感染制御と予防衛生 3巻91号 (2019年11月)

特集 食品安全の最前線―食品衛生の観点から―

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ノロウイルス(NoV)は,わが国を含む世界各国のウイルス性食中毒の主な原因となっている1,2).現在,NoVは約30種類の遺伝子型に分類されているが3),そのなかでも,2014年に突然出現した新たな遺伝子型GⅡ.P17-GⅡ.17による食中毒事例が,わが国では多発している4-6).本稿では,2017年にセントラルキッチン方式の学校給食において,Nov GⅡ.P17-GⅡ.17に汚染された刻み海苔を原因とする大規模かつ広域食中毒事例の疫学・分子疫学に関する概要について述べる.

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1996年7月,学校給食に起因する腸管出血性大腸菌O157(以下,EHEC O157)による児童の集団食中毒事件が発生し,総計9,523 名(児童は7,892名)の患者のうち3名の児童が亡くなった1).本事例は,食中毒でも死亡することがあるという教訓を人々に与えることのなった初の集団事例であった.EHECは,出血を伴った下痢や発熱を惹起し,重症の場合は溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こして重篤な症状を示すことがあり,特に,児童についてはEHEC O157に対する感受性が高いことから重症化しやすい2).本事例において,HUSを引き起こしたものの,寛解した児童の1人が19年後の2015年10月にHUS後遺症により死亡したことなどからも,児童の感染や臨床的なコントロールには特に注意を払わなければならない.2017年8月に,埼玉県北部地域および群馬県中毛地域においてEHEC O157による広域食中毒事例が同時期に発生した.患者は,複数の自治体にチェーン店を展開するそうざい店(以下,A1店)の利用者であり,調査段階で「ハムいっぱいポテトサラダ」または「リンゴいっぱいポテトサラダ」(以下:調理済みポテトサラダ)が原因食品ではないかと注目された.A1店で販売された調理済みポテトサラダの主たる原材料は高崎市内の食品製造施設(以下,B施設)から搬送されていることが判明したため,複数の自治体において原因究明のための詳細な調査が実施された.これらの調理済みポテトサラダを販売したA1店および同系列A2店に関する調査およびこれらの総括については詳細に報告されているが3-5),原因と疑われた当該食品の製造施設および他の自治体に関する詳しい調査報告は認められない.そこで,ここでは調理済みポテトサラダのベースとなる加工品(以下,加工前ポテトサラダ)をA1店などに納品していたB施設に関する調査を中心に本事例について言及したい.

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腸管出血性大腸菌(以下,「EHEC」と略)は,その感染性の強さから,広域的に発生すること,死亡する患者が発生することにより,食品衛生上きわめて重要な食中毒原因物質である.和風キムチ(2001年)1),ユッケ(2011年)2),白菜きりづけ(2012年)3),キュウリのゆかり和え(2016年)4),同一系列店の惣菜店(埼玉県はポテトサラダと推定,前橋市は不明:2017年)5),サンチュ(2018年)6),大手ハンバーガーチェーン店(2018年)7)等をはじめとして,多くの広域発生事例が報告されている.このうちユッケ,白菜きりづけ,キュウリのゆかり和え,同一系列店の惣菜店のポテトサラダの事例は死亡事例である.1996年の日本全国におよぶEHEC食中毒・感染症の発生以降,わが国の患者から分離されるEHECに関するサーベイランスが確立され,広域散発事例に対処している.そこで,EHECのサーベイランス,牛の保菌状況,近年の野菜を原因とした食中毒事例について,その概要を報告する.

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ガス置換包装(Modified Atmosphere Packaging:以下,「MAP」と略)とは,食品の変質を抑制し,食品本来のもつ品質を保持することを目的として,食品の包装内の空気を除去し,二酸化炭素や窒素による不活性ガスや酸素などに置換・充填するものである1).日本工業規格(JIS)の定義(http://kikakurui.com/z0/Z0108-2012-01.html)によるとガス置換包装はGas Exchange Packagingとしており,「内容物の充塡時に容器から空気を吸引排気し,代わりに窒素及び二酸化炭素のような不活性ガスで置換して密封し,又は不活性ガスで強制的に容器内空気を置換して密封し,食品の変質などを防止することを目的とする包装.容器には,ガスバリア性の優れた包装材料を用いる」としている.ポテトチップスや揚げもち等の油菓子の食品包装には頻繁に用いられている.

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フードサイエンスの最も重要な項目のひとつは,食品の劣化要因とその制御を理解することである.保蔵処置が施されていない食品が腐敗する速度を表1に示した1).これは21℃における典型的な動植物の組織の貯蔵寿命の概算を示している.世界の多くの地域では,年間のほとんどの間,温度が21℃をはるかに超えることがあり,場合によっては表1の値よりも早く劣化が進行する.多くの食品の保存方法は,そのメカニズムが明らかになる前に,食品の劣化を防ぎ,貯蔵寿命を延ばす試行錯誤によって開発された.興味深いことに,食料の劣化を防ぐうえで最も重要な進歩のいくつかは,過去の戦時中に成し遂げられた.18世紀の終わり頃,フランスは戦争状態にあり,ナポレオンの陸軍は兵站補給の悩みを抱えており,海軍でも壊血病の除去を含む同様の問題に直面していた.Nicolas Appertは,この時代に,食品が密閉容器内で十分に加熱されていて,未開封であれば食品が保存できることを発見し缶詰を実用化した.一方,微生物の増殖が食品の腐敗の主な原因であることは缶詰の発明の約50年後のパスツールの研究で初めて明らかになっている.

