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あとがき
髙尾 昌樹
pp.198
発行日 2025年2月1日
Published Date 2025/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.188160960770020198
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本号のテーマは孤立と孤独である。神経科学だけでなく社会学などを含めた幅広い分野が関わる内容である。私自身は,孤独という言葉には主体的な意味合いを,孤立というといざというときに他者から支えてもらえないという感じがあるが,そんなに簡単なことではないのであろう。孤独も孤立もまったくないということが人間を含む生物にとってよいことかどうかはわからず,日本だけではなく世界各国の文化的な違いなどを踏まえた検討も必要なのであろう。ただ,孤立・孤独が,医学的に悪い影響が多いのであれば,医学者はただちにその解決に向けて行動しないといけないのではないか。いろいろと考えさせられるすばらしい論文が並んだ号となった。
最近,遠藤周作の『満潮の時刻』を読んだ。本棚に放ってあったものをひっぱり出してきた。ご存じの方もいると思うが,これは遠藤の死後に,新刊長編小説として世に出たものである。1965年に執筆され35年間未完だったらしい。小説自体は遠藤自身が肺結核になり,慶應義塾大学病院に入院をした頃のことをベースに書かれている。たまたま自分の母校でもあり,当時の病院の雰囲気が感じられた。もちろん単純な医療小説ではないのだが,医療スタッフと主人公である患者,その妻とのやりとりに,いまの医療にも通じる多くの問題があると感じた。平たく言えば,われわれ医療者の言葉や行動を患者はどのように感じているのか。そして,どういった影響を与えているのかといったことである。一流の作家の文章から感じたことがとても多かった。ぜひともお読みいただきたい。
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