臨床検査 34巻7号 (1990年7月)

今月の主題 集中治療室での検査

巻頭言

集中治療室はいま 都築 正和
  • 文献概要を表示

 集中治療―Intensive Care―とは今日ではすっかり定着した概念となっている.現在の医療,ことに高度医療が行われている医療施設においては「集中治療室―ICU」なしには高度の医療そのものが成り立たなくなっている.集中治療室が本邦で誕生してからすでに30年以上が経過した.このような歴史を経た現在,その建築施設,機器,組織,人員構成,運営などはすっかり安定した状況となっていると思われるかも知れないが,事実はいまだに多くの問題点を抱えている.

 これらの諸項目の中で,建築,設備,機器などのハードウエアについては世界のどこに出しても恥ずかしくない一流のものが備えられ使用されている.いくつかの例を挙げれば,循環器系モニター(中にはコンピューター化されたものもある),不整脈監視装置,高度の機能を持つ人工呼吸器とその使用に必要な医療ガス配管システム,迅速検査機器などが挙げられるし,最近ではこれらをシステム化し病院全体の医療情報と連携することも実用化の域に達している.一例を,きわめて重症でICUに収容・治療されている患者の検査に例をとってみると,最近の迅速検査機器,例えば緊急用生化学検査機器,血液ガス分析機器などを使用し,それらのデータをコンピューターによってオンライン処理することによって最適な治療を迅速かつ的確に行うことができる.これらの詳細な内容はこの特集でいくつかの専門分野に分けて述べられる.

  • 文献概要を表示

 循環機能のモニターは集中治療室における重症患者管理に必要不可欠である.循環機能とは,前負荷,心機能,後負荷,末梢循環などを総称的に表現した概念であり,通常,心電図モニター,動脈圧モニター,中心静脈圧モニター,尿量モニター,体温モニター,動脈血ガス分析などにより評価される.また近年普及したスワンガンツカテーテルはこれら循環機能を総合的に把握し,より一歩踏み込んだ病態診断を可能とした点で,きわめて有用である.しかしながら個々のモニターにはおのおの,利点と欠点があり,モニタリングに伴う合併症の中には決して無視できないものもある.これらを十分わきまえたうえでモニターを利用し,循環動態が安定したならば可及的早期にモニタリングを中止することもまた大切である.

  • 文献概要を表示

 ICUに限らず,呼吸モニターの基本は呼吸数,意識レベルなどバイタルサインと呼吸パターンの正確な把握である.今後,センサーの改良と開発,および情報処理技術の進歩などにより呼吸モニターの方法は,さらに発展すると思われるが,そのような新しい手法や技術を生かす意味においてもベッドサイドにおける臨床的モニターの知識と技術はいっそう重視しなくてはならない.監視装置はあくまでも,患者の状態を実時間で把握するためのひとつの手段であり,その機能を十分に生かすためには,相応の臨床的経験と能力を前提としていることを忘れてはならない.

  • 文献概要を表示

 重症治療室における腎機能のモニタリングの適応は糸球体病変や間質性病変など腎疾患に伴う腎機能障害ではなく,虚血や腎毒性物質を原因とする腎機能障害である.腎は虚血の影響をきわめて受けやすい臓器である.腎機能のモニタリングは早期に腎機能の低下を評価し,急性腎不全が完成する前に腎の機能を保護するために行われる.腎機能を反映するパラメーターは数多くあるが,中でも自由水クリアランス,FENa,クレアチニンクリアランスは有用である.

  • 文献概要を表示

 集中治療室における脳神経機能のモニターは意識レベルや神経症状などの臨床所見の推移の把握として長らく実施されてきた.呼吸・循環系のモニター機器が比較的早期から実用化されていたのに対し,脳神経機能のモニターが,今なお重要ではあるが「古典的」な臨床症状の把握によらざるをえなかったのは,脳神経機能の情報を器械によって取り出すことが困難なためであった.近年の科学技術の革新と医療技術の簡素化および工夫で脳神経機能を医療機器によってモニターすることが可能となった.脳波検査は早くからその地位を確立していたが,最近では頭蓋圧測定と脳幹誘発反応が集中治療室においてモニターとして定着してきた.さらに多くのモニターが望まれるところであるが,簡便性,再現性(信頼性),安全性,非侵襲性などの点で改良,開発が期待される.

