感染制御と予防衛生 4巻1号 (2020年9月)

特集 新型コロナウイルス感染症

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2019年末,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は,中国武漢市に突然出現し,中国本土に多数の重症呼吸器感染症を引き起こすとともに世界中に拡散,パンデミックを引き起こし,各国に甚大な健康被害を与えている1).本稿においては,現時点における本感染症(COVID-19)の疫学を述べる.

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新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は,コロナウイルス科に属するプラス鎖一本鎖RNAウイルスである.ヒトに感染するコロナウイルスには,重篤な肺炎を引き起こすSARSコロナウイルス(SARS-CoV)とMERSコロナウイルス(MERS-CoV),感冒様症状を引き起こすヒトコロナウイルス229E(HCoV-229),HCoV-OC43,HCoV-NL63ならびにHCoV-HKU1の計7種が知られている.SARS-CoV-2によって引き起こされる感染症をCOVID-19(coronavirus disease-2019)といい,感染症法では新型コロナウイルス感染症と呼ぶ.2020年6月10日時点で,COVID-19の感染者数はこれまでに世界で約731万人,世界全体の死者数が約41万3,000人と報告されており,WHOがパンデミック相当との見解を示すなど,世界的に公衆衛生上の非常に大きな問題として早急な対策が求められている1).また,6月9日時点で,本邦における感染者数も17,000例を超え,死者数919人と報告されている.COVID-19の主要な感染経路は,飛沫感染と接触感染であると考えられているが,閉鎖空間において近距離で会話するなどの環境下で,咳やくしゃみなどの症状がなくても感染拡大を引き起こすリスクがあるとされている2).新型コロナウイルス感染症の治療薬としては,ウイルスの複製過程を阻害するレムデシビルが2020年6月現在保険適応されており,それ以外にも多数の薬が臨床治験されている3).ワクチンについては,世界各国で研究・開発が進められているものの,まだ実用化されたものは存在しない.そのため,COVID-19の感染拡大を防止して収束させるためには,適切な検査法により感染者を早期に発見・特定して隔離,治療するとともに,感染拡大防止策を講じることがきわめて重要となる.新型コロナウイルス感染症の検査診断には,①遺伝子検査法,②抗原検査法,③抗体検査法の主に3つの方法が用いられている4).このうち,①および②はウイルスの核酸または抗原タンパク質を直接検出する手法である.①の遺伝子検査法は,比較的少量のウイルスであっても検出できるため,主に発症の初期から中期に用いられる(図1)5).また,SARS-CoV-2に対して特異的な領域に設計したプライマーを用いることで,手法としての特異性は高い6).ただし,遺伝子検査法で陽性を示す場合,ウイルスゲノムが検出されたということであり,感染性のあるウイルスの有無を確認する方法ではない点に注意が必要である.②の抗原検査法は,ウイルス抗原を検知し,診断に導く検査であり,遺伝子検査とともに確定診断として用いることが可能であろう.しかし,①と比べて感度が低いため,ウイルス量が多い発症の初期のスーパースプレッダーのスクリーニングなどに用いられる7).新型コロナウイルスに対して特異的な抗体を用いている場合,特異性は高いと考えられる.③の抗体検査法は,SARS-CoV-2に対して産生される抗体(IgMあるいはIgG)を検出するものである.COVID-19感染症において,発症後7~10日程度から抗体が産生されることが報告されており,発症2週間以降の感度は非常に高い5).一方で,抗体検査には新型コロナウイルスの抗原タンパク質を用いることから,上述した感冒様疾患を引き起こすヒトコロナウイルス抗原との交差反応性に由来する偽陽性が問題となる場合がある.本稿においては,これらの検査法の概要について述べる.

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2019年12月31日に中華人民共和国の湖北省武漢市で肺炎患者が集団発生したことを世界保健機関(WHO)は報告を受けた.2020年1月9日に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が原因であることが判明してから,一気に全世界へと感染拡大が生じて2020年3月11日にWHOはパンデミックであることを発表した.2020年7月10日時点で全世界での感染者数1,250万人,死亡者数は56万人に達し,わが国では感染者数21,129人,死亡者数982人となった.人口10万人あたりの感染者数は,日本では16人に対して,最も高いのは米国で942人,次にブラジルで826人となる.そして致死率は,日本では4.8%であるが,最も高いフランスでは17.7%にまで達している.この感染拡大や死亡者数は,SARS-CoV-2に対しての確立された治療法がない,というのが大きな原因になっている.

