保健婦雑誌 55巻8号 (1999年8月)

特集 保健婦の地区活動を再考する—地区とはなにか

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 茅山 今日は,「保健婦と地区との関係を考える」ということで集まっていただきました。保健婦にとって地区というのは切っても切れないものです1つの地区を受け持ち地区の課題を把握整理し,そのときにいかに住民と一緒に活動していくか。この問題把握から活動へという一連の流れの中で,必ず地区との関係があります。しかし現場では,目の前にある業務に追われて地区が見えないという悩みも多く聞かれます。

 私はいま南加賀保健所におりますが,管内には人口5千から10万の7市町村があります。ある町は保健婦が3人しかいないのですが,業務分担が主で,同じフロアにいるのに町全体の問題についてほとんど話し合うこともなく,母子や老人の健診に追われて自分がどこを向いて走っているのかわからないという話を最近聞きました。そういう中で保健婦と地区の関係が生まれてくるんだろうか,もっと意識しないと地区との関係性は出てこないんじゃないかと思うのです。今日はみなさんからご意見をいただきながら,ただ業務をこなすのではなくて,いかに意識的に動けば地区が見えるのか,どう動かなければいけないのか整理できればと思っています。よろしくお願いいたします。

コミュニティとはなにか 奥田 道大
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 コミュニティ・モデルにむけて

 コミュニティとは地域社会一般,居住空間一般を指す言葉として使われているが,筆者の専攻する都市社会学では地域社会をどのような解き口のモデルにおいてとらえるかの,コミュニティ・モデルを指して使用してきた。もちろんコミュニティ・モデルは,時代と社会の変容に応じて再定義,再々定義が促されるものであるが,コミュニティの争点としてはアーバニゼーション(都市化)とグローバリゼーション(国際化)との関連が大きく問われている。アーバニゼーションと地域社会のテーマでは,1950年代から60年代におけるいわば右肩上がりのアーバニゼーション過程にあって,地域社会の崩壊・解体化の進行,総じて“後退化”を免れ得なかった。ここでの地域社会とは,主として農村や伝統型地方都市,あるいは大都市の下町地域などを現場とする農村的地域社会(あるいはムラ的地域社会)を指していた。農村的,あるいは日本的地域社会の復権か,あるいは農村的と対極をなす都市的地域社会が,戦略的にも強調されるようになった。一例として農村的地域社会を基盤とした保健婦活動を,都市の機能的システムと結んだ保健婦活動へとスイッチすることが強調されたのも,このような時代背景があった。

 筆者は農村的地域社会を地域共同体モデル(あるいはムラ・モデル)と名づけて,アーバニゼーション時代のコミュニティ・モデルとは区別した。1950・60年代当時は,マイホームを求めて大量の大都市ホワイトカラーが郊外移住する現象に着目,新居住空間に生活拠点を築くコミュニティ指向活動に調査研究を集中させた(その成果は,拙著『都市コミュニティの理論』東京大学出版会,1982年を参照)。ボランタリーな問題解決に向けてのコミュニティ指向活動は,コミュニティ・モデルの先駆事例をなした。一方,大都市新郊外地域のひろがりとは対極をなす大都市下町地域は,1960年代前・中期までは地方出身単身者を受け入れていたが,この離村向都の流れが次第に先細りとなり,大都市じたい新郊外地域を中心として「郊外生まれ,郊外育ち」の自然増人口の相対的比重が高まるなかで,大都市中心部,とくに下町地域は高齢化と若年居住者の減少という衰退・空洞化現象をむかえるようになる。この衰退・空洞化現象は,1970年代を境として1980年代に入っては,従来の伝統型下町地域にとどまらず,下町地域と隣接する既成郊外地域に波及・浸透し,1980・90年代には大都市全体が,右肩上がりの「都市成長・発展」期から,右肩下がりの「都市衰退・空洞」期をむかえるに至った。大都市の衰退と再生が,先行する欧米大都市に続いて,わが国の大都市現象の流れとなった。アーバニゼーションじたい,成長・発展から成熟・衰退の第2期をむかえるようになった。コミュニティとの関連では,大都市衰退地区の再生が,コミュニティ指向活動の大きなターゲットとなった。筆者じしん,1960・70年前期の郊外地域から,下町を含む中心地域にフィールドを移して,超高齢化・少子化対策,地域再活力化プログラムなどを,コミュニティ・モデルの戦略的テーマとした。都心居住(再居住)の可能性,既存公共施設の“定員割れ”に伴うスクラップ・アンド・ビルド策(例えば都心小中学校の統廃合,遊休施設の撤収化,その他)を,持続可能なコミュニティ指向とのつながりで再点検する作業に追われた。そして大都市衰退地区再生のテーマは,時間的ズレを伴いながらも,大都市郊外地域,地方都市の次なるテーマでもあった。

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 はじめに

 子育てを取り巻く社会環境は大きく変わり,「公園デビュー」「母子カプセル」などの新語からわかるように,母親同士や地域の人との人間関係の難しさや育児の孤立化など,母親の育児負担感や不安感が増大していると言われて久しい。しかし,この育児不安や負担感は自分の育児が終わると他人事になってしまい,結果として同じような不安や悩みは毎世代繰り返されている。

