Brain and Nerve 脳と神経 44巻4号 (1992年4月)

特集 Magnetoencephalography(MEG)

MEGの測定 小谷 誠
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I.はじめに

 人間の脳,心臓などから微弱な磁界が発生している。これらの微弱磁界は体内を流れるイオン電流によるものと体内に蓄積している磁性物質によるものとがある。現在,脳波や心電図は臨床検査に広く用いられているが,脳波や心電図が計測できるのは,脳や心臓の中に電圧の発生源があるからである。体内で電圧が発生すれば,当然,体内に電流が流れるので,この電流に伴って人体各部から磁界が発生していることは以前から推定されており,種々の計測が試みられた。しかしながら,人体から発生する磁界は図1に示すようにあまりに微弱だったので計測が不可能だったが,電子技術の発展により20年前頃より可能となった。

 脳磁界の最初の計測は1967年に米国のD.Cohenによって行われている。彼は磁気シールドルーム内で脳や心臓などから発生する磁界を高感度の電子増幅器を用いて計測している。しかし,これらの生体磁気信号の計測は,人間の身体から磁界が発生していることを確認する程度のものであった。

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I.双極子追跡(Dipole Tracing, DT)装置開発の経緯

 今から8年ほど前に,当時千葉大学医学部の教授であった本間三郎氏と偶然のことから出会い,そのころ私が是非ともやってみたいと思っていた実験に協力していただくことができた。その実験というのは,多数の神経軸索上を伝搬する活動電位パルス列が,1つのニューロンに到達したときにどのようなパルス列として出力されるかということであったが,それをネコで実験することになった。この実験はなかなか思うようにはいかなかったが,その際に本間教授との談話のなかで「人間の脳内の電気的な信号の動きを非侵襲的に測定できないものか」という相談を受けた。詳しく話を聞いてみると技術的にはそれほど難しいことではない。そこで「面白そうだからやってみましょう」ということになった。そのころ,たまたま体表面の電位分布から心臓の異常を推定する研究をやっていたので,同様の手法でこの問題が解決できる筈であると考えたからである。

 脳内の信号伝達は神経軸索の活動電位パルスの伝達によって行われ,信号の内容はパルスの頻度に符号化されていると考えられている。この活動電位パルスが興奮性シナプスに到達すると,電流がニューロン内部に流れ込み,それがニューロンの外側に流出して組織を流れて元の細胞体に戻るが,その電流の流れ方が単一の電流双極子によるものと酷似しているので,1つ1つのニューロンの電気的な活動は電流双極子で置き換えることができる。多数のニューロンがほぼ同期して脱分極(または再分極)をすれば,頭皮上には観測できる程度の電位分布が現われることになろう。軸索上を活動電位パルスが走行するときにもこのようなことが起こるが,空間的には脱分極と再分極が軸索に沿って並んで発生するので,逆向きの双極子が一列に並ぶことになり,真っ直ぐな軸索部分ではニューロンにおけるほど大きな電位分布が頭皮上で観測されることはないのではないかと思われる。

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I.はじめに

 MEG(magnetoencephalography)は神経細胞に由来する磁界を頭蓋外より非接触的に測定する脳機能の検査法で,近年注目を集めている。後述するようにMEGは臨床的にはてんかんへの応用が期待されているが,これまでのMEGの総説は工学系または基礎医学系の研究者によるもので,MEGのてんかんへの応用の現実・展望・注意点・限界のイメージが掴みにくかったのではないかと思われる。筆者らは約1年前よりMEGのてんかんへの臨床応用の試みを始め,すでに100例を越える症例を経験しているが,本稿では筆者らの経験と文献的考察を交え,臨床家の立場から,MEGのてんかんへの臨床応用をできるだけ分かりやすく,かつ正確に紹介したい。

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I.はじめに

 誘発磁界は17年前に視覚刺激(Brennerら1),Teylerら2)),次いで体性感覚刺激(Brennerら3)),聴覚刺激(Reiteら4))を用いて初めて記録されて以来,脳磁図の分野での中心課題として最も精力的に研究されてきた。その第1の理由は,初期の頃のSQUID磁束計のチャネル数の不足が挙げられる。脳磁図を同時記録できる領域が限られていたため,てんかんなどの自発性脳磁界よりも再現性が期待できる誘発磁界が対象として好まれた。記録部位を移動することで広範囲にわたってデータを収集し,同一の潜時において補間演算から等磁界線図(contourmap)を作成し,磁界の極大,極小の位置と間隔を推定して電流源の局在推定などの解析が行われてきた。第2の理由として,初期のRF-SQUID磁束計の感度があまり高くなかったため,加算平均をとることでS/N(信号対雑音)比を高められるパラダイムが好んで用いられたとも考えられる。ただし,磁束計のチャネル数が少なく頭皮上をカバーできる領域が狭いため,データ収集や解析に膨大な時間がかかり日常の臨床検査として用いるには困難な点が多かった。最近37チャネルの生体磁気計測システムが複数のメーカから開発され,記録時間,解析時間を大幅に短縮するものと期待されている。