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一般に,感染症の予防について考える際,検討すべき事柄は,感染経路がわかっているか,発症予防薬があるか,ワクチンがあるか,の3つである.本稿ではこの3つに分けて書き進める.新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は,ベータコロナウイルス属に分類されている.主に気道で増殖するため,感染経路は主に飛沫を介する飛沫感染である.また,その飛沫が付着した場所に手で触れて,その手で口や鼻を触って感染する経路も想定される.結核を除くほとんどの呼吸器感染症の伝播経路は飛沫感染である.その対策として,感染者の2m以内に近寄る際にサージカルマスクを着用する,感染者を個室またはカーテンやパーティションなどで区切られたスペースに収容する,といった基本的対策を講じている.

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2019年12月,中国の武漢市に端を発する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,発熱,咳嗽ならびに肺炎などの呼吸器症状や重度の呼吸器障害である急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を引き起こす1).本疾患は,特に高齢者および基礎疾患を有する患者では死亡率が高い2).COVID-19由来のコロナウイルスゲノムを詳細に解析した結果,このウイルスはSARS(2003年に出現)の原因となったSARSコロナウイルスに近縁であることからSARS-CoV-2と命名された1).主な感染経路は他の呼吸器ウイルスと同様に飛沫感染と接触感染である3).SARS-CoV-2感染拡大を防ぐためには手指の消毒,生活環境のなかで人が触れる物の消毒,医療機関では院内感染防止のために,患者に使用した医療機器,入院治療の消毒ならびに院内環境の消毒などがきわめて重要であると考えられる4).現在,これらの感染を防ぐために,法により消毒薬として承認され,汎用されているのはエタノールと次亜塩素酸ナトリウムである5).インフルエンザウイルスやC型肝炎ウイルスなどエンベロープを有するウイルスの消毒には,エタノールやイソプロピルアルコールなどを主成分とする消毒薬を用いる6)が,COVID-19の流行により供給不足が続いており,現在入手が難しい状態にある.また,エンベロープを有するウイルスのみならず,ノロウイルスなど,非エンベロープウイルスの殺滅にも効果的な次亜塩素酸ナトリウム溶液は,使用推奨濃度が200ppm~5,000ppmまで推奨使用濃度に幅があるうえ,直接人体に使用することはできず,安全性に問題がある7).今回,このような背景から,われわれは最初にエタノールと次亜塩素酸ナトリウムのSARS-CoV-2に対する不活性化効果を調べた.次に,インフルエンザウイルスなどの不活性化に有効とされている各種界面活性剤8)のSARS-CoV-2に対する消毒効果を調べた.さらに,医療機関でのSARS-CoV-2感染予防に貢献するため,病院で用いられている消毒剤のSARS-CoV-2の消毒効果を調べた.くわえて,SARS-CoV-2不活性化効果のある製品を日常生活のなかで安心して使用できるように,市場に豊富に出回っている市販ハンドソープ,手指衛生用品ならびに市販されている次亜塩素酸水のSARS-CoV-2消毒効果を調べたので,以下に報告する.

連載 感染予防の実践!

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近年の目覚ましい遺伝子工学技術の革新に伴い,PCR検査自体はある程度の修練をおこなった者であれば容易に実施可能になった.しかし,PCR検査を実施できることと,精確な結果を提供することは別次元の話である.特に,核酸の混入による実験室内コンタミネーションは,本法において最も回避すべきトラブルであり,施行した検査全体に重大な影響を与える.そこで本稿では,PCR法を主体とした遺伝子検査時における実験室内コンタミネーションの回避策を中心に概説する.「KEY WORDS」PCR検査,エアロゾル汚染,ヌクレアーゼ汚染,クロスコンタミネーション,エンドポイントコンタミネーション

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目次

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基本情報

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感染制御と予防衛生
4巻1号 (2020年9月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:2433-4030 メディカルレビュー社

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