胃と腸 11巻2号 (1976年2月)

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 小腸は口からも肛門からもかなりの距離があり,腹腔内を上下・左右に迂回し,腸管が重なるため病変部を明確に指摘しにくいこと,また元来小腸疾患が胃や大腸に比較して頻度が低いこともあって,その診断学は他の領域に比べかなり遅れていたことは確かである.

 しかし近年,これらの悪条件は各種検査法の手技の進歩,器種の開発によって改良されてきた.すなわち,まず小腸のX線検査は非常に長時間を要し,かつ得られた所見は機能的な修飾をうけて複雑,多彩で恒常性を欠く欠点があったが,造影剤の投与法や撮影法の工夫により,小腸のびまん性病変のみならず,局所病変をも明確に描出することができるようになった.また,小腸内視鏡についても器種の改良と挿入技術の向上により深部まで観察・生検も可能となってきた.

小腸二重造影法 小林 茂雄 , 西沢 護
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 消化管のレントゲン診断は,二重造影法が主体になって急激な進歩・発展がみられた.しかし,小腸に関してはまだ従来の経口法が主体になっている.ゾンデ挿入による二重造影法が病変を良好に描出できることはだれもが理解しているにもかかわらず,その方法が広く行われないのは,ゾンデ挿入,バリウム注入などに医師自身の手数がかかること,および,小腸自体に,病変が少ないために,検査に熱がはいらないためと思われる.

 しかし,最近は潰瘍性病変を中心に小腸の疾患が注目されてきた.内視鏡がまだ充分に深部に到達できず,生検機構などに問題があり,また患者の苦痛などを考えると,良好なレントゲン写真を撮ることが診断への早道である.

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 1969年に完成された十二指腸ファイバースコープ1)は,それまで食道と胃に限られていた上部消化管の内視鏡領域を,ついに小腸にまで到達させた点で画期的なものであった.長い間内視鏡の進入を退けていた小腸に対するその後の十二指腸ファイバースコープの普及は目ざましく,単に十二指腸の観察だけに止まらず,逆行性膵胆管造影や最近では内視鏡的乳頭切開術などにまで応用されるようになった.

 この十二指腸ファイバースコープの実現は必然的にさらに深部の小腸(すなわち空腸及び回腸)への内視鏡開発を促すきっかけとなり,1970年には早くも十二指腸ファイバースコープによる空腸観察が行われている2)が,これに続いて1971年頃から小腸専用内視鏡の開発が試みられるようになった.

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 小腸へのアプローチは,アイソトープや小腸内視鏡下生検で機能と形態を対比しつつ,ようやく“暗黒の大陸”が明けるごとく手掛りをつかめるようになってきた.もちろん昔から消化吸収の機序は研究されていたが,絨毛上皮のbrush borderについての最近の研究は今までの消化吸収の考えを大きく修正した.また,小腸性下痢の機序はコレラを中心にして一段と分子レベルに近づいてきている.また昔からcoproantibodyの考えはあったが,腸における免疫の機序も明らかにされてきた.本稿では,小腸の吸収,漏出,分泌,免疫の面から最近の知見と著者らの成績について述べてみたい.

胃と腸ノート

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S.K. 65歳,男

 レ線検査(図1)で立位充盈像並びに二重造影像で,胃角部にニッシェを見る.ここに粘膜ひだの集中があり,その中心潰瘍部のバリウムの溜りは点状で小さい.この胃角を中心として角上より前庭部にかけて小彎に浅いⅡcの陥凹を見る.病変部は全体にかたく伸展性は悪い.粘膜ひだは,口側より角上部に集まり,その先端はやせ蚕蝕を見るが,融合はない.幽門側はこれとは異る大小不整の隆起が集合し陥凹部に接している.レ線診断は(Ⅱc+Ⅲ型)進行癌とした.

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 〔症例3〕S.M. 59歳 男

 図1は幽門前庭部の軽い第一斜位の圧迫像である.やや小彎側にずれて圧迫しているため,あまりよい写真ではないが,同部位に粗大顆粒状,一部ポリープ状の粘膜像がみられ,それらが粘膜ひだの上に蛇玉状にのっているのがわかる.図2の圧迫像ではC字形を示す蛇行型の粘膜隆起がみられ,完全に環状にならず一部口側が開放している.以上より疣状胃炎と診断したが,蛇行型のものはその大きさから,Ⅱa+Ⅱc型の早期胃癌を疑い,深達度mと考えた.

