臨床泌尿器科 70巻11号 (2016年10月)

特集 エキスパートが語る! 腹腔鏡下手術の落とし穴と対処法

企画にあたって 小島 祥敬
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 1990年初頭に,世界で初めて腹腔鏡下腎摘除術や副腎摘除術が行われてから四半世紀は過ぎました.今日では手術機器の著しい進歩,腹腔鏡技術認定制度の確立に伴い,特に腎摘除術や副腎摘除術においては標準的手術となりました.また,技術の進歩とともに小径腎癌に対しては,腎部分切除術が普及しつつあります.さらに,骨盤内手術においても,前立腺全摘除術はロボット支援手術に凌駕されたものの,腹腔鏡下膀胱全摘除術は保険適用となりました.

 しかし,腹腔鏡下手術においても時として大きな落とし穴に遭遇します.円滑な手術を行い,合併症を回避するため,術前に十分に個々の患者さんの評価を行うことが重要です.開腹手術が妥当かそれとも腹腔鏡下手術を行うべきか? 腎摘除術が妥当かそれとも腎部分切除術が妥当か? アプローチは経腹膜か後腹膜か? などといった術前のプラニングはきわめて重要です.また,いったん手術を開始したとしても,さまざまな困難に直面することはありえます.大血管の処理をいかに安全かつ確実に行うか? 出血をしたときの対処法は? そして,周囲臓器損傷を回避するためにはどうすべきか? 回避できなかったときにはどう対処するか? さらに,術中に開腹手術に移行すべき緊迫した場面で正しい判断をいかにするのか? など,知っておくべきポイントは多くあります.

〈術前プラニングの注意点〉

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▶ポイント

・危険因子を有する患者の腹腔鏡下手術では,手術体位などの手術操作以外の部分でも注意が必要である.

・手術体位に起因する神経筋障害はむしろ増加しており,見逃されることがないように手術チームとして対策を行う必要がある.

・体位関連合併症の予防には,患者や手術条件,手術チームの危険因子を把握し,事前の準備や術中の対策を講じることが重要である.

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▶ポイント

・泌尿器腹腔鏡手術ガイドラインに沿うべきである.

・術者の技量に沿って手術法を決定すべきである.

・選択した治療法により,患者が恩恵を受けることが大切である.

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▶ポイント

・腫瘍径4cm以下,非埋没型腫瘍がLPNのよい適応である.

・LPNの難易度に関する因子として,腫瘍の大きさ,腫瘍の位置,腫瘍の突出,尿路との距離,腫瘍の性状などが挙げられており,客観的評価法としてR.E.N.A.L. nephrometry scoreなどが提唱されている.

・LPNの難易度は,術者およびチームの技量などのほかの因子にも左右されるため,一般的な基準を設けるのは困難である.

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▶ポイント

・鏡視下副腎手術では,臓器のオリエンテーションがつけやすく,視野も良好な経腹膜アプローチを原則として選択する.

・鏡視下腎手術では,早く腎動脈,腎静脈に到達できること,比較的術後の回復が早いことから後腹膜アプローチが推奨される.

・最終的には,肥満や腹部臓器の手術の既往などの患者条件,腫瘍の大きさ,位置や周囲への浸潤,リンパ節転移の有無や術者の技量により,臨機応変にアプローチを決定するべきである.

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▶ポイント

・骨盤内手術(前立腺全摘除術・膀胱全摘除術)において,開腹手術か腹腔鏡下手術かの手術方法の選択は安全に手術を行うために重要である.

・骨盤内手術における腹腔鏡下手術は,気腹圧に伴う出血量の減少が期待できる.

・腹部手術既往症例においては,開腹手術で行うか腹腔鏡下手術で行うかの判断は,既往手術の創のない部分からの試験観察で安全に判断できる.

・骨盤内腹腔鏡下手術を行う場合,長時間の低頭位による影響なども総合的に考慮して手術適応を判断すべきである.

〈術中合併症を回避するための方法と対処法〉

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▶ポイント

・腹腔鏡下腎摘除術では腎頸部および副腎周囲操作時の静脈性出血が多い.

・あらゆるデバイスにより出血を来す可能性がある.

・多くは不注意,誤操作によるものであり,慎重な操作で予防可能である.

・出血したときは,焦らずに状況把握,圧迫などの初期対応を行ってから状況に応じた止血を行う.

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▶ポイント

・腎動脈の分枝と走行を術前に十分評価し,血流遮断漏れのないように注意する.

・腫瘍切除の際,腎洞内は切開ではなく,腫瘍表面に沿って鈍的剝離を主に行い,腫瘍に連続する索状物のみシーリングデバイスで離断する.

・尿路が開放した場合,大きな開放部位のみピンポイントで縫合閉鎖する.小さな損傷部位は腎実質縫合を行うならば不要である.

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▶ポイント

・術前画像評価にて出血の危険部位に対する認識を高め,十分な注意を払い,出血させないような手術進行が重要である.

・腹腔鏡装置やスコープ,ライトガイドなどの点検および更新は安全でよりよい手術のためには必須である.

・一次止血が得られた時点で,冷静になり,この時点でどの方法で二次止血するか,開腹移行すべきかなどの判断をする.

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▶ポイント

・脾損傷の予防には,脾臓外側の腹膜を切開する前に,鉗子で直接脾臓を圧排しないことが重要で,胃大弯が見えるまで十分に腹膜を切開する.

・膵臓損傷予防には,腎門部処理の前に,脾臓,膵臓,下行結腸を内側に脱転し,Gerota筋膜と癒合筋膜の間のスペースを十分に確保する.

・腸管損傷の予防には,腸管近くでモノポーラは使用しない.右側の手術では経腹膜,後腹膜にかかわらず,十二指腸に注意を払うべきである.

