眼科 60巻4号 (2018年4月)

特集 視細胞疾患の病態と検査

序論 飯島 裕幸
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視細胞は網膜の外層に存在し,後頭葉視中枢に至る視路の最初の部分を担当する感覚受容器である。暗所視を担当する杆体と明所視を担当する錐体から成り,多くの網膜疾患の病態に関わっている。網膜色素変性,黄斑ジストロフィなどの遺伝性網膜疾患や,網膜下出血をきたす滲出型加齢黄斑変性での視力障害の責任部位であるだけでなく,糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症など網膜循環障害に伴う黄斑浮腫においても,視細胞障害が視機能予後に関係することが近年注目されている。またMEWDSやAZOORなど,炎症病態によって視細胞が障害される病態も知られるようになった。今回の特集では,まずこれら視細胞ジストロフィ,網膜下出血性疾患,網膜循環障害に伴う黄斑浮腫での視細胞障害,炎症性視細胞疾患について病態を解説し,さらにその画像検査として重要なOCTとAO-SLOに加えて機能検査として重要な網膜電図に焦点を絞って解説をお願いした。

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網膜色素変性(retinitis pigmentosa:RP)は網膜の細胞に関連する遺伝子変異によって,視細胞および網膜色素上皮細胞が進行性に障害される疾患群である。原因遺伝子の多くは,杆体細胞に関わる遺伝子であり,そのため夜盲を最初の自覚症状として認めることが多い。病期の進行とともに錐体細胞も障害されるため,杆体錐体ジストロフィと称される1)。

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黄斑ジストロフィは両眼性,進行性の機能障害を網膜黄斑部にきたす疾患の総称で,多くのものが遺伝性と考えられている1)2)。古くは黄斑のみを障害するものを黄斑ジストロフィ(狭義)と呼称し,錐体ジストロフィ(狭義),錐体杆体ジストロフィ(狭義)と差別化する考えも存在したが,原因遺伝子のオーバーラップが明らかになるなかで,病態生理学的な観点より,網膜黄斑部を中心に障害をきたす網膜ジストロフィを総称して,黄斑ジストロフィ(広義)と呼称することが一般的となっている。本稿では便宜上,広義黄斑ジストロフィを「黄斑ジストロフィ」と呼称する。

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網膜下出血は神経網膜と網膜色素上皮の間に血液が貯留した状態であり,網膜細動脈瘤,滲出型加齢黄斑変性,近視性新生血管黄斑症,網膜色素線条などの疾患で生じる。わが国では加齢黄斑変性の病型でポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の占める割合が高く,しばしば大量の網膜下出血を起こす(図1)。出血が中心窩に及べば著明な視力低下をきたす。

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黄斑浮腫はさまざまな網脈絡膜疾患において生じ得るが,そのような患者のOCT所見を詳細に検討していると,黄斑浮腫以外に視細胞障害を併発していることに気づくことがある。しかし,それらはただ単に併存しているだけなのか,もしくは,黄斑浮腫が引き金となって視細胞障害を経時的に増悪させていくのか,これらの関係性は,疾患の違いや個々の病態の重症度に応じて一定ではない。

5 炎症性視細胞疾患 松本 英孝
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本稿では,炎症によって視細胞障害をきたすと考えられているacute zonal occult outer retinopathy(AZOOR),multiple evanescent white dot syndrome(MEWDS),multifocal choroiditis(MFC)/punctate inner choroidopathy(PIC),acute posterior multifocal placoid pigment epitheliopathy(APMPPE)について解説する。いずれの疾患も病因は特定されていないが,これらの疾患は同一スペクトラム上にある可能性が示唆されている1)2)。

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網膜の画像診断機器の進歩は目覚ましく,非侵襲的に組織レベルの観察が可能となりつつある。補償光学(adaptive optics:AO)は,「大気のゆらぎ」を測定し動的にミラーで補正することで写真の解像度を飛躍的に向上させる技術である。AO技術を応用した眼底検査機器として,AO眼底カメラ,AO適応走査型レーザー検眼鏡,AO光干渉断層計がある。AO眼底検査機器では眼球の収差を補正することで3μm以下の水平面内分解能を有し,個々の錐体細胞を直接観察することが可能である。本稿ではさまざまな視細胞疾患をAO眼底カメラで撮像し,OCT所見との関連を解説する。

