10)では「癌浸潤が粘膜下層までにとどまり,転移のないもの」すなわちstage 0癌と定義されている.

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 早期食道癌の分類は,今日なお例数も少なく統一的見解をみるにいたっていない.食道癌取扱い規約では,一般進行型のほかに,X線的に表在型として次の3型に分類している.

 a.表在隆起型 superficial elevated

 b.表在平坦型 superficial flat

 c.表在陥凹型 superficial depressed

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 患 者:横○ 了 57歳 女性

 既往歴:胃潰瘍の既往がある他は異常なく,昭和42年2月に食事に際して胸骨後方のしみる感じがあり,病院を受診し,食道ファイバースコープで異常を発見され当院に紹介された.

 X線検査所見 中部食道に軽い隆起性病変を認めた(Fig.1).

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 患 者:石〇四ヱ○ 78歳 男

 現病歴:既往歴には特記すべきことなし.昭和46年9月13日吐血,47年1月12日精査の目的で入院した.通過障害は全く認めなかった.

 X線所見 食道X線造影では中部と下部との境界の右後壁に壁の硬化を認めた(Fig.1).

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 患 者:田○弥○郎 57歳 男性

 主 訴:熱いものを飲むと胸骨後方に,ちくちくする感じ.

 初 診:昭和44年3月17日

 入 院:昭和44年5月6日

 昭和44年1月頃より上記の症状があった.通過障害は全くなく,常食を摂取していた,精密検査の目的で当院外来を受診.

 現 症:やや,やせ型であるが外見上および理学的に異常所見は認められない.

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 患 者:黒○栄○郎 58歳 男性

 主 訴:特になし.

 経 過:昭和50年4月,会社の定期検診で胃の異常を指摘され来院.早期胃癌の診断のもとに入院精査を続けているうちにⅠmに表在性の食道癌を発見.早期食道胃重複癌の診断で7月3日根治手術(右開胸開腹食道胃全剔,胸壁前右結腸有茎移植術)を行った.術後5カ月,健在.

 X線所見 Ⅰm右後壁に2.5cmの表在陥凹型の病巣が認められる.型は不整楕円形,境界は明瞭で辺縁はやや不整である(Fig.1).

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 患 者:武○智○子 63歳 女性

 主 訴:軽度の右胸部痛,嚥下時しみる感じ.

 経 過:約1年前より嚥下時胸骨後部のしみる感じ出現,次第に増強してきた.Ⅰm,早期食道癌の診断で昭和43年10月31日手術(右開胸開腹,胸部食道噴門切除,胸腔内食道胃吻合術)を行った.術後7年を経過,健在.

 X線所見(Fig.1)Ⅰmの部,後壁に3.8cmにわたり軽度の隆起が認められ,その中心部には不整形の細長い浅い陥凹像がみとめられる.

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 患 者:工○恒○郎 62歳 男

 現病歴:嘔気,人間ドックの目的で精査のため入院,15年前から糖尿病がある.

 X線所見 消化管のX線検査中,胸部中部食道に円形の隆起性病変を思わせる陰影を認める(Fig.1a,b).

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 患 者:長○コ○ 73歳 女性

 主 訴:胸骨後のとう痛

 現病歴:手術の約8力月前より胸骨後部の不快感あり,5カ月前より周部のとう痛が出現したが食事には支障がなかった.某医での食道造影で食道癌の診断をうけ当科へ紹介された.

 X線所見 Eiに隆起性の約2cmの長さの異常陰影がみとめられる(Fig.1).

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 患 者:浜○ 昇 69歳 男

 家族歴:特記すべきものなし.

 既往歴:14歳の時,湿性胸膜炎.

 現病歴:1975年5月始め嚥下困難あり,5月中旬,某医院を受診,胃・食道X線検査で異常陰影を指摘される.富山中央病院にて精検の結果,食道癌と診断.7月14日当院を受診.7月17日当院外科に入院.

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 患 者:斉○道○ 74歳 男

 主 訴:嚥下時の軽いつかえ感.

 現病歴:糖尿病で7年前から内科に通院していたが,約半年前より嚥下時の軽いつかえ感が現われ,食道・胃のX線検査を受けたが見逃され,5カ月後の再検査で早期食道癌の疑いで当科へ紹介された.

