臨床婦人科産科 71巻5号 (2017年5月)

今月の臨床 万能幹細胞・幹細胞とゲノム編集─再生医療の進歩が医療を変える

ES細胞・iPS細胞研究の現在

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●ヒトES細胞とiPS細胞は,発生学や疾患研究のみならず,創薬開発や再生医療への応用へと実用化開発研究が展開されている.

●ヒトES細胞による再生医療製品開発が世界で進められている.

●次世代シークエンサーなどを活用したゲノム医学とゲノム編集技術の発展と連動し,ES/iPS細胞の応用は次世代医学研究開発の重要な基盤となる.

ES細胞・iPS細胞の臨床応用

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●これまで再生不可能といわれてきた脊髄損傷に対し,各病期において,さまざまな角度からアプローチがなされ,その効果が得られつつある.

●ヒトiPS細胞を用いた脊髄損傷に対する神経幹/前駆細胞移植においては,今後ヒトへの臨床応用に向け,その有効性だけでなく安全性の検討も必要である.

●ヒトiPS細胞から樹立した神経幹/前駆細胞をNotchシグナル阻害薬で前処理することで,移植細胞の腫瘍化を予防し,安全に運動機能を回復・維持させることに成功した.

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●近年,心筋症による重症心不全に対し心臓移植や人工心臓などの置換型治療が積極的に行われてきたが,ドナー不足や合併症など課題が多いことから,最近では心機能回復戦略として,再生型治療の研究が盛んに行われ,自己細胞による臨床応用が開始されている.

●われわれは,温度感応性培養皿を用いた細胞シート工学の技術により,細胞間接合を保持した細胞シート作製技術を開発し,従来法であるneedle injection法と比較して,組織,心機能改善効果が高い心筋再生治療の臨床研究を開始した.

●iPS細胞を用いた心血管再生治療も期待され,今後,心臓移植や人工心臓治療とともに再生治療を取り入れた重症心不全治療体系が確立されると思われる.

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●狙い定めた領域のゲノムを編集できるゲノム編集技術の代表例として,ZFN,TALEN,CRISPR-Casの3つが挙げられる.

●基礎研究の領域ではゲノム編集の応用は著しいが,ヒトへの治療という臨床応用の観点で得られている成果は,現時点では非常に限定的である.

●しかし,HIV感染症に対する治療,血液悪性腫瘍に対するがん免疫療法の分野で期待できる成果が得られつつあり,今後急速に発展していくことが期待される.

産婦人科領域における再生医療とゲノム編集

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●新たなゲノム編集技術(CRISPR/Cas9システム)の登場により,短期間で容易に遺伝子改変マウスを作製できるようになった.

●精巣特異的に発現する遺伝子であるにもかかわらず,雄の生殖能力に必須でない遺伝子は多く存在する.

●CRISPR/Cas9システムを用いることによって,生殖能力に必須の遺伝子を明らかにしたり,ヒト不妊患者と同じ変異をもつマウスを作製したりすることができる.

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●生殖細胞系列の根幹である始原生殖細胞(primordial germ cells : PGCs)の数は非常に少なく,解析方法が限られていたが,iPS細胞/ES細胞から始原生殖細胞様細胞(primordial germ cell-like cells : PGCLCs)を分化誘導することにより数量制限を解決することができた.

●PGCLCsから卵子までの分化過程を体外培養で行うことにより,卵子形成過程を直接観察することが可能となった.

●今後,体外培養によるiPS細胞からの卵子形成過程の観察をヒトへ応用することにより不妊症の病態解明に寄与することが期待される.

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●中国の2つのグループから2015,2016年に,ヒト異常受精胚を用いて,CRISPR/Cas9による標的遺伝子のゲノム編集の結果が報告された.

●CRISPR/Cas9による初期胚のゲノム編集は3つの問題(高いoff-target効果,mosaicism,次世代への変異の伝播)が指摘されている.

●本邦を含め国際的にヒト受精卵に対するゲノム編集技術の可否が議論され,英国は胚移植をしないことを条件に限定付きで正常な受精卵を用いた遺伝子編集研究を認めた.

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●ヒト人工多能性幹細胞は患者本人の体細胞から作製することができるため,疾患研究,創薬スクリーニングに用いられている.

●ヒト人工多能性幹細胞を用いて胎盤を構成するさまざまな細胞(syncytiotrophoblast,cytotrophoblast,extravillous trophoblast,など)をそれぞれ効率よく分化誘導できれば胎盤研究の新しいツールになると思われる.