 筆者(新堀)も業務で電話相談を受け,「こんなことまで相談するの?誰か相談する人はいないのか」と思うことがたびたびある。近所で子育ての知恵を伝え合ったり,子供に声をかけ合うなど,多くの人の目や手を借りて子育てはできないのかと思う。

 こうした状況にあっては,地域社会の力に着眼せざるを得ない。地域に子育ての問題を投げかけ,地域住民と問題を共有し,課題に取り組む必要がある。都市化でコミュニティが崩壊していると言われるが,また一方で現代の大都市ほどコミュニティの力が必要な時代と場所もないのである。

 横浜市瀬谷区保健所では,地域の人々の関わり方や地域の仕組みがどうあったら,地域ぐるみで子育て支援ができるのかという視点で,住民も巻き込んで子育て支援のあり方について検討した。本稿は,この事業の昨年度1年間の経過を報告するものであり,事業に関わった新堀と名和田が共同で執筆したものである。

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 はじめに

 高齢社会を迎え,“介護”は誰にとっても避けて通れない問題になっています。牛久市のような新興住宅地では,コミュニティが形成されていないために,自分の老親の介護をどうするのか?さらには歳をとっても最期まで自分らしく暮らすにはどうすればいいのか?といった問題をきっかけに「今から新たなコミュニティをつくろう」という市民運動が広がっています。あらゆる立場の市民がゆるやかにつながり,行政や社協とも密接に連携をとりながら新たな地域づくりを目指す活動の一端をお伝えします。

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 インファントマッサージという言葉を聞いたことがあるだろうか。乳幼児に対するオイルマッサージのことで,母親が赤ちゃんをマッサージすることでスキンシップを高め,親子のコミュニケーションが深まり,赤ちゃんの気持ちも安らぎ,豊かで健やかな発育を促す効果があるという(詳細については本誌00ページ参照)。

 今年の5月,東京都稲城市第2文化センターでは,誕生直後から9か月ぐらいまでの赤ちゃんとそのお母さんを対象に「ベビーマッサージ教室」が行われた。1コース全4回で,週1回1時間,1コースにつき7組,2コースで計14組の親子が参加した。講師は英国でインファントマッサージインストラクターの資格を取得した草間裕子さん。

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 インファントマッサージの歴史

 「インファントマッサージ」は日本人には耳慣れない,なじみの薄い言葉ですが,欧米では赤ちゃんに施すマッサージをインファントマッサージと呼んで,年間1万人以上もの親子が親しんでいます。この世界共通の意識を共有し,インファントマッサージをより多くの方に知っていただくためにも,あえて日本語の乳幼児とは訳さず,英語のまま紹介することとしました。

 インファントマッサージは,インドで看護婦をしていたアメリカ人女性ヴィマラ・マクルアーによって20年も前に考案,開発された手法です。

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 はじめに

 介護保険の施行が近くなるとともに,この介護保険該当者をつくらないための活動の必要性が言われている。そのひとつの方策として,閉じこもり予防が新たに注目されている。

 閉じこもりは,寝たきりの原因として注目されて久しいが1,2),その定義についても,いわゆる家の外に出ない状態として捉えているもの3,4)から,社会的な関係性まで含めた捉え方をしているもの5)など,未だ定まったものはなく,また,それに焦点をあてた研究も緒についたばかりである6)。また地域レベルでの閉じこもりの実態を明らかにしたものはない。

 そこで,今回ひとつの試みとして,閉じこもりを操作的に定義し,一地域のひとり暮らし高齢者を対象にして地域での閉じこもりの実態,およびそれらの人々の生活背景について把握するとともに,今後の閉じこもり予防のあり方について検討した。

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 本連載は,状況設定型の国家試験問題(1999年2月25日実施,第85回)を題材に,単なる受験指南ではなく保健婦活動の基本を確認することを目指しています。今回は,子どもの虐待についての基本を前半で解説いただくとともに,後半ではお2人の保健婦に“設定された状況で活動を考える思考プロセス”をご執筆いただきました。

連載 いま知っておきたい環境問題・7

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 はじめに

 地球環境問題とは,その影響が地球規模に及び,われわれの世代だけではなく次の世代にまで影響するような問題を指すが,大きく以下の8つに分けることができる。①地球温暖化,②オゾン層の破壊,③酸性雨,④砂漠化・土地荒廃,⑤生物多様性の減少,⑥森林破壊,⑦海洋環境の悪化,⑧開発途上国の環境問題。

 このうち,今回は特に健康への直接的な影響が心配されている地球温暖化とオゾン層の破壊について取り上げることとする。

連載 AIDS医療の最前線から地域へのフィードバックレポート・1【新連載】

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 連載のはじめに

ACCとは

 近年のAIDSの治療は,プロテアーゼ阻害剤を含むカクテル療法の導入によりウイルスを押さえ込み,免疫レベルの維持や日和見感染症の予防などで著しい効果をあげています。それだけに,療養生活の支援に携わる看護職にも,病院・地域を問わず,服薬継続への支援を主とした医学的知識が求められるようになりました。

