Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
I.はじめに
表記の細胞系の体外培養は,技術的には,さしたる困難が伴わないために,研究者の手にかかつたくわしい記載が多い。Kersting1)やLumsden2)など,その代表的な人々といえるだろう。わが国でも,こうした分野に従う多くの研究者がある3)〜8)。ヒトの悪性腫瘍のなかでは,上皮性のものと違つて,この細胞系ほど,生体から容易に硝子管のなかに持ちこまれて,その形態や機能の一部にまで立ちはいつた検索の,ゆきとどく可能性のあろものは,それほど,多くはない。しかも,この細胞がかなり特徴的な形態をしめすために同定の容易さと—ひとまず,ここでは,そう考えることにして—培養の累代の植えっぎには,よし,困難があるにしてもpri—mary cultureを始めた時点から,いくらか長期にわたつて硝子管中の生活に堪えられるという事実は,臨床病理学的な意味あいでも,また細胞学的な立場からも,大きい期待がもてる対象といえるだろう。随分古くから,この種の腫瘍の培養が行なわれた記録があるが,一体,なにを目的にして,この培養が今日まで行なわれてきたかを,ふりかえると,どうやら,この方法を通じて,腫瘍の細胞由来をさぐろうとするところに大きい主眼があつたと知ることができる。ところが細胞のcytogenesiSに焦点をあわせて,分類を行なうということになると,これには,非常な困難がうまれてくる。方法論的に,このためには,embryogenesisとhistogenesisとを一律に同じ筋道として考えることには,一応の無理があるにしても,形態学的にはまず,腫瘍総論の命ずる通りに,培養された腫瘍細胞と,同じくヒトの発生学的に幼若な時期にある膠細胞を培養して,これらのくわしい比較検討がなされねばならない。そのうえ,試験管内に生活する腫瘍細胞と,正常幼若細胞の2つは,永い時間の間には,in vitroでもそれ自身のうちに分化と逆分化(dedi—fferentiation)を示すであろうから,一つの時点での同定のみならず,分化と逆分化の両面に及ぶ幅の広い両細胞の形態面での追求が要請されねばならない。発生学的に神経上胚葉性細胞(ことに膠細胞)の分化は時間的にかなりの迅速性を備えたものであると知ると9)〜11),試験管内に入れられた腫瘍細胞の形態を発育途上の正常細胞のそれと比較同定したうえで,さらに腫瘍細胞系統の形態異型としての逆分化を,そうした組み合せの中から見い出そうとすることなど不可能に近い困難を伴うものになつてくる。結局,単純な形態学的な方法では,この種腫瘍の培養はきわめてacademicな立場にたつた細胞起原的な分類に資するという意味では,価値はうすれて,残された培養細胞への当面の期待は単純な形態学以外の方法に乗せて,生きた細胞であるこの実験系を用いて生体中にある腫瘍の生物学的な振る舞いを推し,今後の治療方針や予後の見通しを,せめて一つの台の上にのぼらせようというあたりに,おちつくのではあるまいか。私どもの培養目的も,最初は他の人々と同じようにcyto—genesisを追究することにあつた。それには,拒絶的な結末しかえられず,ようやく培養の硝子面での図柄(パターン)を3つに分けて,常識的に形態学的にみた悪性度との関連の比較を求めえられたに過ぎぬ。しかし,簡単な,こうした分類へのこころみも,これからの腫瘍培養をどのように押し広げてゆくかという展開面をまさぐる上では,なにか一つの転回点として貴重な出発点となりうるものと信じている。
The cellular patterns on the glass surface produced by cultured human brain tumor cells (40 cases of astrocytoma-glioblastoma-series) after trypsinization, can be classified into three types, resulting to cor-respond the histological malingnancy of neoplasms, namely I-type by benign astrocytoma, II-type by atypical astrocytoma including spongioblastoma and ependymoma, and III-type by glioblastoma multi-forme. These patterns in vitro have characteris-tic contours and relationship of cells, owing to the morphological type in vivo respectively, although transitional gradings are seen in them. Fundamen-tally, however, neoplastic cells participating to those typing have to originate from the glial elements, whatever, bizarre features they present on the glass surface. The authors confirmed that the fibrilar astrocytoma of 2-year-old-female infant revealed the I-type pattern at the first operation, and the recurring tumor obtanined at the second operation two years after, exhibited the pleomorphic pattern with bizarre giant cells in vitro, possibly classified as II and/or III-type, beeing substanciated that the two kinds of cells belonged to the same glial system. Our further contribution on tissue culture of glial tumors covers very few aspect of ,tumor classifica-tion, but much of prospect of biological behaviors in the tumor in vivo that would determine their fate.
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.