病院 76巻3号 (2017年3月)

特集 2035年に生き残る病院組織論

巻頭言 今村 英仁
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 病院組織の複雑さは増している.その要因として,一方では少子高齢化とそれに伴う社会保障制度改革などの外的要因,他方では多種多様な職種のスタッフで構成されるチーム医療が求められるようになってきたなどの内的要因が挙げられる.この両面から病院組織のあり方が大きく変化している.

 激動期を生き抜くためには,対症療法的な組織づくりではなく,将来を見据えて病院組織の構築について根治的に再考すべきではないだろうか.そこで本号では,地域医療構想が目指す2025年を超えて,少産・多死型の縮小社会が到来する2035年を視野に入れた病院組織のあり方について特集を組んだ.

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 本稿では,本特集「2035年に生き残る病院組織論」の解題を試みたい.

 なお,以下に記載する「川村論文」はp.188〜192(現代日本の病院組織の特徴と経営課題─組織論とイノベーション経営の視点から),「飯田論文」はp.194〜199(病院組織概論),「神野論文」はp.200〜206(統合戦略に基づくけいじゅヘルスケアシステム),「島貫論文」はp.207〜211(山形県庄内地域における持続可能な病院組織構築),「名倉論文」はp.212〜217(静岡県中東遠医療圏における中東遠総合医療センターの果たすべき役割),「内藤論文」はp.218〜222(地域包括ケア実現に向けた組織改革),「対談」はp.169〜174(病院組織をどう立て直すか)をそれぞれ示す.

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●米国病院組織研究では,病院組織は複数機能・目的をもつ高度に複雑な規範的ヒューマンサービス組織であり,高度な専門知識・技能・業務を独占し患者を統制する複数の専門職が,職種間・内で競争しつつ官僚制による統制と対抗する,「専門職官僚制」とされる.

●一般企業と比べ非競争的な患者市場とより競争的な労働市場,政府と職能団体による「弱い経営」のもとで,日本の病院組織は,専門経営者ではなく医療職が主導する専門職官僚制となり,組織の内部調整の時間・コストの増大,患者価値と労働者価値を向上させるイノベーションの抑制が懸念される.

●患者による価値決定が複雑・困難なサービスを提供する病院組織では,一般企業の経営技法の多くは有効性が限定されリスクも高い.イノベーションを促進するには,患者と病院職員が共同でより善い社会を探求・構築する,高度に複雑・創発的な組織が必要である.

病院組織概論 飯田 修平
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●病院組織管理の基本として,病院組織概論を提示する.

●2035年に生き残るには,品質管理,総合的質経営(TQM)を導入し,原理・原則に基づいて,現場で,現物で,現実に対応することが必要である(5ゲン主義).

●病院は,年中無休で,多種の専門資格職が,多部署で,並行,連続あるいは断続して複雑な業務を遂行する.多様な不具合および多様な状態の患者に対して,状況の変化に応じて,瞬時に変更・中止・続行を判断し,侵襲行為(医療)をする.不確実で極めてリスクが高い業態である.

●練馬総合病院における医療の質向上(MQI)活動の実践を通して,総合的質経営(TQM)の医療への展開の方法と課題を提示する.

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●縮みゆく社会に向けて組織を「統合」というキーワードでまとめたい.それは,患者や利用者の医療から介護ばかりではなく,生活に密着したワンストップサービスの統合戦略に他ならない.

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●庄内地域における2035年は,少子高齢化,人口減少,過疎化と大きな環境変化が予測され,病院単独の組織ではもはや対応できない.

●病院運営上からも病床機能分化,集約化,業務の効率化が重要であり,旧市立酒田病院と旧県立日本海病院の統合・再編はその嚆矢である.

●病院完結型の問題解決ではなく,統合的な視点で解決を見いだし,地域で生き残れる医療・介護システムを確立する必要があり,医療連携推進法人設立を検討している.

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●静岡県西部の中東遠医療圏(2015年の診療圏人口46.4万人)の人口は,今後,年々減少し,2035年には2015年の88.8%となるが,65歳以上の高齢者は年々増加し,2035年には全人口の33.8%を占め,75歳以上は21.4%に達する.そのため,入院患者数は,全体としては2015年の患者数に比べ14.3%増加するが,妊娠・分娩に関連する入院患者数は減少する.一方,外来患者数はほぼ横ばいで,疾病別に違いがあるがおおよそ15%以内の増減が予測される.

●中東遠医療圏の基幹病院である中東遠総合医療センターの2035年における病院組織の姿としては,患者増の診療科に応じた体制の整備に加え,地域との連携強化,職員の研修機能,組織全体の運営機能,および予防のための健診センターの強化が重要であり,地域の医療福祉関連施設との情報通信技術(ICT)の開発は必須と考えられる.

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●地域包括ケアシステム構築に向けて病院中心の法人組織運営体制を見直し,病院を含む法人施設群の一体的運用に向けた組織改革を行った.

●エリアマネジメント体制を導入し,エリアマネジャーの主導下に医療・介護施設間の連携円滑化を図った.

●施設間連携を担う事務部門管理職員を養成する目的で従来の総合職認定制度を見直し,キャリアパスに基づいて医療・介護の各専門業務を偏りなく経験できる人材育成システムとして運用を開始した.

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2035年に向けて,病院は組織構築のあり方を大きく変えていかなければ対応できないのか.

そもそも病院組織についてどのような視点・観点で論ずべきなのか.