研究

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 上部消化管の肉眼病理学的な研究はレ線,内視鏡診断学の進歩とあいまって,微細な粘膜面の変化の観察に至るまで,著しく進歩した.一方,小腸の肉眼病理学的な観察は特殊性炎症や腫瘍性病変については精細な報告があるが,非特異的な変化や1mm前後の微細な変化についての報告は少ない1).この主な理由は剖検では死後直ちに腸管を固定しないかぎり粘膜の自家融解が起こり,微細な病変を観察し得ないからである.小腸ファイバースコープの開発とその実用化への努力は,小腸粘膜の肉眼病理を大いに進歩させるものと思われる.著者は昭和39年以来,岡山大学第一内科剖検例,川崎医大消化器内科剖検例について,死後Rigor mortisに至る以前に腸管内に10%フォルマリン,または2.5%グルタルアルデヒドを注入し充分に空腸全域を固定し,上部消化管粘膜の肉眼病理について検討を続けて来た.本論文では,十二指腸病変を除き,空腸粘膜の肉眼所見について代表例を呈示し報告し,一部,小腸ファイバースコープ(SIF-Type B)について観察し得た内視鏡像を呈示したい.

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 急性胃ヘテロケイルス症における虫体穿入部周辺の胃粘膜の状態は,すでに報告1)2)されているごとく穿入部を中心に発赤・腫脹し所々に出血班や出血性ビランを伴うものもあるが,なかにはほとんど正常に近い状態を示すものも観察されその粘膜変化は決して一様ではない.本症は1970年並木ら5)がAnisakis幼虫Ⅰ型を,1972年筆者ら3)4)および鈴木ら6)がTerranova幼虫A型をそれぞれ急性胃炎様患者胃内より摘出してから明かになった疾病であり,激しい臨床症状を呈してKatzら7)のacute gastric mucosal lesionの,または川井ら8)の急性胃病変のカテゴリーに属するが,比較的短期間に経過することが多いのでその病理組織学的変化については二,三1)2)9)の報告はみられるが必ずしも充分解明されたわけではない.そこで本症の生検像と動物実験における所見を比較し,本症の成因について若干の検討を加えてみた.

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 胃上部癌,特に噴門部癌は,最近のX線検査や11)~13)16)23)内視鏡検査技術の進歩にもかかわらず4)15)18)21),早期胃癌として発見される頻度が低い.最近われわれはいわゆる食道胃粘膜接合部のⅡa型早期癌を経験したので報告する.

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 早期胃癌分類が提唱されて十余年,いまや早期胃癌はさほど珍しくなくなったが,今日においても癌,非癌の鑑別に困惑することがある.これらのうち潰瘍瘢痕との鑑別上最も注意すべきものはⅡcあるいはⅡc+Ⅲ型早期胃癌である1).従来,潰瘍瘢痕は陥凹性病変の終末像と考えられ,隆起を呈した潰瘍瘢痕についてはあまり検討されておらず,石川ら2)が内視鏡所見から潰瘍瘢痕を陥凹型,平坦型,隆起型に分け検討しているにすぎない.

 著者ら3)4)も隆起を呈した潰瘍瘢痕は臨床的に注意すべき病変であることを報告したが,このたび,隆起を呈した潰瘍瘢痕に酷似したⅡc型早期胃癌を経験したので,若干の考案を加えて報告する.

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 小腸における潰瘍性病変,特に非特異性潰瘍についてはいまだ不明な点が少なくないが,近年,診断法の進歩に伴い新しい知見が数多く報告されてきた1)~7).筆者らは炎症性ポリープを伴う非特異性多発性潰瘍を経験したので報告する.