集中治療室での画像検査 芦川 和高
  • 文献概要を表示

 集中治療:Intensive careとは生命の存続を脅かされている患者の病態を把握して専門的な立場から速やかに治療を施すことである.いかなる医療も適格な診断がなければ正しい治療は施せない.とりわけ救急患者は寸刻を争うような病態に対応した計測,画像検査,処置と治療が同時に進行する.集中治療室が求める画像は治療と経過の対比にきわめて重要で,救命率の向上の一翼を担っている.そのため鮮明な画像が得られないときにはちゅうちょすることなく再撮影を行うか,別の方法で適格な画像で診断することがもっとも親切な医療である.

話題

  • 文献概要を表示

 ICUとは重症患者を一挙に集め,独立した看護体制下に高度の医療を行う施設で1970年代から普及したが,時を同じくして一般消化器外科や救命救急センターなどできわめて重篤な病態としてのMOFとその進転や転帰を大きく左右するDICが注目されるようになった.本稿ではそのDICとMOFの一般論を今日の問題点について,一般消化器外科での体験をもとにまとめ,最後にICUでの集中治療で救命し得た典型的実例を紹介した.

  • 文献概要を表示

 ICUにおける院内感染として最近注目されているのはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)である.患者の周囲環境の調査をしてみると,交叉感染だけでなく空気感染の可能性が示唆された.また緑膿菌,P. cepacia,E. faecalisなどは院内感染をひき起こす危険性があり,つねに注意を要する.さらに真菌はcompromised hostの起炎菌としてとらえるだけでなく,環境感染の原因菌として着目していくべきであると思われる.

  • 文献概要を表示

 集中治療室の発展によって,従来は致死的であった患者の多くが救命されるようになった.この集中治療の基本は,検査技術の進歩によって可能となった患者の状態のモニター情報を基に行う効果的な集学的治療である.集中治療室における検査技師,臨床工学技士の役割は今後増々大きくなっていくと思われる.このような状況の中で,集中治療室について,検査技師として知りたいこと,検査技師に知ってもらいたいことを,集中治療領域の専門家に語っていただいた.

カラーグラフ

学会印象記 第39回日本臨床衛生検査学会

診療に直接役だつ検査を求めて

臨床化学部門から,他 安部 彰
  • 文献概要を表示

 臨床化学部門に関して第一日目シンポジウムと第二日目一般演題のなかから印象的な内容について記す.なお,前日のナイトセミナーと第二日目の指定演題「迅速検査の現状と将来」においても関連する内容が報告された.

 シンポジウムは「臨床化学領域における精度管理のあり方―施設間差の解消法―」について筆者と大貫経一氏(水戸病院)の司会で行われた.最近,検査データの医療機関での共通化すなわち互換性についての要求がとみに高くなっている.当日は朝からあいにくの雨であったが,会場のホールには定刻から500人ほどの聴衆が集まり,このテーマに対する関心の強さがうかがえた.従来あまり効果が期待できなかった外部精度管理のあり方をとりあげ時宜をえたテーマであった.

腎臓病の病理・7

  • 文献概要を表示

 ループス腎炎は,SLEにみられる糸球体腎炎で,多彩な組織像を呈することが知られており,WHO分類では,病変の程度により6つのタイプに分けられている.糖尿病では,長期間にわたる高血糖状態など種々の因子により,糸球体に硬化性病変,滲出性病変が招来されるが,特に結節性病変が特徴的である.アミロイド腎症は,血管壁や糸球体のメサンギウム,基底膜にアミロイド線維が沈着することによるもので,多発性骨髄腫をはじめ,さまざまな疾患に続発する.肝性糸球体硬化症は,慢性肝疾患に認められる糸球体病変を指すが,腎機能障害とはあまり関係はない.

