小児科診療 87巻5号 (2024年5月発行)

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特集　それってほんとにITP？

序文金兼　弘和 87巻5号 , 2024年5月 , pp.497-497

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　ITPは免疫性血小板減少症（immune thrombocytopenia）の略であり，かつては特発性血小板減少性紫斑病（idiopathic thrombocytopenic purpura）とよばれていたものであり，英語の略語としては同じです．小児では急性ITPが多く，一般小児科医が血小板減少の患者をみた際に，真っ先に想定される疾患であり，自然寛解あるいは免疫グロブリン大量療法で寛解することが多いです．そのため血液専門医でなくても診断・治療可能な疾患ですが，まれに他の疾患が紛れ込んでいることがあり，急性ITPと治療法が異なり，診断や治療の遅れは予後に影響します．本稿では，一般小児科医が知っておきたい診断方法，鑑別診断，最新の治療法についてそれぞれの分野のエキスパートに解説していただきました．

Ⅰ．ITPの診断

ITPはなぜ今immuneなのか石黒　精 87巻5号 , 2024年5月 , pp.501-505

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SUMMARY

▷ITPを示す用語は統一されていない．将来的には免疫性血小板減少症に収束するであろう．

▷ITPは血小板の破壊と産生障害により血小板が減少する自己免疫性疾患である．

▷血小板自己抗原（GPIIb/IIIa，GPIb/IX）に対する免疫寛容の破綻と考えられる．

▷自己抗体が結合した血小板は，網内系でマクロファージなどに捕捉されて貪食・破壊される．

▷骨髄巨核球に自己抗体や細胞傷害性T細胞が働いて，血小板産生も低下する．

ITPの診断に骨髄穿刺は必要か加藤　格 87巻5号 , 2024年5月 , pp.507-511

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SUMMARY

▷ITPの診断に特異的な検査はなく，除外診断による．

▷典型的小児ITP の診断に骨髄検査は必須ではない．

▷肝脾腫がある場合や赤血球，白血球の数的，形態的異常を有する非典型例では骨髄検査を実施する．

免疫性血小板減少症における血小板自己抗体の病態と役割今泉　益栄 87巻5号 , 2024年5月 , pp.513-517

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SUMMARY

▷ITPの病態は血小板膜糖タンパクに対する自己抗体による血小板の破壊亢進と産生障害．

▷自己抗体はGPIIb/IIIa標的の頻度が高く，IgGが主体でIgMも検出される．

▷抗血小板抗体検査は特異度が高く陽性の場合ITP診断に有用だが，陰性でも除外できない．

▷血小板膜糖タンパク由来潜在性ペプチドのマクロファージによる抗原提示（cryptic peptide model）．

▷ITPの免疫病態には細胞傷害性T細胞，未熟な制御性T細胞，さらにB細胞活性化因子が深く関与．

先天性血小板減少症・異常症の診断をどうする笹原　洋二 87巻5号 , 2024年5月 , pp.518-524

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SUMMARY

▷先天性血小板減少症・異常症は，造血幹細胞からの巨核球分化と血小板産生に重要な遺伝子群の異常により発症する．ITPとの鑑別に重要であり，一部の症例で血液腫瘍を合併する疾患群である．

▷原因遺伝子としてこれまで56遺伝子が報告されており，国内でも血小板機能解析と，既知遺伝子パネル検査あるいは網羅的遺伝子解析が可能である．

▷本疾患を疑うとき，血小板サイズによる疾患分類，代表的疾患の概要，診断コンサルト先，治療の概要と長期フォローアップについては，先天性血小板減少症・異常症の診療ガイド^1）が有用である．

