Brain and Nerve 脳と神経 20巻6号 (1968年6月)

神経組織化学アトラス3〈正常編3〉

  • 文献概要を表示

 AChEの組織化学にはThiocho—Iine法(Koelle 1951・1966, Karno—vskyら1964), Thio酢酸法(Cre—vierら1955, Sávayら1959, Wa—chsteinら1961)などが用いられる。ニューロンにおけるAChE活性分布様式は2種に大別される。例えば節状神経節では活性は主として神経細胞内に分布し(internal〜reserve type,図1),頸部交感神経節では神経細胞よりもむしろneuropilに活性が強い(external〜functional type,図2)。前者は細胞質内でNissl物質と酷似する分布を示し,おそらく小胞体で合成されるAChEと考えられ,視床下部神経核・皮質神経細胞・海馬核・延髄神経起始核・毛様体神経節・節状神経節・半月神経節・神経筋終板・知覚終末などにみられる。後者は神経細胞や軸索突起などの外面に分布するAChEで尾状核・被殻・乳頭体・頸部交感神経節・副腎髄質などにみられる。external AChEは直接AChの分解に与るものと考えられるが,節後神経線維がcholinergicかあるいはadrenergicかによつてAChE分布型を異にする可能性もある。

  • 文献概要を表示

I.緒言

 頭蓋内動脈瘤の治療成績についての批判検討は,なるべく多くの症例を一定の治療方針のもとに処理して後にはじめて可能なことであろう。この意味で過去10余年の間の脳神経外科医の努力は主として,手術手技の改良と,成績の向上にはらわれ,おびただしい症例の蓄積が行なわれた。この多数の動脈瘤手術症例を綜合的に検討することによつて,動脈瘤の治療は新しい段階に入りつつあるといえる。

 最近長期生存例の遠隔成績と実施した手術手技についての報告も少なくない1)〜6)。しかしながら最も問題となる術後患者の生活能力,特に精神機能の面での追求に関してはまだ報告も少なく,例を他の脳血管病変たとえば脳出血後の精神症状や大脳病理学的研究と比較すると7),まだまだ末知の問題が多い。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 悪性腫瘍と,転移によらない神経および筋の障害との関連性については,最近非常に注目をひいており,種々の観点からの研究成果がだされているが,まだ不明な点も多い。

 Carcinomatous neuromyopathyは,悪性腫瘍に伴つてみられる神経ならびに筋の障害のすべてを包括した意味に使われる場合と,末梢神経および筋の障害に限局して使用される場合とがある。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 水頭症に対しては,非常に古くから,各種各様の治療が試みられ,すでにHippocratesの時代に,小児水頭症の治療に関する記載があるという9)。しかしそのほとんどすべてが,悲観的結果に終つていた。最近になつて,高分子化学の進歩によつて,一定の内圧以上になると開く,一方通行弁を有する精巧な誘導管が作られ,ほぼ永久的に生体内に留置できるようになつた。このような誘導管を用いて,脳室内の髄液を,体循環の静脈系に短絡する方法が行なわれてからは,水頭症の治療成績には,画期的飛躍が見られる1)12)15)19)20)27)28)

