臨床泌尿器科 70巻10号 (2016年9月)

特集 最新泌尿器病理─世界の最先端を学ぶ

企画にあたって 都築 豊徳
  • 文献概要を表示

 泌尿器病理に携わる医師として,2016年は病理組織の世界的規範であるWHOおよび尿細胞診の国際標準であるParis Systemという2つの世界基準が同時に発刊された記念すべき年である.この2冊は現在の泌尿器病理の最先端をまとめ,標準化を試みた書物である.さまざまな領域において新しい概念が導入されており,今後の泌尿器腫瘍の診療および研究を行う泌尿器科医にとって,この2つの正確な理解は必須といえる.すでに欧米のガイドラインではこれらの概念を導入した形での改定が進んでいる.また,これらの知識を前提とした研究も続々と発表されている.しかしながら,本邦では泌尿器科医向けにまとめられた発表もしくは書籍がないのが現状で,すでに発表および今後発表されていく欧米のガイドラインや研究の背景が十分理解できない懸念がある.さらに,医学研究を進めるうえで,2冊の本の概要を知らないことは著しい不利益である.したがって,多くの日本人泌尿器科医向けにこれらの情報をもたらすことが急務であると考える.

 本特集では,日本の泌尿器病理の第一人者をお招きして,上記2冊で提唱された項目および初めて導入された概念についての解説,臨床的意義,使用方法,今後の方向性を平易に述べていただいた.それに加え,最近提唱された新しい概念も解説のうえ,今後の展望も述べていただいた.今回の内容は現在の世界の泌尿器病理の最先端を示すとともに,世界で行われている実情の理解にかなり役立つと自負している.また,同じ施設内の病理医にも情報を共有していただけると,より一層充実した成果が上げられると期待している.本特集が日本の泌尿器科医の日常診療および研究の大きな助けとなれば幸いである.

  • 文献概要を表示

▶ポイント

・管状囊胞腎細胞癌は肉眼的にスポンジ状で,組織学的には多房囊胞性病変で,囊胞の内面は好酸性細胞質を有し,異型の目立つ細胞で被覆され,しばしば打ち釘状を呈する.

・後天性囊胞腎随伴腎細胞癌は後天性囊胞腎を背景に生じ,囊胞の内面からしばしば発生し,強い好酸性を呈する腫瘍細胞が管状,篩状,乳頭状に増殖し,微小囊胞状の増殖が特徴で,間質にはシュウ酸カルシウムの沈着がみられる.

・淡明細胞乳頭状腎細胞癌は境界明瞭で被膜を有し,しばしば囊胞形成を伴う.管状,乳頭状,腺房状,充実性,リボン状の増殖がみられ,核異型は弱く,核が内腔側に立ち上がり,横に並ぶ傾向がみられる.

  • 文献概要を表示

▶ポイント

・核異型度は組織型,紡錘(類肉腫)細胞またはラブドイド細胞成分の存在,壊死,微小血管侵襲とともに腎細胞癌の病理学的予後因子である.

・Fuhrman分類は核の大きさ,核小体および著しい多形核,巨細胞,紡錘(類肉腫)またはラブドイド細胞の存在を基準とした4段階分類で,highest areaのgradeを記載する.

・腎癌取扱い規約で用いられている3段階分類は腫瘍細胞核の大きさを,正常近位尿細管上皮細胞核と比較して分類し,優勢度の順に不等号を用いて表記する.

・最近提唱されたWHO/ISUP分類は核小体の大きさと著しい多形核,巨細胞,ラブドイドまたは紡錘(類肉腫)細胞成分の存在を基準とした4段階分類で,highest areaを記載する.淡明細胞型腎細胞癌,乳頭型腎細胞癌に限定して適用し,嫌色素性腎細胞癌などの他組織型には適用しない.

  • 文献概要を表示

▶ポイント

・2016年に発刊されたWHO改訂版での重要な項目および新しい概念を紹介する.

・日本と欧米とで解釈が異なる上皮内癌の概念を述べる.

・近年の研究で多様性が明らかにされてきた尿路上皮癌の分子生物学的側面に基づく分類方法の解説を行う.

  • 文献概要を表示

▶ポイント

・前立腺癌に対する新しいグレード分類が提唱され,ISUPにより承認された.

・新分類はグレードグループ1〜5によって評価される.グレードグループ1はGleasonスコア6以下に,2はGleasonスコア3+4=7,3はGleasonスコア4+3=7,4はGleasonスコア8,5はGleasonスコア9,10にそれぞれ対応する.

・この新分類は2016年に発刊された新WHO分類にも収載されており,今後は国際的な標準になると考えられる.

IDC-P─古くて新しい概念 宮居 弘輔
  • 文献概要を表示

▶ポイント

・IDC-Pは多くの場合でhigh-grade/stageの浸潤癌が上皮内に進展したものと考えられ,生検検体/全摘検体におけるIDC-Pは患者予後不良因子となる.

・IDC-Pの診断基準として,前駆病変であるHGPINとの鑑別に重点をおいたものがいくつか提唱されている.

・少数のIDC-Pは浸潤癌との関連がみられないことから,現状ではIDC-Pを単独でGleason gradeに対応させるべきではなく,これらの症例を加味した臨床的意義に関してはさらなる検討が待たれる.