 一方,脳脊髄誘発電位は日常の診療で頻繁に用いられる臨床検査となってきており,伝導速度の評価や障害部位の推定が行われている。誘発磁界は特に大脳誘発電位の所見を補強し,さらに体性感覚野や聴覚野,言語野,視覚野などの3次元的な局在を,非侵襲的に求める能力を具えた新しい検査法として期待されており,本格的な多チャネルシステムの登場を迎えて,近年臨床応用の面で広く注目されてきている。誘発磁界については前述のとおり,各種刺激方法にわたって詳細な研究が論文などで発表されており,総説もいくつか存在するので,ここでは誘発磁界の検査一般について基礎的な事項を踏まえながら,その特徴について簡単に解説することにする。

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 ラットくも膜下出血モデルを用いて,くも膜下出血後に起こる脳幹部モノアミンニューロンの機能をin vivo microdialysis法によりその代謝産物を測定することで検討した。プローブを挿入した延髄孤束核(NTS)から検出できるモノアミン代謝産物は,5-hydroxyindoleacetic acid(5-HIAA),homovanillic acid(HVA),3,4-dihydroxyphenylacetic acid(DOPAC)が主体であった。くも膜下出血後0〜120分の急性期の変動では,一過性に代謝産物が上昇し,脳幹部圧迫に伴う虚血性変化を反映するものと思われた。一方,経日的変化をmonoamine oxidase阻害剤投与後の代謝産物の消失速度でみると,くも膜下出血後2日目が最も速く,その後回復する傾向にあった。特に,DOPACのearly compartmentで有意に消失速度が速くなることより,norepinephrine系では細胞体に比べ軸索から神経終末にかけての障害が強いことが示唆された。

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 ネコ中大脳動脈閉塞,再開通モデルを用いて局所脳血流量,脳比重を測定し,ulinastatinの脳浮腫に対する作用を検討した。

 雑種成ネコをコントロール群6頭,uhnastatin投与群7頭に分け,経眼窩的に左中大脳動脈に達し,2時間閉塞により局所脳虚血を作成した。再開通2時間後にネコを屠殺し,microgravimetry法によって局所脳比重を測定した。なお中大脳動脈閉塞および再開通時の局所脳血流量の測定は,水素クリアランス法によって行った。

 Ulinastatin投与群では,コントロール群に比べて,虚血,再開通後の脳比重は有意に高く,ulinastatinの抗脳浮腫作用を表すものと考えられた。

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 Powers症候群(椎骨動脈間歌的圧迫症候群)の病態に椎骨神経が如何に関わり合っているのかについて,猫20匹を用いて検索した。一側椎骨神経の低電圧電気刺激およびKイオンの局所適用は,刺激強度依存性に,刺激側の散瞳を起こし,より強い刺激では両側性の散瞳と昇圧反応を示した。鎖骨下動脈近位部の動脈周囲組織の低電圧刺激でも上述のような散瞳を示したが,鎖骨下動脈遠位部や肋頸動脈,肩甲頸動脈,内胸動脈では上述の瞳孔反応は全く示さなかった。椎骨神経の電気刺激により,刺激側の頸部交感神経幹から刺激強度依存性の交感神経遠心性活動の興奮が認められ,上部胸髄側角に位置する毛様体脊髄中枢から短潜時の誘発電位が認められ,また,副交感神経線維を含有する短毛様体神経においては抑制効果が認められた。これらの結果から,椎骨神経刺激時の散瞳反応には交感神経の興奮と副交感神経の抑制が関与していることが確認された。そしてこの中枢機序として,①椎骨神経に混在する感覚線維を介する毛様体脊髄中枢の興奮,②体性交感神経反射の関与,③視床下部の交感ならびに副交感神経中枢の関与などが複雑に関連していることが推論され,Powes症候群の症例に潜在する複雑な自律神経系の病態生理を説明する基礎的資料をなすものと考察した。

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 牛脳微小血管,頸動脈および大動脈由来の培養内皮細胞を用いて,内皮細胞の局在による血管新生能を比較検討した。牛脳微小血管の内皮細胞は1型コラーゲンゲル上で管腔構造を形成したが,頸動脈や大動脈の内皮細胞は1型コラーゲンゲル上では管腔を形成せず,ゲルを重層すると管腔構造を形成した。マトリゲル上ではどの内皮細胞も管腔を形成したが,形態変化を起こすために最低必要な内皮細胞数は脳微小血管由来の内皮細胞では102個/cm2であったのに対し,頸動脈および大動脈由来の内皮細胞では104個/cm2であった。また,この形態変化にbFGFは影響を与えなかった。以上の結果より,脳微小血管の内皮細胞は大血管の内皮細胞よりも細胞外基質上で形態変化を起こしやすい,即ち血管新生能が強いことが明らかになった。

