眼科 63巻2号 (2021年2月)

特集 複視

序論 石川 均
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日々の外来診察で複視を主訴に受診する方を少なからず診察されると思う。本特集にあるようにまず複視は単眼性と両眼性に分類される。単眼複視は角膜,水晶体を中心に,ときに網膜が原因で生ずることがほとんどで,眼科医が診断・治療を行う。一方,両眼性複視は外眼筋,脳神経,その接合部異常,ときに共同性斜視や眼振で生ずることがほとんどであり,眼科医の苦手分野かもしれない。さらに高次脳機能障害による単眼・両眼複視の訴えもあり,大変厄介である。このように複視の原因は多岐にわたり診察・検査に時間がかかることも多く,できれば避けて通りたい分野ではないだろうか。特に両眼性複視は斜視検査やHess赤緑試験等,日常の診療ではあまり用いないものも多く,知識,経験が豊富な視能訓練士の助けが必須でもある。

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複視には,片眼で見て複視がある単眼複視monocular diplopiaと,片眼で見るとひとつだが両眼で見ると複視を生じる両眼複視binocular diplopiaがある。

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麻痺性斜視とは筋肉や神経,神経筋接合部の疾患により生じる筋力低下が原因で起こる斜視である1)。その結果融像可能な範囲を超えると両眼性の複視が生じる。

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日常診療で複視を訴える患者を診る機会は多い。複視を生じた患者は日常生活に支障をきたし,かなりの不自由を訴える。複視を訴える患者に対しては,原因疾患をしっかり診断して原疾患の治療を優先し,その後に複視の観血的治療,薬物療法,光学的治療等を行う1)。患者のなかには可能ならば手術ではなく眼鏡を希望されることもあり,光学的治療は重要な役目を担っている。患者が「ものが二重に見える」と訴える場合,単眼複視の可能性がある。単眼複視は,白内障,屈折異常,網膜疾患などで生じ,屈折矯正や各疾患の治療により改善を目指す。まずは屈折矯正により症状が消失するか確認し,他の眼疾患を鑑別することが重要である。両眼複視の場合は,共同性斜視および麻痺性斜視が考えられる。麻痺性斜視の患者では,治療により正面での複視は改善しても,視方向によって複視が残存する難治性複視を訴えることが多い。筆者らはこのような難治性の複視を訴える患者に対して,従来のプリズム療法に加え眼鏡の一部を遮閉する部分遮閉法を併用した光学的治療を行ってきた。本方法により原因疾患の種類や斜視角の大小にかかわらず,これまで良好な結果が得られている2)~4)。難治性の複視の患者で片眼を閉じていたり,代償性頭位をとったり,あるいは完全遮閉している患者は多く見かけられる。プリズム眼鏡に加えて部分遮閉を行うことによって,より多くの患者で日常生活のストレスを軽減できる可能性を示したい。

4 複視の外科的治療 林 孝雄
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両眼性の複視は,左右眼の視線のずれで生じる。視線のずれは,斜視と眼球運動異常で生じる。通常の斜視は共同性斜視であり,固視眼や注視の方向によって眼位ずれが変わらないが,眼球運動異常で生じる斜視を非共同性斜視といい,麻痺性斜視や斜視特殊型,その他のA-V型斜視や眼窩底骨折のような機械的障害によるものなどがこれに当たる。複視の種類からみた主な原因疾患を表1に示す。

綜説

糖尿病黄斑浮腫 志村 雅彦
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糖尿病黄斑浮腫という病態が知られるようになってから久しい。糖尿病による高血糖がもとで網膜末梢循環に器質的な障害を生じることが糖尿病網膜症の病態であるが,血管の機能的障害によって末梢組織への血流障害を起こし,新生血管発症因子の分泌が誘導され,新生血管を発症する病態が増殖糖尿病網膜症であり,血管の器質的障害によって漿液成分が漏出し,組織間質への水分貯留が黄斑部に及んで浮腫を生じる病態が糖尿病黄斑浮腫である1)。

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変視(歪視,metamorphopsia)とは真っ直ぐな物が波打って見えたり,見ようとする物の一部が変形して見える症状で,網膜特に黄斑の異常によってしばしば引き起こされる症状である。変視は「視機能」を構成する要素のひとつであり,形態覚(視力を含む)や立体覚と同様に重要な役割を担っている。視力検査で良好な結果が得られても,変視があることで患者の「見え方の質=Quality of Vision」が低下することがわかっている1)。

手術のコツとトラブルシューティング:緑内障編

6.狭隅角眼の白内障手術 窪田 匡臣
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狭隅角眼の治療の第一選択といえば,かつてはレーザー虹彩切開術(LI)であった。しかしLIでは根本的な治療とはならず,かつLI後の長期間を経て水疱性角膜症を発症する症例も多いことからすべての狭隅角に対してLIを第一選択とするのは疑問が残る。そのため,白内障を併発している狭隅角眼への第一選択とされる治療はLIから白内障手術へと移行してきている。

