病院 76巻2号 (2017年2月)

特集 DPCの新展開

巻頭言 松田 晋哉
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 社会保障財政を取り巻く環境が厳しくなるなか,医療費増抑制への圧力が強まっている.他方,医療技術の進歩と国民の医療の質に対する関心の高まりにより,医療者は継続的なパフォーマンスの向上が求められている.このような難しい状況で,医療に対する適切な評価を獲得するためには,医療の情報化によって各レベルで「見える化」を進めていくしかない.筆者を含めDPCの開発にあたってきた研究者はそれを目的としてきた.迫井論文ではDPC開発の目的と経緯について詳細な説明がされている.お互いに「若手」だった筆者ら研究者と厚生労働省の担当者のやり取りが昨日のことのように思い出されるが,読者の方々に開発に当たってのわれわれの思いをくみ取っていただければと思う.

 DPCの開発に当たっては,その応用範囲を広めることに努力してきた.伏見論文ではDPCの医療評価への活用について説明されている.入院およびその前後の当該施設での外来の詳細情報が収集されているDPC制度では,それらを活用することで医療の質評価(特にプロセス評価)が可能となる.伏見論文で紹介されている国立病院機構での実践は,今後わが国の医療評価のひな型となるであろう.前村論文ではジャーナリストの視点からDPCの意義について説明していただいた.国民の要望に応えることができる情報であるにもかかわらず,その理解が進んでいないという氏の指摘はその通りであると思う.行政もわれわれ研究者も説明努力を行うべきだろう.飯原論文ではDPCデータの脳卒中研究での応用例が示されている.執筆者である飯原弘二教授はいち早くDPCデータの臨床研究への応用可能性について関心を持っていただいた臨床家であり,その応用例であるJ-ASPECT Studyからはすでに多くの論文が発表されている.これらは他の診療領域の研究者の参考になるであろう.鈴木論文では,病院管理の実務家の視点からの応用事例について具体的に説明されている.鈴木氏は筆者らの研究班が開催してきたセミナーの初期からの熱心な参加者である.「分析の切り口は現場に転がる課題そのものである」という指摘は重要である.平成28年度からDPC調査において重症度,医療・看護必要度がHファイルとして収集されているが,林田論文では看護業務の評価にどのようにDPCを活用するかが説明されており,クリニカルパスの評価および退院マネジメントにどのようにこの情報を活用するかという具体的な例が示されている.DPCを用いた看護研究は新しい分野であり,この論文を参考に看護領域でのヘルスサービスリサーチが進めばと思う.最後に筆者の論文では,米国における診断群分類の動向を例として挙げ,わが国においても医療全体をカバーする分類体系の開発が必要であることを指摘し,その一環としてDPCの一般化に向けた研究が行われていることを紹介した.

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●わが国で独自に展開されたDPCの開発と普及は,広く医療に関わる関係者の「共通言語」が,診療情報の標準化を通じた医療の質向上と医療提供体制改革の推進(地域医療構想)といった社会貢献を果たすという“サービス・イノベーション”である.

●臨床プロセスを重視し米国DRGとは一線を画したDPCは,さまざまな制度設計上の工夫とともに診療報酬制度(DPC/PDPS)に導入され,それを契機に臨床現場で急速に普及・拡大,その後の広範なDPCデータ利活用の礎を築いた.

●さらなる進化が期待されるDPCは今後,急性期入院医療にとどまらず慢性期や精神医療などの「横」への拡充,あるいは,外来や介護といった個人を「縦」に評価・分析する枠組みとしての政策展開が見込まれ,その理念と効用は国際的な規格としての発展も期待される.

DPCを用いた医療評価 伏見 清秀
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●DPCデータはDPC制度の維持・改善に用いられるのみならず,さまざまな医療評価への応用が進められているので,各病院でも積極的に活用するべきである.

●クオリティ・インディケーター(QI)を用いた医療の質評価では,早期リハビリテーション推進や抗菌薬適正使用などのガイドライン適合性を評価する多くのQIが利用されている.

●DPCデータを用いた経営の質の評価,地域での自院の役割の評価なども,医療提供体制の変化への自院の対応の方向性を知るための重要な情報源となる.

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●「DPC」について患者,国民はほとんど知識がない.マスメディアも「医療費を削減するために導入された包括払い方式」という程度の認識にとどまっている.

