眼科 63巻1号 (2021年1月)

特集 近視コントロール アップデート

序論 坪田 一男
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今月号の特集は“近視コントロール アップデート”である。世界的に近視が増えているのはよく知られている。これまで近視激増の原因について,近見時間が延長したからだ,遠くを見る時間が減ったからだ,勉強中の暗さが原因だ,机の高さが合わないからだなどといわれていたが,羽入田明子先生,鳥居秀成先生(慶應義塾大学)の稿にあるように,台湾のWu先生らにより「近視急増の主たる要因は外遊びが少ないからだ」ということが証明された。台湾では2010年から1日120分の外遊びを推奨することによって裸眼視力低下の傾向に歯止めをかけることに世界で初めて成功したのだ!(表紙のグラフ参照)。この詳細については栗原俊英先生(慶應義塾大学)が“屋外環境光による介入”として解説しているので参照してほしい。まだ仮説ではあるが,屋外環境光に含まれるバイオレットライトが近視の進行抑制に関与している可能性があり,臨床応用が期待されている。

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近視は,最も一般的な眼疾患のひとつであり,近視を中心とした未矯正の屈折異常は,世界の中等度から重度の視覚障害(視力良好眼の矯正視力が0.05以上0.3未満)の原因の第1位,失明(視力良好眼の矯正視力が0.05未満)の原因の第2位となっている1)。特に,近年,シンガポール,台湾,中国,香港,韓国,そして日本を含む,東アジア・東南アジア諸国における近視人口の爆発的な増加は著しく,高校卒業までに80~90%は近視,10~20%は強度近視に至ることが報告されている2)~4)。また,アジア地域以外の米国やヨーロッパ諸国においても,近視人口は増加の一途を辿っており,成人における近視の有病率は約30%に達することが知られている5)6)。

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近視人口は過去50年で世界的に急増している1)。近視の定義は研究によりさまざまで有病率もそれに左右されるが,2050年までに世界の近視有病率は50%となり,強度近視有病率も10%となることが推定されている2)。特に東アジアの若年層では既に近視有病率が80~90%となっており3),それらの国々で病的近視に伴う黄斑変性も視覚障害原因の上位を占めるようになってきているため4)~7),近視進行をコントロールする方法の確立が急務である。この近視人口の爆発的な増加の要因はまだわかっていない8)。ひとつの可能性として,近年における人々の屋外活動の減少が考えられる9)~11)。また,疫学的に横断研究12)~17)や縦断研究18)~21)から屋外活動の増加が近視のリスクを減少させることが示唆されている。屋外活動のうち近視進行抑制に関わる因子として,運動量18)22)23)や遠くを見る機会の増加24)~28),調節反応への影響など29)が考えられる。そのなかでも,屋内と屋外の光環境の違いが近視進行に与える影響が注目されている。 本稿では近視進行に対する屋外環境光による介入の可能性について述べる。

3 低濃度アトロピン 木下 望
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近年のIOLマスターⓇ(カールツァイスメディテック社)など非接触式眼軸長計測機器の進歩は,児童の眼軸長測定を簡便かつ精確なものとし,児童の近視発症・進行の主原因が眼軸長の伸展であることを明らかにした1)。近視の進行が止まらず強度近視になると眼軸伸長によって網膜が引き伸ばされ菲薄化することにより,近視性黄斑変性,網膜剥離,緑内障などの失明に繋がる眼疾患の発症リスクが高まる2)。そのため,近視進行抑制効果を評価する際に,以前は屈折値変化量で比較されていたが,近年では眼軸長変化量での比較がより重要視されるようになった。また近視は発症年齢が低いほど進行が速く将来強度近視になる可能性が高いので,幼少期からの治療が必要である3)。

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近視進行のメカニズムは未解明な部分が多いものの,光学的治療法に関しては近年急速な進歩を見せている。光学的な近視抑制メカニズムは,調節ラグ(軸上の遠視性デフォーカス),軸外収差(軸外の遠視性デフォーカス)が眼軸の伸長を起こすという仮説に基づいているが,ここでは主に軸外収差の低減という観点から,近視進行抑制眼鏡とソフトコンタクトレンズ(以下,SCL)について解説したい。