 この方法は,現在もつとも生埋的な優れた,髄液の誘導法として広く応用され,わが国においても,国産の誘導管によつて,かなりよい結果が得られているようである16)。しかし,われわれの教室における症例について観察して見ると,なお問題が少なくないように思われる。そこで,経験例をまとめて,若干考察を加えて見たい。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 表記の細胞系の体外培養は,技術的には,さしたる困難が伴わないために,研究者の手にかかつたくわしい記載が多い。Kersting1)やLumsden2)など,その代表的な人々といえるだろう。わが国でも,こうした分野に従う多くの研究者がある3)〜8)。ヒトの悪性腫瘍のなかでは,上皮性のものと違つて,この細胞系ほど,生体から容易に硝子管のなかに持ちこまれて,その形態や機能の一部にまで立ちはいつた検索の,ゆきとどく可能性のあろものは,それほど,多くはない。しかも,この細胞がかなり特徴的な形態をしめすために同定の容易さと—ひとまず,ここでは,そう考えることにして—培養の累代の植えっぎには,よし,困難があるにしてもpri—mary cultureを始めた時点から,いくらか長期にわたつて硝子管中の生活に堪えられるという事実は,臨床病理学的な意味あいでも,また細胞学的な立場からも,大きい期待がもてる対象といえるだろう。随分古くから,この種の腫瘍の培養が行なわれた記録があるが,一体,なにを目的にして,この培養が今日まで行なわれてきたかを,ふりかえると,どうやら,この方法を通じて,腫瘍の細胞由来をさぐろうとするところに大きい主眼があつたと知ることができる。ところが細胞のcytogenesiSに焦点をあわせて,分類を行なうということになると,これには,非常な困難がうまれてくる。方法論的に,このためには,embryogenesisとhistogenesisとを一律に同じ筋道として考えることには,一応の無理があるにしても,形態学的にはまず,腫瘍総論の命ずる通りに,培養された腫瘍細胞と,同じくヒトの発生学的に幼若な時期にある膠細胞を培養して,これらのくわしい比較検討がなされねばならない。そのうえ,試験管内に生活する腫瘍細胞と,正常幼若細胞の2つは,永い時間の間には,in vitroでもそれ自身のうちに分化と逆分化(dedi—fferentiation)を示すであろうから,一つの時点での同定のみならず,分化と逆分化の両面に及ぶ幅の広い両細胞の形態面での追求が要請されねばならない。発生学的に神経上胚葉性細胞(ことに膠細胞)の分化は時間的にかなりの迅速性を備えたものであると知ると9)〜11),試験管内に入れられた腫瘍細胞の形態を発育途上の正常細胞のそれと比較同定したうえで,さらに腫瘍細胞系統の形態異型としての逆分化を,そうした組み合せの中から見い出そうとすることなど不可能に近い困難を伴うものになつてくる。結局,単純な形態学的な方法では,この種腫瘍の培養はきわめてacademicな立場にたつた細胞起原的な分類に資するという意味では,価値はうすれて,残された培養細胞への当面の期待は単純な形態学以外の方法に乗せて,生きた細胞であるこの実験系を用いて生体中にある腫瘍の生物学的な振る舞いを推し,今後の治療方針や予後の見通しを,せめて一つの台の上にのぼらせようというあたりに,おちつくのではあるまいか。私どもの培養目的も,最初は他の人々と同じようにcyto—genesisを追究することにあつた。それには,拒絶的な結末しかえられず,ようやく培養の硝子面での図柄(パターン)を3つに分けて,常識的に形態学的にみた悪性度との関連の比較を求めえられたに過ぎぬ。しかし,簡単な,こうした分類へのこころみも,これからの腫瘍培養をどのように押し広げてゆくかという展開面をまさぐる上では,なにか一つの転回点として貴重な出発点となりうるものと信じている。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 Glioblastomaを始めとする悪性脳腫瘍に対する治療法の開発は脳神経外科領域において重要な課題であるが現在までは悲観的であつた。脳腫瘍は比較的転移しにくいという悪性腫瘍の手術的治療にはよい条件をそなえているにもかかわらず,腫瘍の浸潤している部分を完全に取除くことが生命に危険であつたり脳の重大な機能的脱落をきたす可能性がある場合が多いからである。また悪性度の低いastrocytomaなどの腫瘍でもその発生した場所によつては直達すら不能であることもあり,その場合にはやがては生命とりとなるので臨床的には悪性腫瘍と考えざるを得ない。

 しかもこれらの腫瘍は諸家の統計によれば全脳腫瘍の30〜40%を占るためこれらの腫瘍に対して手術以外のなんらかの補助療法を見出すことは脳腫瘍の治療成績を向上せしめる上に大きな意義がある33)

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 脳腫瘍に対する放射線治療はその大半が手術後照射であるが,放射線治療を必要としない脳腫瘍は良性腫瘍の一部に限られ,治療の対象となる症例は年々増加している。