 X線所見 来院前のX線検査でも,約半年前に癌の疑がもたれる(Fig.1).当科の連続撮影では,胸部中部(Ⅰm)後壁に,約5cmの壁不整,皺襞の乱れを認める(Fig.2).

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 患 者:杉○泰 58歳 男性

 主 訴:酒類や辛い物を摂取する時の前胸部痛および背部痛

 現病歴:昭和36年頃からウイスキーをダブル,ストレートで毎晩寝る前2,3杯飲んだ.同46年5月頃から主訴発生.同年9月当外科入院手術.

 X線所見 来院時,食道造影にて病変らしいものを認めなかった(Fig.1).

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 患 者:田○林○衛 68歳 男

 既往歴:昭和38年に脳軟化症として約6ヵ月の治療を受けている.

 現病歴:約1年前より軽度の倦怠感および食欲不振を訴え,昭和40年12月,精査を希望して来院した.

 X線所見 入院時,初回X線検査では上部消化管に特別の異常所見を認めなかった.再検時X線検査でも,わずかに下部食道の平滑さを欠く程度であった(Fig.1a, b).

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 患 者:小○ 篁 56歳 男

 現病歴:昭和36年に食道筋腫の診断を受け,同部に放射線治療を行なったことがある.昭和45年夏よりつかえ感が出現したが,肝障害が高度のため放置していた.昭和46年3月初診.

 X線所見 胸部中部食道に全周性の狭窄像を認める(Fig.1).

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 白壁(司会) 「食道癌の早期診断」を主題にして,関連する治療なども含ませていただきます.また,早期食道癌を扱うにしても,やはり踏み台になるのは進行癌です,これものも見逃しがないように早くみつける,それが早期食道癌もみつけることになる,というわけです.

 去年の放射線線学会臨床シンポジウムに「食道癌の診断と治療」がありました.そのときに,杏林大学の鍋谷教授が討論の項目を,(1)みつけるにはどうすればよいか,(2)診断の現状はどうなっているか,治療はどうなっているか,(3)外科治療と放射線治療の関連性と比較はどうか,に分けられましたね.この考え方は非常に有効で,合理的なものです.今日もそういうような順序で話を進めていきたいと存じます.

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 早期食道癌は,1966年山形ら1)によって最初に報告されて以来1974年末までに80例が報告されている.しかしながら,st-0癌はこの約半数例にすぎず,また,その病型は隆起型が多く,表層型や潰瘍型癌の報告例は少ない.

 われわれは,最近,小顆粒状隆起とびらんを特徴とする表層型st-0癌の1例を経験したのでこれを報告し,また1974年末までの報告例について考察を行った.

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 消化管に発生する悪性腫瘍の大部分は癌腫であり,肉腫は比較的稀である.われわれは回盲部に腸重積様陰影を呈した回腸末端部原発の細網細胞肉腫を経験したので報告する.

症例

 患 者:72歳 男性 農業

 主 訴:粘血便

 家族歴:姉・弟,肺結核にて死亡

 既往歴:15歳,腸チフス

 現病歴:朝食約1時間後に嘔気,嘔吐,腹部全体のとう痛をきたし,少量の粘血便をみた.近医にて鎮痛剤の投与をうけ,症状は軽減したが,翌日にも同様のとう痛と粘血便をみたため当院を受診した,食思不振はあったが,発熱,体重減少はなかった.

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 胃の類腺癌は極めて稀とされ,福田ら36)によれ

ば内外文献を通じて72例,うち本邦例は22例にすぎなかったという.また福田36),中村31),緒方33),佐野34),鮫島35),桑原37),松永38)らの例を加えると本邦例は40例となり,早期胃癌だけに限ってみると,鮫島らの報告した1例だけである.われわれも最近,類腺癌の早期胃癌例を経験した.本例は早期胃癌例として第2例目であり,また術前の内視鏡検査によって類腺癌と診断された最初の例となる.しかも本例は病理組織学的に多彩な所見を示し,発生論的にも興味ある症例と思われるので報告する.

症例

 患 者:72歳女子

 主 訴:全身倦怠感,食後の胃部不快感

 家族歴:両親ともすでに失っているが,生前は比較的健康であつた.兄弟および子供は健在で,胃疾患,胃症状をもつものはいない.

