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はじめに
FTCシェルターとは,女性問題に関わっている相談員らによって開設された,暴力被害女性のための緊急避難民間施設である(FTCとはフェミニストセラピイセンターの略)。各地の女性センターに設置されている相談室には,女性の生き方を巡るさまざまな問題が持ち込まれるが,男性から女性に加えられる暴力に関する相談は,ここ数年の社会的動向と連動した形で,一斉に増えた。元来心理が専門の相談員たちは,その背景や心理的必然性は理解できても,目の前に存在している女性の,“今晩の安全性”に対して,全く無力であることに愕然としていた。相談員同士の情報交換により,その件数の多さや暴力のすさまじさは,無視できる問題ではないことを確認して,ついに1997年,女性センターの相談員らの手により,シェルターの開設にこぎ着けた。運営はさまざまな分野にわたるボランティアの活動によって支えられている。
というわけで,開設と同時に入居したのは,すでに暴力を巡る相談継続中の女性であった。その後の入居例も,基本的には,相談員がそれぞれの相談現場で出会って,でき得るかぎりの準備とオリエンテーションを済ませ,慎重に実行に移す場合が多い。入居者,担当相談員ともに,シェルター入居の位置づけや意味を確認しあい,その後の展開も予測できると,とりあえず3か月間ほど,ゆっくりと休養しつつ,カウンセリングや仲間とのグループワークなどを通して,心身の回復を図る。その後の生活自立は各種行政サービスなどとの連携で進めていくことになるが,でき得るかぎり本人の自己決定の力を引き出すことが,私たちの主眼となる。今まで暴力の脅威に曝され続け,自己決定のチャンスを奪われてきた女性にとって,ほんの小さな選択においても,自分の判断を下す手続きは,今後の生き方を適切に運ぶための練習ともなる。また,まわりから尊重される体験を実感しつつ,人との信頼関係を回復するプロセスは長い時間を要するので,生活自立を果たした後も何らかの繋がりを保ち,ゆっくりと人生の軌道修正をしてゆけるよう心がけている。
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