Brain and Nerve 脳と神経 46巻2号 (1994年2月発行)

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特集　脳血管障害の手術適応—update

脳内出血松本　圭蔵 , 本藤　秀樹 46巻2号 , 1994年2月 , pp.105-117

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I．はじめに

　脳内出血は，頭部外傷，脳動脈瘤破裂，脳あるいは硬膜動静脈奇形や脳腫瘍（転移性を含む）からの出血，脳梗塞や諸種の血液疾患，脳動脈炎，アミロイド血管症，モヤモヤ病，抗凝固剤の服用，amphetamineなど覚醒剤の乱用などによっても起こることが知られているが，最も多いのは高血圧性脳出血（hypertensivebrain hemorrhage：HBH）である^1）。HBHと診断された症例のうち，臨床的に高血圧の病歴が証明されるのは，統計により異なるが約半数といわれ，しかも好発部位はあるが，その出血源は血管撮影などの臨床検査では特定できない。そこで，欧米では特発性脳出血と診断されてきた。しかし，病理学的にみると，脳の抵抗血管といわれる200μm径以下の小動脈，あるいは穿通枝動脈などに高血圧性の動脈病変，micro—atheroma，lipohyalinosis，microaneurysmないしmiliary sacular aneurysm，時にはfibrinoid necrosisなどがみられ，出血を起こす直接の原因はいまだ不明であるが，これらの動脈病変を基盤として，動脈壁の破綻—恐らくはmicroaneurysmの破綻—によって出血を起こしてくる^2,3）。このようなことから，我国ではHBHと診断されてきた。

くも膜下出血—脳動脈瘤菊池　晴彦 , 永田　泉 46巻2号 , 1994年2月 , pp.119-124

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　脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の手術適応や手術時期は従来より検討されており，現在においても大きな変更はないが，最近では脳ドックなどでMRA（magnetic resonance angiography）や三次元CTan—giographyなどの非侵襲的な方法により未破裂脳動脈瘤が多く発見されるようになっており，これらの動脈瘤をいかに治療すべきかは大きな問題となっている。ここでは破裂脳動脈瘤の手術適応を整理するとともに，未破裂脳動脈瘤に対する手術適応についても述べたい。

血管奇形斎藤　勇 46巻2号 , 1994年2月 , pp.125-135

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I．はじめに

　近年の診断機器，治療機器の発展・導入は，脳の血管奇形に対する手術適応を微妙に変えるきっかけをもたらすに至った。即ち，MRIの導入は，無症候性の脳動静脈奇形やCTでは診断困難な海綿状血管腫の診断を容易にし，gamma knife（ガンマーナイフ）やLinear accelerator（ライナック）によるradiosurgery（放射線外科）の導入，あるいは，血管内手術（endo—vascular surgery）の発展は，従来手術困難とされた部位のこの種の病変に対しても治療可能な範囲を拡大している。

　脳の血管奇形は病理学的に，1）脳動静脈奇形（arteriovenous malformation（AVM））　2）海綿状血管腫（cavernous angioma）　3）静脈性血管腫（venous angioma）　4）その他　などに分類される^1,5）。ここでは，詳しい病理所見には触れないが，AVMは栄養動脈（feeding artery），奇形血管（nidus），および，導出静脈（draining vein）より構成され，nidusからの出血や末梢抵抗の低いnidusによる盗血現象による周辺脳の虚血などにより神経症候を発症するものである。海綿状血管腫はAVMと異なり，血管腫内部には脳組織が介在しないほぼ球形の腫瘤であり，脳血管撮影では明らかな陰影は造影されない。

TIA，脳血栓齊木　巖 , 杉山　浩孝 , 遠藤　英雄 , 久保　直彦 , 小川　彰 46巻2号 , 1994年2月 , pp.137-144

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I．はじめに

　Fisherら^12,13）は，内頸動脈閉塞症が臨床的に無症候なものから片麻痺あるいは老人性痴呆など多彩な症候を呈することから，これに対し外頸動脈系の血液を頭蓋内虚血領域へ導く方法の可能性を示唆している。1950年Henschen^15）は側頭筋を脳表に被せ，その側頭筋からの新生血管から虚血脳へ血液の供給を期待するencephalomyosynangiosisの方法を考案し，1956年Cooley^7）によって頸部内頸動脈血栓内膜除去術（CEA）の成功例が報告されている。1961年Jacobsonら^18）がmicrovascular techniqueを開発し，1967年DonaghyとYasargil^44）は浅側頭動脈を中大脳動脈皮質枝へ吻合を行うsuperficial temporal artery to middle cere—bral artery anastomosis（STA-MCA Anastomosis）に成功している。その後吻合に際して外頸動脈のいろいろの枝がdonarとして用いられ，また受けるrecipi—ent arteryも頭蓋内動脈の各枝が選ばれるようになり，Extracranial to Intracranial Bypass（EC-ICbypass）と総称されるようになった。その後静脈あるいは動脈graft，大網移植などが開発され，脳神経外科の分野では広く用いられる手術手技となっている。

