臨床婦人科産科 72巻5号 (2018年5月)

今月の臨床 精子・卵子保存法の現在─「産む」選択肢をあきらめないために

配偶子保存の必要性と課題

  • 文献概要を表示

●がんと診断されてから治療が開始されるまでの限られた時間内に,妊孕性に対するリスクと,適切な妊孕能温存の選択肢について,患者が十分に理解し,医療者とともに協働的意思決定ができるように努めなければならない.

●シクロホスファミドを代表とするアルキル化薬剤は卵巣および精巣機能を著しく低下させるリスクがある.

●放射線照射は卵巣および精巣機能を低下させるリスクを有し,患者年齢,線量,投与期間などによりリスクの程度は変化する.

  • 文献概要を表示

●がん・生殖医療(oncofertility)では原疾患の治療を優先しながら,妊孕性温存のみならず長期的な母児のリスクを検討する必要がある.

●化学療法や放射線療法は催奇形性,胎児毒性,早産,胎児発育不全などのリスクがあるが,エビデンスの確立が難しく,適切な情報に基づいた評価や自己決定の支援が難しい.

●がん医療,生殖医療,周産期医療,小児医療などに携わる多診療科の多職種による大規模かつ長期的なエビデンスの集積や,連携と協働による児と家族の包括的かつ長期的な支援が必要である.

  • 文献概要を表示

●日本生殖医学会は,医学的,および社会的適応による卵子凍結保存を条件付きで認めているが,日本産科婦人科学会は,社会的適応による卵子凍結保存は推奨しないとしている.

●凍結配偶子による死後生殖を認める国もあるが,日本生殖医学会は「精子保存は本人の生存期間」,日本産科婦人科学会は「本人の死亡により廃棄」とし,認めない立場である.

●米国や欧州の生殖医学会は,性的マイノリティ当事者の医学的・社会的適応の配偶子凍結を,その使用を含めて認めているが,日本における議論は十分でない.

配偶子保存の臨床

精子凍結 蔵本 武志
  • 文献概要を表示

●精巣内精子(TESE)や高度乏精子症の症例においても,精子凍結を用いた顕微授精(ICSI)により妊娠・出産が可能となった.

●顕微鏡下精巣内精子採取術(MD-TESE)などにより得られた極少量の精子を凍結する少数精子凍結法はまだ確立しておらず,さらなる検討が必要である.

●不妊治療施設では泌尿器科医と連携し,悪性腫瘍などで挙児希望がある症例には化学療法を行う前に,治療内容と造精機能低下の関連について十分に患者へ説明し,精子凍結保存を実施できる体制を整える必要がある.

精巣内細胞の凍結保存 岡田 弘
  • 文献概要を表示

●若年男児の妊孕性温存手段は,精巣組織凍結保存である.

●体外培養による,精巣組織からの精子作出法確立に向けた研究が進んでいる.

●長期間凍結保存するための,費用を含めた公的な援助体制が整備されることが望まれる.

  • 文献概要を表示

●採卵方法 : がん患者ではその疾患特有の病態を理解し,一般不妊患者と比して若年であること,さらに採卵に伴うエストロゲン上昇などによる影響を十分考慮すべきである.

●合併症 : 若年がん患者の卵子凍結ではOHSSが有意に増加するため,注意が必要である.一方でがん治療開始までの限られた時間のなかでの採卵であるため,症例ごとの慎重な検討が求められる.

●未受精卵子の凍結 : 受精卵凍結に比べて妊娠率が低いものの,未受精卵子による妊娠・出生後の児の奇形率は増加しない.

  • 文献概要を表示

●配偶子の凍結技術の進歩により,将来のための妊孕性温存が可能となり,がんなどの治療における薬物療法や放射線治療の副作用回避のための卵子凍結が推奨されるようになってきた.

●医学的適応以外の卵子凍結については,否定的な意見もあるが,浦安市のプロジェクトの実際から,卵子凍結を希望する方々は複雑な背景をもち,それ相応の理由があるものがほとんどである.

●医学的・社会的,どちらの適応であっても,卵子凍結保存による将来の生産を100%保証するものではないため,それ以外の選択肢も必要であり,そもそも,妊孕性についての知識の啓発が重要と思われる.

  • 文献概要を表示

●欧米にてAYA世代がん患者に対する卵巣組織凍結保存が初めて試みられて以来約20年が経過した現在,融解卵巣移植後の生児は世界中で130名を越えた.

●卵巣組織凍結方法には緩慢凍結法(slow freezing法)と急速冷凍法(vitrification法)があり,現在標準的な凍結方法は緩慢凍結法となっている.

  • 文献概要を表示

●疾患により卵巣転移のリスクが異なる

 高リスク : 白血病,神経芽細胞腫,Burkittリンパ腫

 低リスク : Hodgkinリンパ腫,初期乳管がん,子宮頸部扁平上皮癌

●卵巣転移の検査方法

 組織診,免疫化学組織診,RT-PCR,がんパネル検査,免疫不全マウスへの移植,画像診断,腫瘍マーカー

●移植する患者へのインフォームド・コンセント

 検査している組織と移植する組織が異なり,多くは摘出卵巣の5%程度に組織検査が行われているが,現在研究段階である.