Ⅱ．ITPと鑑別すべき血液・免疫疾患

急性白血病小野　林太郎 , 長谷川　大輔 87巻5号 , 2024年5月 , pp.525-529

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SUMMARY

▷血小板減少のほかに異常をみとめない小児患者において，骨髄検査は必須ではない．

▷急性白血病では血小板減少のほかに，白血球や赤血球系の異常をみとめることが多い．

▷急性白血病では肝腫大や脾腫大，リンパ節腫大といった全身症状を伴うことが多く，血小板減少を呈する患者をみる際は丁寧な身体診察，病歴聴取が重要である．

全身性エリテマトーデス伊良部　仁 87巻5号 , 2024年5月 , pp.531-534

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SUMMARY

▷小児期発症の全身性エリテマトーデス（SLE）では31.5%に血小板減少症を呈する．

▷原発性免疫性血小板減少症（ITP）と比較してSLEの血小板減少症は軽症であることが多い．

▷SLE関連の血小板減少症では，自己抗体に起因する機序，合併症，液性因子が複雑に関連する．

▷原発性ITPの診療中にSLEや抗リン脂質抗体症候群を合併することがあり，注意が必要である．

▷SLE治療中の血小板減少症では，治療薬や免疫抑制状態における感染症も鑑別となる．

Wiskott-Aldrich症候群山下　基 87巻5号 , 2024年5月 , pp.535-539

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SUMMARY

▷Wiskott-Aldrich症候群は，血小板減少，湿疹，免疫不全を3主徴とする先天性免疫異常症である．

▷WAS遺伝子の機能喪失型バリアントを原因とし，X連鎖潜性遺伝形式を呈する．

▷軽症例は血小板減少のみを呈し，X連鎖血小板減少症と称される．

▷類縁疾患としてWIP欠損症，ARPC1B欠損症が知られる．

MYH9異常症國島　伸治 87巻5号 , 2024年5月 , pp.541-544

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SUMMARY

▷MYH9異常症は，巨大血小板，血小板減少および顆粒球封入体を特徴とする常染色体顕性（優性）遺伝疾患である．

▷May-Hegglin異常，Sebastian症候群，Fechtner症候群，Epstein症候群はすべてMYH9異常症に包括される．

▷MYH9異常症は非筋ミオシン重鎖IIA遺伝子であるMYH9のヘテロ接合性変異により引き起こされる．

▷末梢血塗抹標本を用いた非筋ミオシン重鎖IIA免疫染色による局在解析により診断と分類が可能である．

von Willebrand病高橋　幸博 , 酒井　和哉 87巻5号 , 2024年5月 , pp.545-550

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SUMMARY

▷von Willebrand病（VWD）は，von Willebrand因子（VWF）の欠失あるいは異常による出血性疾患．

▷そのなかでも亜型の2B VWDはVWF異常により血小板膜タンパク（GP）1 bαとの親和性亢進から血小板減少を生じる．

▷また，血小板型VWDはGP1 bα異常からVWFとの親和性亢進から2B VWDと同様に血小板減少を生じる．

▷一方，VWFのマルチマーサイズを制御するVWF特異切断酵素（ADAMTS13）の欠乏症では超大型VWFマルチマーが出現し血小板と結合することで血小板減少を生じる．これらはITPとの鑑別に重要な疾患である．

Kasabach-Merritt現象（症候群）小関　道夫 87巻5号 , 2024年5月 , pp.551-558

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SUMMARY

▷Kasabach-Merritt現象はKaposi肉腫様血管内皮腫と房状血管腫により起こる血小板減少，凝固異常．

▷腫瘍内の血管内皮に血小板が補足され，活性化された血小板によりフィブリン血栓が生じ，進行するとDICとなる．

▷発症すると病変が急激に増大し，暗赤色で硬い腫瘤となる．出血傾向を反映し血管腫周囲や全身に紫斑が出現することもある．

▷診断は典型的な例では容易だが，乳幼児にみとめる別の血管腫・血管奇形等と鑑別が必要な場合もある．

▷治療はステロイド，ビンクリスチンなどの薬物療法が優先されるが，最近はシロリムスの有効性が注目されている．

家族性血小板減少症関口　昌央 87巻5号 , 2024年5月 , pp.559-563

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SUMMARY

▷家族性血小板減少症は常染色体顕性遺伝形式をとる先天性の血小板異常症であり，慢性免疫性血小板減少症と誤診されているケースも多いため，診断のためには「既存の診断を疑うこと」がまずは重要である．

▷家族性血小板減少症の原因遺伝子としてRUNX1，ANKRD26，ETV6などがよく知られているが，まれなものも含めると75以上の原因遺伝子が知られている．診断確定のためには遺伝子パネル検査が有用である．

▷家族性血小板減少症の患者は白血病など悪性疾患の易罹患性を有するため，適切なサーベイランスを行うことが推奨される．

CDC42異常症，武内・小崎症候群武内　俊樹 87巻5号 , 2024年5月 , pp.565-569

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SUMMARY

▷武内・小崎症候群は，巨大血小板性血小板低下症（血小板が大きく，血小板数が少ないこと）を特徴とし，CDC42遺伝子のヘテロ接合性機能亢進型変異によって発症する多系統疾患である．

▷免疫性血小板減少症（ITP）との鑑別の観点からは，本疾患患者では，末梢血に巨大血小板性血小板低下がみとめられるほかに，知的障害，特徴的顔貌，感音難聴，屈指など多彩な全身性の症状を呈することがポイントである．

