公衆衛生 50巻3号 (1986年3月)

特集 医師会活動

医師会と衛生行政 安西 定
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■はじめに

 国の近代化への発展過程のなかで,その時代の社会,経済,政治の諸条件に規定されながら,多くの困難を経験しつつ今日までに近代的衛生行政が構築されてきた.一方,医師会もまた衛生行政の構築に対応しつつ,医学・医療の専門学術団体として今日まで,国民の保健医療の向上と発展に寄与してきたことは特筆される.わが国の公衆衛生はもっぱら衛生行政と医師会活動に負うところが極めて大きくその中核となって発展してきたといえる.

 そして,急性伝染病の制圧,国民病といわれた結核の制圧,乳児死亡率の激減,生活環境の改善,医師はじめヘルスマンパワーの養成確保,保建・医療機関の整備,地域医療の充実,科学技術の開発,国際協力等々に輝かしい成果を収めてきたところである.しかしながら,衛生行政,医師会を取り巻く最近の諸情勢は極めて厳しく,新しい多くの困難と課題に直面しているといえる.

医師会と公衆衛生 箕輪 真一
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■はじめに

 近年発刊されている数多くの公衆衛生関係の教書を通覧するとき,痛切に感じられることは,医師会の公衆衛生活動についての記載は殆ど見当たらず,いわんや項を起こしての記述にいたっては皆無であるという不思議さである.

 最近第2版として発刊された公衆衛生の辞書とまで称される,「総合衛生公衆衛生学」1)の中にも,やはり残念ながら記述はない.これは編著者の諸賢が,医師会の公衆衛生活動を認識していないのか,それとも興味をもたないのか分からないが,こうした雰囲気が学界や大学関係者の中にある限り,結果として医学徒が将来,地域保健・地域医療にかかわる医師会活動について何も知らないままで世に出るということになる.

母子保健活動 伊藤 助雄
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■はじめに

 わが国の母子保健は,大正年間に芽生えた.そして昭和15年,国民体力法に基づき,乳幼児の健康診査や保健指導が実施され,17年に「妊産婦手帳」が創設されて,妊婦を主体に,マイナス1歳へと進展してきた.戦後,40年の「母子保健法」制定により理念が明確にされ,その具体的な対策の推進が講じられてきた.

 その後20年過ぎた間に,母性および乳幼児の健康の保持・増進のため,「母子健康センター」(母子保健法22条)の活動もあって,教育事業が充実されてきた1).根本は,成人病の予防医学・健康医学は,小児(5〜6歳)に目を向けなければ遅い.

学校医活動 本吉 鼎三
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■学校保健の共通理解をめぐって

 「われわれ学校医にとって学校保健とは」とのラディカルな設問に対する回答は,すでに十分なコンセンサスに達しているように思われがちである.しかし,個々の学校医の意識調査や活動状況などから帰納すると,必ずしも共通的な理解が確立しているとは言い難いようである.そこでまず教育,医療保健両側の代表的な「学校保健の考え方」を再吟味することから始めたいと思う.

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■歴史的理解から

 わが国における産業医の発想は,明治21年(1888)の後藤新平による「職業衛生法」に始まるが,社会政策としては明治38年(1905)の鉱業法による鉱山医と大正5年(1916)の工場法による工場医とに始まるとされており,いずれも慈善・救貧ないし企業防衛的な発想に基づく労働者保護をめざしたものであり,ひいては昭和戦前期の「富国強兵」「殖産興業」の国策につながるものであった.

 戦後になってから昭和22年(1947)に労働省の設置とともに,初めて労働基準法が施行されて,その中で医師である衛生管理者が定められたが,高度経済成長と産業構造の変貌に伴って,それに対応するために昭和47年(1972)に労働安全衛生法が施行され,ここに初めて法的に産業医が規定され,その選任と職務内容とが制度化されるに至った.

老人保健 知花 英治
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■はじめに

 老人保健法に基づく保健事業の施行に伴い,成人病検診管理指導協議会は福岡県でも初年度に設置されたが,健康診査における管理指導業務の一切は,県医師会の集団検診協議会が委託を受けて実施している.したがって本稿では,医師会が係わる健康診査に重点を置いて記述する.

当世健康教育論 小川 清
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■情報の氾濫に溺れること

 NHKの調査によると,いま日本人の一番好きな言葉は,「ありがとう」「健康」「思いやり」の順だという.「ありがとう」「思いやり」は世にも尊い希少価値であろうし,世界最高の平均寿命を獲得した日本人にとって,「丈夫で長生き」,とくに「丈夫で」というのは最高の価値観である.それだけに,売らんかなの商業活動の好餌となり,いわゆる健康情報の氾濫は目を覆うばかり.有名人の健康法など,普遍的な意味では怪しげなものまで喧伝されて,情報吸収に熱心な人々を混乱させている.時宜にかなった正しい保健知識を地道に直接伝えるのが,地域医療を担う医師達の役目であることを日増しに痛感する今日この頃である.そして,健康教育用の適切な講演内容や資料を載せた継続的な雑誌が欲しいというのも,多くの医師達の待望するところであろう.

予防接種と医師会活動 村瀬 敏郎
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■予防接種の歴史的経過

 医師会が地域医療活動として予防接種に取り組んだのは昭和40年代からである.

 昭和30年代は種痘,ポリオ,腸パラ,百日咳,ジフテリア,日本脳炎,インフルエンザ,BCGなど,当時有効と考えられていた予防接種が勢揃いした時期である.この時期は接種対象年齢を3ヵ月からとしており,緊急輸入されたポリオ生ワクチンなども単価ワクチンの3回投与といった具合で,受け手側にとっては予防接種ラッシュの時代であった.

