呼吸と循環 33巻4号 (1985年4月)

巻頭言

気管支喘息研究雑感 牧野 荘平
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 医学における諸疾患の研究の第一の目的は,医学そのものの性質からいって疾患を治すことである。感染症のように病因が明らかなものは別として,喘息のように病因が不明であるものは病因の解明こそが終局的には真の治療と言えよう。当面の気道収縮の改善,治療が重要であるのは勿論であるが。

 我々の教室では開設以来喘息の研究を主要テーマの一つとしているが,その経験からの印象を述べてみたい。

綜説

妊婦の肺機能 白石 透
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 息切れは妊婦に極く普通に見られる症状である。Leonticは,息切れは妊娠の始めの28週間に見られる最も普通の訴えであり,労作時には60〜70%に出現するという32)。横隔膜上昇による運動妨害はそれ以後に著明となる筈であるから,この息切れは拘束性障害によるものとは考えにくく,運動時換気の増加など呼吸調節に関連づけて解釈するのが自然であろう。本論文では,妊娠に際しての肺機能の変化について,肺気量スパイログラムなど換気力学的な変化,並びに換気量動脈血ガス値などの呼吸調節上の変化を中心として述べる事とする。

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 心筋は一刻も休むことなく,収縮と弛緩を繰り返して全身に血液を送り続けており,このために莫大なエネルギーを消費している。心筋細胞の微小構造をこの作業面から分類すると,エネルギー産生系と消費系すなわち収縮系に2分することができる。心筋は,他の臓器と同様にエネルギーの大部分をアデノシン3リン酸(ATP)の形で高エネルギーリン酸結合として獲得し,このエネルギーを収縮,イオンの能動輸送,細胞構築の保持などに利用して機能を果している。

 本稿においては,心筋の最も基本的な役割である収縮系とこれを支えるエネルギー産生系に焦点をあて,超微構造と関連させて生化学的見地から概説する。

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 気管支喘息の特徴の1つに種々の物理的,化学的,薬理学的刺激に対する気道の過敏性があげられる。アメリカ胸部疾患学会による気管支喘息の定義1)によれば,"各種刺激に対する気道の反応性の亢進と努力性呼出障害が認められ,それが自然に,あるいは治療によって変化する"とされており,気道反応性の亢進の証明が診断の1つの根拠になっている。

 気管支喘息の診断は通常,病歴や理学的所見から容易な場合が多い。しかし,時には,病歴より気管支喘息が疑われても非発作時の患者を診察して気管支喘息と決めつけるのは困難な場合もありうる。この様な場合,被検者の気道反応性の亢進を証明することは気管支喘息の診断にとって十分条件とはいえないが,必要条件となる。

低浸透圧造影剤 姜 栄樹 , 平松 京一
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 画像診断における血管造影法の重要性は,今更言うまでもなく,US,CTが導入されてもなおかつ,最終過程において必要欠くべからざる検査といえる。近年の血管造影法はきわめて多彩であり,診断のみならず治療領域へと進歩している。この血管造影法の進歩は,装置・器具・造影技術の進歩に加えて,優れた造影剤の進歩によるところがきわめて大きい。

 現在一般に用いられている血管造影剤は,1950年〜1960年代に開発されたtri-iodobenzoic acid誘導体で,sodium塩やmeglumine塩のイオン性造影剤である。これらは,それ以前の有機ヨード造影剤に比較すればきわめて優れたものではあるが,重篤な副作用が全く無いわけではない。すなわち,これらのtri-iodobenzoic acid系造影剤の最大の欠点は,生物学的活性がかなり大きいことと,造影剤の浸透圧が人血漿浸透圧の5〜8倍ときわめて高いことで,最近これら2点が造影剤の種々の副作用の主な要因と考えられている。さらに,血管造影法に加えて,CT,DSAが導入され,より精度の高い情報をより多く求めるために.造影剤の用量・用法も多様化しており,より安全性の高い造影剤が要望されるに至っている。

Bedside Teaching

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 心室性期外収縮(以下VPCと略)の重症度といえば,すぐに思い浮かべられるのがLownの分類であろう。

