特集 自己治癒力を高める技法とエビデンス
自己治癒力とは何か
川村 則行
1
Noriyuki Kawamura
1
1国立精神・神経センター精神保健研究所
pp.186-195
発行日 2008年3月1日
Published Date 2008/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661101213
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はじめに
フランスには,ルルドの泉と呼ばれる「病の奇跡的治癒」で有名な場所がある.今も,回復不能な状態の患者たちが,最後の望みを託してこの地を訪れ,泉にからだを浸し,奇跡的快癒を待ち望んでいる.ここはカトリックの聖地とされており,最近までの約一世紀半の間に,信仰によって回復不能の状態から治癒が引き起こされた例が一万件もあるという.キリスト教徒以外でも,ここに詣でる人は多い.
20世紀半ばになってから,ルルドの泉で起こった治癒が本当に奇跡的であったかどうかを徹底的に調べる試みがなされ公式登録簿が作成された.医師団によって,科学的・誠実に論証が行なわれている.その中の27症例の回復例は,①その疾患が確実に存在し,診断が確定していた,②加療の有無を問わず,予後が不良であったと立証できた,③疾患は重症で,不治であった,という,3つの基準を満たしているという.このように,(医療的介入のない)自己治癒による「不治の病」からの回復は実際に起こっている1).
しかし,こうしたことはなぜ起こるのだろうか.宗教的立場から自由になって,人間が持つ回復力の科学的メカニズムを考察するのが本稿の目的である.
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