原著

歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症の大脳白質病変の検討—特にMRI perfusion studyによる検索溝井　令一 , 瀬川　文徳 , 鎌田　和彦 , 春原　経彦 , 中山　宏 , 明石　俊雄 46巻2号 , 1994年2月 , pp.145-151

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　常染色体優性遺伝性の歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症と考えられる8例（うち1例は剖検例）を用い，その大脳白質病変の成因を考察するため，ischemic scoreを含む臨床因子の評価，CT，MRI，T2強調画像，perfusion study，SPECT，脳波，および病理組織学的検討を行った。剖検例を含む3例に画像上大脳白質病変を認めた。病変の有無と上記諸因子間には明らかな相関はなかったが，病変の有無にかかわらずMRI per—fusion studyに異常所見を認めた。また，大脳白質病変は血管性病変による虚血が成因とは考え難く，疾患自体に関連する可能性が高いと考えられた。

Ratの完全脳虚血におけるphenylmethylsulfonyl fluoride（PMSF）の細胞外glutamateおよび脳組織中アラキドン酸濃度に対する効果谷村　一 46巻2号 , 1994年2月 , pp.153-157

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　Phenylmethylsulfonyl fluoride（PMSF）はacetylcholine esteraseおよびphospholipase Cの阻害薬として知られている。今回の実験では，完全脳虚血時におけるPMSFの細胞外glutamateおよび脳組織中アラキドン酸濃度に対する効果について検討した。Ratの断頭による完全脳虚血モデルにおいて，PMSF前投与により虚血早期の脳内細胞外glutamateの濃度は上昇せず，脳内アラキドン酸の増加が抑制された。Acetyｌcholineは神経細胞からのglutamateの放出を抑制するので，今回の実験結果は，PMSFのacetyl—choline esteraseの活性阻害作用によってacetylcholine濃度が上昇したためglutamateの放出抑制が起こったものと考えた。以上より，PMSFの前投与によって完全脳虚血時早期にアラキドン酸の遊離が抑制されるのは，PMSFのphospholipase Cの活性阻害作用ではなく，むしろacetylcholine esteraseの活性阻害作用による細胞外glutamateの濃度上昇抑制に由来する可能性が示唆される。

複数のautocrine loop遮断によるヒト悪性glioma細胞の増殖制御効果について草彅　博昭 , 高橋　弘 , 中沢　省三 46巻2号 , 1994年2月 , pp.159-165

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　今回我々は，ヒト悪性glioma培養細胞において，抗成長因子特異抗体による複数のautocrine loopを遮断することにより，その増殖がどの程度抑制できるのかを検討した。まずcell ELISA法によりEGFR（epidermal growth factor receptor），FGF（fibroblast growth factor），PDGF（platelet derived growthfactor）をすべて分泌しているU251MG細胞を同定し，これに対してMTT assayおよび³H thymidineの取り込み試験を行った。その結果，上記の3種類の抗成長因子モノクローナル抗体をそれぞれ単独で作用させた場合，最大成長抑制効果は54.8〜69.0％（平均63.4％）であったが，3種類の抗体を同時に作用させた場合には，最大抑制効果86.3〜88.1％（平均87.2％）を得た。これらの結果より，抗成長因子特異抗体による複数のautocrine loopの遮断が，悪性gliomaの成長をより効率的に抑制し得ることが明らかにされた。

星状膠細胞腫の悪性度診断におけるSPECTを用いた²⁰¹Thallium chloride集積の定量的評価の有用性瀬尾　弘志 , 藤田　登志也 , 中井　昴 , 駒谷　昭夫 46巻2号 , 1994年2月 , pp.168-174

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　39例の星状膠細胞腫の治療前Tl-SPECTから評価したT1集積度を組織学的悪性度および腫瘍増殖能と対比し，さらに予後との相関を調査した。Tl-SPECTは74 MBqの²⁰¹Tl静注後10分と4時間で撮像し，それぞれをearly image，delayed imageとした。Tl集積度は腫瘍性病変部位（L）と健側脳実質（N）のRIcount数の比で代用し，両imageで測定しそれぞれをearly L／N，delayed L／Nとした。組織学的悪性度はWHO分類に沿って行い，その内訳はGrade I 1例，II 11例，III 23例，IV 4例であった。腫瘍増殖能の評価は抗PCNA抗体を用いたPCNA標識率（PCNA LI）で行った。Tl集積度はearly，delayed L／NともGrade I ＆ IIに比しIII，IVで有意に高値（p＜0.01）であったが，IIIとIVの間に有意差はなかった。Tl集積度は腫瘍増殖能と有意に高い正相関を示した。T1集積度と予後の関係でも，Tl集積度の高い群ほど予後不良であった。以上より，Tl集積度は星状膠細胞腫の悪性度診断に有用であると結論した。