症例

 患 者:T.M. 65歳 家婦

 主 訴:下腹部痛

 現病歴:昭和33年食後に時々嘔吐あり,某医にて上部小腸に狭窄を認められ約10cmの切除を受けた.術後の経過は良好であったが,約半年後より時々下腹部痛,嘔吐をきたすようになり,再び某医を受診するも異常なしといわれた.腹痛は嘔吐によって軽減し,腹痛発作は年2~3回程度にまで減少したので放置していた.昭和50年5月子宮癌のため本学婦入科に入院し放射線療法を受けた.この治療中に持続性の下腹部痛をきたすようになり当科を紹介された.なお,今回は悪心,嘔吐は認めなかった.

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 小腸の形態学的診断法としては,従来から腹部単純X線検査にはじまり,X線透視,血管造影,string-test,腸紐,盲目的小腸生検などがその中心としてなされてきたが,その診断は困難なことが多く,臨床的にも原因不明の腸閉塞,腸管穿孔,下血等の重篤な症状を呈して,開腹術や剖検によってはじめて診断がなされることがたびたびである1)2)

 一方,小腸の内視鏡観察の試みとして,経腹腸鏡による回盲部観察3)4),十二指腸fiberscopeによる空腸上部の観察,大腸 fiberscopeによる逆行性の回腸終末部の観察などが試みられてきたが5)~7),近年,より広範囲の小腸の内視鏡観察を目的として,小腸fiberscopeの試作・開発がさなれている4)~9)

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 非特異性多発性小腸潰瘍症として,外科的治療を施行した症例の摘出小腸と腸間膜リンパ節の病理組織学的再検討を行なったところ,その組織所見は従来本邦にはほとんどないとされていたWhipple病のそれにほぼ一致することが判明したので報告する.

症例

 患 者:00-00-73,45歳 男

 主 訴:浮腫,貧血,下痢

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 腸管に発生する悪性リンパ腫は,比軽的稀な疾患とされている.筆者らは最近,腸重積を伴った回盲部細網肉腫を経験したので報告する.

症例

 患 者:61歳 男子 鮮魚商

 家族歴・既往歴:特記すべきものなし.

 現病歴:昭和48年夏頃より腹部膨満感あり,便通があると消失したが,便通異状,下血などは伴っていなかった.同じ頃より,回盲部に患者自身,腫瘤をふれるのに気づいたが,腫瘤は,日々よりふれたりふれなかったりした.49年1月,腹部膨満感,回盲部腫瘤を主訴として来院した.

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 “Linits plastica”癌という用語は,長い間胃に限って考えられ,使用されてきたが,1931年Coe1)の記載により,腸のlinitis plastica癌が注目され始めた.すなわち,彼は胃のlinitis plastica癌の転移による左右結腸曲と直腸のsecondaryのlinitis plastica癌の1例を報告し,腸におけるこのような症例の記載はこれまで教科書やレ線関係文献にないとした.しかし,1936年Dixonら2)は,1つあるいはそれ以上の腸を侵すlinitis plastica癌をCoe以前の報告も含め37例引用し,自験症例6例と合わせ43例記載した.David(1931)3)の胃の状態に関する言及がない直腸の1例,および自験症例1例の胃空腸吻合術後11年経ても生存中の幽門および十二指腸第2部に病変があった症例(組織検査非施行)も含めているが,Dixonらはこれらはすべて胃癌の転移によるものと考えた.その後,今日まで約100例の大腸のsecondaryのlinitis plastica癌の報告をみているが,そのほとんどが胃癌,すなわち胃のlinitis plastica癌の転移によるものであり4),ごくまれに乳癌5),胆囊癌6)からの転移によるものが知られている.大腸原発性のlinitis plastica癌が初めて提起され,記載されたのは1951年のLaufman and Saphir7)の4例報告に始まる.その後,ごく最近まで29例の大腸原発性のlinitis plastica癌の報告をみるにすぎず(次頁Table 1),きわめてまれである.Fahlら8)によれば,1930年から1953年までの間にMayo Clinicで剔出された大腸癌12,000例のうち,11/例がlinitis plastica typeであったとしている.ただし,彼らはそれらに関して,大腸原発性である根拠は何も言及していない.また,Pineda and Bacon9)によれば,1,778例の大腸癌のうち3例がlinitis plastica癌で,そのうち1例は胃に悪性変化はなかったと記載している.primaryのものは勿論のことsecondaryのものもきわめてまれといえる.

