呼吸と循環 20巻1号 (1972年1月)

特集 血流

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Ⅰ.複雑な血管系

 血液の循環は非常に複雑な血管系を含むので,系全体としての挙動をレオロジー的にとらえることはむずかしい。循環系の一部または全体のシミュレーションでは,多くの場合血液のレオロジー的性質が無視されている。

 動脈系では,血液を均一なニュートン流体とみなし,血管の粘弾性を考慮に入れたモデルがよく用いられているが,これで実験結果はかなりよく説明できる。血管壁の内面の粗さの影響はおそらく小さくて無視できるであろう。血管の狭窄,屈曲,分岐の影響はまだ詳しく分っておらず,ふつうは無視されている。

Pulsatile Blood Flow 沖野 遥
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 心脈管内の血液の動きが脈動リズムに従っていることは古来生死の判定の根拠になってきた。脈が触れないことから心臓ポンプの停止を判定し,送血の停止,代謝の停止中断によって死ぬと考えてきた。しかし最近の学問の進歩は低体温による代謝の抑制というような延命手段を実用化しつつあるので,脈の強弱やその頻度の変化は必ずしも生死判定の確実な証拠にならなくなってきた。

 この脈動は血管壁の弾性と内圧の脈動とによって発生するわけであるが,ただし圧があっても血管内を血液が末梢方向へ流れるとは限らない。この圧と流れの関係は脈動の有無によって大変状態が異なる。すなわち脈動のない川の流れなどではダムで流れを塞き止めると,貯水に伴って水圧は高くなるが,水は停滞して流れなくなる。一方血圧と血流のように脈動運動があると,特に導管壁に弾力性があると末梢端が閉塞された盲管であっても盲管内の血液は脈動に伴って盲管を伸縮する方向に流動する。流動するといったのは末梢方向への実効的な血液の流れはないが,管内には右往左往する血液の動きはあるという意味である。すなわち行先の閉じた血管でも閉塞部位より中枢側では脈も触れるし血液は脈動性に動く。低血圧ショックに収縮剤を投与して脈の触れ方がよくなったと安心するのはこのような状態に相当する。

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はじめに

 著者らは10数年来,各種疾患の形成および進展に対する微小循環系の関与を重要視し,その病態を追及してきたが,残念ながらこの方面の研究は現在までの所,腸間膜という単純な膜の微小循環動態の解明の段階にとどまり,各種臓器の微小循環動態を明らかにするという最終の目的への道はなお嶮しいものがある。

 しかし,長年にわたり,数多くの実験的および臨床的考察をつみ重ねてきた結果,著者らは,これまで追及してきた腸間膜微小循環系の研究成果を他の諸臓器の微小循環系に100%とはいえなくても,相当程度,普遍することが可能であるという確信を持つにいたっている。

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 循環系の諸問題をとりあげるさい,Poiseuilleの法則を使うと,色々な理由から数学的に期待される結果をえないことがある。第1に流れと圧勾配のエネルギー分布比が一定でない,第2にある時点の循環系の長さと口径を正確に測れない,第3に血液粘性は一定でなく,①血漿粘性,②懸濁細胞の数,表面荷電,面積,および形,③細胞内容のゾル・ゲル粘性によって変化する,第4にズリ速度と線形関係をもたない。この偽塑形の性質から,流れが遅ければ粘性は大きくなる。ただし,Poiseuilleの法則の正確な応用は不可能にしても,等式中にある要素の相互間には確実な関係があり,その限界はあるにしても血液レオロジーの理解に大切である。

血流分布 中村 隆 , 鈴木 敏巳
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 心・血管系は細胞に必要な酸素と代謝産物を運搬供給するとともに,炭酸ガスや代謝老廃物を運び去る働きをもっているが,各臓器・組織固有の細胞の機能的差違,あるいは生活条件の変動によって,各細胞の要求する血液量が異なっているので,ポンプである心臓から拍出された血液は各臓器・組織に平等に分配されず,各臓器,各局所ごとに血流は調節されている。このような血流調節は神経,内分泌による調節のほか,ATP,ヒスタミンなどの化学物質による局所調節によって行なわれている。

 本稿では,血液循環調節機構については詳細に触れないで,正常人における安静時と運動時の心拍出量の変化と,脳,心(冠循環),肝,腎,皮層に分布される血流について述べてみたい。

巻頭言

Intravascular Coagulation 安部 英
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 血管内凝血intravascular coagulation,すなわち血栓の形成あるいはそれよりさらに塞栓への発展は,出血とともに血液循環を妨げる大きな因子であるが,その血流に対する効果が端的でかつ強力であることが特徴である。もとよりこの血栓形成の準備状態ともいうべき凝血亢進状態でも,すでにある程度血流に影響を与えることが考えられるが,それが明らかな臨床症状として把握されることはむしろ稀であるばかりでなく,ある程度血栓の形成が進み,その大きさに応じて血流状態に変動を与えても,その変化が一過性に終る時はまたその病的状態を診断することが容易でなく,血(塞)栓による血管の閉塞が完成するに及んで始めて急激に,しかも激烈な症状を呈するようになることが多い。したがって血管内凝血を考える場合は,これら凝血亢進状態による種々の血栓形成過程をも考慮に入れて検討する必要がある。

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 臓器循環という大きな問題のうち「血の流れ」をテーマにそれぞれ分野の異なる各先生の様々な角度からの御検討をお願いした。特に医学サイドばかりでなく,物理学の立場からも岡教授に御参加願いパネルデスカッション風に諸問題を浮きぼりにした。

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 本態性高血圧症や腎性高血圧症における血行力学的特徴は,高血圧発症の初期に心拍出量の増加がみられ,高血圧症の確立された病態では細動脈の収縮による末梢血管の抵抗の増大とされている1)2)3)。しかしながら,細動脈より末梢の微小循環系についての血行動態に関する知見は極めて乏しく,また,高血圧症の微小循環系を生体観察した報告はない。そこで著者らはラットにDCA高血圧症4)を作製し,その腸間膜における微小循環を生体観察するとともに,1秒間500コマの高速度映画撮影5)による分析を行なって興味ある知見をえたので報告する。

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 左冠動脈が大動脈からでなく肺動脈からでているという左冠動脈肺動脈起始症は,まれな疾患とされていたが,最近多くの症例が報告されるようになってきている1)〜10)

 しかし,治療面から本奇形をみなおすと,なお解決されていない点が残っている。その一つは,異常冠動脈内の血流方向についてである11)12)。多数例において,異常冠動脈内の血流方向は,逆行性すなわち心臓側から肺動脈へとむかっている。しかし,なお,異常冠動脈内の血流が肺動脈から冠動脈(心臓側)へとむかっている例も報告されている。この血流方向は肺動脈と冠動脈との間の圧のバランスによって決定されるものと一般には考えられているが,その理論的うらづけは現在なおなされていない。

基本情報

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呼吸と循環
20巻1号 (1972年1月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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