 ただ,最も治療の困雑なグリオーマについてはそれが単に手術で切除できるということではすまされず,脳としての機能が保持できての治療でなければならないところに大きな問題がある。したがつて早期診断や手術手技の進歩があつても他臓器の悪性腫瘍とは異なり,根治的に大きく切除ないし摘出することが行なえず時には滅圧措置のみがなされることもまれではない。またponsや延髄のようにまつたく手のつかない部位もあり,放射線療法は不可欠の手段となつている。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 眼窩静脈撮影は眼窩内の血管腫など特異な疾患の診断にきわめて有効な方法とされているが,従来施行されてきたのはV. angularis1)〜3)穿刺による方法でありその手技はなかなか困難であり,失敗すると大きな血腫を内眥部に作つたりするため敬遠されがちであつた。

 われわれはある時この部静脈撮影に際し,V. angula—ris穿刺に失敗した後よくみると前額部に穿刺の意欲を起こさせるような縦走するV. supratrochlearisを発見し,そこから造影剤を注入撮影して見たところ,きわめて良好な影像を得ることができ,またこの方法は単に眼窩内の疾患のみならず頭蓋底部の病変,顔面の深部および表在性の疾患の診断にもある程度有効ではないかと考えられるに到つたので,その実施方法を述べ代表的症例について紹介する。

  • 文献概要を表示

 腹部症状を伴う脳脊髄炎症というのは,約10年前からわが国でその多発性が注目されたきわめて特異な病気である。一般には,スモン病とかSMONという名前がよく用いられているが,これまでには報告者によりいろいろの名前で呼ばれている。これらを統一するため厚生省の研究班では一応本書の題名になつた病名を用いてきた訳である。

 著者の高崎教授はわが国でこの病気に一番早く注目された方である。もちろん世界でも一番早い。高崎教授よりも先にこの病気の例を報告された方はあるが,この病気の特異性に注目した同教授に,この栄光が与えらるべきであろう。同教授はその後も継続して本症について研究され今日に及んでおり,この疾患に関する第一人者である。

  • 文献概要を表示

 ペニシラミンはWilson病,シスチン尿症,sclerodermaなどにもちいられる。その副作用に皮膚発疹,発熱,リンパ腺腫脹,無顆粒球症,ネフローゼなどがしられている。食塩や汗に味を感じなくなつたというのはSternlieb (JAMA 189: 748,1964)の1例が報ぜられているが,本剤続行中6カ月で自然に回復したという。著者は硬皮症11例(18〜56歳),シスチン尿症9例(18〜42歳)に,前者ではペニシラミン250mg/日で始め,ついで2〜14日に250〜500mg投与,総量2〜5g,後者は1日量2g (分4),ピリドキシン50mg併用を行ない,Henkin法(J. Clin. Invest.42: 727,1963)で味覚を精査した。硬皮症から4例,シスチン尿症から3例(全部で35%の頻度)の味覚異常が起こつた。大体3〜6週後からはじまり,例外的に3日後,12カ月後というのがあつた。ペニシラミン13カ月以上使用の2例は治療中,味覚異常がそのままつづいた。しかし,ペニシラミン中止で全例4〜6週後に,正常に復した。再びペニシラミンを始めると,また6週内に異常が発生したという2例がある。味覚異常の最初の症状は,saltyあるいはmetalic tasteの減退で,食事の食塩量がふえ,飲みものに多くの砂糖を加える。アイスクリーム,チョコレートはまつたく味がないという(1例はチョコレートが辛いと云つた)。魚,肉は鑑別できた。悪心,嘔吐なし,下痢,便秘,消化障害なし,食塩に対する平均検出域は正常人の12倍などという状態。これは舌炎が起こるためではない。嗅覚は正常。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 強力なPt-Co磁石を異物進入孔より挿入し,脳深部の鉄片を吸着摘出に成功したので報告する。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 頭蓋内腫瘍のなかで,脳脊髄軟膜にびまん性に拡がるものは一般に稀である1)2)。そのような症例の多くは髄芽細胞腫などの神経膠腫が脳脊髄軟膜へ拡がつたものであるが,時には一般諸臓器の悪性腫瘍の脳脊髄軟膜転移による,いわゆる癌性あるいは肉腫性髄膜炎と呼ばれる病変に属するものもある。またごく稀には脳脊髄軟膜に肉腫が原発し,脳脊髄軟膜をびまん性におかすこともある。1902年Nonne3)が脳脊髄軟膜のびまん性肉腫症の1例を報告して以来,類似の症例の報告がなされている4)5)が,組織発生学的に必ずしも一致した見解は得られていないように思われる。