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臨床で汎用されている視機能検査として視力および視野検査が挙げられる。これらの検査は,網膜から視覚野の機能を反映しており,視細胞に特異的な検査法ではない。網膜電図(ERG)は,網膜機能を捉えたものであり,その成分を解析することで視細胞機能を知ることができる。ERGには他の視機能検査にはない特徴があり,それを活用することで,視細胞疾患の診断能力が格段に向上する。

綜説

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昨今,「人工知能」という言葉が頻繁に使用されるようになってきており,日常会話のなかでも使用されるようになっている。有名なところでは,ディープマインド社のアルファ碁が囲碁のプロチャンピオンに完勝し,大々的にニュースで報じられたことも記憶に新しい。しかしアルファ碁ゼロは,このアルファ碁にも圧勝したとか。しかし身の回りを見渡してみると「人工知能」という言葉はやや濫発されている印象もあり,たとえばお掃除ロボットや,ひげ剃り,電気炊飯器,果てにはマッサージチェアなどの電化製品にも人工知能搭載と謳っているものも最近では珍しくなくなってきた。一体「人工知能」とは何なのであろうか? そして緑内障診断への応用は可能なのであろうか? 本稿では自験例での検証を紹介しつつ,その緑内障診断への現状と未来を考えてみたい。

網膜疾患と人工知能 安川 力
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今,空前の人工知能(artificial intelligence:AI)ブームで,実用化が進み,老若男女知らない人はいないだろう。たとえば,iRobot社のお掃除ロボット「ルンバ」(2002年発売)に始まり,アップルiPhoneの音声対話システム「Siri」(2012),ソフトバンクの人型ロボット「Pepper」(2015),テスラ・モーターズなどの自動運転車,最近では,「Google Home」,「Amazon Echo」,「LINE Clova WAVE」(2017)などのスマートスピーカー,三菱のAI搭載ルームエアコン「霧ヶ峰FZシリーズ」(2017),ソニーの新型の犬型ロボット「aibo」(2017)など,認知度も高くなってきている。家電製品がますます便利になる一方で,2017年5月27日には,囲碁の世界最強棋士,中国の柯潔(かけつ)九段に対し,ディープマインド社の「アルファ碁」が3戦全勝を飾り,チェス,将棋に続き,囲碁までもAIが人間を上回り,今後,AIの進化によって,スーパーのレジ,ホテルのフロント業務,タクシードライバーなどをはじめとして,多くの職業がなくなると予想されている。医療業界にもAIの波が押し寄せてきている。既に,一部の病院では,患者への疾患説明や外来待ち合いでの癒し効果を期待して,人型ロボット「Pepper」が導入されている。また,画像の診断や解析を目的にAI関連の研究が盛んになってきている。画像解析には,2012年に登場したディープラーニング(深層学習)という人間の神経回路を模した機械学習のためのコンピュータアルゴリズム(図1)が用いられ1),有名なところではGoogleのネコの認識に関する研究がある。YouTube上の1,000万枚のネコの画像をコンピュータに入力,処理,学習させることで,新規の画像のなかからネコを認識することができた。ネコの特徴を人間があらかじめ教えなくてもAIが自ら特徴を見出したところが大きな進歩なのである。

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今回で第3報となる本体験記は,慶應義塾大学医学部眼科学教室とIllinois大学医学部眼科学教室(University of Illinois in Chicago:UIC)の間で行われている短期交換留学プログラム(Keio-Illinois Exchange Program of Ophthalmology:KIEPO)での臨床実習に基づく。今年で12年目となる当プログラムは,慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授とIllinois大学医学部眼科学教室のDr. Dimitri Azarにより,世界トップクラスの若手眼科医の育成と国際交流を目的に始められた。後期研修2年目の眼科Residentが,2週間の臨床実習を通じて,日米の医療や教育制度の相違を実際に体験することで見聞を広め,今後の眼科医のキャリアに活かすことが期待される。我々慶應の研修プログラムは,“国際性”にも非常に力を入れており,2年目Residentを対象としたKIEPOもそのひとつである。したがって,1年目の研修医は英語の得手不得手にかかわらず,入局後の朝カンファレンスで定期的にCase Presentationを英語で行う訓練をしている。和気あいあい? と月曜日の英語カンファレンスの準備をするのは,Residentの週末の風物詩である。こうして数をこなすうちに,帰国子女ではないResidentも2年目には堂々とPresentationをいつの間にかこなせるようになるため,気がつくと国際学会にも抵抗なく挑戦できるのは大きな醍醐味である。本年度は,2017年9月と12月のそれぞれ2週間にわたり,慶應義塾大学医学部眼科学教室の後期研修医7名(清水翔太・鈴木なつめ・永本 崇・羽入田明子・林 俊介・守谷元宏・羅 秀玉)がUICで研修を行った(図1A~C)。

