特集 食品安全の最前線―食品衛生の観点から―
5.食品の品質劣化および保存性向上に関する基本事項
仁科 淳良
1
1日本大学理工学部物質応用化学科教授
pp.30-39
発行日 2019年11月30日
Published Date 2019/11/30
DOI https://doi.org/10.34449/J0108.03.91_0030-0039
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フードサイエンスの最も重要な項目のひとつは,食品の劣化要因とその制御を理解することである.保蔵処置が施されていない食品が腐敗する速度を表1に示した1).これは21℃における典型的な動植物の組織の貯蔵寿命の概算を示している.世界の多くの地域では,年間のほとんどの間,温度が21℃をはるかに超えることがあり,場合によっては表1の値よりも早く劣化が進行する.多くの食品の保存方法は,そのメカニズムが明らかになる前に,食品の劣化を防ぎ,貯蔵寿命を延ばす試行錯誤によって開発された.興味深いことに,食料の劣化を防ぐうえで最も重要な進歩のいくつかは,過去の戦時中に成し遂げられた.18世紀の終わり頃,フランスは戦争状態にあり,ナポレオンの陸軍は兵站補給の悩みを抱えており,海軍でも壊血病の除去を含む同様の問題に直面していた.Nicolas Appertは,この時代に,食品が密閉容器内で十分に加熱されていて,未開封であれば食品が保存できることを発見し缶詰を実用化した.一方,微生物の増殖が食品の腐敗の主な原因であることは缶詰の発明の約50年後のパスツールの研究で初めて明らかになっている.
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