 私たちは2年前に国立国際医療センターに設立されたエイズ治療・研究開発センター(AIDS Clin—ical Center:ACC)でエイズコーディネーターとして働く看護職で,それぞれのHIV感染者に初診から在宅療養支援にいたるまで継続してケアマネージメントを行っています。その結果,私たちの職場はHIV感染した人だけに日々遭遇するという非常に特殊な窓口になっています。私たちはこのようなACCから,地域で働く保健医療福祉従事者の仲間へ向けて情報をフィードバックする必要性を日増しに強く感じるようになりました。

連載 大都会の中の小さなまち しんやまの家ストーリー・8

生きがいとやりがい 佐谷 けい子
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“本物”を見つけた人々

 「阪神淡路大震災のような大きな出来事のとき,私たちが健康学習で学んでいることは役に立つのかしら?」

 “ナイスミドルの健康講座”の平成8年4月の話し合いはこんな視点で始まりました。そして,グループワークの指導者から次のような学習指導を受けました。

連載 ドメスティックバイオレンス・5

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 はじめに

 FTCシェルターとは,女性問題に関わっている相談員らによって開設された,暴力被害女性のための緊急避難民間施設である(FTCとはフェミニストセラピイセンターの略)。各地の女性センターに設置されている相談室には,女性の生き方を巡るさまざまな問題が持ち込まれるが,男性から女性に加えられる暴力に関する相談は,ここ数年の社会的動向と連動した形で,一斉に増えた。元来心理が専門の相談員たちは,その背景や心理的必然性は理解できても,目の前に存在している女性の,“今晩の安全性”に対して,全く無力であることに愕然としていた。相談員同士の情報交換により,その件数の多さや暴力のすさまじさは,無視できる問題ではないことを確認して,ついに1997年,女性センターの相談員らの手により,シェルターの開設にこぎ着けた。運営はさまざまな分野にわたるボランティアの活動によって支えられている。

 というわけで,開設と同時に入居したのは,すでに暴力を巡る相談継続中の女性であった。その後の入居例も,基本的には,相談員がそれぞれの相談現場で出会って,でき得るかぎりの準備とオリエンテーションを済ませ,慎重に実行に移す場合が多い。入居者,担当相談員ともに,シェルター入居の位置づけや意味を確認しあい,その後の展開も予測できると,とりあえず3か月間ほど,ゆっくりと休養しつつ,カウンセリングや仲間とのグループワークなどを通して,心身の回復を図る。その後の生活自立は各種行政サービスなどとの連携で進めていくことになるが,でき得るかぎり本人の自己決定の力を引き出すことが,私たちの主眼となる。今まで暴力の脅威に曝され続け,自己決定のチャンスを奪われてきた女性にとって,ほんの小さな選択においても,自分の判断を下す手続きは,今後の生き方を適切に運ぶための練習ともなる。また,まわりから尊重される体験を実感しつつ,人との信頼関係を回復するプロセスは長い時間を要するので,生活自立を果たした後も何らかの繋がりを保ち,ゆっくりと人生の軌道修正をしてゆけるよう心がけている。

連載 世界のフィールドから 健康づくりはボーダレス・5

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 私は,英国に本部を持つ国際NGO(Non-Governmental Organiza—tion非政府組織)に籍を置き,1988〜1998年の9年間あまり,アフリカの3か国(シエラ・レオーネ,ケニア,エチオピア)で草の根開発援助の現場の最前線で指揮を取ってきた。

連載 ニュースウォーク・17

専門職だけでは…… 白井 正夫
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 昼食のカレーライスを食べながら窓に目をやると,庭の芝生が霧雨に濡れていた。うっとうしい季節なのに,いつの間にか胸が軽くなった気がした。「ケアセンター成瀬」の食堂でおしゃべりしながら昼食を共にしている40人ほどの参加者も,同じ気持ちではないか,と思った。

 梅雨もようの日曜日,東京都町田市で開かれた日本福祉文化学会(一番ケ瀬康子会長)の第15回現場セミナーに参加した。今回の現場は「私たちの街にケアセンターをつくろう」という住民運動から誕生したことで知られる社会福祉法人・創和会のケアセンタ「成瀬である。

連載 感染症 Up to Date・45

NPO法とAIDS-NGO 今井 文一郎
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 はじめに

 HIVと人権・情報センター(英語名:Japan HIV Center.略称:JHC.以下,JHCと表記)は昨年,設立10年を迎え,次の10年に向けて新たなスタートをきったところである。

 現在,全国に8支部と2支部準備会を持ち,総会員数は1000人余りになった。このように日本で最も歴史が長く,唯一全国規模のAIDS-NGOとして,JHCはAIDSボランティア活動を各地で行っている。

 今回,「NPO法とAIDS-NGO」というテーマで文章を書くにあたって,まずNPO法成立以前の法人化への取り組みから述べる。そうすることで,おのずからNPO法人となるということがどういうものなのかをわかっていただけるものと思う。

基本情報

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保健婦雑誌
55巻8号 (1999年8月)
電子版ISSN:2185-4041 印刷版ISSN:0047-1844 医学書院

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