網膜橋渡し研究アップデート

11.光遺伝学療法 栗原 俊英
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遺伝性網膜疾患(inherited retinal diseases:IRD)は,希少疾患であるが有効な治療法がいまだ確立しておらず,失明原因の上位を占める。国内では,代表的なIRDである網膜色素変性症が視覚障害原因の第2位であり1),治療法開発は急務である。そのため,IRDの病態進行抑制や失われた視機能を再建する研究が,現在世界中で行われている。IRDの原因遺伝子は視細胞の光受容,外節や内節,結合絨毛の構造,視覚サイクル,網膜の発生,シナプス機能,小胞輸送,脂質代謝,貪食能などに機能する蛋白質をコードしており2),これまで300種類以上見つかっている(RetNet;https://sph.uth.edu/retnet/)。世界人口の約36%は少なくともひとつ以上の劣性遺伝のIRD保因者であるといわれている3)。そのうち,網膜色素上皮細胞に存在し視覚サイクルに関わるRPE65の変異により,Leber先天黒内障あるいは網膜色素変性症が発症しうるが,アデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus:AAV)ベクターを用いた網膜下注射によるRPE65遺伝子補充療法が,臨床試験で安全性と有効性が確認され4),2017年に米国で遺伝子治療薬「ラクスターナ」として認可されている。ラクスターナの登場で,Argus Ⅱ(2011年欧州,2013年米国で認可)やAlpha-IMS(2013年欧州で認可)などの人工網膜による視覚再建治療技術5)に続き,IRDに対する遺伝子治療が注目されている。本稿では,光遺伝学(optogenetics)技術を用いたIRDに対する遺伝子治療について解説する。

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眼表面扁平上皮新生物(ocular surface squamous neoplasia:OSSN)の多くは角膜輪部より発生し,症例によっては徐々に病変が拡大していくが,広範囲の角膜浸潤をきたすことはまれである。角膜への広範囲な浸潤により,高度な視力低下を生じたOSSNの2症例を報告する。

症例1は90歳,女性。5年前に結膜腫瘍に対して近医で生検が施行され,良性腫瘍の診断を受けていた。その後,病変が拡大し,1年前から視力低下するも放置し,当科初診時の右眼矯正視力は0.09であった。外科的切除と再建を行ったが,高齢かつ遠方からの来院のため,後療法は施行せずに経過観察をしていた。しかし,術後半年で局所再発が確認され,マイトマイシンC点眼による後療法を施行した。局所化学療法施行後19か月間,再発はない。症例2は80歳,男性。12年前から左眼の著しい視力低下を自覚していたが,放置していた。当科初診時の視力は光覚弁で,生検による診断確定後,腫瘍縮小を目的としたマイトマイシンC点眼治療を行い,引き続き外科的切除と眼表面の再建を行った。術前のマイトマイシンC点眼で高度のアレルギー反応を生じたため後療法は施行していないが,術後33か月間にわたり再発なく経過している。

高齢者に広範な角膜浸潤と視機能低下をきたしたOSSNの2症例を経験した。それぞれ異なる治療法で対応し,経過観察期間に限りはあるが,経過はいずれも良好である。

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ナビゲーションシステム併用手術の有効性は確立され,脳神経外科手術,耳鼻咽喉科手術では保険収載されている。今回,眼窩腫瘍に対してナビゲーションシステム併用による経頭蓋眼窩腫瘍摘出術を施行したので報告する。症例は,47歳男性。左眼視力低下を主訴に前医を受診した。左眼視力(1.2)であった。左眼に乳頭浮腫と網膜色素上皮不整を認め,Vogt・小柳・原田病等を疑いステロイドパルス療法を施行したが,眼底所見と左眼視力が悪化したため,頭部CT検査をしたところ左眼窩腫瘍を認めた。当院初診時,左眼視力(0.2)となっていた。左眼球突出と左眼の上転・内転制限,眼底に乳頭浮腫と脈絡膜皺襞を認めた。頭部造影MRIにおいて,筋円錐内の内上方に腫瘍が確認された。非典型的な画像所見を呈する腫瘍であり,筋円錐内内上方に位置したため,経頭蓋アプローチによる眼窩腫瘍摘出術を考慮した。当院脳神経外科と合同で,ナビゲーションシステム下に腫瘍摘出術を施行した。開頭ならびに眼窩上壁開窓後,ナビゲーションシステムを利用することによって,腫瘍部位の同定が容易であった。摘出した腫瘍の病理診断結果は非典型的な血管腫であった。術後1年の時点で,左眼視力(1.0)に上昇し,左眼球突出・眼球運動制限は軽快し,乳頭腫脹ならびに網膜浮腫の改善も認めた。

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江口眼科病院における眼瞼腫瘍の頻度などについて検討した。

対象と方法は,2011年4月から2020年3月までの10年間に江口眼科病院を受診し,手術切除,病理診断を行った眼瞼腫瘍91例を対象とした。眼瞼腫瘍の良性,悪性の頻度,病理診断別頻度,年齢,性別などを検討した。結果,眼瞼腫瘍91例中,良性腫瘍は84例(92%),悪性腫瘍が7例(8%)であった。良性腫瘍は母斑細胞母斑(母斑)16例(19%),脂漏性角化症15例(18%),乳頭腫15例(18%),類表皮嚢胞15例(18%)などであった。悪性腫瘍は基底細胞癌5例(71%),脂腺癌2例(29%)であった。平均年齢は良性腫瘍が66歳,悪性腫瘍が82歳であった。性別は良性腫瘍で男性31例,女性53例,悪性腫瘍は男性2例,女性5例であった。

一般眼科医が最初に診察する眼瞼悪性腫瘍の頻度はこれまでの本邦の報告よりも低く,今回のように10%程度ではないかと推察される。良性腫瘍は母斑,脂漏性角化症,乳頭腫,表皮様嚢胞の4つで3/4程度であった。

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眼科
63巻2号 (2021年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0016-4488 金原出版

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