 Lownら1)は最初,急性心筋梗塞患者のVPCについて重症度分類を行なったが,その後この分類はひろく普及するに至り,最近では慢性虚血性心疾患を始め,他の疾患を背景としたVPCにまで適用されるようになった。Lownの分類は簡潔である点,臨床家にとってはすこぶる便利な分類法ではあるが,これに対する批判も少なくない。

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 心疾患における臨床的な病態把握は心臓のポンプ機能をはじめ形態学,電気生理,心音など様々な方面より行われているが,冠循環,心筋代謝よりのアプローチは現在不十分であり,臨床的に比較的簡便に測定可能でその正確さ,有用性が広く認められている測定法は未だ無い1)。我々は開心術術後の冠循環動態を研究するためにアルゴンガス(Ar)と医用質量分析計による冠血流量測定システムを開発し,臨床での測定を行った。

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 急性心筋梗塞症では,心筋梗塞量と心室不整脈1),左室機能不全の出現2,3)あるいは患者の予後4,5)との間に密接な関係が存在することが知られており,心筋梗塞量の推定は梗塞患者の治療方針の決定のために重要と考えられる。近年,RIイメージングの発達に伴い,99mTcピロリン酸(以下PYP)心筋シンチグラフィあるいは201Tl心筋シンチグラフィによる心筋梗塞の部位および拡がりの診断が行われるようになり,さらに心電図同期RI心血管造影による左室機能の非観血的な評価も可能となってきている。本研究の目的は,99mTc-PYP梗塞像および201Tl心筋像より求めた心筋梗塞量の指標と血清総CPK遊出量,および発症早期に第1回循環時法より求めた左室駆出率との相関を検討し,RIイメージングによる心筋梗塞量推定の臨床的有用性について検討することである。

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 phase V(V相)は,Nicholら1)により新しく導入された概念であり,彼らはAr bolusとN2の同時洗い出し曲線を分析し,肺内におけるflow limitationの発生と関連して,phase IV(IV相)のあとにみられるAr bol—usおよびN2のdownward deflectionに注目し,phaseVと名付けた。一方,われわれは呼気のemptying wei—ghted VA/Qと考えられる空気呼吸時の呼気N2曲線(Air N2曲線)を用いて,最大呼気終末部を解析し,従来phase IVといわれていたものは,均一なunitではなく,それぞれ判然と異なったVA/Qをもつ2つのcom—partmentが関与して,phase IVが形成されていることを見出し,発表してきた2,3)。Air N2曲線は,closing vol—ume現象としてのphase IVの発現に一致して,頭打ちになり,その程度に応じて,一旦下降し,その後再上昇するという特異なパターンを呈する。今回はNicholら1)により提唱されたphase Vと,このAir N2曲線上の再上昇波との関連を検討したので報告する。

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 大動脈弁狭窄症で大動脈駆出圧波形の上行脚に"anacrotic notch"(以下ANと略す)が観察されることは古くから教科書1)にも記載がある。しかし現在迄このANの成因について詳細に検討した研究は極めて少ない。

 また筆者らは大動振弁狭窄以外の疾患,例えば肺動脈弁狭窄症例でも肺動脈圧波形に同様なnotchの存在を確認している。そこで本稿ではカテーテル先端型の電磁流速・圧力計を用いて大血管内で得られた圧および流速波形から,これらのnotchの発生機序について検討を行った。

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 近年臨床心臓電気生理学的検査法の普及に伴い上室性頻拍の機序,したがってこれに対する治療対策についても多くの知見の集積をみている。上室性頻拍の発生機序には房室間の副伝導路が関与するものが多く,いわゆるWolff-Parkinson-White症候群を伴わない上室性頻拍においてもこれが占める割合は10ないし30%といわれ,房室結節性リエントリーを機序とするものに次いで多い1)

 副伝導路性リエントリーによる上室性頻拍(supra—ventricular tachycardia,以下SVTと略す)の発作予防のためには,副伝導路あるいは房室結節の伝導性抑制作用をもつ薬物が使用されているが,その予防効果は必ずしも確実なものではなく,薬物投与がむしろ発作の促進につながることも稀ならず経験されるところである。

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 難治性心不全における血管拡張療法は,確固たる地位を築くに至ったが,難治性心不全の多くの例では低血圧を伴ない血管拡張剤のみでは治療は困難である。従って,強心剤や利尿剤を併用することになるが,強心剤としてのジギタリスやカテコラミンは不整脈や心筋酸素消費量の増加などの問題があり,副作用の少ない強心剤の登場が望まれている。