学会印象記

第10回国際脳神経外科学会議朝倉　哲彦 46巻2号 , 1994年2月 , pp.166-167

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　第10回国際脳神経外科学会議（1993年10月17日〜22日）がメキシコはアカプルコ市で開かれるということで参加を申し込んだ。有名なリゾート地であるという他に幾つかの要因が働いたからである。（1）昨年小職が主催した第51回日本脳神経外科学会総会にメキシコ脳神経外科学会の会長であり，今回の会長を務めるLoyoと事務局長のFrancoが鹿児島に来て，日本からの多数の参加を要請した。（2）この学会に先行してアカプルコより少し北の方のイクスタパというリゾートで第11回世界定位的機能的神経外科学会が開催されることになっていた。（3）メキシコにはカリフォルニア州サン・ディエゴから直ぐに行けるティファナしか行ったことが無いのでその風土に若干の関心があった等である。

　鹿児島から大阪，ロサンゼルスを経て，ようやくイクスタパに着いたが，とにかく暑いところであった。あわよくば，ゴルフでもしようかと思って行ったのだが，そのような下心は真先に吹き飛んだ。陽の下に10分とはいられない。ともかく，ここでの学会が済んで10月16日大型バスでアカプルコへ向かった。お午に出発し車内でお弁当を食べ全く休憩なしでホテルにチェックインした時はもう7時を過ぎていた。その夜はメキシコ料理を少し食べて，バタン・キューである。沿線の光景を，50年くらい遅れているのではないかとコメントする人がいたが，私は400年ぐらい前のままではないかと感じていた。

症例報告

特異な初老期痴呆症の1例—Alzheimer病・Pick病との比較検討池田　学 , 田辺　敬貴 , 森　隆志 , 小森　憲治郎 , 中川　賀嗣 , 谷向　知 , 西村　健 , 池田　研二 46巻2号 , 1994年2月 , pp.175-181

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　最近，側頭葉や前頭葉に限局性萎縮を示し，多数の神経原線維変化が大脳皮質に広範に出現するが老人斑はみられず，Fahr病のように広範な石灰沈着を伴う初老期痴呆症の一群が1疾患単位として提唱されている（Kosaka,1993）。我々は，臨床像ならびに神経放射線学的特徴から本疾患と考えられる1例を経験したので報告する。症例は65歳，女性。58歳頃から急に元気がなくなり，物忘れも指摘されるようになった。痴呆の進行は非常に緩徐で，語義失語様の意味理解の障害が目立ってきた他は，入院後5年間症状はほとんど変化していない。礼容は保たれ神経学的には正常。明らかな失行，失認は認められず，記銘力障害も軽度であった。また，常同行為や反社会的行動も認められない。病識は欠如しているが，人格変化は軽度である。脳波は正常。CTにて両側基底核と小脳白質にmineralizationが，CT・MRIにて両側側頭葉を中心に前頭葉に及ぶ限局性萎縮が認められた。

Bow hunter's strokeの1例高橋　功 , 金子　貞男 , 浅岡　克行 , 原田　達男 46巻2号 , 1994年2月 , pp.183-187

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　右への頭部回転運動によりめまいと眼振が速やかに誘発され，頭部回転時の脳血管撮影で左椎骨動脈が環椎軸椎関節部で閉塞していたbow hunter's strokeの66歳，女性例を報告した。本例に対して環椎の左横突孔のunroofingによる椎骨動脈の除圧術を行い，術後，頭部回転に伴うめまいと眼振は完全に消失し，脳血管撮影でも左椎骨動脈の閉塞は解除された。本例のように頭位変換によって回転と反対側の椎骨動脈が環椎軸椎関節部で閉塞し，椎骨脳底動脈領域の虚血症状を来すbow hunter's strokeは稀な疾患であり，その病態，治療法などについて文献的考察を加えた。

Neurological CPC・14

視力低下を繰り返し，腹部腫瘤を併発した64歳男性鏡原　康裕 , 高岡　滋 , 塩津　英俊 , 森　秀生 , 須田　耕一 , 西　克典 , 水野　美邦 46巻2号 , 1994年2月 , pp.189-199

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症例呈示

　症例　S．T．64歳，男性（87-75253）。

　主訴　右視力低下。

基本情報

Brain and Nerve 脳と神経
46巻2号
(1994年2月発行)

電子版ISSN：2185-405X 印刷版ISSN：0006-8969 医学書院

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