  • 文献概要を表示

▶ポイント

・旧分類のIntratubular germ cell neoplasia, unclassified(IGCNU)は,Germ cell neoplasia in situ(GCNIS)に名称が変わった.

・精巣胚細胞腫瘍はGCNIS由来胚細胞腫瘍とGCNIS非関連胚細胞腫瘍に大別され,奇形腫と卵黄囊腫瘍はGCNIS由来胚細胞腫瘍の思春期後型と,GCNIS非関連胚細胞腫瘍の思春期前型に分けられた.

・精母細胞性セミノーマは精母細胞性腫瘍と名称が変わり,GCNIS非関連胚細胞腫瘍に分類された.

新WHOで変わる陰茎癌病理 内田 克典
  • 文献概要を表示

▶ポイント

・扁平上皮癌の組織分類にHPV感染の有無が採用され,従来の8亜型から15亜型に細分化された.

・前駆病変として,従来のintraepithelial neoplasiaからPenile intraepithelial neoplasiaに改変され,SCCの各組織亜型に対応するように詳細な組織亜型が採用された.

  • 文献概要を表示

▶ポイント

・尿細胞診報告書の統一を主な目的とした『泌尿器細胞診報告様式2015』が日本から発信され,国際的には『Paris System』が刊行された.

・本邦の報告様式は包括的であるのに対し,『Paris System』は高異型度尿路上皮癌を軸としている.

・両報告様式は,エビデンスが十分ではない状況での公表であり,今後の修正による発展と国内外での統一が期待される.

専門医のための泌尿器科基本手術

  • 文献概要を表示

ポイント

・根治的腎摘除術は泌尿器科医が習熟すべき基本手術であり,自身の経験,さまざまな術書,ビデオを参考にして,自分自身のスタンダードを確立する必要がある.

・手術の上達には解剖の理解が必須である.術野解剖の理解,腹腔鏡手術からの解剖知識の還元も重要である.

・スムーズな手術には良好な術野を確保する必要がある.術野の展開に有用な手術器具を使いこなすことが重要である.

  • 文献概要を表示

ポイント

・後腹膜到達法による鏡視下根治的腎摘除術は,泌尿器科手術の基本コンセプトが集約されており,鏡視下手術のなかでも最優先に修得すべき術式である.

・手術操作にストレスのない体位,適切なトロッカー位置,外側円錐筋膜の十分な切開,腎門部が自然と残るような腎背面の十分な剝離などが重要な手術ポイントである.

・後腹膜腔には主立った臓器が少ないものの,腹膜越しに腹腔内臓器の存在を十分意識した手術操作を行わなければ,隣接臓器の損傷が起こりうる.

  • 文献概要を表示

 著者の郡先生は泌尿器科学を専門とされておられ,そのご業績に対して紫綬褒章をはじめ,数々の賞を受賞されておられるが,そのなかに平成16年に受賞された,「尿路結石症の病態解明と予防法への応用研究」と題する論文に対する日本医師会医学賞がある.私はそのとき,日本医学会の会長として医学賞の選考に携わったが,この医学賞は日本医学会に加盟している基礎・社会・臨床のすべての分野の研究者から申請を受け,そのなかの3名だけに受賞が限られるので,泌尿器系の先生が受賞されるのは珍しいことであった.そのため郡先生のことは私の記憶に強く残っていた.その郡先生が上記の題で200頁近い本をご自身で執筆されたことは私にとって大きな驚きであった.

 この本は「研究の楽しさ,美しさ」「科研費の制度を知る」「申請書の書き方」「見栄えをよくするポイント」の4章に分かれているが,特に第3章の「申請書の書き方」では実際の申請書の執筆形式に沿う形で,それぞれの項目において基本的に注意すべき点(基本編)と,実際にどのように書くか(実践編)について詳細に記載されており,科研費を申請される方にとってきわめて有用かつ実用的な内容となっている.

--------------------

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 小島 祥敬
  • 文献概要を表示

 先日,岩手医科大学泌尿器科学講座の開講50周年記念祝賀会に参加しました.久保隆元教授,藤岡知昭前教授(本誌編集顧問),小原航教授が勢ぞろいされ,祝賀会では150人を超える参加者で大盛況でした.岩手医科大学の伝統を窺い知ることができました.

 日本泌尿器科学会のホームページによると,1912(明治45)年に日本泌尿器科学会の前身である日本泌尿器病学会が設立され,第1回総会を開催したとあります.また,1929(昭和4)年の第18回日本泌尿器科学会総会から日本皮膚科学会と提携して共同で開催したのち,1956(昭和31)年の第44回日本泌尿器科学会総会から独自開催するようになったとのことです.皮膚泌尿器科からの分離・独立も,数多の先輩方のご苦労があったのだということは容易に想像できます.ちなみに,東京慈恵会医科大学,九州大学,慶應義塾大学,東京大学など,皮膚泌尿器科学講座から分離・独立してから約80年の歴史を誇る大学もあるようですが,福島県立医科大学は,1968(昭和43)年3月,わが国で最後に分離・独立しました.私が生まれる半年前のことです.

基本情報

03852393.70.10.jpg
臨床泌尿器科
70巻10号 (2016年9月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

文献閲覧数ランキング(
9月7日~9月13日
)