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甲状腺眼症によって腫大した外眼筋が視神経を圧迫したために光覚なしとなった症例を経験した。症例は87歳女性。当科を受診するまで眼科診療施設を4か所受診し,右眼の白内障手術も受けていたが視力低下の原因を特定できていなかった。当科受診時,視力は右指数弁(IOL挿入眼),左(1.0),右眼外転制限あり,Krimsky法で14ΔET’の眼位だった。1か月前に他院脳神経外科で頭部MRIを撮影され,特に異常を指摘されなかった。甲状腺機能亢進症の既往があり,現在も内科通院中とのことだったが,服薬なく採血が正常値であり,眼球突出もなかったことから甲状腺眼症は鑑別診断に挙げていなかった。家族の希望で6施設目の他病院眼科を紹介,そこの医師の依頼により当院でMRI撮影を行った。両眼とも外眼筋が紡錘状に肥厚し,右眼は視神経後方が外眼筋によって強く圧迫されており,これによる視神経障害であることが判明した。この時点で右眼は光覚を失っていた。熊本大学病院へ紹介,眼科でトリアムシノロン右Tenon嚢下注射,放射線科で放射線照射療法が行われ治療2か月後には視力は右10cm/手動弁,3か月後には右50cm/手動弁まで回復した。
甲状腺機能亢進症に伴う甲状腺眼症は若年層の女性に好発し,眼窩組織の自己免疫性炎症によって眼球突出を伴うことが多い。しかし,高齢者では眼窩脂肪組織が減少しているため眼球突出に至らず,外眼筋の肥厚によって眼窩内圧が上昇し急激な視力低下を呈することがある。本症例患者は60代から甲状腺機能亢進症の内服治療を終了しており,コントロール良好だったにもかかわらず発症に至った。高齢の甲状腺眼症患者には典型的な眼症候がみられなくても重篤な視力低下をきたす場合があり,注意が必要である。
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