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▶ポイント

・前立腺全摘除術における腸管損傷は一定の確率で起こりうる合併症として常に念頭に置き手術に臨む必要がある.

・術中認識できない腸管損傷は熱損傷によることが多く前立腺尖部から尿道後面と直腸の間の剝離にはhot deviceを使用すべきでない.

・術中認識できた腸管損傷は確実な二層縫合にて修復でき,多くの場合人工肛門造設は不要である.

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▶ポイント

・手術を行ううえで最も大事なことは,「安全にかつ,確実に目的を達成する」ことであり,緊急事態の際にはそのリカバリー処置に関しては最もよいと思われる方法を選択することである.

・緊急時にまず行うことは,リカバリー処置でなく,事態が悪化していくスピードをできる限り遅くし,安定してコントロールされた状態にもっていくことが大切である.

・緊急時の最適なリカバリー処置は,開腹とは限らない.鏡視下で対応したほうがよい症例も多く,開腹移行の判断は慎重にするべきである.

綜説

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要旨

 小径腎腫瘍に対する標準術式は腎部分切除術(partial nephrectomy : PN)であり,侵襲性の観点より腹腔鏡下腎部分切除術(laparoscopic PN : LPN)が現在のトレンドとなっている.しかし,LPNは鉗子操作の制限などにより技術的難易度が高く,阻血時間の問題もあり適応症例も限られる.ロボット支援手術は高倍率3D HD画像,多自由度鉗子などの技術革新により鏡視下手術を進化させた術式として急速に発展している.泌尿器科領域ではロボット前立腺全摘除術の豊富な経験やさまざまな改良により,ロボット支援腎部分切除術(robotic-assisted PN : RAPN)において阻血時間の短縮,安全性の向上が認められ,2016年4月には保険適用となった.本邦でも今後ますます増加するものと考えられる.

専門医のための泌尿器科基本手術

開腹腎部分切除術 齋藤 英郎
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ポイント

・Trifecta達成のポイントは,丁寧かつ適切なマージンで腫瘍を切除することである.

・クーリングはしっかりと時間をかけて,腎内部まで冷やす.これにより,60分は阻血できるため,丁寧な切除および止血処理ができる.

・術前画像のイメージを確認し,特に尿路・弓状動脈を意識することで合併症を減らせる.

・阻血前の準備確認も重要である.施設によっては,使用する物を決め,リスト化しておくと確実な確認が可能となる.

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ポイント

・腎阻血前に,腫瘍切除・腎実質縫合が完遂しうる術野を確保する.

・腎阻血下に,良好な術野で腫瘍切除を行う.

・腫瘍切除の際,切り始めの部位はマージンを少し大きめにとり,腫瘍側の可動性が得られるようになれば,以後は腫瘍に沿って切除する.

・腎洞内の切除・縫合は,腎血管や尿路の損傷の原因となるため,極力避ける.

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 著者の郡先生は泌尿器科学を専門とされておられ,そのご業績に対して紫綬褒章をはじめ,数々の賞を受賞されておられるが,そのなかに平成16年に受賞された,「尿路結石症の病態解明と予防法への応用研究」と題する論文に対する日本医師会医学賞がある.私はそのとき,日本医学会の会長として医学賞の選考に携わったが,この医学賞は日本医学会に加盟している基礎・社会・臨床のすべての分野の研究者から申請を受け,そのなかの3名だけに受賞が限られるので,泌尿器系の先生が受賞されるのは珍しいことであった.そのため郡先生のことは私の記憶に強く残っていた.その郡先生が上記の題で200頁近い本をご自身で執筆されたことは私にとって大きな驚きであった.

 この本は「研究の楽しさ,美しさ」「科研費の制度を知る」「申請書の書き方」「見栄えをよくするポイント」の4章に分かれているが,特に第3章の「申請書の書き方」では実際の申請書の執筆形式に沿う形で,それぞれの項目において基本的に注意すべき点(基本編)と,実際にどのように書くか(実践編)について詳細に記載されており,科研費を申請される方にとってきわめて有用かつ実用的な内容となっている.

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バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 大家 基嗣
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 「百寿社会を問う」をテーマに第25回日本腎泌尿器疾患予防医学研究会を2016年7月7日(木)・8日(金)に,慶應義塾大学日吉キャンパスの協生館で開催いたしました.イブニングセミナーで明治大学・野生の科学研究所所長の中沢新一先生に「尿の神話学」というタイトルでご講演をいただきました.著名な宗教学者である先生が泌尿器科の研究会であるがゆえに考えてくださったオリジナルの講演でした.大好評で,知の迷宮に私たちは迷い込んでしまいました.

 どうして中沢先生をお招きしたかといいますと,仲谷達也教授(大阪市立大学)が会長をお務めになった昨年の本研究会にさかのぼります.イブニングセミナーでの谷直樹先生(大阪くらしの今昔館)のご講演で,「誰もが大阪城は太閤さんが作ったと思っているが,実はそうではない.天守閣は昭和に入ってから再建され,城壁は江戸時代にできたもの.太閤さんの大阪城は天守閣が焼けて地下に埋められ,その上に現在の城壁が造られた」とのお話がありました.「豊臣秀吉が建てた大阪城は地下に埋もれている!」という話を聞いて私は,中沢新一先生の『アースダイバー』(講談社2005年刊)を思い出しました.土地がもつ力と神話性,例えば神社を建立させる「土地の呪縛的な力」を連想させました.早速アポをとって中沢先生に会いに行き,ご講演を快諾していただきました.内容は先生にお任せしました.

基本情報

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臨床泌尿器科
70巻11号 (2016年10月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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