Neurological Surgery 脳神経外科 11巻2号 (1983年2月)

土より出でて土に帰れ 松井 将
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 わが国における最近の先端技術の発展・繁栄ぶりは,われわれ日本人は申すに及ばず,国際社会においても賛美・驚嘆され,その成果は極めて高く評価されているのみならず,すでに一部の国々では欽羨の心情を越えて,脅威と警戒の眼で対峙の姿勢をさえとっているのが見られる現況である.これら先端技術の成果は当然われわれ脳神経外科領域の検査・診断・治療の各方面にも速やかに導入・応用されて一大革命的な変改をもたらしている事実は周知の通りである.しかしかような論評はただ一方向から投射された光に映し出された像の華麗さに眩惑された幻想にも等しく,事象の本体について各方向より深く掘り下げ,精慮・熟考して到達した結論ではない.ここ数年来,世間一般に蔓延して多くの人々を無分別な狂信状態に陥れている,いわゆる"日本大国論"教の思考形式と同じであって,軽々しく欣喜雀躍して賛同する訳にはいかない.時の流れの中に生きる人間が流れから断絶して,現在という一時点に立ち止まり,未来への洞察力に欠けた思考形式から考え出した結論には"生"ある有機体の本性を解明するに必須の条件が具備されておらず,真実性に乏しい.

 未来は"不安"と"期待"の2つの顔を持って,われわれを瞠視している.不安は絶望への翳りであり’皮肉にも繁栄の持つ運命的な背面である.不安は"考える葦"人間が,また深淵に張られた綱を対岸に向って渡り行く人間が一生背負って歩き続けねばならない宿命の"荷重"である.不安は"考える葦""疑い"と同様にはっきりとした外部からの重圧への反撥ではなく,不鮮明さに対応する’内なる心の悶着・葛藤である.知り・考える能力のない者は不安を感じない.この際,ゲーテの意味深長な格言が想い出される.

総説

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I.はじめに

 瞬目反射(blink reflex)は眼瞼が閉じる反射運動で,次のような種々の条件下で起こる.すなわち①角膜・結膜・まゆ毛・眼瞼・眼輪筋などの三叉神経末梢枝への刺激(trigemino-facial reflex),②突発的な大きな音刺激(cochleo-facial reflex),③外耳や鼓膜への刺激(auro-focial reflex),④眼前に突然物体が近づいたとき(threal reflex),⑤閃光などの強い光刺激(optico-facialreflex),⑥くしゃみ,せき,嘔吐など(palato-facialreflex)があげられる.

 これらのうち最も研究の進んでいるのはtrigemino-facial reflexであり,本稿で述べる瞬目反射(blink re-flex)も三叉神経第1枝の電気刺激により誘発されるtrigemino-facial reflexについてである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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I.はじめに

 腰椎の手術ということであると,腰椎椎体の腫瘍,炎症,椎間板の変性,またこれに伴う椎体の変形性疾患,さらにはすべり症などの脊柱の疾患のみならず,硬膜内で馬尾神経を圧迫する各種腫瘍,血管奇形,炎症まで,非常に広範な疾患を包含するのみならず,手術方法としても,椎弓切除術に始まり,硬膜外,硬膜内の操作,さらには後方到達法,前方到達法など,枚挙にいとまのない種類と深さを持っている.

 そこで今回は,これら疾患のなかで最も頻度が高く,また最も日常的に行われており,それでいながら,意外と解剖学的見地からの理解が充分に得られずに行われがちな,腰椎椎間板ヘルニアの後方到達法による手術法のみに限って述べる.

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I.はじめに

 ヒトのoligodendrogliomaの電子顕微鏡による超微形態学的研究はLuse4),Raimondi9)をはじめとして多くの人達によりなされてきたが,その特徴的所見については必ずしも諸家の報告が一致しているとはいえない.Arendt1)の指摘するように,Oligodendrogliomaには,光顕でvariationが存在することも,その大きな理由の1つであろう.そこで著者らは10例のoligodendro-gliomaの手術標本について電子顕微鏡観察を行った.oligodendrogliomaの超微形態を論ずるとき,ラットやマウスの正常のOligodendrogliaの電顕像が参考になるが5-7,13),今回,著者らは10例のうちの1例から得た腫瘍周辺の正常脳組織と思われる部位のoligodendrogliaの超微形態をも参考にした.文献と比較しつつ著者らの得たoligodendrogliomaの超微形態について報告する.また光顕レベルでみられるperinuclear haloについても少しく考察を加えた.

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I.緒言

 1961年のGalicichらの報告4,5)以来,corticosteroidsは脳浮腫の治療の一環として使用されてきた.しかし同様の臨床症状を呈する症例であっても,その効果は一方では劇的であり,他方では全く反応をみないことをしばしば経験する.このため,このcorticosteroidsの投与法に関して大別して2つの試みがなされてきている.1つはこのcorticosteroidの投与量を極端に増量することであり,もう1つは種々のcorticosteroidsを使用してみることである.後者については本邦ではかなりの報告をみるが,前者についての報告はいまだに少ない.