連載 感染予防の実践!

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すかいらーくグループ(以下,当社)は1970年にファミリーレストラン「すかいらーく」1号店を出店して以来,現在はグループ全体で20以上のブランドをもち,国内に合計3,167店舗を展開している(表1,図1).お客様数は年間延べ4億人であり,これは日本人口の3.2倍にあたる.年間4億人のお客様に提供するお食事などで使用する原料や加工品である,いわゆる「購買品」の総量は年間24万トンになる.また,自社セントラルキッチン(以下,工場)で製造する製品(以下,内製品)は約300品目で,その総量は年間10万トンである.この自社工場は全国に10ヵ所あり,うち9ヵ所は工場のほかに流通拠点も備えたマーチャンダイジングセンター(以下,MDC)として内製品製造と全国物流に対応している.当社はその事業規模を活かし,世界各国からよりよい原料や加工品を購入し,自社工場で製造し専用物流網で自社店舗に運び,調理して提供する流れを構築している(『垂直統合プラットホーム』と呼称).この『垂直統合プラットホーム』により,WHOの食品衛生定義「生育,生産,製造から最終的に人に摂取されるまでのすべての段階において,食品の安全性,健全性,および正常性を確保するために必要なあらゆる手段」で示された範囲を一括管理することが可能となっている.そして,これら購買から工場,流通,店舗,本部までを運用している従業員は10万人を超えている.当社はお客様を食品事故から守る仕組みとして,創業間もないころより『食品衛生自主管理体制』を構築し,常に検証・改善しながらこれを運用している.この『食品衛生自主管理体制』は,『食中毒・食品事故を起こさないための管理』と,『万が一発生してしまった時の対応』の2本柱で構成されている(図2).「KEY WORDS」すべてはお客様の笑顔のために,垂直統合プラットホーム,食品衛生定量管理,逃げるな・隠すな・嘘つくな,被害者救済・被害拡散防止・原因究明・再発防止,食品衛生問題レベル管理

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2018年のわが国の食中毒統計によれば,患者総数は17,000人を超えており,そのうちの約半数(約49%)が,ノロウイルス(NoV)が原因であると推定されている1).NoVを原因とする食中毒は,大規模な集団発生事例になりやすく,特に,2017年に東京都と和歌山県で起こったNoVに汚染された同一食材(NoV汚染刻み海苔)による大規模・広域食中毒は,両事例とも患者数が500名を超える健康被害となった2,3).このように,NoVは,ウイルス性食中毒の主たる原因として,公衆衛生学的に大きな問題となっており,その対策は重要であると考えられる.NoVは,エンテロウイルスやアデノウイルスと同様にエンベロープをもたないウイルスであり,化学物質を基盤とした通常の消毒薬(消毒用アルコールなど)では,不活化・殺滅しにくい病原体であると考えられる4-6).これらのウイルスの不活化に有効な化学物質は,次亜塩素酸ナトリウム溶液やグルタールアルデヒド溶液などが例として挙げられるが,これらの物質は,ウイルスのような微生物のみならず共存するほかの物質とも反応するため,使用方法によっては消毒容器などの劣化,有毒ガス(塩素ガス)の発生あるいは発癌などのリスクを有する7).したがって,これらの物質によるNoVの不活化は,限られた条件でしか行うことができない.このような背景から,アルコールに種々の化学物質の添加や水素イオン濃度(pH)を変化させ,アルコール単独の製剤より,NoVのような非エンベロープウイルスに対し,一定の不活化効果を有するアルコール製剤が開発されてきた8,9).本稿においては,ウイルスの不活化に効果を示すことが示唆されているアルコール製剤の現状と課題についてその概要を述べる.「KEY WORDS」ノロウイルス,食中毒,食品添加物,アルコール製剤

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東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)は,2020年7月24日(金)~8月9日(日)に第32回オリンピック競技大会(2020/東京),8月25日(火)~9月6日(日)に東京2020パラリンピック競技大会が開催される(表1).東京都では「東京2020大会の安全・安心の確保のための対処要領(第二版)」1)を定め,2020年7月1日(水)~9月13日(日)をオリンピック・パラリンピック対応の期間とし,治安,サイバーセキュリティ,災害対策および感染症対策の分野から準備・対策を講じている.本稿では,現時点での感染症対策の視点から東京2020大会を考えてみたい.「KEY WORDS」東京2020大会,オリンピック,パラリンピック,マスギャザリング,感染症対策

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基本情報

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感染制御と予防衛生
3巻91号 (2019年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:2433-4030 メディカルレビュー社

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