 著者らは大腸原発性のlinitis plastica癌の3例を経験したので報告し,これまで報告された症例と合わせ,大腸原発性のlinitis plastica癌の臨床病理学的特微を検討した(剖検がなされていず,胃の状態に何ら言及がなされていない症例はprimaryの収載から除外した).

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欧文目次

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 Percutaneous Aspiration Biopsy of the Pancreas under Ultrasonic Guidance: Edward H.Smith, et al. (N.Engl. J.Med. 292: 825~828, 1975)

 周知のごとく膵の悪性病変を見いだすことは大変困難であり,確定診断にあたっては,通常試験開腹が行なわれているのが現状である.著者らは,Arnesjöらの穿刺針吸引生検による膵細胞診と外科的手技によって得られた膵組織診断とが大変よく一致したという報告およびデンマークのHanckeらによる超音波法下での膵の吸引生検の報告を検討し,臨床的に膵癌が疑われた7人に超音波法下での経皮的吸引生検を実施.

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 大変面白くて,ためになる本である.この頃,しばしば原点に還れという言葉が使われる.この本は外科医が原点に還るのに誠にぴったりのものである.しかも原点に還るということは,一般には堅苦しく,窮屈になりがちなものであるが,この本にはそれがない.原点に還りながら,そこに最も新しい考え方が注入されている.実は本当の零の原点ではないからである.10単位だか20単位だか知らないが上に上がっていて,再びもとの座標軸の上に戻ってきたという書き方だからである.

 例をとろう.深い所の血管を,助手にしばってもらうと,かえってひきちぎれて逆効果になることがある.こんな時,われわれはせいぜい「注意して縛れ」としか言わない.それがこの本ではどういうふうに注意したらよいかが書いてある.

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 臨床医学においてX線診断法の価値は他の理学的諸検査の中で最上位にあり,今後もそうであることは間違いないと思われる.しかし,他に比肩しうるものがない重要な臨床情報を呈する反面,X線被曝というデメリットもあり,やみくもにX線検査を施行することは避けなければならず,厳格適正な適応がなければならない.この適応の基準となるのが臨床所見であり,特殊X線検査の導入の基準となるものが一般撮影である.近年,観血的X線検査法が激増しているが,その基礎となる一般撮影の重要性は今後も変らないであろう.

 Greenfield著「A Manual of Radiographic Positioning」は,この一般撮影の技術と出来上ったフィルムの読影に当って,知らなければならないレントゲン解剖およびフィルムの良否を知るチェックポイントについて明解に記述されており,フィルム,解剖の挿絵,線画が誠に実用的に盛り込まれた著書である.

編集後記 熊倉 賢二
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 小腸疾患は,近ごろ学会でもよく話題になるし,本誌でも何回か取り上げられてきた.消化管の診断にたずさわるものなら誰しも“いよいよ本格的に小腸疾患の診断に取り組む番だ”と考えているに違いない.そして,X線検査では二重造影法がルーチン化しつつあるし,小腸ファイバースコープの改良が強力に推進されているから,胃や大腸のように,これから小腸でもめざましい進歩があると期待している向も多いことだろう.この時“小腸疾患の現況”を特集できたことはよろこばしい.本号だけでは小腸疾患をすべて網羅することはできないが,現在のわが国の水準や動向を理解するのに役立つからである.

 ところで,小腸には特殊事情があるようである.1つには小腸疾患の頻度が少ないことである.欧米に比べても少ない.胃や大腸のように,各種のX線検査法の利点と欠点とを再検討したうえで小腸のX線検査理論をうちたてても,また,内視鏡のよりよい器種を開発しても,頻度が少ないとなると,症例の集積に時間がかかり,進歩がにぶることになるだろう.その反面,気がつくことは,現在のファイバースコープを使って小腸の病態生理の面で独創的な論文が本誌にも発表されていることである.小腸は暗黒大陸だといわれるのもうなづける.それとともに,いろいろの分野の知識の総合が必要なこともわかってくる.

基本情報

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胃と腸
11巻2号 (1976年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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