●公開されているDPCデータはアンケート調査より信頼性のあるデータであり,マスメディアももっと意義を評価し,活用するべきだ.

●DPCデータを含めた医療情報のデータの公開は進んでいる.政策立案者,患者支援者,医療提供者がデータを活用できるように「見える化」できる人との協働が共通の課題だ.

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●平成22年度から, 筆者らはDPC情報を活用した脳卒中の大規模データベースを継続的に構築しており,これまでに約30万件の急性期脳卒中症例を登録している(J-ASPECT Study).

●DPCデータを活用することにより,多忙な臨床医の手を煩わせることなく,リアルワールドの脳神経外科の診療活動の可視化が可能となる.

●DPCデータを臨床研究に活用するには,疾患の重症度,時間情報など,重要な情報が欠落しており,追加情報を効率的に収集する手法の開発が必要である.

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●DPC制度が始まって以降,社会保障分野や医療の質の向上といったマクロレベルの分析や病院レベルでミクロ分析が発展したが,一方で,いまだ分析の切り口がわからないといった声も聞く.

●分析の切り口は現場に転がる課題そのものであり,対話によって発見できるものである.

●今後,医療マネジメントは「変化」を求められる.新規提案型の企画力とそれを生み出す前向き思考の分析力,そして実践力が必要となってくる.

●国レベルでは,特に重症度の適切な評価ができるような制度設計を求める.

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●2016年度の診療報酬改定において,DPC制度の枠組みの中で「重症度,医療・看護必要度に係る評価票」の各評価項目の情報が,DPCデータの一部(Hファイル)として収集されることになった.

●この情報は,クリニカルパスの運用管理や退院マネジメントをはじめとした病院マネジメントにおいて,非常に有力な情報源となりうる.

●医療機関においては,データの質の担保(精度管理)に留意しながら,ぜひ有効に利活用してほしい.

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●諸外国では,傷病構造および費用構造を推計するツールとして診断群分類の一般化が進みつつある.

●わが国では地域医療構想における傷病別・病床機能別病床数の推計に当たって,DPCロジックの応用が行われ,その一般化の可能性が示された.

●現在,精神科および慢性期の傷病構造をDPCロジックを用いて記述する研究が行われている.

対談

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DPCは導入から10年余を経た今,急性期だけでなく,回復期・慢性期へと新たな展開を見せている.

DPCが日本の医療に与えたインパクトとは何か.

今,急性期医療に求められているものとは何か.

地域連携の先進地・岐阜の地で,DPCに対応しつつ地域の急性期医療を支え率いてきた冨田院長に聞く.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・26

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■医療機能の概要

 函館五稜郭病院(以下,五稜郭病院)は,北海道函館市の五稜郭の南側に位置する一般病床480床を有する急性期病院である(図1).2016年4月現在,医師104人,看護職586人を含めて1,004人のスタッフにより運営されている.戦後間もない1950年に内科・放射線科の病院として開院して以降,現在に至るまでに道南地域における医療を担う病院として,各種医療サービスの提供を行っている.

 五稜郭病院の診療圏は,函館市を中心とする2市7町で構成されている南渡島2次医療圏と南檜山2次医療圏,北渡島檜山2次医療圏を合わせた3次医療圏の道南医療圏約46万人1)である.この背景として,同病院が位置する南渡島2次医療圏において民間病院,医師や看護師などの医療資源は全国,全道レベルである一方で,南檜山2次医療圏と北渡島檜山2次医療圏は自治体病院が主体で医師や看護師数も十分ではないために,医療圏の患者の2〜3割が函館市で受診している状況がある.

連載 ケースレポート

地域医療構想と民間病院・13

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■病院の概要1)