TOPICS

  • 文献概要を表示

 心臓や血管の病変の診断法には非観血的方法と観血的方法とがある.観血的方法は,非観血的方法に比べて,より正確である.しかしながら従来の観血的方法は造影法という影をもって病変をとらえる方法が主体であり,したがって病理学的診断には難がある.消化器,泌尿器,呼吸器などの疾患には直接,眼で病変を観察し診断する内視鏡が盛んに行われている.心臓血管系についても,最近ようやく,内視鏡により病変を観察し診断することが可能となった.したがって眼による病理診断,すなわち,肉眼病理学を展開することが可能となったわけである.

  • 文献概要を表示

 肝臓はエネルギー代謝の中心的な役割を担う臓器であり,末梢のエネルギー需要に応じてエネルギー基質を産生・供給あるいは加工・貯蔵している.肝障害時には,こうした機能が乱れ,利用しうるエネルギー基質も質的変化を生じる.グルコースは,グリコーゲン貯蔵量が低下し糖新生能が低下するため血液への供給がうまくいかず,脂肪酸の酸化によって需要に答えようとし,ケトン体をエネルギー基質として供給する.この脂肪酸およびケトン体はミトコンドリアにおけるATP産生時にグルコースに優先して利用され,グルコースを節約する方向に進む.また,全身の骨格筋で蛋白異化が亢進し,そのアミノ酸がエネルギー基質として利用され炭素骨格よりグルコース骨格が提供される.

 血液成分分析より肝障害時にこれらエネルギー基質が特異なパターンを示すことが指摘されているが,その一つに"アミノ酸インバランス"という状態がある.

  • 文献概要を表示

 昨年10月より労働安全法令が大幅に改定され,その一環として有機溶剤中毒予防規則も改定された.その要点は下記のとおりである.

新しい下痢原性大腸菌群 本田 武司
  • 文献概要を表示

 下痢を引き起こす大腸菌は一般の常在フローラを形成する大腸菌と一部異なる特性を有し,下痢原性大腸菌(あるいは広義の病原大腸菌)と総称される(表1).これらのうち,ETEC,EIEC,EHECに分類される大腸菌については,すでに病原因子が明らかにされている(表1).

 これに対し,EPECの存在はもっとも古くから知られ1955年にはEnteropathogenic E. coliと下痢原性大腸菌の中で一番早く名付けられた1)にもかかわらず,特定のO:K血清型に集積するということ以外は,病原因子の同定が遅れていた.1979年になってCraviotoらはEPECの約80%の菌株がHEp-2細胞(喉頭類上皮癌由来細胞)に付着することを報告2)し,その後の詳細な検討により,さらに"局所性"に付着するiocalized adherenceと"分散性"に付着するdiffuse adherenceの2型に大別されることが見いだされた3).前者の付着に関与する因子はEPEC adherence factor(EAF)と名付けられ,約60 MDa大のプラスミドに支配されている3).このEAFの本態としては94KDaの外膜蛋白4)や32 KDaの表層蛋白5)がいわれているが,まだ十分明らかになっていない.

  • 文献概要を表示

 機械的消化と化学的消化を行う消化器の検査法としては種々のものが考案されているが,胃腸を構成する平滑筋を対象とした筋電図検査は通常の横紋筋のそれに比べて測定手技や導出された波形の分析などが標準化されていないのが現状である.今回われわれは胃平滑筋の機械的機能を測定するため,特殊電極の改良と内視鏡を用いた平滑筋筋電図の導出を試み,それらの比較検討を行った.

  • 文献概要を表示

 Streptomyces violaceochromogenesから精製されたプロテアーゼ401がブタ由来L-Aspartate:2-oxoglutarate aminotransferase(AST,EC 2.6.1.1.)のアイソザイムである細胞質由来AST(c-AST;cytosolic AST)の活性を阻害する事が報告されている.その報告に基づき,ヒト由来ASTにこのプロテアーゼを作用させてc-AST活性を阻害し,ミトコンドリア由来AST(m-AST;mitochondrial AST)の分別定量について検討した.その結果c-AST活性を短時間に阻害させることができ,残存するm-AST活性を分別定量できる事が確認され,臨床検査に応用できる可能性が示唆された.