 既往歴:50年来,ときどき食後に胃部不快感と軽い心窩部痛をおぼえることがあったが,とくに治癒をうけるほどではなかった.

 現病歴:約2年前から心悸亢進,食欲不振の症状がみられるようになり,その後,さらに胃部不快感,全身倦怠感なども加わってきたので胃のレ線検査を受けたところ,幽門部に異常を指摘され,精密検査をうけるために当科受診となった.

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 食道における早期癌も,この数年全国各地で報告されてきたが,その数は胃における早期癌に比べれば遙かに少なく,遠隔成績など多くが今後の検討にまたねばならない点が多い.

 食道の早期癌は食道癌取扱い規約1)により「癌の浸潤が粘膜下層までで,リンパ節転移のないもの」と定義されている.癌の深達度が粘膜下層までのもので,リンパ節転移のあるものは表在癌とよんで,早期癌(つまりstage 0癌)と区別し,さらに,術前合併療法として放射線治療や化学療法をおこなったときには,それぞれR-早期癌,Ch-早期癌の様に符号をつけることにしている.

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 色素剤を用いた内視鏡検査法は,1966年胃病変に対する色素撒布法1)として完成され,以後,目ざましい進歩をとげてきた.他方,食道内視鏡検査に於ても,1972年当センターの遠藤らの主に青色系色素を用いた色素撒布法2)と1971年Brodmerkelらのルゴール液を用いた方法3)が発表された.これを出発点に食道粘膜の特徴をとらえた独特の発展をとげてきている.筆者らは1972年の遠藤の発表以来,主に青色系色素を用いた食道色素法を行なってきたが,食道癌を中心にした食道小病変の診断に有効であると考えられるので,これまでの知見と,最近筆者らが試みているトルイジンブルー・ヨード食道二重着色法についても合わせて述べる.

現在行なわれている食道色素法

 現在,食道色素法に用いられている色素剤は,青色系色素として,トルイジンブルー(以下T.B.と略す.),エバンスブルー,メチレンブルー,などがあり,これと並んでルゴール液が多く用いられている.筆者らは青色系色素剤として最近はT.B.を多用している.T.B.は,メタクロマジーを有するサイアジン系色素である.T.B.の利用は,1899年Pappenheimおよび1902年Unnaにより核酸の染色法として報告され,1952年Kurnick4)により改良されている.臨床医学的T.B.の利用は,当初T.B.の抗ヘパリン作用または止血作用を用いたもので,1950年代に婦人科における異常出血の治療を目的として用いられた.投与経路として経口,経静脈投与が行なわれている5)~9).T.B.を粘膜病変の診断に用いたのは1962年M.S.Strongらにより口腔粘膜の癌性病変を中心にして補助診断法として用いられたものにはじまる.これ以後口腔外科に於て多用され,拡大鏡の併用により,微細な粘膜病変の診断が行なわれて,粘膜内癌の発見,浸潤範囲の決定,多発病変の診断等に有効とされた10).消化管の粘膜病変の診断に対するT.B.の利用は,1972年山川らが動物を用いて胃悪性病変に対する各種投与法による効果と副作用につき報告している11).内視鏡下の食道疾患診断のためにT.B.を用いたのは,当センターの遠藤らの発表した直視下撒布法が最初である2).これ以後,筆者らが,第16回日本消化器内視鏡学会にて各種食道病変のT.B.法所見につき報告し,1974年第12回消化器内視鏡学会秋季大会にて,T.B.法の着色機転に関する報告を行なっている.また,1975年神津らの報告も筆者らの結論と一致する12)

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 近年膵疾患の診断には,十二指腸ファイバースコープによる逆行性膵管造影検査および直接膵液採取による細胞診が行なわれるようになり,その診断率は向上してきた.しかし,膵管造影所見のみでは慢性膵炎と膵癌とは鑑別困難なことも少なくない.また,膵液細胞診は膵液中に常に一定の数の新鮮な癌細胞の遊出を条件とするため,膵体尾部癌の診断には限界がある.