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●子宮は妊娠ごとに平滑筋細胞の増殖と肥大により著明な増大を示す.

●妊娠子宮におけるダイナミックな変化は生殖年齢を過ぎても人工的に再現することができる.

●このような子宮の高い再生能力は,子宮における幹細胞システムの存在を示唆している.

●単一細胞由来(モノクローナル)と考えられている子宮筋腫の発生起源に幹細胞が関与している.

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●子宮内膜不全とは,子宮内膜の機能不全により不妊や不育をもたらす病態の総称と言い換えられるが,エビデンスレベルの高い治療法が存在しないのが現状である.

●ごく最近,子宮内膜不全に対して幹細胞を使用した再生医療の有効性が報告されたが,症例数を増やしエビデンスレベルを高める必要がある.

●これまで治療困難であった子宮内膜不全に対して,幹細胞を用いた再生医療はブレイクスルーとなりうる有望な治療法と考えられる.

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●ヒト受精胚を対象とするゲノム編集技術利用には,基礎研究,治療を目的とする臨床応用,エンハンスメント的な臨床応用の各段階で倫理的な課題がありうる.

●基礎研究の段階では,ゲノム編集研究に用いるヒト受精胚の入手のあり方,余剰胚利用の是非,ヒト受精胚への人為的操作などが倫理的課題となる.

●治療およびエンハンスメントの段階においては,安全性や有効性,責任の所在,優生思想ないし優生学,諸々の格差や差別の助長,世代や地域を越えた不可逆的な影響などに関する倫理的課題がありうると予想される.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

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 鏡視下手術全盛の時代にあっても,開腹手術とせざるをえない症例はまだまだ存在する.今回提示する大腿神経障害は,開腹手術の合併症の1つとして知られているものである.実際に大腿神経障害を発症した2例を提示し,大腿神経障害発生の傾向と対策について述べる.

連載 Estrogen Series・161

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 鉄剤の服用と,他の薬剤の併用は薬剤の効果を低下させることがある.メチルドパ,ペニシラミン,テトラサイクリン,キノロン系抗菌薬などの血中濃度は,鉄剤と併用したときには60〜90%も低下することが知られている.日常的にも鉄剤と甲状腺製剤とは併用されることが多い.カナダの研究者らは,鉄剤と甲状腺ホルモン製剤との関連を調べてみた.

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 選択的誘発分娩(elective induction of labor : eIOL)には利害得失がある.妊娠39週でのeIOLは,妊娠41週終了時のIOLを伴う待機的管理(expectant management : EM)に比べ,待機することによって続発する死産と肩甲難産同様に母体子癇前症と巨大児誘発のための児頭骨盤不均衡(CPD)または羊水過少症による帝王切開(帝切)を減少できる可能性がある.可能性があるリスクは臍帯脱出,子宮過剰刺激またはIOL不成功による帝切である.

 分娩の適切なタイミングに関連する医療には議論があり,健康な頭位単胎妊娠を対象に妊娠39週でのeIOLと妊娠41週までIOLを行わずEMを行う方法を直接比較した十分な規模の研究はない.最近の複数の小規模前方視的無作為化対照試験では,妊娠39週におけるeIOLは,より高齢の未産婦で帝切率の実質的増加には関連しない可能性があることを示唆している.

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▶要約

 G-CSF産生腫瘍は白血球の著明増多を伴い,子宮頸癌では非常に稀である.

 WBC 61,150/μLと著明な増加を認めるG-CSF産生子宮頸癌ⅣB期に対し,同時化学放射線療法(CCRT)を施行した.白血球数は治療開始後速やかに正常値となり,子宮頸部腫瘤およびリンパ節転移巣の著明な縮小がみられた.血清G-CSFを除き,腫瘍マーカーはいずれも著明に低下した.十分な局所制御を得たが,治療中に脳転移を認め全脳照射後に永眠された.

 G-CSFには好中球増加作用以外にもさまざまな作用を有することが近年報告されており,今回,悪性腫瘍の転移促進作用の可能性について着目した.

 本症例において子宮頸癌では稀な脳転移をきたした原因として,G-CSFの血管新生促進や細胞免疫抑制作用により高い転移能を獲得した可能性が考えられた.

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基本情報

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臨床婦人科産科
71巻5号 (2017年5月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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