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オルソケラトロジー(orthokeratology:OK)とは,特殊形状のハードコンタクトレンズを計画的に装用することにより角膜形状を変化させ,意図的に近視を軽減する手法である。学童は角膜が柔軟であり,近視度数も概して軽度であることから,矯正効果が発現しやすくOKの良い適応と考えられてきた。臨床応用が進むにつれ,近視の進行が停止したり鈍化することがしばしば経験されるようになったが,角膜のフラット化に起因する見かけ上の現象であり,真の近視進行抑制効果ではないと以前は考えられていた。

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強度近視は高齢者になるにつれて視覚障害のリスクが高まることが知られている1)。近視進行は小学校高学年から中学生で最も急激である。視覚障害の原因となる黄斑症,視神経障害が発症するのは50歳以降である。この40年間で強度近視に進行しないようにすれば,視覚障害の発生は抑制できる。

綜説

緑内障の生活リスク 結城 賢弥
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緑内障は網膜神経節細胞死に伴い神経線維の走行に一致した視野欠損が生じる疾患である。神経節細胞死は不可逆であるため,緑内障は失明の原因となる。2019年Morizaneらは本邦における新規視覚障害者12,505名の原因疾患を検討した。その結果,緑内障は視覚障害の原因の28.6%を占め,失明原因の第1位であった(図1)1)。本綜説では緑内障と日常生活の関係,たとえば転倒,交通事故,うつなど日常生活のなかでも特に死亡と関連するリスクや読書の困難さとのエビデンスを報告したいと考えている。

白内障手術のトラブルシューティング

8.核落下 岡田 由香 , 雑賀司 珠也
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白内障手術の術中合併症として後嚢破損がある。後嚢破損が起こると,それに伴い硝子体脱出や水晶体核落下が起こることがある。硝子体前面と後嚢後面はWieger靱帯で接着しており,この接着は若年者では強く,年齢に従って弱くなる。後嚢破損時の硝子体の脱出は,この接着の程度に関係する。

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目的

長眼軸長眼の白内障手術でBarrett UniversalⅡ式(以下,BUⅡ式)が有用と報告されており,今回27ゲージ(G)硝子体白内障同時手術におけるBUⅡ式の屈折誤差について検討する。

対象と方法

順天堂大学医学部附属浦安病院において2018年4月から9月の間に27G硝子体手術と白内障手術の同時手術を受けた症例のうち,3か月以上経過観察できた症例を対象とした。眼内レンズはNX-70を使用した。これらの症例に対し,術前の予想屈折値をBUⅡ式とSRK/T式(以下,S式)それぞれで算出し,術後1週間,1か月,3か月の時点での等価球面度数を求め,術後度数−予想屈折値を屈折誤差として各式で比較した。また,正常眼軸長を23.00mm以上25.00mm未満としたときの,短眼軸眼,正常眼軸眼,長眼軸眼それぞれの群においても各式での屈折誤差を比較・検討した。

結果

対象症例は50例50眼,男性35例,女性15例,平均年齢65.1±11.2歳であった。屈折値の誤差はBUⅡ式で術後1週間−0.21±1.03D,1か月0.0±1.57D,3か月0.0±1.66D,S式で術後1週間−0.20±1.1D,1か月+0.12±1.62D,3か月+0.03±1.68Dで2群とも術後1週間ではやや近視化の傾向にあり,2群間に有意差は認めなかった。眼軸長ごとに検討した場合,長眼軸長眼において術後3か月の時点で有意にS式よりBUⅡ式で屈折誤差が少なかった(BUⅡ式−0.06±0.98D,S式−0.16±1.07D,P=0.0488)。

結論

27G硝子体白内障同時手術に際してのBarrett UniversalⅡ式による予想屈折値は術後3か月の時点で長眼軸長眼において従来のSRK/T式よりも誤差が少なかった。

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目的

トーリック眼内レンズ(以下T-IOL)TECNISⓇ Toric(エイエムオー・ジャパン,以下ZCT/ZCV)とその支持部表面にすりガラス状加工(以下フロスト加工)を施したTECNISⓇ Toric Ⅱ(同,以下ZCW)とで軸ずれや乱視矯正効果に差があるかレトロスペクティブに検討した。

