看護学雑誌 72巻3号 (2008年3月)

特集 自己治癒力を高める技法とエビデンス

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人の身体が本来備えている回復のメカニズム――自然治癒力.ナイチンゲールをはじめとして,看護の先人たちも,患者の療養環境を整え,個々の患者の自然治癒力を最大限に引き出すことの重要性を明確に打ち出してきました.

近年,そうした自然治癒力をより積極的に引き出そうとする「自己治癒力」という考え方に注目が集まっています.ヨガ,アロマといったいわゆる代替医療だけでなく,日常生活支援やコミュニケーションスキルを含めた療養支援,あるいは動作法などの心理学的アプローチが自己治癒力にもたらす効果が明らかとなりつつあります.

「自己治癒力とは何なのか?それを引き出す介入は,どれくらい有効性と根拠をもっているのか」

本特集では,代替療法を含めた種々の介入法の考え方とエビデンスを科学的にご紹介します.

自己治癒力とは何か 川村 則行
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はじめに

 フランスには,ルルドの泉と呼ばれる「病の奇跡的治癒」で有名な場所がある.今も,回復不能な状態の患者たちが,最後の望みを託してこの地を訪れ,泉にからだを浸し,奇跡的快癒を待ち望んでいる.ここはカトリックの聖地とされており,最近までの約一世紀半の間に,信仰によって回復不能の状態から治癒が引き起こされた例が一万件もあるという.キリスト教徒以外でも,ここに詣でる人は多い.

 20世紀半ばになってから,ルルドの泉で起こった治癒が本当に奇跡的であったかどうかを徹底的に調べる試みがなされ公式登録簿が作成された.医師団によって,科学的・誠実に論証が行なわれている.その中の27症例の回復例は,①その疾患が確実に存在し,診断が確定していた,②加療の有無を問わず,予後が不良であったと立証できた,③疾患は重症で,不治であった,という,3つの基準を満たしているという.このように,(医療的介入のない)自己治癒による「不治の病」からの回復は実際に起こっている1)

 しかし,こうしたことはなぜ起こるのだろうか.宗教的立場から自由になって,人間が持つ回復力の科学的メカニズムを考察するのが本稿の目的である.

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はじめに

 あなたがそこに ただいるだけで

 その場の空気が あかるくなる

 あなたがそこに ただいるだけで

 みんなのこころが やすらぐ

 そんな あなたにわたしも なりたい

  相田みつお1)

 これは相田みつおという書道家の言葉1)で,私のクリニックの壁のあちこちに彼の詩が掛かっています.私は昔,ちょっとした病気で入院したことがありますが,そこで今まで気が付かなかったことに気が付きました.たとえば担当の看護師さんがAからFまで6人居たとすると,残念ながら個々の看護師さんの間にとても差がありました.Aさん,Bさんはとても優しくて安らぐなあ,いつも来てほしいなあと思ったものでした.それに対してEさん,Fさんは自分の仕事を速く処理することばかり考えて,患者の気持ちなどちっとも考えていない,できれば違う人が来て欲しいなあと思いました.Cさん,Dさんは良くも悪くもないという具合でした.このような違いはどうして起こるのでしょうか.これを考えるために,心療内科領域で話題となる「治療的自我」という概念を紹介するところから始めましょう.

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自己治癒力を引き出す聴き方とは

 自己治癒力を引き出す聴き方とはどういうものか.ここでは読者である看護師に向けて,心理療法の専門家の立場からカウンセリングの基本を解説する.

 カウンセリングは,クライエントの自己治癒力を前提として行なわれている.たいていの人は,自分ではよくわかっていなくても,人生のライフサイクルで心理的な困難が生じると,自分の内にすでにある,生きていくための有用な体験,つまり,リソース(資源)を生かし,乗り越えていく.しかし,日常生活での困難が自分や家族では対処できない問題へと発展した人には,カウンセリングが適している.カウンセリングが効果的になるには,クライエントがまわりの人たちとの関係の中で体験してきた,自己内の肯定的なリソースに気づき,それを問題の解決のために利用できるような支援が望まれる.こうした人が生きていくための有用なリソース体験こそ,自己治癒力の中核をなすものである.