病院組織の再構築のご経験を踏まえてお話をお聞かせいただく.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・27

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■地域のこと

 千葉県船橋市は東京駅から電車で25分,人口63万人の大都市であり中核市の指定を受けている注1).もともとは東京湾の漁業や海老川河口の港として栄え,戦後は,駅北側は住宅地開発,駅南の海側は大規模な埋め立てによる住宅地および工場を誘致し,現在も人口流入を見る地域である.

 市が属する東葛南部保健医療圏は,船橋市・市川市・習志野市・八千代市・鎌ヶ谷市・浦安市の6市で構成され,面積は254km2,人口は170万人(高齢化率19.0%)を超える.隣接の市川市は古くからのベッドタウンであり,高度経済成長時代に住宅地を供給してきた習志野市・八千代市・鎌ヶ谷市・浦安市などに囲まれた現在も成長している地域である.当該医療圏内には65の病院があり(3.8病院/人口10万人),8,233の一般病床がある(480.6床/人口10万人).一方,船橋市には3.5病院/人口10万人,422.7床/人口10万人という状況であり,全国的にはもちろん,千葉県あるいは当医療圏内で見ても医療資源密度の低い地域である.一方,冒頭に述べたように東京への距離は近く,多くの住民が東京へ職場や学校を求めている注2)ので,医療についても市外へ流出する患者数は多い注3)

連載 事例と財務から読み解く 地域に根差した中小病院の経営・2

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 本連載の目的は,地域のニーズに合わせて優れた経営を行う病院を取り上げ,そのヒントを得ることである.今回は人口約5万人,高齢化率33.3%(2015年4月1日時点)と高齢化が進む岡山県南西部にある笠岡市で,一般病棟10対1と地域包括ケア病棟を保有する医療法人社団清和会笠岡第一病院(以下,同院)を取り上げる(図1).

 同院は,1952年に診療所からスタートした.当初は周辺に医療機関がなく,外来診療をしながら往診をし,島しょ部の医療も担っていた.その後も地域の要望に応じて診療科目を増やしていったり,透析センターを設置してきた背景があり,常に地域に密着した医療を行ってきた.

 同院では2014年4月に地域包括ケア病棟が新設されてから約半年後に,10対1入院基本料を算定する148床のうち54床を地域包括ケア病棟に転換したが,まだ転換事例も少ない中,同院がスムーズに転換を行えた要因について以下に考察する.

連載 事例から探る地域医療再生のカギ・14

加賀市2病院の病院統合 伊関 友伸
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■何が問題だったのか

①医師不足に苦しむ2つの市立病院

 石川県加賀市は人口約6万8千人.2005年10月,旧加賀市・旧山中町の2つの自治体が合併し,新加賀市となった.新加賀市は,自治体合併により2つの自治体病院を運営することとなった.一つは旧加賀市の大聖寺地区にある加賀市民病院(226床)である.1880(明治13)年3月に設けられた金沢病院大聖寺出張所を発祥とし,石川県大聖寺病院,郡立江沼病院,公立加賀中央病院など,運営主体と名称を変えながら医療を提供してきた病院である.

 もう一つの病院は,旧山中町にある山中温泉医療センター(199床)である.1941年に山中海軍病院として開設され,1945年に国立山中病院となった後,2003年に旧山中町への移管とともに山中温泉医療センターとなった.地域医療振興協会を指定管理者として運営が行われてきた.

連載 病院勤務者のためのDPCデータ解析入門・12【最終回】

連載のまとめに代えて 松田 晋哉
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■はじめに

 本連載第2回から第11回まで,筆者らの教室で取り組んでいるDPCデータの分析とその活用方法に関する基礎的事項について解説した.公開データを活用することで自院の外部環境が,そして自院データをMS-AccessなどのデータベースソフトとQlik senceなどのビジネスインテリジェンスツールを組み合わせて分析および可視化することで内部環境が分析できる.そして,それを病院が持っている他の情報と組み合わせ,SWOT分析のような経営管理手法により分析することで,自院の経営課題が外部環境と相対化され明らかとなる.

 情報は活用されてこそ意味がある.DPCという仕組みが制度化され,すでに10年以上経った.DPC関連情報を何らかの形で経営に活用していないDPC対象病院はほとんどないだろう.しかしながら,その活用のレベルにはまだ施設間で大きな差がある.自施設で分析を担当できる人材育成に力を入れている施設から,分析のほとんどを外部のコンサルテーション会社に任せている施設までさまざまである.筆者はコンサルタントの意義を否定しない.ただし,それが本当に有効であるためには,コンサルタントが指摘する課題あるいは提案する改革案を批判的に検証できる内部の担当者がいることが不可欠である.そのためには本連載で紹介したような分析を行える人材が,各施設で育っている必要がある.また,このような人材がいることはDPC制度が健全に運営されるための前提条件である.そうした人材を中核としてInformation governanceがしっかりと行われる体制づくりが求められるのである1)

 本連載の最後に,これまでの内容を踏まえた上で,さらなるデータ活用のために筆者が現時点で考えている視点について説明したい.

連載 病院組織コーチング・10

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■はじめに

 筆者らは2002年頃からコーチングを研究テーマとして,その構造と機能の解明,医療への応用に取り組んできた.図11〜7)にそれらの研究の歴史を示す.患者をクライアントとしたコーチング,および保健・医療・福祉職や学生を対象としたコーチング研修プログラムを実施し,その有効性と限界を示した.また,コーチングが企業の人材育成に活用されていることから,医療組織への導入を着想した.本稿ではこれらの研究を軸に,コーチングの医療関連分野への応用を概説する.

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基本情報

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病院
76巻3号 (2017年3月)
電子版ISSN:1882-1383 印刷版ISSN:0385-2377 医学書院

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