配偶子保存法の周辺技術

  • 文献概要を表示

●卵胞期後期や黄体期から卵巣刺激を開始する方法をランダムスタート法と呼び,従来法と比較しても同等数の成熟卵や胚盤胞を得ることができる.

●ランダムスタート法はがん治療を早急に開始しなければならない,若年がん女性に対する妊孕性温存のための卵巣刺激に有用である.

●従来法である卵胞期初期からの刺激による採卵だけでなく,黄体期からの採卵も行う2回採卵(Duostim)法は卵巣予備能力が低下している女性への卵巣刺激法として考慮してよいかもしれない.

  • 文献概要を表示

●乳がんなどのホルモン依存性がんの患者に対して卵巣刺激を実施する場合には,レトロゾールを併用して血中エストラジオール高値を避ける.

●卵巣刺激が乳がんの予後に影響を与えるというエビデンスは得られていない.

●排卵誘発でのレトロゾール使用は適応外使用である.

  • 文献概要を表示

●ホルモン感受性を有するがんの場合,手術前までは排卵誘発薬を使用しない自然周期での採卵を基本とする.

●術前化学療法が必要な場合は化学療法開始前,手術後に補助療法が必要な場合には化学療法あるいはホルモン療法開始前までを治療期間として低刺激法による採卵を試みる.

●ホルモン感受性を有しないがんの場合には,化学療法開始前までに低刺激(時にFSH製剤も加えた)による排卵誘発を試みるが,採卵の目的のため補助療法の開始時期を遅らせることはしない.

  • 文献概要を表示

がん登録とは

 地域がん登録には,各自治体において「がん」(上皮内腫瘍,がん,肉腫を含む)と診断されたすべての症例のデータ(氏名・生年月日・性別・原発部位・組織型・診断日・臨床進行度・検査内容・治療内容・死亡日・登録医療機関など)が含まれている.地域がん登録制度の主たる役割として,がん登録データを利用したがんの罹患数・罹患率の推移や生存率の解析,さらに検診をはじめとしたがん対策の評価を行うことで医療の向上を目指すことが挙げられる1).しかしながら,都道府県ごとにデータを収集していると,居住区域以外の医療機関で診断・治療を受けた人や,がんと診断されてから他府県に転居した人などのデータが重複し正しい情報が把握できない可能性が生じる.そこで,居住地域にかかわらず全国どの医療機関で診断を受けても,がん登録データを管理できる仕組みが必要となった.

 2013年12月,「全国がん登録」の実施やこれらの情報の利用および提供・保護などについて定めた「がん登録等の推進に関する法律」が成立し,2016年1月から施行された.これにより,すべての病院と指定された診療所で「がん」と診断された人のデータは都道府県に設置された「がん登録室」を通じて集められ,国のデータベースで一元管理される2, 3)

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

  • 文献概要を表示

症例

▶患者 86歳,女性.

▶主訴

 CTで卵巣腫瘍を疑われ,精査・治療目的に当科を紹介受診した.

▶既往歴

 脂質異常症,高血圧,肝障害,血小板減少症,認知症の疑い.開腹手術の既往なし,骨盤内感染症の既往なし.

連載 Estrogen Series・170

  • 文献概要を表示

 野菜や果物には農薬の残渣が残ることは知られている.農薬残渣は果物や野菜に残留して,妊娠や胎児に影響を与えるものなのであろうか? 動物試験では農薬残渣あるいは残留物は仔の数量を減少させることが知られている.

連載 Obstetric News

  • 文献概要を表示

 今回は,“obstetric news”というタイトルからは少し外れるが,女性医学において重要なテーマである骨粗鬆症について取り上げてみたい.

[症例]整形外科で骨粗鬆症と診断を受け,治療薬としてエストリオール内服錠が投与された閉経後女性(60歳)が来院した.放射線科医にDXA検査を依頼し確認した結果,大腿骨頸部の骨粗鬆症であった.

[疑問]果たしてエストリオール内服錠のようなエストロゲン活性のきわめて低い薬剤使用に,骨粗鬆症に対する有益な治療効果があるのか?

  • 文献概要を表示

▶要約

 妊娠30週に足関節および股関節の疼痛を主訴に発症し,妊娠36週で大腿骨頸部骨折を生じ,一過性大腿骨頭萎縮症と診断した双胎妊娠の症例を経験したので報告する.

 症例は35歳1回経産婦で,双胎妊娠であった.妊娠30週から右足関節痛が出現,31週ごろから右股関節痛も加わり,33週ごろからは杖歩行となっていた.近医整形外科を受診するも妊娠を理由にX線検査を見送られ,経過観察を指示されていた.妊娠36週0日に自宅で転倒後歩行困難となったため救急搬送され,骨盤部X線写真で右大腿骨頸部骨折と診断した.妊娠37週0日予定帝王切開実施後,術後6日目にTHA(全人工股関節置換術)を行った.術後12日目に退院となり,術後2か月半で右股関節運動痛は消失,4か月で日常生活動作が正常化した.妊婦のTOHは稀ではあるが,妊娠後期の妊婦の訴えとして経験する可能性があり,鑑別疾患として考慮し,適切に紹介する必要があると考えられた.

--------------------

目次

バックナンバー

次号予告・奥付

基本情報

03869865.72.5.jpg
臨床婦人科産科
72巻5号 (2018年5月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

文献閲覧数ランキング(
5月21日~5月27日
)