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はじめに

 最近,統合医療(Integrative Medicine)や代替医療という言葉をあちこちで耳にするが,論者によって異なる意味合いで用いられている場合が多いように思う.

 ここでは,統合医療とは,現代西洋医学に相補(補完)・代替医療(Complementary and Alternative Medicine:CAM)を融合させ,個々人に合わせた最適な医療をコーディネートし,また予防や健康の保持・増進のためのケアを行なうもの,として考える1)

 相補(補完)・代替医療とは,米国国立相補(補完)・代替医療センター(NCCAM)によれば「科学的に未検証であり,現時点では通常の医学・医療体系の構成要素になっていない医療的実践」とされている2).具体的には図1に示したものがこれにあたる.なおこの分類は厳密なものではなく,実際は複数のカテゴリーに該当するものも多い.例えばアロマセラピー(アロマテラピー,芳香療法)はMind-Body medicineにもManipulative and body-based practicesにも属する要素を持っている.本稿では,相補(補完)・代替医療の代表として,アロマセラピーとヨーガを中心に述べる.

 相補(補完)・代替医療が治療効果をもたらすメカニズムについては色々な仮説があるが,共通して言えるのは,ほとんどの場合,本来われわれが有している自己治癒力を高める結果と考えられる.アロマセラピーやヨーガには,本特集で川村があげている7つの自己治癒力向上要因3)に該当するものが多数ある.たとえば,両者ともリラックス状態をもたらすものであり,また施行者とのラポールが重要である.さらに施行者がコンサルテーションやカウンセリングを行なう場合,精神的支援のリソースとも成り得るわけである.

 両療法の概略を述べるが,アロマセラピーは植物から抽出した100%天然の精油を活用するもので,その効果は複合的である.用い方にもよるが,精油香気成分の経鼻腔や経肺,あるいはオイルの経皮吸収による神経・免疫・内分泌系への作用および種々の臓器への影響,タッチングやトリートメント(施術)でのさまざまな手技の効果に加え,コンサルテ-ションやカウンセリングなどが相乗的に影響し,心身の疲れをほぐし心の癒しにいたると推定される.

 一方ヨーガの効果も複合的である.これは身体,心,気,スピリチュアリティなどへ統合的なアプローチをし,健康と安寧状態を得ることを目的として,広くアーサナ,プラーナーヤーマ,ディヤーナなどをとり入れた包括的に体系付けられたものであり(図2),リラクセーションが深められ身心一如への気づきを促す作用を持つ.またヨーガは精神生理,神経内分泌,自律神経機能に影響することから心身症や精神関連疾患の一部にも有効であると考えられ,近年では,伝統的なヨーガを医学や心理学に役立てようとするヨーガ療法の研究と実践が進められている.

 以下,各々の実施例を紹介する.

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はじめに

 本論文の目的は,臨床動作法を自己治癒力という観点から捉え直すことである.本論で論ずる自己治癒とは,自己が病や困難さに関与することを通し,病や苦痛の状態から回復する力が発揮できるようになるという積極的な意味合いで用いている.自然治癒や自然緩解といった類似した用語があるが,これは人間が生来持っている病気や環境に対抗する力という意味であり,自己の関与が含まれず自己治癒に比べて消極的な意味合いともいえる.