 筆者らは,数年前より潰瘍治療用に作られた胃内視鏡用注射針を改良し,先端の針の長さを長くしたものを試作した.これは注射針を逆に吸引針として使用するもので,胃の粘膜下腫瘍や癌の粘膜下浸潤の細胞診に供した.これらの手技,方法および成績については既に報告した3)~5).この長針を輩直に刺入した場合,胃壁を十分に通過し,近接他臓器に3~4mm刺入可能である.そこで筆者らは臨床的に膵癌を疑い,胃造影検査や胃内視鏡検査で胃後壁が前方に圧排された症例について,胃ファイバースコープ(GFB,Type B2)を使って,膵組織の経胃的な吸引細胞診を試みた.

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 ブドウ糖液が胃排出に及ぼす影響については,Huntら1)はすでに十二指腸にあると想定されるOsmoreceptorによって液の浸透圧に応じたコントロールがあるとされている.浸透圧が高いほど胃排出は遅延する.

 胃排出は種々の胃の病態や胃液分泌能と関連している2)~4)ので,当然ブドウ糖液を胃内に注入したとき胃排出に関して生ずる反応も,それぞれの病態や胃液分泌能によって異ってくるであろうと推定される.著者らは,種々の胃疾患におけるブドウ糖の胃排出に及ぼす影響を検討したのでここに報告する.

一冊の本

Diseases of the Esophagus 竹本 忠良
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 先日,新潟大学第三内科(市田文弘教授)の非常勤講師として,学生相手の講義をしたのであるが,このときのテーマは食道胃接合部病変であった.予想以上に学生の反応も生々として,質問も活発で気持がよかった.

 この講義のための勉強に成書としてもっとも参考としたのがこのSpringer-VerlagのDiseases of the Esophagusである.食道の専門書としてはW.S.PayneとA.M.Olsenの共著The Esophagus(Lea&Febiger,1974)もあり,この方は339頁のたいへん手頃の本である.

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 〔症例4〕T.R. 57歳 男

 図1は圧迫像で幽門前部大彎よりに小さいポリープ状隆起がある.図2は小伸展の背臥位二重造影像で,ポリープ状隆起(太い矢印)の口側に接して不規則な溝状の小さい陥凹(細い矢印)があるのを認める.図3はJFによる近接像である.半球形の小隆起をかこんで,溝状の不規則な浅い陥凹があり白苔の付着をともなう.悪性びらんを考えⅡa+Ⅱcの周辺陥凹型と診断した.なお周辺のAreaには典型的な症状胃炎の像に乏しかった.

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 M.N. 46歳 男

 内視鏡所見:(図1)G.T.Fの所見.角上部より胃角部を通して前庭部を見ると,その小彎より前壁にかけて広い環状の隆起が目立つ.隆起は粘膜下から厚くもり上っている.即ち,大彎側より前庭部前壁に集る多数の粘膜ひだがそれぞれの先端に近く結節状にもり上り,ドーナツ型に連なり環状隆起をなしている.この環状隆起の内側は浅く凹み,不整形の小潰瘍が多発している.この浅い凹みは小彎で角上まで広がっている.しかし隆起は角上へは及んでいない.この広い病変の範囲に比して,この部を含んで胃壁の伸展性は極めて良い.

 レ線所見も内視鏡像と同様で,その所見はいずれもまず悪性リンパ腫を考えさせる.

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欧文目次

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 Hypersecretion of Glucagon and Gastrin in Severely Burnt Patients: C.I.Ortin, A.W.Segal, S.R.Bloom and J.Clarke (Brit.Med.J. 2: 170~172, 1975)

 熱傷患者の血中Glucagon(以下Gl)とGastrin(以下G)を以下の目的のために測定した.

 ①熱傷者において何がGlとGの分泌を促進させる因子なのか,②Glの分泌と生化学的変化との間に因果関係があるのか,③G分泌と消化管の急性ストレス潰瘍との間には何か関係があるのか.

編集後記 竹本 忠良
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 われわれはここについに早期食道癌の特集号を手にしたというのがいまこのあとがきを書いている率直な感想である.この号がよいキッカケになって,早期食道癌の診断学が太い幹に成長することを期待したい.食道でもどんどん早期癌をみつけようではないかという気運がもりあがってほしいものである.

 残念なことには,現在まで集計されている早期癌は58例に過ぎない.とはいえ,今後2,3年にして1施設で10例,20例と症例をもつようになってくれば,この診断学はすっかり姿を変えてしまうかもしれない.

基本情報

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胃と腸
11巻3号 (1976年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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