 わが国における原発性脳脊髄軟膜肉腫の報告はきわめて少ないようである6)。われわれは,最近,脊髄から脳幹部の軟膜をびまん性におかした原発性脳脊髄軟膜細網肉腫の1剖検例を経験したのでその概要を報告したい。

  • 文献概要を表示

VI. Pathognomonic diseasesその3

5.胎児性筋細胞に類似の筋線維myotubular myopathy

 筋線維は胎生期5カ月頃までにほぼ完全に形成されるのが普通である。その発生過程にはpremyoblast→myoblast→myotube→muscle fiberの順で名称がつけられている。正常人の筋中には特別の場合を除いてはmuscle fiberと呼ばれる形態のみが存在し,それ以前の発生途上に見られる形態は見られない。しかしながらSpiroら75)は9歳の少年の生検筋中に多数のmyotubeと思われる所見を得たのでこれをmyotubular myopa—thyと命名して報告した。症例は生後より筋の発育が悪く,次第に進行して歩行などが困難となつてきた。報告時には両側眼瞼下垂,外眼筋運動障害,軽い咬筋萎弱,両側顔面神経麻痺,胸鎖乳突筋萎弱などの脳神経支配領域の運動の障害が著明で,加えて全身の四肢筋,躯幹筋の筋力低下が認められた。筋生検は9歳時と12歳時の2回にわたつて行なわれ,いずれの場合にも類似の所見が得られている。すなわち筋線維の多くは横断面上中央部になんらの物質も存在しない部分を有し,報告者はこれをclear areaと呼んでいる。時にはその部に核を一箇認め,あるいはPAS陽性物質を認めることもあるが,myofibrilは存在しない(第28図)。この所見は縦断面でも確認することができ,artifactではない。12歳時に行なつた生検では凍結標本も作られており,それを用いた組織化学ではこのclear areaにoxidative enzy—meの活性が亢進している場合と低下している場合とがある。またmodified Gomori trichrome, PAS, amylo—phosphorylaseも同様にclear areaでは異常に亢進か低下を示している。同時に行なわれた電子顕微鏡ではmi—tochondriaの変性に由来すると思われるmyelin figureを認めている。

  • 文献概要を表示

I.はじめに

 最近,脳神経外科領域において,脳損傷時の意識障害の改善にcytidine誘導体のCDP-cholineがすぐれた効果をもつことが,臨床的並びに実験的に実証されている。

 意識障害で発症するところの急性眠剤中毒はその意識障害を速やかに改善させることが重要な処置の一っであり,このためにCDP-cholineによる効果が期侍されるのであるが,このような意識障害に対する薬剤の効果の判定には多くの困難を伴うことは改めてここに述べるまでもない。CDP-cholineの急性眠剤中毒に対する影響を脳波を観察することによつて検討を加えたのがこの論文である。

--------------------

あとがき 臺 弘
  • 文献概要を表示

 編集後記は雑誌の編集に関連して書かれるのがすじであろうが,いざペンを持つと日頃思つている大きな問題を書きたくなる。読者のお叱りをおそれながら,また天下国家を論じさせていただく。

 厚生省は今年5000万円の予算を特別研究のために支出することになつた。その5つの課題がすべて脳と神経に関係のあるものである。すなわち,むちうち損傷,脳性小児麻痺,ダウン症候群,自閉症,および筋ジストロフィー症である。このことは脳や神経や筋肉の疾患が社会的に大きな関心のまとになつている結果であつて,私共この方面に関係ある仕事をしている者にとつては心強い話である。しかし,これは同時にいろいろ考えさせる問題を含んでいる。

基本情報

00068969.20.6.jpg
Brain and Nerve 脳と神経
20巻6号 (1968年6月)
電子版ISSN:2185-405X 印刷版ISSN:0006-8969 医学書院

継続誌

文献閲覧数ランキング(
5月25日~5月31日
)