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 自己治癒力というキーワードやそれが用いられる状況に関して,よくある誤解としては,ほうっておいても自然によくなる,という幾分無責任な自由放任のイメージがある.学術的な意味で自己治癒力という場合,それは無責任に自由(あるいは自然)に任せじっと幸運を待つ,という受動的なものではない.むしろ自己治癒力とは積極的に能動的意図を持って「引き出す」ものであり,さまざまな具体的な方法のコントロール下ではじめてあらわれてくるものだと考えられる.本稿では自己治癒力を,宗教的な(あるいはスピリチュアルな)奇跡というよりも,科学的な検証を経た記述可能な技術や手続きによって達成されるものであることを意識して議論することとする.特に自己治癒力を引き出す方法として最近注目を集めつつある集団療法に焦点を当て,医療現場における集団療法の広がりと自己治癒力との関係について概説する.

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患者体験のデータベースの必要に迫られて

──DIPEx(Database of Individual Patient Experiences)の日本版としてDIPEx-Japanが昨年NPOとしてスタートしたわけですが,DIPExというものができたキッカケについて教えてください.

和田 DIPExは2001年に,イギリスの薬理学者ヘルクスハイマーさんと一般医マクファーソンさんが始めたものです.現代医学ではEvidence-based Medicineの考え方から,確証のある研究データに基づいて治療を行なう必要があり,これは世界的な取り組みになっています.

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2007年4月,がん対策基本法が施行され,がん治療,そして緩和医療にも注目が集まりつつある.高度先進医療によって癌治療のオプションが広がる一方で,どこかの段階で外科的治療を止め,緩和医療にギアチェンジするというホスピスの考え方も広まりつつある.多くの選択肢が交錯するなかで,患者は何を選び,医療者は何を提供できるのか.

本稿は,2007年10月13日に千葉大学にて行なわれた『支えあう会「α」公開講演会「これからのがん医療」』における伊藤真美氏の講演録に加筆・修正を加えたものである.

巻頭カラー連載 A-LSD!病床からの誘惑・10

甲谷 匡賛 , 久保田 テツ
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 一九九五年の春、僕はギラン・バレー症候群という病気にかかった。比較的重度の症状だったらしく、身体が動かないまま半年近く病院で寝たきりの日々を過ごした。秋が近づき、なんとかベッドから離れられるようになると、毎日のように外をぼんやり眺め、”下界“に暮らす人々の生活を想い、退院してからの自分に当てはめた。あれがしたい、これをしよう。病棟から見下ろす家々の窓はいつしか、自身の欲望を写す窓となっていた。

 甲谷さんの作品「風にそよぐ星」は、その時の記憶を呼び戻す。病棟から眺める無数の窓と、そこから漏れる光に心が動かされる奇妙な感覚を。隔離された塔より見下ろす世界の慌ただしさと、驚くほど静かで緩やかな病室の時間のそのギャップを。

連載 こんな方法もあるかもしれない―介護発,武術経由の身体論・3

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 前回は,我々の身体に染み付いた思い込みや合理的な発想が,ときとして無駄に転化してしまうことがあるのを,身体を動かすなかで感じていただきました.今回からは少しずつ,概念的な話から具体論に移っていきたいと思います.実際の看護・介護の現場における身体介助の困難例を具体的にどうしたら打開できるかを,精神論ではなく実践を通して感じていただきたいと思います.

 ただ,私は「現場でそのまま使える技術」が,そのまま現場の困難例への解答につながる,というふうには考えていません.介助を受ける方には一人として同じ人はいませんし,援助者の身体も一人ひとり異なります.「現場でそのまま使える技術」を1つずつ覚えて,場面に合わせてそれを使っていくのも1つのやり方ですが,それは「何が起こるかわからない」現場では,むしろ有効でないことも多いと思います.私はできるだけ,いろんな場面で応用が利きやすい,根本的な身体の使い方の練習法をご提案しています.

