第18回日本腎不全看護学会・学術集会記録 【教育講演】
3.糖質制限食による糖尿病治療—理論と実践
江部 康二
1
1高雄病院
pp.34-40
発行日 2016年4月15日
Published Date 2016/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.7003200075
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Ⅰ.人類の食生活3段階と食前・食後血糖値
人類の食生活は,①農耕が始まる前,②農耕以後,③精製炭水化物以後の3つに分けることができる(図1).この3段階の変化が人体の代謝においてきわめて重要な意味をもっている.その鍵となるのが食前・食後血糖値の変化である.人類の歴史が700万年として,農耕が始まる前の700万年間は食生活の中心は狩猟や採集であり,人類皆糖質制限食である.したがって,血糖値の上下動がほとんどない.たとえば空腹時血糖値が100mg/dL程度と仮定して,食後の血糖値はせいぜい100数mg〜120mg/dLくらいで,血糖値上昇の幅は数mg〜20mg程度の少なさである.これならインスリンの追加分泌はごく少量ですむ.肉や魚の摂取では血糖値はほとんど上昇せず,狩猟・採集時代に血糖値が軽度上昇するのは野生の果物,ナッツ類,自然薯など根茎類を摂取したときのみであった.
農耕が始まったのは約1万年前である.穀物(糖質)を摂取すれば,空腹時血糖値が100mgとして,食後血糖値のピークは140mg程度まで上昇し,インスリンが基礎分泌の数倍追加分泌される.血糖値上昇の幅は40mgある.農耕以後の1万年間は,膵臓のβ細胞は毎日働き続けなくてはならなくなった.
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