 また,高齢者における心不全では,冠硬化症における冠血流量の減少,慢性閉塞性肺疾患を合併することが多いため,肺循環がtissue oxygenationに果たす役割も検討していく必要があると考えられる。

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 近年,急性心筋梗塞に対して,その梗塞量を減少させる目的で,ウロキナーゼやストレプトキナーゼのような血栓溶解物質を冠動脈内に直接注入し,閉塞血管を再開通させることが可能となり1,2),その左室機能に及ぼす効果が議論されている3〜12)。しかし,心筋梗塞が発症してから冠動脈内血栓溶解療法(以下PTCR)により血行が再開通するまでの期間に,側副血行が心筋壊死に陥るのを遅延することができるかどうかについては,まだ十分には検討されていない。そこで,我々は,今回発症後8時間以内の急性心筋梗塞で,緊急冠動脈造影及びPTCRを試みた症例を,側副血行の発達状態によりサブグループに分類し,急性期及び慢性期の左心室の局所壁運動を比較して,側副血行及びPTCRの左心機能に与える効果を評価した。

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 急性期心筋梗塞の血清酵素学的分析は,心筋梗塞量の推定,心機能評価および予後判定に関して,実験的1)および臨床的2〜9)にすぐれた方法であることが明らかになっている。

 一方左室拡張期特性の重要性が認識されるにつれ,RIアンジオグラフィーの分野においても,左室拡張期心機能の研究10〜14)が盛んに行われている。我々も拡張期全体の心機能を評価する目的で,逆方向性平衡時法を考案し,慢性期心筋梗塞を対象として,急速充満期および心房収縮期における左室充満様式の変化を報告13)してきた。

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 後天性肺動脈弁狭窄症は右室内の腫瘍,あるいは心臓外よりの右室流出路の圧迫により生じると報告されている1)。非破裂Valsalva洞動脈瘤でVSDの合併のない右室流出路狭窄症例の報告は非常にまれである。我々は肺動脈弁狭窄症の疑いにて心臓カテーテル検査を実施した症例において,肺動脈弁下狭窄の原因が非破裂Valsalva洞動脈瘤による右室流出路圧迫であると判断し,動脈瘤切除術を行い確認しえた症例を経験したので報告する。

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 右上大静脈欠損症は,稀な先天性心奇形であり,通常左上大静脈遺残を伴なう。種々の先天性心疾患に合併し,人工心肺を使用する心内修復術,大血管転換症の際のMustard手術,右上大静脈を使用するGlenn手術,経静脈的pacemaker植え込みの際などには,その手技上術前診断が重要である1,2)。現在までの報告では,心臓カテーテルの際そのカテーテルの走行異常により右上大静脈欠損が疑われ,右腕頭あるいは右鎖骨下静脈の造影により診断されている1)。今回我々は,コントラスト断層心エコー法を用い,本症を非侵襲的に診断し若干の知見を得たので報告する。

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1.頻回刺激により誘発される遅延性後脱分極の解析

 最近,不整脈の発生機序の一つとして,電気生理学的立場から,誘発活動が注目されている。この誘発活動の発生基盤である遅延性後脱分極(delayed afterdepolarization,DAD)を解析する目的で,家兎右室乳頭筋を用い,正常及び低pH条件下で,微小電極法により実験を行った。結果:①pH 7.4タイロード氏液中ではDADは観察されなかったが,pH 7.1ではDADが出現する場合もあった。②pH 7.1溶液中にノルエピネフリン3×10-6M投与するとDADの出現率が高くなり,又DADの振幅も大きくなった。③DADの振幅は刺激頻度と回数に依存性を示した。④DADの振幅は溶液のpHが低くなると抑制された。⑤DADの振幅は低酸素状態で抑制された。⑥DADの振幅はリドカインで抑制され,ベラパミルでは抑制されなかった。以上の結果は,虚血周辺部に於て,交感神経系の興奮により,DADを基盤とする誘発活動による不整脈の発生が惹起しうることを示唆するものである。

基本情報

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呼吸と循環
33巻4号 (1985年4月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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