連載 世界の感受の只中で・11

ケア・4 天田 城介
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 「はっきりいって,いまの世とは,表舞台を闊歩できる『健康を称賛される人たち』と,裏舞台に放置されて『死ぬのを期待されている人たち』に,次第に二分化されているのではないだろうか.それ以上に,これまではひそかに家族から死を期待されながら,世間体や愛憎の記憶にはばまれてかろうじて殺されないできた人たちに,制度として死が勧められようとしていることも,具体的に伝わってくる.決して安楽死や尊厳死が法で認められたというわけではないし,そんな話題が世の中で語られることもめったにないのに,生きるのに必要な医療が受けられない,生きるにも死ぬにも居場所がない.社会や家族の重荷となる人たちは死んでいくしかないという状況に向かう道の,事実上の第一歩を踏み出しているように思われてならないのである」(向井2003:11)

連載 患者・看護師双方のためのアクティビティケア・12【最終回】

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 第1回目(71巻4号)の「アクティビティとは何か」で,アクティビティケアの効果を提示しました.アクティビティケアを実践することは,患者・看護師双方へ効果がもたらされるということです.この効果が最大限にもたらされるよう,日々意図的にケアを提供していくことが重要となります.

 最終回である今回は,患者の一日を通して,アクティビティケアのあり方について考えていこうと思います.

連載 自分の人生を自分でコントロールするために 看護師のためのセルフコーチング・12【最終回】

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価値ある人生を送るために

 あなたの人生はあなたの価値観に基づいて作られます.人は行動を起こす前には,まず何をすればいいのか,やる価値があるのかなどを考えます.色々と考えたうえでやるだけの価値があるとわかると,次に行動をしようと決断をします.そして決断するからこそ,また行動を起こすのです.そうはいっても,仕事や立場上,どうしてもいろいろなことに振り回されてしまう時もあります.

 たった一度しかないあなたの人生です.あなたの大切な人生をあなた自身の手でコントロールし,充実した最高の人生作りをするためのツールをご紹介します.

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技術としてのコミュニケーションを学ぶ

医療現場のコミュニケーションは共同作業

 私は,北海道で婦人科がんのサポートグループを主宰している.そこでよく話題になるのが「医療者とのコミュニケーション」である.例えば「先生や看護師さんが忙しそうで聞きたいことが聞けない」という不満は,がん患者から日常的に聞こえてくる.「セカンドオピニオンを取りたいがそう希望を伝えていいかわからない」という悩みも頻繁に寄せられる.

 医療者の心ない言葉や態度に傷ついたとの訴えも多い.ほんの一部を紹介すると,「検査の結果を聞きに行ったらいきなり“進行してしまってうちでは何もできない,ホスピスを紹介します”と言われた」,「抗がん剤の副作用のつらさを訴えたら看護師に“あなたは甘いよ.みんな頑張ってるのに”と言われた」,「痛みを訴えたら“そうあっちもこっちも痛い訳がない”と言われた」,「質問したら“いまはそこまで考える必要はない”と言われた」などといった訴えである.このような医療者の言葉が原因でうつになってしまったり,治療に対する意欲を失ってしまったと語る患者もいる.

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編集後記 鳥居 , 大野
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●特別記事「生きるための緩和医療」というタイトルにドキッとした人もいらっしゃるのでは? いわゆる「終末期」であっても,死ぬために生きているわけではない.死が訪れるときまで,ただ,生きる.当たり前のことのようですが,医療が高度化する今,難しい課題です.

 特集は「自己治癒力」がキーワードでした.人間が本来持つ回復力,いわゆる「自然治癒力」から一歩踏み込んで,そうした治癒力の発露に人の主体性が深く関与しているという考え方が提示されていました.実際のところ,人の主体性がその人の治癒力の発露にどのように関係しているかは(わかっていることがあるとしても)未知数の部分が大きいでしょう.しかし,日々の実感としてこれを否定する人は少ないのではないでしょうか.意識しているかどうかは別として,生きようとする意志が人に眠る治癒力の発露にかかわっているとすれば,それを支えることは,これからの医療では大切な課題となるのでは?そんなことを考えました. 【鳥居】

基本情報

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看護学雑誌
72巻3号 (2008年3月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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