 あさかホスピタルグループは医療法人安積保養園を中心に,知的障害や発達障害を持つ子どもの就学前の療育支援から,成人後の地域生活や就労支援という幅広いサービス提供を行っている社会福祉法人安積愛育園,2つの特別養護老人ホームと有料老人ホームを運営している社会福祉法人安積福祉会,そしてデイケア,訪問看護と連携して精神障害者への生活支援から就労支援を統合的に展開しているNPO法人アイ・キャンの4つの組織から構成されている.中核施設であるあさかホスピタルは495床からなり,標榜診療科は総合心療科(精神科・心療内科)・児童精神科・内科・小児科・神経内科・脳神経外科・放射線科・歯科・小児歯科・矯正歯科である.精神病棟入院基本料15対1, 看護補助30対1の病床基準で,精神科救急病棟1,精神療養病棟,認知症治療病棟1,特殊疾患病棟2, 精神科作業療法,精神科デイケア(大規模),精神科ショートケア(大規模),精神科ナイトケア,精神科デイナイトケア,重度認知症患者デイケアなど,急性期から回復期,慢性期まで含めた総合的な精神医療を行っている.また,法人内にはさくまメンタルクリニックもあり,あさかホスピタルと連動して地域精神医療を支えている.こうした幅広い地域精神保健医療活動を支えている理念は,Ian R.H. Falloon医師の提唱した「統合型地域精神科治療プログラム(Optimal Treatment Project:OTP)である.同法人ではこの理念に基づき,多職種からなる支援チームが病院の内外で認知行動療法アプローチにより,各患者の医学的・社会的問題の解決のために協同している(図1).

 2014(平成26)年11月に出されたOECDの医療の質に関する提言書は,わが国の精神科医療について質の改善と社会復帰対策のさらなる努力を求めている2).特に,長い入院期間と社会復帰のための支援が十分でないことが問題であるとされている.ただし,わが国の精神科入院医療については先進諸国の定義に従えば中間施設的なものもかなり含まれており,単純に在院日数の長短を比較することは妥当ではないだろう.もちろん,中間施設的なサービスが入院の枠組みにある現状は改善されなければならず,そのためにはそうした社会参加のための施設・サービスを充実させなければならない.

連載 病院組織コーチング・9

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■超高齢社会における地域包括ケア

 「地域包括ケアシステム」は,「住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される」システムとされている(図1).

 平成28年版厚生労働白書では,「人口高齢化を乗り超える社会モデルを考える」と題し,日本の高齢化の状況や高齢期の暮らしなどに対する国民の意識や人口高齢化に向けた今後の方向性などを取り上げている.特に,医療や介護が必要になった場合には,今までのように病院や施設ではなく,住み慣れた地域で必要なサービスを受けながら自立した生活を過ごすことが可能となる社会が求められると述べられている1)

連載 赤ふん坊やの地域ケア最前線!—病院と地域のかかわりを学ぶ旅・[13]

石川県七尾市 神野 正博
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 能登半島の中心都市である石川県七尾市では,社会医療法人が中心となってさまざまな先進的な取り組みにより情報を一本化し,幅広い効率的なサービスを提供することで,地域包括ケアの充実や地域そのものの質の向上に寄与しているんだ! 連載第13回目の今回は,多様なサービスを情報でつないで「けいじゅヘルスケアシステム」を実現させ,地域の安心の生活に貢献されている社会医療法人財団董仙会の取り組みを紹介するね! グループの3代目として地域を牽引し続ける,神野正博理事長にお話を聞きました!

連載 病院勤務者のためのDPCデータ解析入門・11

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■はじめに

 前回は医事会計システムを利用した指標の作成方法とデータの質について論じた.DPCデータを分析する意義は,自院の医療活動を可視化し評価することだと述べたが,それでは具体的に現場レベルでのメリット(必要性)とは何か.それは「病院内外の患者の動きを可視化し,業務・診療プロセスの改善を行い,良質な医療を提供する」ことである.つまり,データ分析を行うことで,自分たちの行っている業務の現状を明らかにし,良いところは継続できるようさらに工夫し,悪いところは何が悪いのか詳細な分析を行って改善方法を見つけるのである.

 今回は「医療職全員で共有する分析結果の使い方」として,バランスト・スコアカード(Balanced Score Card:BSC)について学習する.

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■はじめに

 病院の建て替えや改修において感染対策の検討を行うことは,設計者にとっても病院設計を行う上で重要なテーマとなっている.当然のことながら,施設計画だけで感染対策を行えるわけではないが,設計上の検討を適切に行うことにより,医療スタッフにとって感染対策を行いやすい病院環境を整備していく一助となることができる.そしてこれらの検討は,適切な時期に適切な内容で行う必要がある.

 特に,病院を運営しながら建て替えや改修を行っていく場合には,アスペルギルスやレジオネラなどの建築物に関係の深い感染症への的確な対応が必要となってくる.

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病院
76巻2号 (2017年2月)
電子版ISSN:1882-1383 印刷版ISSN:0385-2377 医学書院

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