  • 文献概要を表示

 風疹HI抗体検出試薬セロディアールベラ(S法)を用いて測定していた民間A検査センターから風疹HI抗体≦1:16と判定された血清50例を得,予研法HI抗体とELISA (ルベスタット)による風疹抗体を測定した.S法<1:8の26例中予研法では7例が陽性(1:8が1例,1:16が6例)を示し,さらにS法1:16の24例は予研法では1:32が1例,1:64が15例,1:128が8例と高い値を示した.ELISAによるIgG型抗体は,予研法で1:16≦の30例が全例陽性を示した.予研法HI価とELISA抗体値の相関はγ=0.90と高く,良い相関を示したのに対し,S法の陽性例は全例1:16であったので相関係数は得られなかった.

  • 文献概要を表示

 最近開発されたCA 19-9染色キット(トーレ・フジバイオニクス社)を用い各種消化器癌症例の染色を行い,染色キットの有用性について検討した.今回対象とした消化器癌24例(胃癌,大腸癌,胆嚢癌および膵癌各6例)においてはCA 19-9染色陽性率は癌部で91.2%,非癌部では63.6%であった.また染色性についても,諸家の報告による消化器癌のCA 19-9染色パターンの判別が可能であった.この染色キットの使用により比較的,免疫組織化学の経験に乏しい施設においても容易かつ正確にCA 19-9染色が可能となり有用と考えられた.

  • 文献概要を表示

 村地孝先生が亡くなられました.知人からその連絡を受けた時に,あまりにもびっくりしてしまい,この知人を誠実な人として日頃から尊敬しているにもかかわらず,「まさか,間違いではないでしょうね」と,無意識に叫んでいました.

 村地先生は今年3月京都大学を定年で御退官されたばかりで,御退官祝賀会で筆者がお会いした時はたいへんお元気そうで,今後も後進の指導と研究に御活躍されることと期待しておりました.筆者はつい数日前に,「4月1日から関西医科大学で引き続き医学生の教育に当たる一方,ユニチカの中央研究所の技術顧問として,これまでの研究を続けられることになりました」と記された挨拶状を頂いたばかりです.

質疑応答 免疫血清

  • 文献概要を表示

 〔問〕ウイルス疾患(特に風疹)についてはIgMは臨床的に有用であるといわれていますが,その他の血清検査であるASO,ASK,トキソプラズマ抗体について,IgMの臨床的意義をご教示ください.

  • 文献概要を表示

 〔問〕抗核抗体測定において,核でなく,細胞質が陽性になっている場合があります.その染まりかたについてもいろいろありますが,なにか臨床的意義はあるのでしょうか.(試薬会社で調べてもらったところ,lysosomal型とかribosomal型などといわれました).

  • 文献概要を表示

 〔問〕liposme immune lysis assayの現状,さらにliposomeの具体的な作成方法についてご教示ください.

質疑応答 臨床生理

  • 文献概要を表示

 〔問〕努力呼吸を行わずに,通常の呼吸状態での検査で,換気異常をどの程度評価できるのか,ご教示ください.

質疑応答 その他

  • 文献概要を表示

 〔問〕450床の公立病院で,常勤18名,臨時1名の19名でひととおりのルーチン検査と毎日の待機業務をやっております.ほとんど毎晩呼出しがあり,毎日誰かが休憩をとって休んでいます.それでも,当院の1人あたりの仕事量は県内でも少ないと管理者からいわれます.院内では事務の当直は17時~22時まで,外来看護婦も22時までになる方向です.検査だけが,産休の補充も満足にできないままです.全国の緊急検査の実情と検査技師の労働条件をご教示ください.

基本情報

04851420.34.7.jpg
臨床検査
34巻7号 (1990年7月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

文献閲覧数ランキング(
10月7日~10月13日
)