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I.双極子追跡(Dipole Tracing, DT)装置開発の経緯
今から8年ほど前に,当時千葉大学医学部の教授であった本間三郎氏と偶然のことから出会い,そのころ私が是非ともやってみたいと思っていた実験に協力していただくことができた。その実験というのは,多数の神経軸索上を伝搬する活動電位パルス列が,1つのニューロンに到達したときにどのようなパルス列として出力されるかということであったが,それをネコで実験することになった。この実験はなかなか思うようにはいかなかったが,その際に本間教授との談話のなかで「人間の脳内の電気的な信号の動きを非侵襲的に測定できないものか」という相談を受けた。詳しく話を聞いてみると技術的にはそれほど難しいことではない。そこで「面白そうだからやってみましょう」ということになった。そのころ,たまたま体表面の電位分布から心臓の異常を推定する研究をやっていたので,同様の手法でこの問題が解決できる筈であると考えたからである。
脳内の信号伝達は神経軸索の活動電位パルスの伝達によって行われ,信号の内容はパルスの頻度に符号化されていると考えられている。この活動電位パルスが興奮性シナプスに到達すると,電流がニューロン内部に流れ込み,それがニューロンの外側に流出して組織を流れて元の細胞体に戻るが,その電流の流れ方が単一の電流双極子によるものと酷似しているので,1つ1つのニューロンの電気的な活動は電流双極子で置き換えることができる。多数のニューロンがほぼ同期して脱分極(または再分極)をすれば,頭皮上には観測できる程度の電位分布が現われることになろう。軸索上を活動電位パルスが走行するときにもこのようなことが起こるが,空間的には脱分極と再分極が軸索に沿って並んで発生するので,逆向きの双極子が一列に並ぶことになり,真っ直ぐな軸索部分ではニューロンにおけるほど大きな電位分布が頭皮上で観測されることはないのではないかと思われる。
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