眼瞼を診る

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MALT(mucosa associated lymphoid tissue)リンパ腫は,節外臓器である粘膜関連リンパ組織に発生する低悪性度B細胞リンパ腫で,WHO分類の正式名はextranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue typeである。結膜~眼瞼を含む眼付属器リンパ腫は,MALTリンパ腫の頻度が高く,多くが限局性で,放射線療法による局所制御は80~100%と良好である。

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変視症は通常,片眼性にみられる像のゆがみであり,網膜上膜(ERM),黄斑円孔,裂孔原性網膜剥離術後,中心性漿液性脈絡網膜症など,黄斑を障害する多くの網膜疾患でみられる。抗VEGF剤によって黄斑浮腫が吸収されて視力が改善した網膜静脈閉塞症(RVO)患者では,前回取り上げた視野障害とともに,患者の視機能の質(QOV)を低下させる原因として重要である。

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目的

緑内障点眼アドヒアランスに関する全国アンケート調査(GRACE:Glaucoma Research on Adherence to Fixed Combination Eye Drops in Japan)に参加した,新規に配合剤を導入した緑内障患者を対象に,配合剤導入による点眼忘れの変化と点眼忘れに関連する因子を検討する。

対象と方法

GRACEは新規に配合点眼剤の処方が予定された患者を対象とした点眼忘れに関する前向き調査である。配合点眼剤を導入直前と導入後6か月の時点で患者と担当医に,導入4~6週後に患者のみに対して点眼忘れに関するアンケート調査を施行した。配合剤初回処方時と処方後初回再診時に2種類(A:点眼方法の説明が記載,B:点眼方法の説明と眼圧下降の意義が記載)のリーフレットをランダムに患者に配布した。配合剤導入による点眼忘れの変化と2種類のリーフレットの点眼忘れに対する影響,その他の点眼忘れに関連する因子について検討した。点眼忘れはアンケート直前の1週間に1回以上点眼を忘れた場合と定義した。

結果

解析対象は2,886名(68.2±12.1歳,男性1,363名,女性1,523名)。点眼忘れは導入前(27.6%)と比べ,導入1か月後(17.1%)と6か月後(20.6%)で有意な改善を認めた。6か月後の点眼忘れに有意に影響する因子は,導入後1か月時点の点眼忘れの有無,6か月時点の点眼負担感の有無,点眼可能回数であった(ロジスティクス解析)。配合剤導入後,緑内障知識に関する質問への正答率が上昇した。リーフレットの間に有意差はなかった。

結論

配合剤導入後,点眼忘れの改善を認め,緑内障知識の理解が深まった。リーフレットの内容による点眼忘れへの影響はなかった。

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目的

網膜中心静脈閉塞症に網膜白濁を発症し,視力予後が良好であった1例を経験した。

症例

64歳,男性。主訴は右眼の視力低下。初診時視力(0.03)。網膜静脈の蛇行,拡張と視神経乳頭の発赤,下耳側に網膜の白濁を認めた。光干渉断層計では網膜浮腫と白濁に一致した斑な高反射を認めた。

結果

バイアスピリン内服とトリアムシノロンアセトニドのTenon嚢下注射を施行したところ,速やかに網膜浮腫は改善され網膜白濁も消失した。8か月後,視力は(1.0)に回復した。

結論

網膜中心静脈閉塞症に網膜白濁を合併した1例を経験した。通常,網膜中心静脈閉塞症に網膜動脈閉塞症を合併すると視力予後は不良であることが多い。本症例はトリアムシノロンアセトニドのTenon嚢下注射後に軽快していることから乳頭血管炎に伴う網膜白濁と診断した。

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次号目次

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編集後記

基本情報

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眼科
60巻4号 (2018年4月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0016-4488 金原出版

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