▷CDC42阻害薬による治療研究がすすめられている．

Ⅲ．ITPに対する薬の使い方

免疫グロブリン大量療法森　麻希子 87巻5号 , 2024年5月 , pp.571-576

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SUMMARY

▷小児の新規診断ITPにおけるファーストライン治療には免疫グロブリン大量療法（IVIG）と短期副腎皮質ステロイドがあり，おもに出血重症度が実施を判断する決め手となる．

▷出血の評価には修正Buchananの出血重症度分類が用いられることが多く，粘膜出血がみとめられる際には積極的な治療介入を検討する．

▷IVIGにより短期的に血小板増加に導くことができるが，効果は一過性であるため，持続性/慢性ITPにおいては，血小板数や出血重症度に加え，治療介入がHRQoLの向上につながるかという視点をもち治療介入の判断を行うことが求められる．

コルチコステロイド東川　正宗 87巻5号 , 2024年5月 , pp.577-581

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SUMMARY

▷小児免疫性血小板減少症（ITP）の治療において，コルチコステロイド（CS）はファーストライン治療薬であり免疫系細胞を広く抑制することで治療効果を得る．

▷治療薬はプレドニゾロン（PSL）2mg/kg/日分3，5～7日間の投与とし，血小板数が3～5万/μLとなれば速やかに減量中止する．

▷PSLの治療効果判定は7日目に可能である．

▷作用機序，副作用の種類や出現時期を理解し常に患者にとっての利益とリスクのバランスを考え同意のうえ使用することが重要である．

リツキシマブ内山　徹 87巻5号 , 2024年5月 , pp.583-586

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SUMMARY

▷リツキシマブはB細胞上に発現するCD20抗原に対するキメラ型モノクローナル抗体である．

▷ファーストラインの治療に反応がない場合のセカンドラインの治療に位置づけられる．

▷ファーストラインの治療に反応せず粘膜出血や生活の質の低下がみとめられる場合に使用を検討する．

▷使用にあたってインフュージョンリアクションや低γ-グロブリン血症への対応が必要である．

トロンボポエチン受容体作動薬宮川　義隆 87巻5号 , 2024年5月 , pp.587-590

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SUMMARY

▷トロンボポエチン受容体作動薬を小児ITPの二次治療として推奨（適用外）．

▷欧米では1歳以上の前治療が無効なITP患者に対して適応がある．

▷米国血液学会ITPガイドラインでは，トロンボポエチン受容体作動薬を脾臓摘出術とリツキシマブより優先することが推奨されている．

カラー口絵

カラー口絵 87巻5号 , 2024年5月 , pp.493-495

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本誌本文中にモノクロ掲載した図表のうち，カラーで掲示すべきものを順に並べた．

［p. 519　図1］

［p. 522　図3］

［p. 542　図］

［p. 552　図］

症例報告

積極的治療を提供し，良好な経過をたどっている13番染色体長腕部分トリソミーの1症例長　千春 , 後藤　幸子 , 池田　和幸 , 勝見　良樹 87巻5号 , 2024年5月 , pp.591-595

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要旨

　13トリソミーは，以前看取りの医療を基本とされてきたが，医療の進歩と積極的治療により生命予後とQOLは向上してきている．部分トリソミーでは量的不均衡のある領域により症状は様々である．先天性心疾患とてんかんをもつ遠位部分トリソミーの男児で，各々の治療により緩徐に成長発達を続け，現在2歳となる症例を経験した．13トリソミーの予後は必ずしも不良ではなく，治療により成長発達が期待でき得ると考える．

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目次 87巻5号 , 2024年5月 , pp.498-499

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お知らせ 87巻5号 , 2024年5月 , pp.505-505

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お知らせ 87巻5号 , 2024年5月 , pp.511-511

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診断と治療〔第112巻・第5号〕特集予告 87巻5号 , 2024年5月 , pp.529-529

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本号掲載広告一覧 87巻5号 , 2024年5月 , pp.597-597

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次号予告 87巻5号 , 2024年5月 , pp.597-597

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投稿規程 87巻5号 , 2024年5月 , pp.600-601

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投稿論文チェックリスト 87巻5号 , 2024年5月 , pp.602-602

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バックナンバー 87巻5号 , 2024年5月 , pp.603-603

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奥付 87巻5号 , 2024年5月 , pp.604-604

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基本情報

小児科診療
87巻5号
(2024年5月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0386-9806 診断と治療社

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投稿規定

小児科診療 87巻5号 (2024年5月発行)

特集 それってほんとにITP？

Ⅰ．ITPの診断

Ⅱ．ITPと鑑別すべき血液・免疫疾患

Ⅲ．ITPに対する薬の使い方

カラー口絵

症例報告

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