対象と方法

2019年7月から12月までにZCT/ZCVを挿入した24例24眼と2020年1月から6月までにZCWを挿入した14例14眼を対象とした。術後1週間の裸眼および矯正視力,自覚および他覚球面度数,自覚および他覚円柱度数,術翌日の軸ずれについて比較検討した。

結果

裸眼および矯正視力,自覚および他覚球面度数,他覚円柱度数には2群間に有意差はなかったが,軸ずれおよび自覚円柱度数はZCWのほうが有意に少なかった。

結論

支持部のフロスト加工はT-IOLの術後嚢内回旋抑制効果を持っている可能性がある。

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強膜炎に対し0.1%ベタメタゾン点眼で加療中,コンタクトレンズ装用を契機に角膜真菌症を生じ,角膜穿孔に至った1例を経験した。

症例は23歳女性。原因不明の角膜混濁の診断で近医眼科より紹介され当科を初診した。左眼角膜中央やや耳上側に角膜陥凹を認め,実質浅層にカルシウム塩沈着と思われる白色混濁を伴っていた。長期使用していた0.1%ベタメタゾン点眼を中止しエデト酸ナトリウム(EDTA)点眼1日4回を処方した。2週間後,混濁は軽減していたが強膜炎を生じ強い眼痛を訴えた。0.1%ベタメタゾン点眼1日4回を再開しEDTA点眼と併用したところ強膜炎は沈静化し混濁も徐々に軽減した。その後,ソフトコンタクトレンズ装用の再開により角膜炎を生じ,角膜中央に既知の混濁を含む円形の淡い実質混濁を認め,混濁辺縁の一部に上皮欠損を伴っていた。0.1%ベタメタゾン点眼1日8回により上皮欠損は改善傾向となったが実質混濁は悪化した。アカントアメーバ角膜炎を疑って角膜擦過を行ったが,鏡検で糸状菌,培養でPenicillium属が検出された。0.1%ベタメタゾン点眼を中止すると病変は急激に拡大し約1週間後には角膜穿孔をきたした。緊急で治療的角膜移植を行い,現在まで感染の再発はみられない。Penicillium属による角膜真菌症は他の真菌に比べ進行が遅く典型的な角膜炎の像をとらない場合がある。若年者での発症はまれだが,長期のステロイド点眼投与,コンタクトレンズ装用といった環境下では角膜穿孔に至る角膜真菌症を生じうることを念頭に置く必要がある。

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甲状腺眼症によって腫大した外眼筋が視神経を圧迫したために光覚なしとなった症例を経験した。症例は87歳女性。当科を受診するまで眼科診療施設を4か所受診し,右眼の白内障手術も受けていたが視力低下の原因を特定できていなかった。当科受診時,視力は右指数弁(IOL挿入眼),左(1.0),右眼外転制限あり,Krimsky法で14ΔET’の眼位だった。1か月前に他院脳神経外科で頭部MRIを撮影され,特に異常を指摘されなかった。甲状腺機能亢進症の既往があり,現在も内科通院中とのことだったが,服薬なく採血が正常値であり,眼球突出もなかったことから甲状腺眼症は鑑別診断に挙げていなかった。家族の希望で6施設目の他病院眼科を紹介,そこの医師の依頼により当院でMRI撮影を行った。両眼とも外眼筋が紡錘状に肥厚し,右眼は視神経後方が外眼筋によって強く圧迫されており,これによる視神経障害であることが判明した。この時点で右眼は光覚を失っていた。熊本大学病院へ紹介,眼科でトリアムシノロン右Tenon嚢下注射,放射線科で放射線照射療法が行われ治療2か月後には視力は右10cm/手動弁,3か月後には右50cm/手動弁まで回復した。

甲状腺機能亢進症に伴う甲状腺眼症は若年層の女性に好発し,眼窩組織の自己免疫性炎症によって眼球突出を伴うことが多い。しかし,高齢者では眼窩脂肪組織が減少しているため眼球突出に至らず,外眼筋の肥厚によって眼窩内圧が上昇し急激な視力低下を呈することがある。本症例患者は60代から甲状腺機能亢進症の内服治療を終了しており,コントロール良好だったにもかかわらず発症に至った。高齢の甲状腺眼症患者には典型的な眼症候がみられなくても重篤な視力低下をきたす場合があり,注意が必要である。

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眼科
63巻1号 (2021年1月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0016-4488 金原出版

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