救急医療 佐野 正人
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■はじめに

 交通外傷から始まった救急医療も,在宅輪番当直制,休日急病診療所,二次輪番当直制,救命センター等,着々と体制の整備が行われている.さらに昨今では,全国各地で救急医療情報システムが導入され,救急医療のシステム化が進んでいる.

 一方,救急告示医療機関の在り方,費用便益からみた救急医療情報システム,初期医療のシステム化,救命救急センターの機能等,救急医療の効率的,効果的展開という面から更に検討を必要とする事項も多い.

発言あり

防衛費1%枠
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福祉の後退と限度のない軍備費の突出と

 GNP 1%枠といってもあまりぴんとこない.自白することになるが日頃考えていないことになる.毎朝新聞に目を通すけれども,文字通りざっと一通り紙面を眺めることが多い.注意して読む記事はやはり医療問題や福祉問題が中心となる.近頃は地域保健問題,特に老人の健康づくり問題や高齢者対策に関する仕事が増えてきた.当然,国の制度や政策と密接な関係があり,保健医療や福祉に投入される国や都道府県,市町村の費用が問題になってくる.

 高度経済成長時代に拡充した福祉制度は国の財政難を理由に後退しつつある.一方,間近に迫った老齢社会への対応として,種々の社会サービスが受益者負担という名目のもとに,国民の負担増が計られている.

研究

卵巣癌の地理分布 森 満 , 三宅 浩次
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 昭和44年から昭和53年までの10年間の集積データによる,日本全国の市区町村別の卵巣癌の標準化死亡比の検討から.1)卵巣癌のSMRの高い市区町村の数は,SMRが低い市区町村に比べ,人口15万人以上の都市部に有意に多かった.2)卵巣癌のSMRの高い市区町村の数は,SMRが低い市区町村に比べ日本の北東部に有意に多かった.

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●はじめに

 第1報において,全国の市町村が老人保健法に基づく保健事業の対象者を如何にして把握しているかの実態を明らかにした1).本研究は,対象者把握の一方法である住民を対象としたアンケート調査による対象者の把握を試みるとともに,その結果に基づいて健康診査対象者の推計法を考案したので報告するものである.

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●はじめに

 疫学調査(Prospective studyおよびRetrospective study)によりタバコと肺がんとの間の相関が証明されたが,動物実験でもタバコの発がん性についての研究が発表されるようになった,HoffmanおよびWynderら1,2,3)は,タバコのタール成分すなわち煙中の微粒子成分(以下CSCという)がラットおよびイヌにおいて気管支上皮がん,マウスにおいて皮膚がん,およびラットにおいて結合織腫瘍を誘発することを発表した.このCSCは複雑な混合物であって,ここから既に3,000種以上の化合物が分離されている.

 最近,発がん性に関する迅速スクリーニング試験法として,変異原性についての生物検定法が発達してきた.この方法を用いてCSCがサルモネラ菌ではreverse mutation,Neurospora crassaではforward mutationを誘発することが証明され4),またネズミの卵巣細胞およびヒトのリンパ球においてsister chromatid exchangeおよびtrans-formationの頻度増加が認められた5,6)

衛生公衆衛生学史こぼれ話

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 ペストは古くから恐れられていたが.インド地方に発し,13世紀には十字軍の遠征を機にヨーロッパに侵入し,全ヨーロッパの人口の1/3,14世紀には1/4が犠牲になったといわれる.わが国は島国のため.ペストの侵入は明治32年(1899)にはじまり,明治年間に患者2,521,死者1,217を出し,大正年間には患者394.死者239,計:患者2,915,死者1,456と致命率はきわめて高い(昭和に入ってからは患者は発生していない).

 明治27年(1896)香港にペストが大流行したので,政府は調査団を此地に派遣した.一行は内務技師北里柴三郎(Robert Kochの高弟,明16東大卒1851〜1931),東大内科教授青山胤通(北里の1年先輩1858〜1917),北里の助手として海軍軍医石神亨,これに東大4年生木下正中(のち東大産婦人科教授明27東大卒)に,現地で開業の永原医師であった.

23.ペストとネズミノミ 北 博正
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 香港のペスト流行の際にペスト菌が発見されたが.それと前後して台湾でペストの流行があり,東大衛生学の緒方正規,同病理学の山極勝三郎の両教授は現地に出張したが,緒方は斃鼠についていたノミ(Zenopsylla cheopis)の体内にペスト菌を発見,これを健康なネズミに接種してペストを発生せしめ,ペストがネズミに寄生するノミによって媒介されることを,きわめてスマートに証明した(明30,1897).この発見は防疫上もきわめて重要なもので,衛生・細菌学領域で重要な寄与をした日本人として,1)北里:破傷風免疫血清療法,後のベーリング(Emil A.von Behring 1854〜1917)・北里のジフテリア血清療法(1890)は破傷風に対するものと同じアイデアである.2)緒方:ペスト媒介動物であるノミの発見,3)志賀潔:赤痢菌Shigella dysenteriaiの発見が挙げられている.

日本列島

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岐阜

 老人保健法の施行や母子保健法の改正の動きにもみられるように,対人保健業務の一次的サービスが市町村業務となる中で,保健所の対人業務の転換が急務となっている.また,従来より保健所活動が科学行政として.地域住民のニードに対応した合理的な活動の展開が期待されているにも拘わらず,緊縮財政やマンパワー不足等の面から十分なものとはなっていない.

 他方,我々の回りの諸種の分野においては,コンピニータを基盤としたハイテクノロジーの爛慢状況の中にあるが,保健分野では未だしであり,今後の開発が待たれる.

基本情報

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公衆衛生
50巻3号 (1986年3月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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