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 脳神経外科疾患の患者管理中にみられる低ナトリウム血症の病態を明らかにする目的で,過去1年間に経験され,ナトリウムバランス(Na Bal),心房性ナトリウム利尿ペプタイド(ANP)を測定した低ナトリウム血症32例について,その病態の鑑別と管理法の分類を試みた。測定項目の統計学的な相関の検討から,NaBalが正か負か,ANPが高値か正常かで症例が3群に分けられた。第1群:ANPが正常例,投与ナトリウム不足と考えられた。第2群:Na Balが正で,ANPが高値の例。古典的なSIADHや心不全,腎不全を背景とした相対的水分過剰が考えられ,水制限や利尿が有効であった。第3群:Na Balが負で,ANPが高値の例。ANP値とNa Ba1に負の相関がみられ,ANPのナトリウム利尿により低循環血漿量状態になっていると考えられ,この群では水制限は禁忌と考えられた。以上からNa BalとANPを測定することで,低ナトリウム血症例を,その管理という面から鑑別可能であった。

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 症例は50歳,女性。48歳より下肢脱力出現,歩行障害が徐々に進行。神経学的に下顎反射充進,四肢腱反射充進,病的反射陽性で感覚障害なく,四肢および舌の線維束攣縮陽性,遠位筋優位の筋力低下,筋萎縮を認め針筋電図で運動ニューロン病に一致する所見であった。

 検査所見にて多クローン性高IgM血症および数種の自己抗体陽性を認めた。治療として血漿交換を3回実施したところ,血清IgMの減少と歩行障害の改善を認めた。本症例の抗myelin associated glycoprotein(MAG)抗体および抗糖脂質抗体は陰性であったが,大脳白質・灰白質の蛋白に対する抗体を検討したところ,54KD蛋白に対し陽性のバンドを認めた。

 運動ニューロン病の病因を考える上で重要であると考えられた。

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 全身痙攣と頭痛を主訴とした,11歳男児のくも膜嚢腫を合併した内頸動脈欠損症の1例を報告する。入院時神経学的所見に異常はなかった。CTで後頭蓋窩にくも膜嚢腫を認め,MRIでは左内頸動脈に相当するnow oidが欠如していた。脳血管撮影で,左総頸動脈は外頸動脈に移行し,内頸動脈は造影されなかった。右総頸動脈撮影では,前交通動脈を介し両側前大脳動脈が造影され,左椎骨動脈撮影では後交通動脈を介し,左眼動脈と左中大脳動脈が造影された。Thin slice CTで,左頸動脈管が認められず,3D Time ofHight法のMRIで,左頸動脈管部に血流を示す信号が得られなかった。またMR angiographyで,大動脈撮影に準ずる十分な情報が得られ,特に有用だった。本症の本邦小児例の報告は5例で,うち3例がてんかんで発症している。本症とくも膜嚢腫の合併は,ともに先天奇形であるが,発生時期に差があり,両者の関連は乏しいと思われた。

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 特発性血小板減少性紫斑病が原因で発症したと考えられる後頭蓋窩急性硬膜下血腫の1症例を報告する。突然の頭痛と鼻出血を訴え入院した72歳男性で,CTにて後頭蓋窩急性硬膜下血腫を認め,入院時臨床検査データにて血小板数の著明な減少(1,000/mm3)と,出血時間の延長(14分—デューク法)を認め,抗血小板抗体の存在から特発性血小板減少性紫斑病と診断された。症状は軽微で経過観察にて消失した。また,血小板減少症に対しては副腎皮質ホルモンの投与により血液検査所見の改善が得られた。これまでに,特発性血小板減少性紫斑病の中枢神経系合併症として文献的に報告されている症例の多くは,脳内出血であり,急性硬膜下血腫をきたした症例は稀であり報告した。

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 動眼神経核と繊維の機能の局在とその臨床的意義を明らかにするために,中脳の小梗塞による動眼神経麻痺3例を報告した。年齢は51-68歳,男2例女1例である。急性期にみられたlong tract signを除くと動眼神経麻痺を主体とした臨床像を呈しており,急性期の完全麻痺から不完全麻痺に移行した1例,pupilsparing型2例であった。画像上,病巣の広がりは5mm−12mmであった。完全麻痺を呈した例ではMRIの矢状断,冠状断より第三脳室直下より始まりほぼ中脳全体に及ぶ病変であったのに対し,pupil sparing型では中脳上部を含まない病変であった。動眼神経核は上下に約10mmと広がりを有する。上から下の順に副交感神経系,眼球運動筋,上眼瞼挙筋への神経が並んでいる。解剖学的に中脳内において,副交感神経系に関与する動眼神経の繊維は,上方に位置すると思われ,pupil sparing型の動眼神経の部分麻痺は,核と繊維の下方の障害により生じると推察されるが,今回のMRI所見はそれに一致するものであった。また,赤核の下端は中脳中央部の上丘に位置するのに対して,動眼神経核は中脳下端まで伸びているので,T2強調像でみられる赤核の位置が動眼神経損傷部位の判定に参考になると思われた。

基本情報

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Brain and Nerve 脳と神経
44巻4号 (1992年4月)
電子版ISSN:2185-405X 印刷版ISSN:0006-8969 医学書院

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