 われわれは今まで大量投与といわれたdexamethasoneにして0.3-0.5mg/kg/d(成人量24mg/d前後)の投与法を比較的大量投与療法,この数倍の投与を行うものを超大量投与療法として便宜上区別し,脳神経疾患106例における経験を報告した16).このうち,術前de-xamethasoneの超大量投与のみで治療した脳腫瘍の多くが,CT scan上mass effectの軽減とともにcontrastenhancementの減少もしくは消失を呈した.われわれはこの現象に注目し,脳腫瘍のCT所見からそこに暗示されるステロイド投与法の検討を試みた.

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I.はじめに

 nitrosourea系抗癌剤は血液脳関門を通過するので脳腫瘍に有効であるといわれている3,8).しかし造血系に対する強い副作用のため投与量に限界があるのが現状かと思われる1)

 最近,nitrosourea系抗癌剤にphenobarbital(PB)を併用すれば,その代謝が亢進され血中濃度が下がり,その結果,腫瘍に対する効果が減弱するという報告が散見されるようになってきた5).このPBの効果は,同時に副作用をも弱めうる可能性も示唆するものと考えられる.

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I.はじめに

 脊柱管後壁の構成体の1つである黄靱帯の病変は,脊髄神経根症状を呈する症例において常に念頭に入れておかねばならないが,実際の日常診察上,比較的稀なものである.

 すでに,後縦靱帯骨化症が注目され,1つの疾患単位として定着してきたが,胸腰椎における黄靱帯骨化症の報告が増加しつつあるものの,頸椎黄靱帯病変の報告は意外に少ない.

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I.緒言

 頭蓋内骨軟骨腫は稀な腫瘍であり,本邦での集計は池田らの報告によると27例にすぎない.われわれは,斜台より発生した巨大な骨軟骨腫の1例を経験し,その発症から突然の出血死に至る約4年間にわたる臨床経過を観察する機会を得た.血管の増生に乏しく,良性腫瘍である骨軟骨腫の出血死は,報告も極めて少なく,またその臨床像にも興味深いものがあり,若干の考察を加え報告する.

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I.はじめに

 一般に髄膜種は臨床的に良性の腫瘍であり,たとえ組織像が悪性像を示しても頭蓋外への転移は非常に稀である1,12).転移性髄膜腫は現在までに70例ほどの報告例がある6,8-10,12,13),われわれは経過および組織所見から転移性悪性髄膜腫と考えられた症例を経験したので,その組織所見を中心に報告する.

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I.はじめに

 metrizamideを脊髄くも膜下腔に注入してのちCTを行う方法(computer-assisted myelography,以下CAMGと略す)はDi Chiroら7)により紹介され,今日では種々の脊髄疾患に対し有力な補助診断法として諸家に認められるようになった.

 成人のChiari奇形では,多くの場合,脊髄水腫(hy-dromyelia)を合併するため19),脊髄撮影では髄内腫瘍との鑑別は極めて困難であり,また通過する造影剤が少ないとChiari奇形そのものが見落される可能性も多い.

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I.はじめに

 原発性脳腫瘍の神経管外転移例は稀であり,menin-giomaでは現在までわれわれの渉猟しえた範囲では73例であり,本邦での報告は4例にすぎない.すでにわれわれが報告した脳実質内出血を伴ったmeningiomaの症例18)で,摘出2年後に同部位の再発と肺転移を認め,さらに半年後に肝転移で死亡した症例を経験した.若干の文献的考察を加えて報告する.

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I.はじめに

 経皮的頸動脈穿刺による脳血管撮影は手技が比較的容易なことから今日広く行われているが,検査による合併症には充分な注意が必要である.

 われわれは脳血管撮影に合併したと考えられる綿線維による脳塞栓の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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I.はじめに

 最近alpha-fetoprotein(以下,AFP)やhumanchorionic gonadotropin(以下,HCG)などのtumormarkerに基づくgerm cell tumorの診断,治療の概念が,脳神経外科領域においても定着しつつある6,14).第3脳室近傍に原発するgerm cell tumorは,特に本邦の報告例が多く,さまざまな組織型のgerm cell tumorが報告され,tumor markerとの関連も詳しく検討されている.しかしgerm cell tumorでは,その組織型により,治療,特に放射線照射に対する反応が異なることから,治療により腫瘍の組織学的特徴がかなり変化する可能性が示唆される15).しかしながら,CT上の変化やtumor markerの変化により,実際にこれを確認した症例はいまだ報告がない.

 私どもは最近tumor markerとCT上の追跡により,踵瘍構成組織の変化ないしはAFP産生能の変化を示唆する1症例を経験したので,これを報告し,文献的考察を加える.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
11巻2号 (1983年2月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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